異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第8章 ナンシー 

7 褒賞

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「まずあゆみだが。先に君の足の事をちゃんと話し合おう」

 褒賞と聞いてこれ以上一体何を、と思ていた私にキールさんが突然全く思ってもいなかった話を始めた。

「私の足ですか?」
「ああ。実はその足を止めている魔法陣は俺が作成したものだ」
「え、じゃあテリースさんは……?」
「テリースはそれを施行しただけだ。この手の魔法陣を設定した紙は一定の魔力を流せば確定できる。キールとして動いていた俺がこれだけの治療魔術を使えるのはおかしいからそう言う形をとっていたんだ」

 初めて知った。

「じゃ、じゃあ、キールさん、改めてありがとうございました」

 私のお礼を少し居心地悪そうに聞き流してキールさんが続けた。

「礼を言うのは早い。その魔法陣だけどな、それは実は俺の固有魔法が入ってる」
「この前の時間停止か?」
「ああ。あゆみの足を再切断した時、あのまま切り口を閉じてしまう事も出来たがあえてこの魔法陣を使ったのには訳がある。あゆみくらい若ければ、再生魔術の方が絶対的に効果が高いからだ」
「そ、それってでも誰かの足を切るんですよね?」
「いやその必要はない。新しく死んだ者の足を貰い受ければいい」
「それと『褒賞』とどういうつながりがあるんだ?」
「あゆみには褒賞としてその再生魔術を俺が直接行ってやろうと思う」

 私は青ざめた。嬉しくないって言ったらうそになる。でもそれが他人の足でしかも死んでしまった時となるとなんか全然嬉しくない。

「まあ、これは実際に術を施行するための死体が出た時点での支払いになるがな。あゆみの身体に合いそうな物が出た時には知らせが来るようにはしておいた」
「軍でか?」
「いや、ここの街では軍が警邏も行っているからその一環でだ」

「まあ、それを待てないというのなら義足を作ってやってもいい。ただ、こちらもかなり時間が掛かる。どちらにしても時間が掛かる事には変わりないからもう一つおまけだ」

 そう言ってキールさんが渡してくれたのは……小さな小石と新しい杖だった。
 新しい杖は以前の物によく似てる。ただ、脇に挟む部分に布が巻いてあって柔らかい。下の地面にぶつかる部分が何やら少し滑りにくくなってる。杖自体も前の物より軽くて何かつやつやした木材で出来ていた。
小石はちょっと青みがかっているけど普通の石にしか見えない。

「それはちゃんとした木工師が作った杖だ。俺のヤツよりよっぽど出来がいい。こいつを真似て作ったから作りは似てるがな。そっちの石は軽石だ。それを持っているとほんの少し体重を減らせる。今回の荷馬車にも使ってたやつだ」
「そんなもんがあるのか」

 黒猫君の目が光った。
 私もこれには流石に驚いた。だってそれって重力に作用してるって事だろうか?

「これは明日の買い物が楽しみだね」
「ああ」

 どうも魔石関連は色々楽しそうだ。
 少し興奮気味に頷いてる黒猫君にキールさんが思案顔で尋ねる。

「ネロ、それでお前の褒賞なんだが。お前、何が欲しい?」
「はあ?」
「正直普通の奴ならメイジャーのランクだけで十分褒賞になるんだがお前の場合ありがた迷惑な様だからな」

 そっか。確かに普通そういうのって昇進になるもんね。
 ちょっと考えてから黒猫君がボツボツと答える。

「俺は生活に困らないだけの物があれば他は今の所何もいらねぇな。貸しにしとくよ」
「分かった。そのうち考えよう」
「それで十分だ」

 そこでバッと立ち上がったキールさんが晴れ晴れと宣言した。

「じゃあ、あゆみの新しい杖のテストも兼ねて食いに行くか」
「キーロン殿下、違うでしょ。授与式と晩餐会に行くんです。ネロ君は僕と一緒に準備に行きますよ」

 すかさずそう言ったアルディさんが黒猫君を引きずる様にして連れて行ってしまうと、入れ替わりにもう一人別の兵士が部屋に入ってきた。

「あゆみ、これはヴィクだ。今日はこれが君に付き合う」

 部屋に入ってきたのはアルディさんに見劣りしない程背の高い兵士さんだった。栗色の髪を短く刈り上げて凛々しい眉に少しぷっくりした唇。髪よりも明るいハチミツ色の目。中々美丈夫な兵士さんだ。
 気持ちいい笑顔を浮かべてスッと手を差し出しながら挨拶してくれる。

