異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第8章 ナンシー 

94 失いたくないもの

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「やっぱり完成してたね」
「…………」

 研究室の帰り道。黒猫君が納得がいかないって顔でムスっとしてる。

「なあ、なんでピートルたちはお前の飛行物体Bに関わらなかったんだ?」
「え、だってあの二人はモーター装置自体の中身と軸、それにプロペラの威力を上げる方にのめり込んじゃって私の話を聞いてくれなくなっちゃったから」

 私の説明は今一つ黒猫君が求めていた物とは違った様で、不機嫌にへの字に結ばれた口はそのままだ。

「いや、そういう意味じゃなくてな。なんでこっちのモーターにはちゃんと安全装置まで付いてるのに俺の乗った飛行物体Bには着いてなかったんだ?」

 ああ、その事か。

「だって、黒猫君が乗った飛行物体Bのモーターの組み立ては私がやっちゃったから。朝の時間のない中でやったから大急ぎでつい細かい事忘れちゃって……ごめんなさい」

 うわ、凄い目でギロリと睨まれた。慌てて私が謝るとはーっとため息を吐いて諦めたように前を見る。

「もう今更言っても仕方ねーな。飯行くぞ」

 黒猫君はそう言って私を抱えたまま食堂に向かった。

 食堂にはヴィクさんやビーノ君たちが先に来てて夕食を食べ始めてた。黒猫君が私を降ろして私たちの夕食を取りに行ってくれる。

「あゆみ試験はどうだったんだ?」
「んー、何とかなった、かな?」

 言いよどんで誤魔化すような口調になっちゃった私にヴィクさんが苦笑いしてる。黒猫君が私たちの夕食を持ってくるとヴィクさんが改めて尋ねた。

「ネロ殿、試験はどうだったんですか?」
「俺はちょっとやり過ぎた程度だが、こいつは試験会場で試験に使われる機械を壊しまくったぞ」

 ひどい! 黒猫君がばらした!
 ヴィクさんの目が点になった。その後ろから研究員の一人が立ち上がってバッとこっちを振り向く。

「やっぱりあゆみさんだったんですね! 今日魔術管理局から文句がきたんですよ、入荷したばかりなのに二つも壊れたって」

 あああ。彼の研究だったのか。

「ご、ごめんね、申し訳ないけどそれは私が弁償するって形で補完しておいてくれる?」

 私の言葉にその研究員が「お金じゃなくて僕が心血注いで作った可愛い魔力検査機君たちがですね」って文句を始めてしまったので私は神妙に暫くその愚痴を聞くはめになった。もちろん夕食食べながらだったけど。

「あゆみ、今日はお風呂いくかい?」

 夕食後、みんなで部屋に戻る途中でヴィクさんが黒猫君の腕の中の私に尋ねる。
 うう、行きたい。もうすぐ『ウイスキーの街』に戻ったらまたお風呂なしだもん。入れる時に入っておきたい。でも……
 迷う私を見たヴィクさんが目を細めて私の首筋を見てから悪戯な輝きを宿した目できれいにウインクした。

「もう薄くなってるしそんなに気にする事もないだろう」
 
 うわー、そうだった。
 今朝自分で着た服装では隠しようがなくて食堂に行く前にヴィクさんにお化粧で誤魔化すの手伝ってもらったんだった。結局ヴィクさんには見られちゃったんだしもういっか。
 あ、でもこれって全身についちゃってるんだった。どうしよう……

「あゆみ、前みたいに湯あみ用に薄い服を着て入ればどうだ?」

 私を抱えた黒猫君が少しだけすまなそうに私の胸元を見ながらそう言ってくれる。それを眉を少し上げただけでスルーしてくれたヴィクさんが「それなら支度を手伝うよ」って言って部屋までついて来てくれた。
 私の着替えの間外で待っててくれた黒猫君とビーノ君が入れ替えに部屋に入ってくのを横目に私はヴィクさん達と一緒にお風呂へと向かった。



「あゆみ、そこまでして隠す必要はないぞ。どうせ君たちは新婚って事になってるんだから」

 お風呂に浸かりながら水に浮いて離れてっちゃう服の襟元をかき寄せてる私を見てヴィクさんが可笑しそうにそう言った。
 私の横のヴィクさんはその綺麗な肢体を湯船で伸ばしながらこっち見てる。やっぱり鍛えてる人の身体は綺麗だな。

