176 / 406
第8章 ナンシー
53 教会の中
しおりを挟む
俺は必要ないって言ったのに結局街の人間の格好をしたアルディが教会の壁際まで一緒にきてくれた。
教会の敷地は塀の上まで結界があるから侵入は無理だとシモンは心配していたが、前回の例があったのでここの結界が俺に効かない事は既に実証済みだ。だったら何も表から入る必要もない。
俺は街の外壁に近い部分の壁際までアルディと一緒に闇に紛れて近づき、アルディの肩を借りて塀の上に飛び上がった。
「ネロ君、本当に危なくなったらちゃんと打ち合わせの合図を送ってくださいよ」
「分かってる」
とはいえこいつらに危険を冒してまで助けに来てもらうような事態にするつもりはない。
塀の向こう側は林になっていた。それなりに高い木が密集していて地上が見えない。逆に枝がいくつも張り出してるから降りるのは楽だった。
これなら帰りもここから上がれそうだ。
林の中には月明りも射し込まず、普通の人間には真っ暗なのだろうが俺の猫の目には問題なく全て見えている。密集した木々の間は下草も生えておらず逆に歩きやすかった。
しばらくすると突然林が終わりのどかな田園風景にぶち当たった。何か懐かしい感じがするのは畑が全て小ぶりで日本の田舎に似ているからだろうか?
最初はそう思ったがすぐに考え直す。
これ、あぜ道じゃねえか!
驚いたことにそこには米を収穫し水を抜かれた田んぼが続いていた。その先にはテンサイの植えられた畑も続いている。道の先には正に茅葺屋根の農家が数件集まって立っていてその向こうには時代劇に出てきそうな武家屋敷のような建物まである。
俺は足音を忍ばせて一軒の農家に近づいていった。
「……だからなんでこれを全部教会の奴らに渡さなきゃいけないんだよっ!」
「仕方ないだろ、今年は街の年貢が少なかったそうだ」
「そんな事言ったってこれ全部渡しちまったら俺達どうやって食ってくんだ?」
「まだ芋があるだろ」
「芋って、そんなもんばっか食えるかよ」
「贅沢言うな。食いもんがあるだけましだ」
「ちくしょう、教会の奴ら毎日白い米食ってんだぞ? あいつら自分じゃ何にもしない癖に!」
「いい加減にしろ、口が過ぎる。誰かに聞かれたらどうする!」
中から聞こえてきたのはどうやら親子の会話の様だ。
教会の内部にも関わらずやけに景気の悪いはなしだな。
俺は軽く屋根に飛び上がって茅葺屋根の真ん中あたりに開いていた煙抜きの穴からちょいと頭を出して中を覗き込んだ。下では正に純日本風の囲炉裏を囲んで父親と息子、それにじいさんらしき3人が薄暗い中で話していた。
お寺で使われてた作務衣のような格好だがどいつもボロボロで当て布だらけだ。
「もうおやめ。ヒロシをせめても仕方なかろう」
「そういうが親父。こいつをしっかり躾けとかないとまたこの前みたいなことをやりかねん。こいつだけが罰せられるならともかく、この組のもん全員に迷惑がかかる」
「そうはいうが、お前だって昔は大して変わらなかったじゃろう。若いもんは皆こんなもんじゃ」
「親父はぬるすぎる」
「ほれ、いいからもう寝ろ、火が勿体ないわい」
囲炉裏から離れて3人がすぐ横の板間に布団を敷いている。
布団だ!
ここは一体どうなってるんだ?
