異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第7章 変動

8 菜園

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 ドンタスが来ることを知った俺はまずトーマスの所で今日の仕込みを頼み込んだ。

「ネロ、あんたに言われた通りこの壺は毎回足してるがそれで本当に良かったのか?」

 以前の10倍はある壺を見れば見るからに上にかけられた紙の蓋が盛り上がってシュウシュウ言っている。今日もあゆみ効果は順調なようだ。

「ああ。それからこれはテリースからも伝わってると思うけどこのイーストの作り方は俺達だけの秘密だからな。俺が前もって許可出したやつ以外には頼むから話さないでくれ」
「分かってる。俺だってあんたのお陰で色々な料理を覚えてるんだ。あんたを困らせるような事をするつもりはねえよ」

 そう言ってニカッと笑う。
 こいつ、本当にいい男だよな。歳は俺より上だけどその分落ち着いててどっしりしてる。ちょっと無骨だが見た目も悪くない。キールもいい男だがあっちは色男過ぎる。この位ならあゆみが頼るのにはちょうどいいんだろうな。

「おい、聞いてるのか?」
「あ、済まない。ちょっと考え事してた」
「しっかりしてくれよ。だからここの裏庭で育ててる野菜の育ちが突然良くなってるんだ」
「ああ、それはあゆみが帰ってきたからな」

 そう言いながらトーマスと一緒に裏庭を覗く。すぐに見なかった事にしたくなった。

「……あれいつ植えたんだ?」
「一週間ほど前だ」
「どんだけだよ」

 裏庭の一角を掘り返して作られた菜園には溢れんばかりの緑が盛り上がって広がっていた。
 壁を伝い上がるツルにはなん種類もの豆がギッシリ生っている。
 手前の地面には芋づるが這い回り、その上にはナスやズキーニ、ピーマンのでかいのが生っている。
 あっちにあるのはウリか?

「めちゃくちゃだな」
「ああ、めちゃくちゃだ。クズ野菜をあの辺りに埋めてなんか芽が出りゃめっけもんと思ってたんだが昨日突然全部伸びだしてこの有様だ」

 あゆみのやつ、野菜食いたいって言ってたもんな。これはもうあいつの執念みたいなものか。

「多分よっぽどあゆみが食べたかったんだろ、出してやったら喜ぶぞ」
「そうか。じゃあまた何かあゆみさんが喜ぶレシピを教えてくれ」

 こいつホントに健気だよな。ちょっとは俺も見習うべきか。
 そこでふと足元を見て首を傾げた。井戸と菜園の真ん中辺りにこんもりと小さな山が出来ている。土じゃないみたいだが……

「おい、こっちは何だ?」
「ああ、それは以前あゆみさんに頼まれて続けてたんだが。獣の内臓が出るときは必ずそこに捨てて灰を掛けてるぞ。あんたが頼んだんだってな」

 俺はギョッとしてそこを軽く足でつつき回した。ヤバイ。出来てる。出来ちゃヤバイもんが出来ちまった。
 これもあゆみか。あゆみだよな。
 またキールに相談する事が増えちまった。
 俺はため息をつきながらトーマスを連れて厨房に戻って豚の骨とグリーンピースのスープの作り方を教えてやった。

 後はトーマスに任せて3人の施政官達に声をかけて俺達の執務室に集まるように言ってからあゆみを起こした。
 いくら扉をノックしてもまるっきり反応のないあゆみに結局諦めて勝手に部屋に入る。見ればあゆみは昨日の服のままベッドに転がっていた。
 これはもしかして俺を待っているうちに寝落ちしたんだろうか? いやそれは考え過ぎか。
 いつもなら揺り起こす所なんだがどうにもこの部屋は匂いがきつ過ぎる。
 俺は戸口から声をかけてあゆみを起こし、着替えを渡して鎧戸を少し開けた。
 空気を入れ替えている間に着替え終わったあゆみに呼ばれて振り向けばあゆみが片足で杖を落としてる。
 あぶねぇっと思って手を差し出したがそのままバランスを取ってしっかりと立っているあゆみに目が点になってしまう。

