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時は半年前に遡る―――
私、ベアトリスはシュルファ国唯一の王女であり次期女王でもある。
現国王であり父でもあるブレイディ・シュルファと、母カイラとの間に産まれた。
私が生まれた後は子供に恵まれず、周りの貴族達は側室を薦めていたみたいだが、父は母をとても愛していたのでそれらを全て跳ね除けた。
それに、この国は女性でも王位につく事が出来るので、何も問題はないのよ。
ただ、王女に何かあった時の事を考えて、側室に子供を産ませようとしていたらしいけど、そういう事を言う貴族というのは、自分の娘に子を産ませ優位に立ちたいだけ。
でも、母カイラは大国でもあるクレーテ帝国のマリアーノ公爵家令嬢でもあり、母の母・・・つまり私の祖母ベネットは皇妹なのだ。
祖母ベネット・マリアーノは母の事を大切に思っている以上に、孫である私の事も、もの凄く可愛がってくれていた。
王妃カイラの後ろには帝国がいて、その帝国とは大人と子供位の国力の差がある為、周りの貴族も余り強く側室の事は言えないでいた。国王である父に全くその気がない事も大きかったのだが。
もし私に何かあっても、叔父様(王弟)に子が三人もおり、王弟ならば血統も間違いないし何の問題もないとプレッシャーになる事も無かったみたいね。
私が幼い時は、跡継ぎ問題で側室をと騒いでいたけど、私が年頃になると今度は国婿 の話で勝手に盛り上がっている貴族達。
徐々に政務にも携わりはじめ、とうとう二十才となってしまった。
結婚よりも仕事優先の日々だったけれど、次期女王ということもあって一般的な婚期を逃してもそこそこ結婚の申込はくるのよ。
釣書には目もくれず、政務に没頭していたある日、国王でもある父に呼びだされた。
隣国でもある、アルンゼン国王から結婚の申込が来ていると。
思わず「はぁ?」と王女らしくもない返事を返してしまった事に、今は誰も注意などしない。
元々この国は貴族と平民の身分差に煩くなく、私なんて市場調査などと言いながら町に出ては遊びまくり、市井に結構な人数の友達がいたりもする。
だから時折、王女らしさの欠片も無くなる時があるのだが、今は仕方がない。
「私って、次期女王ですよね?お父様」
「あぁ・・・」
「何でアルンゼン国王が求婚してくるんですか?婿に来てくれるとか?」
「いや、嫁いでこいという事だ」
「・・・・・なに、ふざけてんの?アルンゼン!」
これが互いに惚れた腫れたで恋愛関係にあるのであれば、それなりの対処もあるだろう。
だが私とアルンゼン国王は、三年前に新たにアルンゼン国の王に就任した際の親善国訪問で、この国を訪れたその時にしか会った事がないのだ。
その時も形式的な挨拶程度しかしていなかったはず。
単なる婚姻の申込であれば、王位継承者である事で断れば済む事なのだが。
「これまでも何度か申し込みが来ていたのだが、全て断っていたのだ」
「え!?これまでもあったのですか?」
「あぁ・・・そして今回きたのが、これだ」
と見せてきた手紙には・・・・
「あぁん!?」
思わずドスの効いた声が出てしまったのは、これまた仕方がない事だ。
要約すると、この婚姻を了承しないと攻め込むぞ。戦争だと書いているのだから。
「・・・何を考えているの?結婚を承諾しないと攻め入るって?!ふざけてるっ!」
アルンゼン国王って、こんなにも愚かなの?自分の欲で国民を不幸にしてもいいと考えているの?
怒りが先に来て冷静になれずにいると、父の隣に座り成り行きを見守っていた母が、ポツリと呟いた。
「戦争の切っ掛けなんて、とてもつまらない理由が大半なのよねぇ」
何処か気が抜けるような物言いに、母以外の面々は室内の温度が急に下がった気がして、鳥肌を立てた。
―――気がして・・・じゃなく、確実に下がったわ!