これはまるで江戸時代かなんかの日本みたいだ。
一つだけ違うのは男たちの髪の色が日本人にしては薄すぎる。
爺さんと親父さんが布団にもぐりこんだのに一人息子だけが外に出ていった。
「早くもどれよ」
布団の中から親父さんが小さく声を掛けるのが聞こえた。
屋根から外に回って坊主が出て行った方へ屋根を伝っていくと厠らしき小さな掘立小屋が見えた。そこに行くのかと思えばすぐ横の畑で何やら土を掘り返してる。
俺は足音を立てずに屋根から飛び降りその坊主の所に忍び寄った。
「ミャーオン」
「おわっ?」
後ろから俺がスルリとすり寄ると坊主が思わずといった体で声を上げてひっくり返った。
「なんだ猫か、脅かすなよ」
俺は猫の真似で坊主の足を掠りながら今坊主が掘っていた穴を覗いた。中には瓶が入っていて開いた蓋の中にまだもみ殻に包まれた米らしきものが見えた。
「おい、それは猫の食うもんじゃないぞ」
そう言って尻尾を引っ張られる。流石に声が出そうになるのを無理やり押さえて坊主の引っ張った手を軽く爪でつついた。
「痛て! こら、爪を立てるなよ」
そういいつつ、実は軽く撫で始める坊主はどうやら猫が嫌いなわけでは無いようだった。
「これは俺たちの冬の食料だ。親父たちに隠れて俺が毎日少しずつここに溜めてるんだ。掘り返すんじゃねえぞ。って猫にいっても分かんねえよな」
「いや、分かるぞ」
「おわ!?」
今度こそ声を控えられずに坊主が飛び上がった。
「脅かして済まねえな。俺はネロ、猫だ」
「嘘つけ、なんで猫が喋るんだよ」
腰を抜かしてひっくり返ってる癖に強気に言い返してきた。
どうするか一瞬迷ったがここは嘘をついておくことにした。
「なぜなら俺は猫神だからだ。敬えよ」
「まじかよ! 猫の神様って本当にいたのか」
あ、マズい、なんかこいつらの知ってる伝承に当てはまっちまったみたいだ。これはボロが出ない様に適当にあわせなきゃなんねえ。面倒くせえな。
「俺の事を知ってんのか?」
俺はまずはこの坊主に自分で説明させられないかやってみる事にした。
「もちろんだよ。猫の神様は気まぐれで天から降ってきて天に帰られるんだ。その時に俺たちの願いを一つ叶えてくれるって」
ずいぶん適当な神様だな。黒猫なのにあっちとは逆に幸運の神様みたいだな。まあまねき猫みたいなもんか?
俺は適当に話を合わせてやる。
「まあ、それが俺だ。だが願いをかなえる前に俺はお前らの事を聞いとかなきゃならねえ。それによってどんな願いをかなえるか考えるからな」
「俺の姉ちゃんと母ちゃんを救ってくれ」
俺がそういってるのに坊主はジッと俺の目を見つめて自分の願いを熱く語った。
「……お前、ひとの話を聞かないって言われるだろ」
「姉ちゃんと母ちゃん、今年も返って来れないらしいんだ」
俺はため息をついた。こいつ、まるっきり聞く気が無いようだ。諦めてこいつの話を先に聞いてやることにした。
「それで? お前の姉ちゃんと母ちゃんはどこにいるんだ?」
「庄屋の屋敷だよ。あそこで花嫁修業させられてる」
「花嫁修業って、お前の母ちゃん父ちゃんと結婚してるだろう?」
「はあ? 花嫁修業っていったら神様の花嫁になる為の修行に決まってんじゃん」
俺を胡散臭そうに見ながら坊主が続けた。
「母ちゃんも姉ちゃんも俺が3歳になった途端花嫁に選ばれて連れてかれちまった。本当なら神様が現れない限り年末には3日間里帰りできるはずなのに去年も一昨年も返って来れなかった」
