異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第8章 ナンシー 

75 反省会10:あゆみ1

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「それで合流したお前たちはそろって神殿に向かったのか」

 さっきっからキールさんが進行を進めてくれているおかげで何とか脱線しながらもあの日の全容が見えてきた。

「ああ。残ってた連中は少なかったはずなんだが俺と合流する前に全員バッカスたちに叩きのめされてた」

 黒猫君がそう言うとバッカスが頷いて続けた。

「ああ、こっちに残ってた司教は4人きりだった。あっという間に片付いて道々倒してあった残りの司教たちと一緒に後ろから手伝いに来てくれた貧民街の連中が縛り上げてくれた」
「そこなんだよな。俺の方は大量に気絶させたのはいたけど縛り上げるもんもなくて、結局バッカスたちが到着して持ってきた縄で司教達を縛り上げるまで教会から動けなかったんだ」

 そこで一度言葉を切ってから黒猫君が苦々しそうに続けた。

「だから、てっきりガルマはバッカスたちに潰されたんだって勝手に信じてたんだよ」
「なんでガルマは教会に向かわなかったんだ?」

 キールさんが黒猫君にそう尋ねるとでも黒猫君も自信なさそうに返す。

「知らねえ。多分あいつ『連邦』と繋がってたんじゃねーのか。結局他の司教どもはあの神殿での儀式自体には手を出してなかったみたいだし。まあ今となっちゃ分かんねーけど」

 黒猫君の返事にキールさんは軽く頷いて思い出した様に付け足した。

「神殿前は俺たちが駆けつけた時にはもう酷いありさまだったな」

 その一言で一瞬あの光景を思い出して私は身震いした。
 そんな私を黒猫君がジッと見てる。いつの間にか黒猫君だけじゃなくて部屋にいた人たちがみんな私を見てた。

「それで結局あゆみはなんであの場に突然現れたんだ?」
「うーん、その説明をするにはもう一度セーフハウスまで話を戻すことになるんだけどね」

 私はそこにいる全員の視線にちょっと緊張しながら順番に起きた事を思い起こして説明を始めた。



 ──セーフハウスにて(あゆみの回想)──

「──というわけでですね、結局黒猫君とは大した進展のない悲しい状況なんですよ」

 結局朝っぱらからあるお仕事だけ済ませた私はそのまま強制的にこのセーフハウスに突っ込まれた。
 もちろんヴィクさんとミッチちゃん、ダニエラちゃんも一緒だ。ビーノ君は最後まで黒猫君とやりあって自分の責任を取りたいって言ってバッカスたちについていった。黒猫君は最後まで反対してたけどなぜかバッカスが気にいって自分で連れて行くことにしたらしい。

 ここは街の東側、商業地区の中央寄りにあるキールさんのお家だった。
 そう。キールさん持ち家があった。まあ、細かいことを言えばキールさんの実家の持ち家。
 実家の名前を継いでないとは言え、たった一人の継子であり、しかも王族に名を連ねるということで本人は名前を継承せずにアズルナブ家の財産だけを全て継承したのだそうだ。だから実はこの前の戸籍の問題で私と黒猫君が名前を引き継いだのはすごく都合が良かったそうな。
 アズルナブ家は長い歴史の間に領地を全て失ってしまって今はそれぞれの街に不動産の形で資産が残ってるだけなんだそうその不動産も現在は主にこことバースにあるそうな。
 でもつい最近までそのアズルナブ家の不動産も皇太子の方の不動産も全て『凍結』されてギルド預かりになってたんだって教えてくれた。

 ただこのお屋敷だけは自分が中央の王都を離れることになった時点で昔からの馴染みのメイドさんたちを引き取ったり仕事関連で使うためにわざわざ自分キーロンから自分キールが借り受ける形にしてまで手元に残したものらしい。
 そりゃ隊長さんのお給料だってこんなお屋敷借りたり人件費払ったりしてたらなくなっちゃうよね。でもだからこそここで働いている人たちは皆気心もしれてるし安心していいって言ってた。
 ついでに今回凍結資産を解凍する時に今までの利子が払いきれないギルドを脅して王冠を超特急かつ格安で手に入れたんだそうで。王冠って値切って作るもんだったんだね……

「そういうことだったのか。道理でやけにじれったいやり取りをしていると思った」

 そんなわけで安全かつ快適なこのお屋敷で折角の機会なので只今ヴィクさんとガールズトーク中。今日はヴィクさんも非番の格好で少しラフな男性物の服を着ている。こんな時でもスカートは履かないのだそうだ。
 本来非番の時は帯剣しないのだそうだが、今日は特別剣を持ち込んでいる。あの大きい剣ではなく、この前黒猫君が二刀流で使ってた短めの剣だ。

「そういえばヴィクさん剣を変えたの?」
「ん? ああ。最近こっちも使いだしただけだ。もしここみたいな狭い場所であゆみたちを後ろにかばいながら戦うことになるとしたらこういう短い剣のほうが役に立つと思ってな」
「え、それってもしかして私の護衛をするためだけに剣を変えてくれたってこと?」
「まあ、それもあるし、それ以外もな」

 そう言って今度はヴィクさんが少し赤くなった。

「も、もしかしてヴィクさん、アルディさんとなんかあったの?」
「は? え! なぜあゆみが知ってるんだ?」
「え? 知らないよ、何にも。ただなんとなくヴィクさんが赤くなるのはアルディさんのことかなって思っただけ」
「あゆみは変なところ鋭いな。自分のことになるとからっきし鈍いのに」

 言われてしまった。

「それはそうだよ、だって私慣れてないんだもん。人とこうやって突っ込んだ会話したことなかったし」
「さっき言ってた『あっち』の話か」
「そう。まさか自分がこんなふうに他の人たちと自分の気持ちやその人の気持ちを打ち明けあって話をする日が来るなんて思ってもいなかったから」
「私も女性としてはかなり問題があると思ってたがあゆみもどっこいどっこいだな」
「そうだね。私たち二人ともちょっと問題あり物件だよね。でも私は最近少しずつ変われてきてる気がするよ? ヴィクさんもちょっとずつ変わってきた気がするし」
「そうかもな。もしそうだとしたらあゆみのおかげだ。君がいると不思議と素直に話ができる」
「うん、私もヴィクさんだと色々お話出来て楽しいよ。多分私たちいい組み合わせなんだね」
「ミッチもだよ」
「ダニエラも」

 今まで二人で部屋においてあった布のお人形を使って夢中で遊んでいた二人が突然会話に割って入ってきた。そう、この二人もそうだ。

 その時突然遠方で立て続けに爆発音が響いた。ミッチちゃんがピクんとその耳をたて、ダニエラちゃんがミッチちゃんに抱きつく。

「どうやら始まったみたいだね」
「うん。私、本当に何もしなくてよかったのかな」

 思わず言ってしまったけどヴィクさんの返事は分かってた。

「今回あゆみは何もしないことが仕事だって言われただろう」
「言われた。黒猫君に。でもなんか納得行かないんだよね」

 必要な道具や武具の準備は手伝ったけど、今日この時、みんなが戦ってるのに私にはできることがない。それどころか研究室もほっぽらかしてここにこもらなければならないという。
 確かに片足で体力のない私にできることが少ないのはわかってる。でもそれでも参加したいと思うのは私のわがままでしかないらしい。

 だから。お願いだから。誰も傷つきませんように。
 誰というわけではないけどどっかの誰かにお祈りする。
 みんなが無事で帰ってきますように、と。
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