というのも、母がこの様な間延びした言い方をする時は、相当頭にきているという事なのだ。この国で怒らせると一番怖いのは、母なのである。
父が母と結婚する前、クレーテ帝国のマリアーノ公爵家令嬢だった母はその美貌から色んな貴族や王族から求婚が山のように来ていた。
クレーテ帝国特有の銀色の髪に、理知的な瑠璃色の瞳。きめ細やかな白い肌に、可愛らしい唇。・・・・って、いつも父が言っているのよ・・・
―――因みに、私の髪色は母からの遺伝で、瞳の色は父から。父は黒髪にルビーの様な紅い瞳をしているのよ。
外面は完璧な公爵令嬢だったけれど、家族の前では裸足で庭を駆け回り、木登りをしてしまう様な活発な少女だったようで、あのお転婆少女が母親に?って未だに言われている。
母の家族は両親に兄と弟がいて、可愛らしくてお転婆な彼女は家族から、ずぶずぶに溺愛されていた。それは今も変わる事無く、孫である私の事も同じ位愛してくれている。
幼い頃から傾国と言われたその美しさの所為で、誘拐未遂も数度あったとか。
ぱっと見が深窓の令嬢なので、簡単に誘拐出来ると思い手を出すのだが、実のところお転婆どころではなく、年を取る事にじゃじゃ馬と言っていいほどで・・・
其処に父は惚れたと言っているのだが。
父と結婚する前は、求婚を理由に戦争を吹っ掛けられそうになったり、拉致監禁されそうになったりと・・・母が言うつまらない理由で大事の一歩手前までというのが、何度もあったのだという。
国の為、民の為にではなく、己の欲の為、特に女の事で愚かな選択をする主君は、母にとっては軽蔑以外何ものでもない。母だけではなく、私もそう思うわ。
だから父との恋愛結婚は、帝国側としては大歓迎で、ようやく彼女の周りも落ち着くだろうと安堵していたのに・・・・
確かに私の顔は整っている。傾国並みに。『両親の良いとこ取り。顔だけは』とアイザックに馬鹿にした様にいつも言われるくらいは。
にこやかに怒りをあらわにしている母に震えていた私は、「愛しい妻の時だけではなく、母子二代で・・・いや、三代か」と、深い深い溜息を父が吐いていた事を、気付きもしなかった。
私、ベアトリスはシュルファ国唯一の王女であり次期女王でもある。
現国王であり父でもあるブレイディ・シュルファと、母カイラとの間に産まれた。
私が生まれた後は子供に恵まれず、周りの貴族達は側室を薦めていたみたいだが、父は母をとても愛していたのでそれらを全て跳ね除けた。
それに、この国は女性でも王位につく事が出来るので、何も問題はないのよ。
ただ、王女に何かあった時の事を考えて、側室に子供を産ませようとしていたらしいけど、そういう事を言う貴族というのは、自分の娘に子を産ませ優位に立ちたいだけ。
でも、母カイラは大国でもあるクレーテ帝国のマリアーノ公爵家令嬢でもあり、母の母・・・つまり私の祖母ベネットは皇妹なのだ。
祖母ベネット・マリアーノは母の事を大切に思っている以上に、孫である私の事も、もの凄く可愛がってくれていた。
王妃カイラの後ろには帝国がいて、その帝国とは大人と子供位の国力の差がある為、周りの貴族も余り強く側室の事は言えないでいた。国王である父に全くその気がない事も大きかったのだが。
もし私に何かあっても、叔父様(王弟)に子が三人もおり、王弟ならば血統も間違いないし何の問題もないとプレッシャーになる事も無かったみたいね。
私が幼い時は、跡継ぎ問題で側室をと騒いでいたけど、私が年頃になると今度は国婿 の話で勝手に盛り上がっている貴族達。
徐々に政務にも携わりはじめ、とうとう二十才となってしまった。
結婚よりも仕事優先の日々だったけれど、次期女王ということもあって一般的な婚期を逃してもそこそこ結婚の申込はくるのよ。
釣書には目もくれず、政務に没頭していたある日、国王でもある父に呼びだされた。
隣国でもある、アルンゼン国王から結婚の申込が来ていると。
思わず「はぁ?」と王女らしくもない返事を返してしまった事に、今は誰も注意などしない。