坊主は手を握りしめながらそういって顔を伏せる。
「父ちゃんは何て言ってんだ?」
「庄屋の家で暮らす限り食い物に困る事もないからその方が母ちゃんと姉ちゃんにとっては幸せだろうって」
「お前はどう思う?」
「母ちゃんも姉ちゃんもこの前里帰りした時滅茶苦茶泣いてた。もう庄屋の屋敷には戻りたくないって」
そういって小さく唇を噛んで我慢しきれないように先を続けた。
「姉ちゃん、中央のお偉いさんに神様の使いの嫁として出されるかもしれねえって言ってた。そしたらもう戻ってこれないって」
どうも胡散臭い。
「花嫁に連れてかれたのはお前の母ちゃんと姉ちゃんだけなのか?」
坊主が首を横に振る。
「この組で残ってるのは隣の60超えたばあちゃんと俺より年下の女の子が2人だけだ。女子は6歳を超えたら花嫁候補に連れてかれる。姉ちゃんもここを離れた時は6歳だったんだ。今頃13歳になったはずだ」
ってことはこの坊主が10歳か。
「以前は連れてかれるのは黒髪の女の子だけだったし、13歳を超えるとみんな返してもらえてたんだ。だけど最近は誰も返してもらえないどころか子供たちの面倒を見る人手がいるって言って母ちゃんみたいに女手はみんな連れてかれちまう」
「お前らはなんで教会に訴えないんだ?」
「教会の奴らが俺らの言葉なんて聞くわけないだろ。あいつら、神の子以外は虫けらかなんかだと思ってやがるんだから」
「神の子?」
「猫の神様、神様の癖に何にも知らねえんだな」
「だからこうして降ってきて話を聞いて願いをかなえてやるんだろう」
「あ、そうか。そうだよな」
俺のごまかしはなんとか上手く通じてるようだ。
「神の子ってのは教会の子供だよ。みんな真っ黒な髪をしてるからすぐわかる。小さいうちは庄屋の家で育てられて、その内みんな教会に引き取られるんだ」
「なんでそれが神の子なんだ?」
「だってあいつら神罰をあたえられるから」
坊主がそう言う声は気丈だが肩が小さく震えたのが見えた。
「教会の奴らは俺らの収穫した食い物を取り上げるだけ取りあげて何もくれない。くれるのは神罰だけだ」
「神罰ってのは?」
「教会が決めた掟に従わねえと神罰が落ちる。雷が降ってくるんだ。やっちまった内容によっては雷が直撃して死んじまう」
どう考えても電撃系の魔術だよな。そういえばこの中で魔法を使うような道具は見てないな。あんな貧乏な治療院でさえあったライトもここにはない。
もしかしてこいつら、教会以外の魔術を見たことがないのか?
「庄屋の連中は教会にべったりだ。俺たちの年貢を集めてそれを引き渡す代わりに色々優遇してもらってる。女たちはみんなあそこに連れてかれて教会の連中のナグサミモノになってるて酔っぱらった時に父ちゃんたちが言ってた」
こいつ、意味は分かってないんだろうがそれでもそれが決していい事じゃないのは感じてるんだろうな。
なんかここに来た目的とはかなりかけ離れちまったんだがこいつをこのままにも出来そうにない。
まあ、どのみち貧民街のガキ共を助け出す予定だったんだ、ちょっとくらい増えても変わりないだろう。
「そんなに母ちゃんと姉ちゃんを救い出したいか?」
「うん」
「じゃあ協力しろ。俺はもっとここの事が知りたい。今すぐその庄屋の家と神の子とかいう奴らが見てみたい。それから教会とその裏の神殿だ」
シモンが言うには教会の裏には宝玉を収める神殿があるという。あゆみの描写から子供たちが囚われているのもそこだろうとシモンが言っていた。
「今から?」
