異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第9章 ウイスキーの街

12 娼館へ

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「やっぱり外は気持ちいい~!」
「おいあゆみ、お前俺の腕の中で暴れるなよ」

 思いっきり伸びをした私の腕が黒猫君の後ろ頭にぶつかったみたいで迷惑そうな顔の黒猫君に文句言われた。
 でもそんなの今の私は気にしない。だってここ数日ずっとあの執務室に閉じ込められてた上に今日だって半日座りっぱなしで仕事してたのだ。久しぶりの外の空気は頭をすっきりさせてくれて本当に気持ちいい。
 やっと目の前の仕事がきりのいい所まで片付いた私は、監査に必要な書類なんかを入れた袋ごと黒猫君に抱えられて治療院の見張りをしてくれていた兵士さん二人を引き連れて娼館へ向かっている最中だ。
 貧民街には以前タッカーさんに関わることで数回来てるけどあまりいい思い出がない。それでもあのいくらやっても減らない書類の山とにらめっこ続けるのに比べれば断然この方がいいに決まってる。

「娼館ってどの辺なんだろう?」

 街の中心から東に向かう大通りを門に向かって黒猫君に抱えられてしばらく進むと貧民街が近いせいか街の様子が寂れた物に変わってきた。少し不安になって私が尋ねると黒猫君が門の方に顔を向けて答えてくれる。

「確か東門に一番近いあたりだって言ってたな。窓の色が赤いからすぐ分かるそうだ」

 二人の兵士さん達はどうやら場所を知ってるらしく、無言で頷いて先導してくれている。

「前はタッカーさんがまとめてたんだっけ?」
「いや、娼館は確かに『連邦』の息が掛かってたらしいがタッカー自身は『連邦』と娼館の帳簿会計を見てただけだそうだ。娼館の営業自体は別の奴が面倒見ているらしい。気になって俺も何度も聞いたんだがタッカーの奴俺がいくらどんな奴か聞いても口を濁してやがった」

 動きのいい黒猫君は私と違ってあれからも何度かタッカーさんに会いに行っていた。どうやらその時に情報を聞き込んできたみたい。

「ここですよ」

 東門近くの細道を少し北に下ったところで兵士の一人がそう言って古い建物の前で立ち止まった。
 だけど言われて見上げた建物には赤い窓など一つもなく、黒猫君が言っていた形容に当てはまらなくて一瞬戸惑ってしまう。
 でもよくよく目を凝らして見てみれば確かに窓枠は赤く塗られているみたいだ。
 ただ時間の経過とともに所どころ剥げたり色がくすんだりしていて気をつけてみなければ見落としてしまいそうなほど色が落ちちゃっていた。
 昼間のせいか辺りはシーンとしてて娼館からは声一つ聞こえてこない。私は少しホッとして黒猫君を見上げた。正直変な声とか聞こえてきてたらどうしようかとは思っていたのだ。
 建物の前にある数段の階段を上がって兵士さん達が開けてくれた両開きの扉を抜けると中は横広な吹き抜けの空間になっていた。ゆったりとしたソファーやバーのあるその部屋には2階3階から背の低い柵で区切られた小部屋が少しせり出してきている。
 多分夜にはあそこから綺麗に着飾った娼婦の皆さんが顔を見せるのかな?

「あら可愛らしい。その娘なら片足でも売り物になりそうね。でも身売りは裏でお願いしてるんだけど?」

 物珍しさに私が黒猫君の腕の中から周りをキョロキョロ見回してると突然良く通る声が響いてきた。驚いて声のほうを見やれば背の高いスラリとした女性が腰骨近くまでスリッドの入った妖艶な薄紫のドレスを身にまとって部屋の奥からこちらに向かって歩いてくる。
 うわ、テレビとかでしか見た事のないようなものすごい色っぽい美人さんだ。
 普通にこっちに歩いてきてるだけなのに一歩進むごとに例えようのない色気が体中から漂ってくる。
 しっかりと化粧を施してるから今一つ分からないけど多分私よりは少し年上だと思う。
 顔立ちはゴージャスと言うよりはしっとり系の美人さん。瞳の色も髪の色も明るいブラウンで腰のあたりまである長い豊かな髪が歩くたびに身体の線を縁取るように揺れてる。
 身体の線を見せつけるような服装の効果もあるかもしれないけど素晴らしく女性らしいそのプロポーションに横に立つ二人の兵士さん達の目もお姉さんに釘付けになってる。

 一方その美人のお姉さんは困ったように眉根を寄せて細い指を美しいカーブを描いた顎の下にあてながら私を抱えてる黒猫君を真っすぐに見つめてる。
 なんだか心配になって上を仰ぎ見ると黒猫君はいつも通りちょっと怖そうに見える無表情で少し不機嫌そうにまっすぐ美人さんを見返してた。

「身売りじゃない。ここの会計監査に来たキーロン陛下の秘書官だ。前もって通達しておいたはずだが?」
「あらまあ。秘書官様はお二人と聞いておりましたけれどもう一人はどちらにいるのかしら? まさかお兄さんに抱きかかえられて自分で歩くこともできないそのお嬢ちゃんが秘書官なんてことはないでしょうし」

 少しハスキーな声でそう言って私を見る美人のお姉さんの顔には嫌味にならない程度の、でも間違いようのない嘲笑が浮かんでる。
 あまりにもあからさまなその物言いに流石の私もカチンときて顔に血がのぼるけど、残念ながら言われてること自体には何も言い返す余地がない。

「ご期待に添えなくて申し訳ないですが私がそのもう一人の秘書官のあゆみです」

 隠れるわけにもいかなければ隠れるいわれもない。
 私がそう思って黒猫君の腕の中で少しだけ居住まいを整えてからハッキリとそう答えると、美人のお姉さんはクスリと小さく笑ってから優雅な足取りで私たちに歩み寄ってきた。

「あらまあ。見かけによらず負けず嫌いのお嬢ちゃんだったみたいね」

 お姉さんは口ではそんなこと言ってるくせに私なんて全く眼中になく、真っすぐ黒猫君だけを見ながら近づいてきたかと思うとスッと迷いなく黒猫君に向かって手を伸ばした。

「まあ素敵なお耳。こちらの秘書官様なら私、一晩中監査にお付き合いしても構わなくてよ」

 そう言って妖艶にほほ笑むとそのまま黒猫君の髪をとかすフリして何気なく彼の耳の付け根をスルリと撫でた。
 黒猫君の耳!
 前に性感帯って言ってた!
 私はびっくりして黒猫君の顔を見上げたけど黒猫君はちょっと顔を歪めただけで頭を振り払って再度その美人のお姉さんに向き直る。

「馬鹿なことを言ってないでとっととここの責任者の所に案内しろ」

 あれ? 黒猫君、大丈夫なの?
 触った方のお姉さんもちょっと驚いて片眉を上げて、でもすぐにフフフっと笑いながら私たちに背を向ける。

「仕方ないわね。付いてらっしゃい」

 軽く黒猫君に流し目を送りながら踵を返した美人のお姉さんは一階の奥へと続く廊下を私達を引き連れてゆっくり優雅に引き返していった。
 因みに後ろを付いていく間、確認したくなった私が後ろから手を伸ばしてそっと耳を触ろうとすると真っ赤になった黒猫君に「お前はやめろ」って凄い顔で睨まれた。あまりの勢いに諦めて手を引いたけどさ。
 お姉さんは良くて私は駄目なんだ。ふーん。いいけどね。
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