元々この国は貴族と平民の身分差に煩くなく、私なんて市場調査などと言いながら町に出ては遊びまくり、市井に結構な人数の友達がいたりもする。
だから時折、王女らしさの欠片も無くなる時があるのだが、今は仕方がない。
「私って、次期女王ですよね?お父様」
「あぁ・・・」
「何でアルンゼン国王が求婚してくるんですか?婿に来てくれるとか?」
「いや、嫁いでこいという事だ」
「・・・・・なに、ふざけてんの?アルンゼン!」
これが互いに惚れた腫れたで恋愛関係にあるのであれば、それなりの対処もあるだろう。
だが私とアルンゼン国王は、三年前に新たにアルンゼン国の王に就任した際の親善国訪問で、この国を訪れたその時にしか会った事がないのだ。
その時も形式的な挨拶程度しかしていなかったはず。
単なる婚姻の申込であれば、王位継承者である事で断れば済む事なのだが。
「これまでも何度か申し込みが来ていたのだが、全て断っていたのだ」
「え!?これまでもあったのですか?」
「あぁ・・・そして今回きたのが、これだ」
と見せてきた手紙には・・・・
「あぁん!?」
思わずドスの効いた声が出てしまったのは、これまた仕方がない事だ。
要約すると、この婚姻を了承しないと攻め込むぞ。戦争だと書いているのだから。
「・・・何を考えているの?結婚を承諾しないと攻め入るって?!ふざけてるっ!」
アルンゼン国王って、こんなにも愚かなの?自分の欲で国民を不幸にしてもいいと考えているの?
怒りが先に来て冷静になれずにいると、父の隣に座り成り行きを見守っていた母が、ポツリと呟いた。
「戦争の切っ掛けなんて、とてもつまらない理由が大半なのよねぇ」
何処か気が抜けるような物言いに、母以外の面々は室内の温度が急に下がった気がして、鳥肌を立てた。
―――気がして・・・じゃなく、確実に下がったわ!
というのも、母がこの様な間延びした言い方をする時は、相当頭にきているという事なのだ。この国で怒らせると一番怖いのは、母なのである。
父が母と結婚する前、クレーテ帝国のマリアーノ公爵家令嬢だった母はその美貌から色んな貴族や王族から求婚が山のように来ていた。
クレーテ帝国特有の銀色の髪に、理知的な瑠璃色の瞳。きめ細やかな白い肌に、可愛らしい唇。・・・・って、いつも父が言っているのよ・・・
―――因みに、私の髪色は母からの遺伝で、瞳の色は父から。父は黒髪にルビーの様な紅い瞳をしているのよ。
外面は完璧な公爵令嬢だったけれど、家族の前では裸足で庭を駆け回り、木登りをしてしまう様な活発な少女だったようで、あのお転婆少女が母親に?って未だに言われている。
母の家族は両親に兄と弟がいて、可愛らしくてお転婆な彼女は家族から、ずぶずぶに溺愛されていた。それは今も変わる事無く、孫である私の事も同じ位愛してくれている。
幼い頃から傾国と言われたその美しさの所為で、誘拐未遂も数度あったとか。
ぱっと見が深窓の令嬢なので、簡単に誘拐出来ると思い手を出すのだが、実のところお転婆どころではなく、年を取る事にじゃじゃ馬と言っていいほどで・・・
其処に父は惚れたと言っているのだが。
父と結婚する前は、求婚を理由に戦争を吹っ掛けられそうになったり、拉致監禁されそうになったりと・・・母が言うつまらない理由で大事の一歩手前までというのが、何度もあったのだという。
国の為、民の為にではなく、己の欲の為、特に女の事で愚かな選択をする主君は、母にとっては軽蔑以外何ものでもない。母だけではなく、私もそう思うわ。
だから父との恋愛結婚は、帝国側としては大歓迎で、ようやく彼女の周りも落ち着くだろうと安堵していたのに・・・・
確かに私の顔は整っている。傾国並みに。『両親の良いとこ取り。顔だけは』とアイザックに馬鹿にした様にいつも言われるくらいは。
にこやかに怒りをあらわにしている母に震えていた私は、「愛しい妻の時だけではなく、母子二代で・・・いや、三代か」と、深い深い溜息を父が吐いていた事を、気付きもしなかった。
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