「そんなの恥ずかしくて無理だよ。こんなの今まで付けられた事なかったし」

 私は恥ずかしくて半分くらいお湯の中に顔を漬ける様にして答えた。洗い場ではミッチちゃんとダニエラちゃんが石鹸で作った泡を飛ばして遊んでる。ああ、こここの素敵なお風呂ともまたしばらくお別れかぁ。

「そうなのか。まあ、私の場合は今や相手が誰だか知れ渡ってしまったしお互いの立場もあるからそういう事を大っぴらにすることは出来ないけど、それはそこまで恥ずかしがるような事でもないよ。若い娘なら時にある事だしね」
「え、でもやっぱり皆隠すんじゃないの?」
「んー、それは人によるな。自慢したがる娘もいたし。二人の仲が良い証拠だしね」

 え。ちょっと待って。ヴィクさんの言ってるのが本当ならもしかして私の常識の方が間違ってるの?
 黒猫君が言ってたみたいにこれって喜ぶことなのかな?

「あ、でも恥ずかしがる娘もいるからほんと人それぞれだな。あゆみが恥ずかしいなら別に隠せばいいし、ネロ殿に見えない所だけにつけてもらえばいい」

 そう言って私の服に移ったヴィクさんの視線に頭がゆだってきてしまう。

「やっぱりバレてるよね」
「まあね。ネロ殿がどれほど君を手放しがたいのかが良く分かるよ」
「え?」
「だって、それは彼なりの虫よけだろう? そうでなくてもあゆみは人気があるからな」

 ああ、そう言えば前に黒猫君がそんな事言ってたな。あれって本当なのだろうか?

「でももう私は黒猫君と結婚してることになってるし今更……」
「ねえあゆみ。例えばあのエミール副隊長がそんな事でめげると思うかい?」
「え、あー。確かに。あれ? そう言えばここしばらくエミールさん見てないね」

 私がそう言うとヴィクさんが少し楽しそうに私に説明してくれる。

「ああ。どうも副隊長殿はあの髪型では女性に会いに行けないと言って落ち込んでたらしい。それをいい事にキーロン陛下が昼は領主の親族や貴族を集めて副隊長の領主としての立場の地固めにまわり、夜は庄屋の家で高位貴族と一緒の牢屋に入れて一晩中謝罪させてるそうだ」

 うわ、キールさん今回は本当に容赦なかった。まあ、エミールさんの場合自業自得だから仕方ないと私も思うけど。

「お姉ちゃん、そろそろ出る?」
「うわ、ミッチちゃん体中泡だらけ! その前にまずは泡を落とさなきゃ」

 って私が言うのと同時にヴィクさんがお風呂から半身を出して桶でミッチちゃんを洗い流す。ダニエラちゃんも同様に泡だらけだったのを流し終えてから改めて湯船に戻ったヴィクさんが私をお湯から引き揚げてミッチちゃんに手渡してくれた。

「お姉ちゃん、軽いね」
「え? そんな事ないよ。いっぱいご飯食べてるもん」
「んー、でもお嫁さん、普通だんだん重くなるよ」
「え?」

 ヴィクさんがクスクス笑いながら訳の分からない私に説明してくれた。

「ミッチは普通お嫁さんがだんだん重くなってお母さんになるのを知ってるんだな」

 うわ、そういう事か!
 私は真っ赤になって「それはまだ当分ないと思うよ」とだけ答えておいた。


 部屋に戻ると黒猫君とビーノ君は先に寝ちゃってた。どうも私達が戻るのを待ちきれなかったみたいだ。まあ、この二人は明日お風呂入ればいいか。
 ヴィクさんがダニエラちゃんとミッチちゃんを布団に入れてくれた。私も自分の布団に入って部屋を出ていくヴィクさんにおやすみの挨拶をした。
 すぐに子供たちの寝息が聞こえてきて私もお風呂上がりであったまった体のおかげで気が緩んでそのままストーンと眠りに付いた。


 * * * * *


 隣であゆみが眠りに付くのを息を殺して待っていた俺はふーっと安堵のため息をついた。昨日の件でこいつが俺と同じベッドに入るのを嫌がるんじゃねーか、寝付けねーんじゃねえかって少し心配してたけどそれは取り越し苦労だったみたいだ。最悪ソファーに移るつもりだったんだけどな。
 あゆみが完全に寝付いてるのを確認して昨日と同様あゆみの体を後ろから抱き寄せる。どうせこいつはそう簡単には目を覚まさない。