「なんか私の左足、いつの間にかかなり筋肉が付いたみたい。もちろん歩くのは無理だけどこうやって立ってるだけなら暫く大丈夫になっちゃった」

 そう言って自分の右足を見るあゆみに俺もつられて見てしまった。
 こいつが考えてる事が手に取るように分かる。
 あゆみの足の切断面には未だ魔法陣の描かれた紙が張り付いている。不思議なもので水に濡れてもまるっきり変わらない。まるでそこだけ時間が止まっているように変化しない右足をあゆみが辛そうに見つめるのが居たたまれなくて、身体を支えて安定させながら抱き上げた。

 執務室には既に3人の施政官達が来ていた。俺を見てすぐに立ち上がったが、俺の腕に抱えられたあゆみを見て少し冷たい視線を送ってくる。
 まあこいつら今まで一度もあゆみが仕事をしている所を見てねぇもんな。

 俺があゆみを椅子に下ろしてから席について仕事の事を話を始めようとすると、案の定、ポールがあゆみの能力に疑問を投げかけてきた。
 笑ってしまう。今回のこの個人台帳に関しては俺は未だ理屈を理解してないんだから。
 俺と違ってこいつ等は今まで事務仕事をしてきた連中だ。あゆみから直接指示を受ければ疑問も消えるだろう。
 俺はそのままあゆみに説明を任せ、それを聞いているこの3人の値踏みに移った。
 タッカーでの失敗が俺の心に刺さっていた。あいつを雇ったのもあゆみと一緒に働かせたのも俺だ。残りの連中は再度改めて身上調査と面接をしたが特に怪しい点は無かった。それでもあゆみを前にして見せる態度には要注意だ。

 だが俺は結局3人が揃って目を点にして口を半開きにしてあゆみを見つめる姿を見物する事になった。
 つい口元が緩むのが抑えきれない。よっぽど驚いたのだろう、ポールなど俺が声をかけるまですっかり魂が抜け落ちたような顔をしてた。
 パットはパットで目をキラキラさせてあゆみを見てる。
 これならこいつらは問題ないだろう。
 ポールにあゆみの服装の事を注意された。俺はいいがあゆみの服は何とかしなくちゃな。ナンシーまで出ればなんかあるか?

 あゆみに言われて慌ててキールの執務室に入るとそこにはガマガエルがいた。いや、人か? ま、まさかカエルと人のハーフか? 
 でもそれより。こいつの目に睨まれた瞬間背筋を寒いもんが走った。
 あれだ。とあるアジアの国で安宿に泊まった時俺を襲ってきた奴と同じ目だ。こいつ俺に色目使ってやがる。俺は引きつる顔を何とか抑えてあゆみと一緒にキールの側に座った。間違ってもこの親父の近くには座りたくない。
 それでもこいつがこの街の最重要人物なのには変わりない。その証拠にキールも顔を引きつらせながらも我慢してる。仕方ないので俺も我慢して交渉を進めた。毟り取れるだけ毟り取ってやろうって気になってしまったのは仕方ねぇだろ。
 あゆみは俺の提案を芋焼酎か何かと勘違いしてるみたいだがこれだってれっきとしたウィスキーだ。まあ出来上がりはウォッカの方が近いが。

 そんなガマガエルは最後の最後にデカイ爆弾を落としていきやがった。
 あゆみを嫁に欲しいという。あゆみを、だ。
 しかも3人目の妻だと!?
 俺が切れそうになってるのを見たキールが慌ててフォローを入れる。

「ああ、ドンタス。それは無理だぞ。あゆみはもうネロに嫁いでる」

 打てば響く勢いで文句を叫ぼうとするあゆみの口を俺は咄嗟に塞いでしまった。
 悪いが邪魔しないでくれ。俺にもこれより良い言い訳は考え付けない。しかも嘘とは言え相手は俺だ。文句のあるはずも無い。
 ドンタスが帰って俺が手を外した途端あゆみがプリプリ怒り出した。
 結構傷付くもんだな。いくら嘘とは言えそこまで嫌がられると。
 それでもあゆみは振り切る様に服を着替えると言って部屋を出ていき、それっきり帰ってこなかった。
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