「ああ。俺は今夜中に一旦帰らなきゃならない」
「え? 願いを叶えてくれねえのかよ?」
俺の言葉に坊主がキッとこっちを睨む。
「安心しろ、絶対戻ってくる」
「本当だな? 約束だぞ」
「ああ。俺は神様だからな。嘘はつかねえ」
そう言って坊主の手に自分の猫の手を乗せた。
「じゃあついて来てよ」
俺の猫の手をしばらくジッと見ていた坊主はのっそりと立ち上がって歩きだした。
教会の敷地は塀の上まで結界があるから侵入は無理だとシモンは心配していたが、前回の例があったのでここの結界が俺に効かない事は既に実証済みだ。だったら何も表から入る必要もない。
俺は街の外壁に近い部分の壁際までアルディと一緒に闇に紛れて近づき、アルディの肩を借りて塀の上に飛び上がった。
「ネロ君、本当に危なくなったらちゃんと打ち合わせの合図を送ってくださいよ」
「分かってる」
とはいえこいつらに危険を冒してまで助けに来てもらうような事態にするつもりはない。
塀の向こう側は林になっていた。それなりに高い木が密集していて地上が見えない。逆に枝がいくつも張り出してるから降りるのは楽だった。
これなら帰りもここから上がれそうだ。
林の中には月明りも射し込まず、普通の人間には真っ暗なのだろうが俺の猫の目には問題なく全て見えている。密集した木々の間は下草も生えておらず逆に歩きやすかった。
しばらくすると突然林が終わりのどかな田園風景にぶち当たった。何か懐かしい感じがするのは畑が全て小ぶりで日本の田舎に似ているからだろうか?
最初はそう思ったがすぐに考え直す。
これ、あぜ道じゃねえか!
驚いたことにそこには米を収穫し水を抜かれた田んぼが続いていた。その先にはテンサイの植えられた畑も続いている。道の先には正に茅葺屋根の農家が数件集まって立っていてその向こうには時代劇に出てきそうな武家屋敷のような建物まである。
俺は足音を忍ばせて一軒の農家に近づいていった。
「……だからなんでこれを全部教会の奴らに渡さなきゃいけないんだよっ!」
「仕方ないだろ、今年は街の年貢が少なかったそうだ」
「そんな事言ったってこれ全部渡しちまったら俺達どうやって食ってくんだ?」
「まだ芋があるだろ」
「芋って、そんなもんばっか食えるかよ」
「贅沢言うな。食いもんがあるだけましだ」
「ちくしょう、教会の奴ら毎日白い米食ってんだぞ? あいつら自分じゃ何にもしない癖に!」
「いい加減にしろ、口が過ぎる。誰かに聞かれたらどうする!」
中から聞こえてきたのはどうやら親子の会話の様だ。
教会の内部にも関わらずやけに景気の悪いはなしだな。
俺は軽く屋根に飛び上がって茅葺屋根の真ん中あたりに開いていた煙抜きの穴からちょいと頭を出して中を覗き込んだ。下では正に純日本風の囲炉裏を囲んで父親と息子、それにじいさんらしき3人が薄暗い中で話していた。
お寺で使われてた作務衣のような格好だがどいつもボロボロで当て布だらけだ。
「もうおやめ。ヒロシをせめても仕方なかろう」
「そういうが親父。こいつをしっかり躾けとかないとまたこの前みたいなことをやりかねん。こいつだけが罰せられるならともかく、この組のもん全員に迷惑がかかる」
「そうはいうが、お前だって昔は大して変わらなかったじゃろう。若いもんは皆こんなもんじゃ」
「親父はぬるすぎる」
「ほれ、いいからもう寝ろ、火が勿体ないわい」
囲炉裏から離れて3人がすぐ横の板間に布団を敷いている。
布団だ!
ここは一体どうなってるんだ?