 今日のこいつにはほんとにヒヤヒヤさせられた。
 まず朝目が覚めたらベッドにいないし、慌てて食堂に降りてみれば暢気に「おはよー」っとか挨拶してきて昨日と全く同じ調子に戻ってるし。
 そのくせ一日中変に俺の視線避けてたしなんか気にしてるのだけは間違いなくて。
 まさかこんな事でもう駄目になっちまうとかないよな、っと思いつつもいやまさかって思いが振り切れなくて。胃の底の辺りがシクシクと痛くなって中々問いただせなかった。

 それでも今更逃げる気も逃がす気もない以上はちゃんとこいつと向き合うしか方法はなくて。
 よく考えたら今まで女とこういう話なんてしたことねーし、自分が特に悪いことをしたと思ってないから多分謝罪とかできねーし。
 結局思ってること素直に話す以外なんも思いつかなくて、やっと二人っきりなった時になんとか過去の事は忘れて欲しいと頼んだ。

 ところがそれに対するあゆみの答えが煮え切らない。変な質問ばかりし始めて。
 まさか俺の浮気を心配してるのか?
 そう思って聞いてみると全く間違ってはいないが何かしっくりきてないらしい。
 どうも自分でもなにが引っかかってるのか分からねーって顔で首ひねってる。
 こいつもしかして。

「もしかして嫉妬した?」

 まさかと思って聞いてみれば図星だったらしい。
 っていうか俺が浮気するかもしれないって心配というよりは俺が誰か他の奴をあゆみにするように構うんじゃないかってそんな基本的なところで焼いてくれてたみたいだ。
 そこで気が付いた。こいつ、多分嫉妬って感情自体が新しくて持て余したんか。
 今までバアさんと別れてからは自分のために誰かの関心を得ようとはしてなかったみたいだしな。そりゃ嫉妬のしようもなかったのかも知れない。
 ブワッとなんか凄く恥ずかしい感情があふれ出た。こいつが初めて嫉妬したのは俺の事だったんだ。それって俺スゲーこいつに……好かれてるって思っていいのか?
 そう思うとどうしようもなく嬉しくて。ついでにスゲーむずがゆくて。

 俺はあゆみを無理やり腕の中に抱き込んで赤くなってること間違いない自分の顔をあゆみの肩に埋めて溢れてくる気持ちを言葉にしていった。
 過去に自分が何してきたかなんてもうどうする事も出来ねえ。酷い時期もあったし人に言えない事もした。でもそんな俺だから良く分かる。こいつに対する俺の感情は今までの物とはまるっきり違う。
 替えの効く様なもんじゃないし、こいつを泣かすなんて考えられねえ。
 どうしてこいつにはそれが分からねーんだろう。……分かるはずねーよな。
 俺が説明もしないでこいつに伝わるはずもねえ。
 でもどんなに俺が言葉を尽くしても、俺の口から出てくる言葉は俺の気持ちのほんの一部だって伝えきれなくて。もどかしくてイライラしてくる。
 
 失敗したな。人を好きになるってのがこんなにきついとは思わなかった。
 違う、真剣に付き合うってのがこんなに大変だとは思わなかったんだ。
 正直めんどくせー。
 あゆみ泣いてるし。
 全然泣き止まねーし。
 なんか俺スゲー悪いことしてるみたいだし。
 でもあゆみの背中撫でてるだけで。
 そんな面倒なのもきついのも全部報われちまう。

 今も安心しきった顔で俺の腕の中で寝息を立ててるあゆみがいる。どこにもいかないし俺がいるの分かっててベッドに入ってきてくれる。今朝みたいに朝になったら俺に抱きしめられてる可能性があるのを分かってて、それでもここにいてくれる。
 これからもこうしていたい。こいつと一緒にずっとこうしていきたい。
 そのうち腕の中のあゆみの体温にも慣れてやっと心が落ち着いてきてそれがすごくしっくりと俺の身体に馴染んで。あゆみの寝息が自分の呼吸と重なって。いつしか俺もそのままあゆみを抱えて眠りについた。
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