「ヴィクです。どぞよろしく」
「あゆみです。お世話になります」

 こうして私はヴィクさんに連れられてキールさんの執務室を後にした。

 黒猫君が居ないので私はやっと自分で歩き始める。新しい杖と軽石のお陰で断然歩きやすい。
 ヴィクさんは黒猫君やアルディさんの様に勝手に私を持ち上げるような事はなく、かと言って私の遅い歩みに文句を言う事もなく付き合ってくれている。
 ヴィクさんと共にさっき貰った自分達の部屋に戻るとそこにはさっき支給された服やリネンが全て戸棚にしまい込まれていた。軍隊らしくすごくキチンと畳んである。あ、そういえばここにも妖精は居るのだろうか?
 
「あゆみさん。それでは着替えのお手伝いをしますから脱いでください」
「はえ?」

 余計な事を考えてる時に後ろからとんでもない事を言われて一瞬変な声が漏れた。

「お持ちのドレスはこちらですね」

 私が驚いてるのに気付いていないのかスタスタと私の戸棚に進んで勝手に私が今日頂いた服の中から一段と重そうな濃いワインレッドのドレスを引き出してくる。

「ああ、これなら着るのもそれ程大変じゃなさそうですね」

 そう言って振り返ったヴィクさんがまだそのまま立ち尽くしていた私を見て小首を傾げる。

「何をしてらっしゃるんですか?脱いで頂かないと着替えが出来ませんよ」
「え? あ、はい、で、でも自分で着替えられますから。そんなお手伝いとかお願いするのはちょっと……」

 赤くなって断る私を訝しげに見ながら手元のドレスを再度見て首を振る。

「いくらこのドレスがシンプルなデザインで着やすいと言っても後ろのボタンをご自分で全部留めるのは無理でしょうそれにあゆみさんはこちらの靴下の履き方もご存知無いと聞きました」
「じゃ、じゃあ男性兵士用の制服を貸してください、それで十分です」
「正式な受勲式に軍の者以外が制服を着ることは出来ませんよ。そちらを脱ぐのもお手伝いしましょうか?」
「い、いえ、ほ、ほ、ほんとうに結構ですから。男性にお手伝い頂くなんて出来ませんから」

 私の最後の一言でヴィクさんが固まった。そのままガックリと肩を落としながら答えた。

「あゆみさん。私、これでも一応女なんですよ。まあ、見た目では確かに判りづらいかも知れませんが」

 うわ~~~! とんでもなく失礼な事を!

「す、すみません、ごめんなさい、本当に申し訳ありません!」

 私がペコペコ謝っているとヴィクさんが苦笑いしながらそれを止めに入る。

「あ、あゆみさん、もういいですから。私もキーロン殿下が名前でご紹介下さったのでまさかまだ間違えられるとは思っていませんでしたので気付かなくてすみません」
「え? ヴィクって女性の名前なんですか?」
「あ、ええ。ヴィクトリアの略です」
「あああ。そうなんですね。すみません、まだこちらの名前に慣れていなくて」
「大丈夫ですから着替えを始めましょう、このままだと式に遅れてしまいます」

 時間を気にするヴィクさんに今度こそ手伝ってもらって着替えをした私はやっとなぜ彼女の手伝いが必要だったのか理解した。
 まずドレスがめちゃくちゃ重かった。毛織の生地でキレイだけど目の詰まったそれは夏には暑苦しいくらいで、しかも重い。片足で立ちながらこれを支えて着るのはほとんど無理。その上袖を通すにも袖口に沢山のボタンが付いていてこれで締め上げるようになっている。何かテレビとかで見たコルセットとかは無かったけどその代わりドレスもお腹のあたりのボタンが二重で締め付けてくる。
 靴下は伸縮性がゼロ。何かちょっとシワができて気持ち悪い。これを太腿まであげてそこで紐で結く。今回ばかりは片足で良かった。これも初めての私には縛る力加減が分からなくて結局ヴィクさんにお願いした。

「あの。あゆみさんの櫛や化粧品はどちらですか?」
「あ。ありません」
「……お持ちじゃないんですか?」
「無いんです」

 ヴィクさんが頭を抱えてる。
  
「仕方ありません、一度私の部屋によって行きましょう」

 申し訳無いことに結局私はヴィクさんの物を一式お借りして最後の仕上げをお願いした。
 明日買い物の時になんか買ってお返ししなきゃね。
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