これはまるで江戸時代かなんかの日本みたいだ。
一つだけ違うのは男たちの髪の色が日本人にしては薄すぎる。
爺さんと親父さんが布団にもぐりこんだのに一人息子だけが外に出ていった。
「早くもどれよ」
布団の中から親父さんが小さく声を掛けるのが聞こえた。
屋根から外に回って坊主が出て行った方へ屋根を伝っていくと厠らしき小さな掘立小屋が見えた。そこに行くのかと思えばすぐ横の畑で何やら土を掘り返してる。
俺は足音を立てずに屋根から飛び降りその坊主の所に忍び寄った。
「ミャーオン」
「おわっ?」
後ろから俺がスルリとすり寄ると坊主が思わずといった体で声を上げてひっくり返った。
「なんだ猫か、脅かすなよ」
俺は猫の真似で坊主の足を掠りながら今坊主が掘っていた穴を覗いた。中には瓶が入っていて開いた蓋の中にまだもみ殻に包まれた米らしきものが見えた。
「おい、それは猫の食うもんじゃないぞ」
そう言って尻尾を引っ張られる。流石に声が出そうになるのを無理やり押さえて坊主の引っ張った手を軽く爪でつついた。
「痛て! こら、爪を立てるなよ」
そういいつつ、実は軽く撫で始める坊主はどうやら猫が嫌いなわけでは無いようだった。
「これは俺たちの冬の食料だ。親父たちに隠れて俺が毎日少しずつここに溜めてるんだ。掘り返すんじゃねえぞ。って猫にいっても分かんねえよな」
「いや、分かるぞ」
「おわ!?」
今度こそ声を控えられずに坊主が飛び上がった。
「脅かして済まねえな。俺はネロ、猫だ」
「嘘つけ、なんで猫が喋るんだよ」
腰を抜かしてひっくり返ってる癖に強気に言い返してきた。
どうするか一瞬迷ったがここは嘘をついておくことにした。
「なぜなら俺は猫神だからだ。敬えよ」
「まじかよ! 猫の神様って本当にいたのか」
あ、マズい、なんかこいつらの知ってる伝承に当てはまっちまったみたいだ。これはボロが出ない様に適当にあわせなきゃなんねえ。面倒くせえな。
「俺の事を知ってんのか?」
俺はまずはこの坊主に自分で説明させられないかやってみる事にした。
「もちろんだよ。猫の神様は気まぐれで天から降ってきて天に帰られるんだ。その時に俺たちの願いを一つ叶えてくれるって」
ずいぶん適当な神様だな。黒猫なのにあっちとは逆に幸運の神様みたいだな。まあまねき猫みたいなもんか?
俺は適当に話を合わせてやる。
「まあ、それが俺だ。だが願いをかなえる前に俺はお前らの事を聞いとかなきゃならねえ。それによってどんな願いをかなえるか考えるからな」
「俺の姉ちゃんと母ちゃんを救ってくれ」
俺がそういってるのに坊主はジッと俺の目を見つめて自分の願いを熱く語った。
「……お前、ひとの話を聞かないって言われるだろ」
「姉ちゃんと母ちゃん、今年も返って来れないらしいんだ」
俺はため息をついた。こいつ、まるっきり聞く気が無いようだ。諦めてこいつの話を先に聞いてやることにした。
「それで? お前の姉ちゃんと母ちゃんはどこにいるんだ?」
「庄屋の屋敷だよ。あそこで花嫁修業させられてる」
「花嫁修業って、お前の母ちゃん父ちゃんと結婚してるだろう?」
「はあ? 花嫁修業っていったら神様の花嫁になる為の修行に決まってんじゃん」
俺を胡散臭そうに見ながら坊主が続けた。
「母ちゃんも姉ちゃんも俺が3歳になった途端花嫁に選ばれて連れてかれちまった。本当なら神様が現れない限り年末には3日間里帰りできるはずなのに去年も一昨年も返って来れなかった」
坊主は手を握りしめながらそういって顔を伏せる。
「父ちゃんは何て言ってんだ?」
「庄屋の家で暮らす限り食い物に困る事もないからその方が母ちゃんと姉ちゃんにとっては幸せだろうって」
「お前はどう思う?」
