異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

文字の大きさ
106 / 406
第7章 変動

2 ドンタス

しおりを挟む
「それで黒猫君、いつからナンシーに出るの?」

 3人がそれぞれの部屋に戻ったのを見て手元の台帳仕事に手を付けながら黒猫君に尋ねると黒猫君、ちょっと考え込んでからボソリといった。

「本当は今日にでも出たいんだけどな。なんせ『連邦』の連中の動向が分かんねえと下手にここを動けない。それにちょっと仕込んでおきたい物もあるしな」
「え? じゃあ、このまま暫くここにいる事もあり得るんだ。じゃあもしかして私も一緒にナンシーに行けるかもね」
「いや、流石にそこまで時間かかって欲しくないな」

 そう言いつつも不安そうだ。
 そこにドアをノックする音が響いた。パット君と二人でつい顔を見合わせてしまった。
 もちろんもうダンカンさんが居ないのは分かってるんだけどそれでもつい思い出してしまったのだ。

「テリースです、いいでしょうか?」

 そう言い置いてテリースさんが扉を開くのを見て二人でホッとため息を付いた。

「おやどうしたんですか? 何かありましたか?」

 そんな私達の様子に気付いたテリースさんがちょっと心配そうに私達を見比べる。

「いえ、何でもありません。テリースさんこそ何かご用事が?」
「ええ、そろそろパットを休ませて頂こうと思いまして」
「え? 僕まだまだ平気ですが?」
「いいえ、いけません。最初は数時間づつってお約束ですよ」

 驚いて文句をこぼしたパット君は有無を言わさぬテリースさんの手で無理やり抱き上げられて連れ去られてしまう。パット君、私とおそろいだ。

「じゃあ、また後でねパット君」

 私は急いで手を振った。

「何かパット君と私って運命にもてあそばれる恋人同士みたい」
「ブッ!」

 手元にあったお茶を吹き出しながら黒猫君がむせ返った。何やってるんだか。

「どういう発想だよ」
「だって傷ついたお姫様を庇って攫われるなんて私王子様みたいじゃない? しかも王子様のキスならぬ笑顔で元気づくお姫様。でもって二人は嫉妬する使用人達に抱え上げられて引き離される運命」
「庇ってねぇだろ。で、お前が王子かよ。しかも誰が嫉妬する使用人だ」

 顔をしかめて睨まれた。あ、使用人は失礼か。

「まあ冗談はともかくとしてテリースさんも黒猫君も勝手に人のこと抱き上げ過ぎ」
「お前なぁ、これでもこっちは気を使ってだなぁ……」

 私に睨まれてるの気付いた黒猫君は言葉尻の勢いがどんどんなくなった。

「確かに黒猫君には感謝してるよ、実際黒猫君に連れて行ってもらえないと行けない所も多いし。でも抱き上げる前に一言くらい言ってほしい」
「そうなのか?」
「うん」

 こっちだってやっぱり恥ずかしいのだ。突然抱き上げられるのはどうも心臓に悪い。せめて心の準備をする間が欲しい。

「じゃあ、俺がお前を連れ回すこと自体は問題ないんだな?」

 え? そ、そんな事言われてもうーん。

「えっと、うん。それは感謝してるよ。なんかもう黒猫君、私の二本目の杖みたいになっちゃってるし、他の人に迷惑かけるくらいなら黒猫君にお願い出来るのが一番安心って言うか」
「猫どころか今度は無機物扱いか……」

 なんか黒猫君、がっかりしてる?
 まあいいや。

「それよりナンシー行きの準備はいいの?」
「やべ、忘れるとこだった。そろそろウイスキー工房のオヤジが来るって言ってたな。キールの執務室に行くぞ」

 言ってる側から声もかけずに黒猫君が私を抱え上げて部屋を後にした。


「いいところに来た、お前達もこっちに来て座ってくれ」

 キールさんの執務室に入ると執務机の向こう側からキールさんが私達を呼び寄せた。その向かいには樽の様な巨体のおじさんがその大きな体を椅子からはみ出させながらこちらを振り向く。正直脂ぎってて苦手なタイプだ。
 そんな私の内心を他所にそのおじさん、なんか目尻を下げて嫌な笑みを浮かべた。

「これはまた変わった毛色の召使をお使いですな。特にそちらの娘、これでしたら幾らか纏まった資金をご用意しますよ」
「ゴホン、彼らは使用人では無い。二人共れっきとした俺の施政官だ。今日の話し合いはこっちのネロが発端だ」
「おお、それは失礼。ワシはこの街で一番大きなウイスキー工房を開いているドンタスと申します」

 そう言ってニタっと笑う顔は何かヒキガエルを思い起こさせる。
 横をみると何か黒猫君も顔を引きつらせてる。
 それでも私をキールさんの横の椅子に下ろしてからもう一つ椅子を私の横に引っ張ってきた黒猫君は、私をキールさんと自分の間に挟むようにして座る。

「ここのランド・スチュワードをやってるネロだ。今日呼んだのは他でもない、あんたの所のウイスキー工房に新しい商品を提案しようと思ってだ」

 黒猫君の言葉にドンタスさんがちょっとムッとして黒猫君を睨む。

「新商品も何もそこのキーロン殿下に麦を全て取り上げられちまってこっちは開店休業中ですよ」
「知ってる。だからこその提案だ。このままじゃあんただって商売になんないだろ。市場で買い付けて商売するにしたって限度があるしな」
「は?」
「え?」

 私とキールさんが驚いて声を上げればドンタスさんが「余計な事を」っと顔を背ける。

「どういう事だネロ?」
「お前らの鼻じゃ多分分かんねえと思うけど、こいつ、酵母と麦芽の匂いがプンプンする。って事はまだウイスキーを仕込んでんだろ」
「だが麦は……」
「どうせ市場に影響が出ない範囲で買い付けてたんじゃないのか」
「お前、この食料難の時にウイスキー作ってる場合じゃないだろう!」

 キールさんが呆れてドンタスさんを見るとドンタスさんが真っ赤になって怒り出した。

「ワシの金でワシの好きなように作ってんだ。何が悪い。これからまたナンシーとの取引が再開すんだろ、そこで売れるもんがなくちゃ商売になんねぇ」
「ごもっとも」

 呆れる私とキールさんを他所に黒猫君がしたり顔で返した。

「だからこその新商品だ。麦を使わないで作るウイスキーの話、聞きたくないか?」

 そう言って黒猫君がニヤッと意地悪な笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

処理中です...