「母ちゃんも姉ちゃんもこの前里帰りした時滅茶苦茶泣いてた。もう庄屋の屋敷には戻りたくないって」
そういって小さく唇を噛んで我慢しきれないように先を続けた。
「姉ちゃん、中央のお偉いさんに神様の使いの嫁として出されるかもしれねえって言ってた。そしたらもう戻ってこれないって」
どうも胡散臭い。
「花嫁に連れてかれたのはお前の母ちゃんと姉ちゃんだけなのか?」
坊主が首を横に振る。
「この組で残ってるのは隣の60超えたばあちゃんと俺より年下の女の子が2人だけだ。女子は6歳を超えたら花嫁候補に連れてかれる。姉ちゃんもここを離れた時は6歳だったんだ。今頃13歳になったはずだ」
ってことはこの坊主が10歳か。
「以前は連れてかれるのは黒髪の女の子だけだったし、13歳を超えるとみんな返してもらえてたんだ。だけど最近は誰も返してもらえないどころか子供たちの面倒を見る人手がいるって言って母ちゃんみたいに女手はみんな連れてかれちまう」
「お前らはなんで教会に訴えないんだ?」
「教会の奴らが俺らの言葉なんて聞くわけないだろ。あいつら、神の子以外は虫けらかなんかだと思ってやがるんだから」
「神の子?」
「猫の神様、神様の癖に何にも知らねえんだな」
「だからこうして降ってきて話を聞いて願いをかなえてやるんだろう」
「あ、そうか。そうだよな」
俺のごまかしはなんとか上手く通じてるようだ。
「神の子ってのは教会の子供だよ。みんな真っ黒な髪をしてるからすぐわかる。小さいうちは庄屋の家で育てられて、その内みんな教会に引き取られるんだ」
「なんでそれが神の子なんだ?」
「だってあいつら神罰をあたえられるから」
坊主がそう言う声は気丈だが肩が小さく震えたのが見えた。
「教会の奴らは俺らの収穫した食い物を取り上げるだけ取りあげて何もくれない。くれるのは神罰だけだ」
「神罰ってのは?」
「教会が決めた掟に従わねえと神罰が落ちる。雷が降ってくるんだ。やっちまった内容によっては雷が直撃して死んじまう」
どう考えても電撃系の魔術だよな。そういえばこの中で魔法を使うような道具は見てないな。あんな貧乏な治療院でさえあったライトもここにはない。
もしかしてこいつら、教会以外の魔術を見たことがないのか?
「庄屋の連中は教会にべったりだ。俺たちの年貢を集めてそれを引き渡す代わりに色々優遇してもらってる。女たちはみんなあそこに連れてかれて教会の連中のナグサミモノになってるて酔っぱらった時に父ちゃんたちが言ってた」
こいつ、意味は分かってないんだろうがそれでもそれが決していい事じゃないのは感じてるんだろうな。
なんかここに来た目的とはかなりかけ離れちまったんだがこいつをこのままにも出来そうにない。
まあ、どのみち貧民街のガキ共を助け出す予定だったんだ、ちょっとくらい増えても変わりないだろう。
「そんなに母ちゃんと姉ちゃんを救い出したいか?」
「うん」
「じゃあ協力しろ。俺はもっとここの事が知りたい。今すぐその庄屋の家と神の子とかいう奴らが見てみたい。それから教会とその裏の神殿だ」
シモンが言うには教会の裏には宝玉を収める神殿があるという。あゆみの描写から子供たちが囚われているのもそこだろうとシモンが言っていた。
「今から?」
「ああ。俺は今夜中に一旦帰らなきゃならない」
「え? 願いを叶えてくれねえのかよ?」
俺の言葉に坊主がキッとこっちを睨む。
「安心しろ、絶対戻ってくる」
「本当だな? 約束だぞ」
「ああ。俺は神様だからな。嘘はつかねえ」
そう言って坊主の手に自分の猫の手を乗せた。
「じゃあついて来てよ」
俺の猫の手をしばらくジッと見ていた坊主はのっそりと立ち上がって歩きだした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる