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本編

ストーキング教師(ロイス)

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待ちに待った入学式である。

既に学園に教師として配属が決定している私は、もちろん実力の高い新入生のAクラス担当になった。むしろ、このクラスの担任にならないと全く今までの努力の意味が無くなってしまうので、良かった。

対価として、教師に魔法と魔術特訓することになったが、問題ない。既に他国からも留学生が来て、俺に教えを請いに来ているしな。陛下も了承済みだ。

式の間は、直接は会えないので我慢。我慢。


とかしていたら、入学式なのにもかかわらず、遅刻して、しかも、講堂に無理矢理乱入する生徒が現れた。遅刻は王族級ならギリギリ許されるが、基本的にアウト。普通に罰がおりるのだが、まだ、12歳なので、許された・・・が、乱入はいけない。

衛兵に指示をして、遅刻した生徒の親御さんも呼んで説教することが決まった。まぁ、新入生に担任の挨拶が済んだ後にはなるが。


教室に行くと、何故だか遅刻した子が居た。ここは優秀者クラスなのに、なんで此奴がいるんだ?

後で調べるかと思いながらも、私は、そんなことより、彼女の兄貴のせいで、クラス入りするのが最後になった婚約者に思考がいった。


あー、もう!可愛い。綺麗。美人になった!

「お久しぶりです。リース嬢。私は、ロイス・リーマンです。ずっと、お会いしたかった。」

と跪いて言うとリース嬢は驚いた顔をしていた。

「え?ロイス殿下?接近禁止令が出ているロイス殿下ですか?」

と返答が来たので、ちょっとしまったと思ったが、

「はい。接近禁止令が未だに解かれていないので、是非ともご内密に。」

と言うと真っ赤になって、固まってくれた。


あーーーー、もう!もう!可愛い。くんかくんかしたい!!!


ギロリと生徒達と自分の密偵から冷たい視線を感じる。急いで自重して、リース嬢を席に誘導する。ひとつ、気に入らない視線がある。何故、私のリース嬢に殺気を向けている阿呆がいるんだろうか?しかも、あの遅刻娘じゃないか。


私は生徒たちに担任としての義務を果たすべく、明日の予定と今後のスケジュールなどのことを説明する。この学園は、優秀者クラス以外はフリーダムで、学力が低くても貴族位があれば、何とかなるところがある。なので、たまに意識低い生徒が発生することがあるが、その点もちょっと注意しておいた。


明日の予定はお茶会だ。王族以外では一番高い地位の公爵家が初めに挨拶することになる。公爵家は3つあるが、今年の新入生の中での公爵家はリース嬢のみだ。つまり、一番はリース嬢。あー楽しみだ。


その前に、遅刻娘の親御さんに説教だな。密偵の調べで、王都の宿に泊まっているとのことだったので、すぐに呼び出したが、なかなか到着しない。第一、なんで王都の平民用の宿にいるんだ?

調べれば、遅刻娘はエルキ男爵家の令嬢。借金まみれで、王都にある別邸は既に差し押さえられており、奴隷にまで手を付けていると言う噂さえあるんだそうだ。

真偽を確かめろと指示し、陛下にも報告した。

男爵家から返事が来たのはとうに深夜も過ぎていた。借金取りから逃げていて、手紙を中々受け取れる状況じゃなかったらしいのだが、こっちの手紙を渡した手下が悪いんだと悪態をついたと言う報告を貰った。

・・・死にたいのか?男爵家ごときが。

俺はムカついたので、拷問官を研究都市から呼び寄せることにした。

研究都市の研究結果は、俺自身の研究結果を除いて、他国に渡すのは禁止されている。その為、持ち出そうとしたものは拷問官の拷問により、大抵の場合は生き地獄を数年間あわせてからの釈放か刑罰がある。俺が在学中に何度か俺の研究結果を持ち出そうとした奴が居たため、いつの間にか拷問官とも仲良くなった。学園長とも今でも仲良くやっているので、私的用事にも多少付き合ってくれるだろうと思う。


次の日、テスタート拷問官が既に到着していた。彼は貴族らしい格好をして、早く被検体を見せてくれと言ってきた。

「まだ、被検体ではない。」と言ったが、ニコニコ顔で何も言わない。

諦めて、授業に向かう。

お茶会の準備を指示し、教室に向かう。一応、全員の生徒を確認。お茶会の準備が完了していることの報告を受け、全員で校庭に設置されたお茶会会場に向かう。


予定通り、初期挨拶をしたのち、本挨拶。そして、各々の爵位に合わせて、私に挨拶の順なのだが、速攻でバカを遅刻娘がやらかした。俺は、キレかけたが、テスタートがいい感じに対処。エルキ男爵令嬢は説教部屋に移動となった。

色々邪魔は入ったが、無事リース嬢に挨拶をして貰った。

勿論動画で撮影し、写真は密偵に撮らせた。

正面からカテーシーを撮れるのは王子の特権だと思う。

あーこれで、音声も撮れたら最高だろうに。


実は、俺が作った動画の取れる魔道具は音声は撮れないのだ。勿論、俺もチャレンジしたのだが、いろんな別の音声が入るのが納得いかず、彼女の声だけをピックアップしたいのに、1kmの範囲の音声をすべて拾ってしまうとかそんなものしか作れなかったのだ。くぅ!だれか、居ないだろうか?音声の魔道具を作れるものは。


お茶会とそれに伴う授業をし、本日の授業は終わったが、出来損ないを早く処分したいという気分を持って、密偵からの報告を受ける。


男爵家と子爵家が奴隷を扱っているのは本当と言うことが分かった。全面的な証拠はまだ全部集まっていないとのこと。他の貴族も同時に洗っているので、数日欲しいと言われた。

了承し、すぐに取り掛かれと言った。

エルキ男爵と男爵令嬢はすぐに呼び出し、昨日呼び出しをすっぽかしたことも含めて、罰と警告を行った。罰はもちろん親も責任を負うものである。むしろ、親が一番に責任を負ってもらう。不敬罪も重なりまくっているので、その旨を伝えつつ、取り合えず今は金での処理になったが・・・。

それにしても、エルキ男爵令嬢、全く反省してる気配が無いのだが・・・。


取り合えず、所要は終わった。うちの生徒たちに俺はとあるものを用意していた。超小型化した動画と写真撮影の道具。俺が学園の教師として働いている間は、どうしても彼女の写真や動画は撮れない。密偵の写真や道具は基本上からの撮影になるので、顔がほとんど取れていない。

それを打開すべく、クラスメイト全員に魔道具を送ることにしたのだ。勿論、卒業後には返却してもらうが、日給で撮影をお願いする旨を書いて、各親宛にも依頼した。


結果、エルキ男爵令嬢以外の生徒は全員魔道具を付けることを了承。そして、聞けば全員リース嬢にノックアウトしている模様。女生徒もいたはずなのだが。


加えて、テスタートから連絡。エルキ男爵令嬢は初期の魅了魔術を無意識に使用しているとのこと。陛下と学園長にすぐに相談。一時的に最低級のクラスに彼女を編入させ、様子見することになった。彼女は勉強はできるらしく、学園3位だ。ちなみに1位はもちろんリース嬢。2位はすんごい根暗な感じのミミー侯爵子息だ。だが、なにか親近感があるんだよな・・・彼。

通常、学力が上位の者が最低級クラスに編入するのはあり得ないのだが、平民よりも常識が無いのは想定外だし、社交は落第レベルだ。必要な処置だと言うことになったし、両親も渋々書類に判を押した。

というか、本当このエルキ男爵は舐めてるぞ?王族を。

さっさと潰したい。


テスタートに、潰した後でいいので、研究都市に被検体留学させて欲しいと依頼された。研究都市の学園長と陛下に了承を貰ったので、親子共々3年間被検体か試験体かは不明の留学は内々に決まった。こちらの刑罰は、その後になる予定。対外的には鉱山行きと言うことにしておこうと言うことで、話し合いは終了。もう何人か被検体が欲しいと依頼を受け、一応、少なくとも+3名は決まっていると返信したら、大変喜ばれた。


それより、今日の本題は現像だ。リース嬢の真正面からのカテーシーを大判の写真にするべく俺は頑張った。一応、保存用に何枚かコピーも取るがな。


次の朝、思いついて、公爵邸に馬車を走らせた。

マグノイア公爵はある意味同志だ。この写真を見せたら、きっと欲しがるに違いない。しばらく会わしてくれなかったし、魔道具を渡したのに写真をくれなかった恨みもある。ドヤ顔するくらいの権利はあるだろう。


到着の知らせを受けて、公爵と少し寝ぼけ眼のリース嬢。


か・わ・い・いぃいいいいい!!!!


写真を正面から何枚も時計型魔道具で撮る。マグノイア公爵にA4サイズの写真を入れた封筒を渡し、ドヤ顔を決める。公爵がフルフルと震えたので、耳打ちしたら、「くぅ!」と唸った。「ざまぁ。」と言うとリース嬢に「父上を虐めないでください。」と叱られた。


がーーーーん。


終わりだ。世界の終わりだ。リース嬢に嫌われてしまった。

俺はそのまま意識を失ってしまった。


目を覚ますと鬼の形相の父上と母上と妹とリチャード。

全員に説教を食らった。ついでにリチャードを除く3人にボコボコにリンチされた。


父「真面目に仕事しとると思ったら、また、ストーカーしとったか!!!変態行為は辞めろと言うたじゃろうが!!!」

母「見損ないました。朝っぱらからストーキングですか?ありえません。」

妹「最低。」

リチャード「私たち護衛を巻いて、どこに行ったと思ったら、ストーカーとかいつも通り過ぎますよ?」


そして、接近禁止令があるから過剰な行動になるのだとリチャードが提言。そうかもしれないと父上こと陛下も了承。王家にしか使えない今は禁止された魔道具『隷属の首輪(王家専用)』を着用することで、リース嬢に会うことが可能になった。


条件は、変態行為をしないこと。仕事は放棄しないこと。写真と動画は可。と言うことになった。


その位の条件で、リース嬢に会えるなら、問題ない。出来れば、匂いもと思ったら、首輪が締まって死ぬ思いをした。考えるだけでNGらしい・・・。


次の日、うきうき顔で学園に行くと教師と生徒共の冷たい視線が突き刺さった。リース嬢も呆れた感じで見ているが、嫌われてはいないようだ。良かった。

そして、エルキ男爵令嬢はたった一日でナメダ子爵子息を魅了したらしい。ナメダ子爵は騎士の名門だったが、頭が悪い。そして、最近は素行も悪い。ヤクマ子爵は既に麻薬で奴隷を作っていることが分かっているので、刑罰予定だが、ナメダ子爵と子息も加わるのだろうか?関係を探るよう指示。

リース嬢のクラスメイトは俺が何か言わないでも既にボディーガードをちゃんとやっているようで、けん制しあい、リース嬢と話すことはまだしていないようだった。

これは、ちょっと可哀想じゃないか?

と思っていたら、密偵から連絡。妹が学園に変装して、潜入したいと希望があったらしい。

陛下に確認。本人にも確認。学園長には了承を貰い、陛下は妹のおねだりに勝てず了承。次の日から妹も何かしら変装して、学園に来るらしい。何に変装するかは俺には教えてもらえなかったが・・・手紙を受け取った学園長は呆れた顔で了承していたので、大丈夫だろう。


次の日、既に妹が学園に来ているとのことだったので、探してみたが、見つからなかった。その最中に、ナメダ子爵は今回の奴隷云々は関わっていないことが分かったが、子息は、男爵令嬢のせいで関わりそうになっているとのこと。

邪魔なので、泳がせとけと指示。


テスタートが喜ぶ顔が目に浮かんだ・・・嫌な顔だなぁ・・・。


取り合えず、首が締まるギリギリまで、ストーキングすることにしたが、やはり、リース嬢が中庭に向かっている途中で意識を失うほど首が締まったので、残念だ。

パタリ。


次の日、学園に行くとリース嬢が一生懸命喋ろうとしているリース嬢が教室にいた。

あー可愛いなぁ。


あー、生徒たちも喋りかけようとして、喋れないでいる。こう、お風呂の水が冷たいかな?熱いかな?って感じでてしてししている猫のよう。どっちも可愛いなぁ。とかほのぼのしていた。


ミミー侯爵子息が変な動きしているなぁ。なんだろう?

密偵に探るように指示を出す。

数分後に報告。リース嬢の机にブローチを入れようとしているんだそうだ。


・・・なにそれ、初々しい。そして、俺も参加したい。俺は、授業が終わり次第、宝石店に走った。


その日の夕刻、密偵から報告。ミミー侯爵子息が父親である侯爵に持ち物を取り上げられ、殴られて泣いているんだそうだ。持ち物とはブローチ。高価なものではない筈では?俺が見た時ただのホブゴブリンの魔石に見えた。子供の小遣いで買える品だ。それをわざわざ取り上げる?しかも、その日のうちに、侯爵はそれをオークションに出そうとしていると報告を受ける。


「内々に調べろ!そして、オークションは潰せ。」

本能でそう指示する。

半時ほどで、密偵が帰ってきた。帰ってきた密偵Pは興奮した様子で

「素晴らしいです!ミミー侯爵子息が作っていたのは音声を録音する魔道具です。」

といきなり言ってきた。普通なら静かにしろと言うのだが、前々から欲しかったものだったので、思わず前のめりになる。

「なんだと!なら、なんで侯爵は彼を殴った?!褒めるべきだろう!」

「録音内容がリース嬢の呟きだった事と魔道具を作った為のようです。」

「え?つぶやき?」

「にゃーん。でした。」

「にゃーん。だとぉ!!!!!!ちょっと映像チェックする!!」

今日の猫に会う機会があるのなら、中庭、そして、昼間、魔石K1239~K1300の間だ。調べれば、猫に話しかけている。これだ!

「今すぐ、その魔道具を手に入れろ。どんな手を使ってもよい!」

「既に入手済みです!」

映像と音声を併せる。それを魔道具化。原理解明は、今は置いておこう。とにかく、ミミー侯爵子息は俺の傘下に入れる!

「それでも、なんで、侯爵は子供を殴ったんだ?いや、ストーカーのせいなのは、うん。あー。うん。なんか、悪いけど。」

「侯爵は自分の子供が魔道具なんかにうつつを抜かしているのが嫌なんだそうです。侯爵子息に相応しくないと言って、彼の研究道具一式すべて、目の前で焼き払っています。」

「ちょ、それは酷い。魔道具は立派な職だろうが!!貴族が職人の仕事をしてはいけないとか時代錯誤も甚だしい!!!」

実は、俺が生まれる前は若干、貴族が職人の仕事をするのはおかしいみたいな風潮があったが、魔力が高い貴族だからこそできることがあると陛下が王太子の頃に発言。その後は貴族が職人になるのはむしろ推奨された。特に魔道具はその最たるもので、是非とも貴族にこそと言っていたものなのにだ。

「決めた!侯爵からミミー侯爵子息取りあげる。むしろ、俺の子飼いにする。しかも、なに?俺の婚約者のリース嬢の声を無断でオークションとか舐めてるの?」

「オークションは人身売買の関連商人を通じていました。ヤレマス。」

「よーし。やってしまえ。まぁ、全部まとめてやるから、今は差し止めだけでいいわ。母親はどんなだ?」

「同様ですね。」

「じゃ、一緒に潰そう。彼の名前なんだっけ?」

「カハツイ・ミミー侯爵子息ですね。」

「じゃ、今日から彼はカハツイ・テンサイ侯爵にでもすっかね。陛下に進言してくる。彼、これ以上酷い目に合う前にさらっ・・・保護しておいて。」

「はい。かしこまりました。」


陛下に進言しに王城に行く。

その時、つい、作った魔道具をポケットに入れていたのが不味かった・・・。


****


王城に行くなり、妹のドヤ顔。

聞けば、間近でリース嬢のにゃーん。を聞いたらしい。

「なにそれ!ズルい!!」

俺が言うと

「なんだと!義父の予定の私にも聞かせるべきだった!」

「私も聞きたかったですわ!!」

と父上も母上も大興奮。

「あ!」

と思い出す私。ポッケの中に映像付きである。

「ん?ロイスよ。お前、何か隠しておるな?」

「え?いや、そ、そんなことは。」

「命令する。隠していることを述べよ。」

と俺に陛下が言った。はい、首輪が効力を発揮しています。うわーーーーん。


「リース嬢の本日の出来事は、映像と音声で保存して、魔道具化しております。ポケットに現在隠しています。」

速攻で奪われた。


俺は・・・泣いた。


その後、侯爵家の事情を密偵が報告。俺はボコボコになっているので、ピクリとしか動けない。しかし、俺の意見である侯爵子息の保護は認められた。名前もカハツイ・テンサイで通ってしまった。適当だったのに。加えて、両親の処理も俺より酷い感じで決定した。

どうやら、陛下が前々から推奨していた魔道具開発を子息がやったのに妨害し、虐待したのが気に入らなかったらしい。俺よりブチ切れてすぐにでも、侯爵を処理しかねない感じだったのを母上が止めていた。


その後、リース嬢に魔道具を返すのかと思ったら、みんなで共有とか開発のための資金を集めるCMとしてとかなんか変な方向に話が進み始めた。

その為には、これをオークションで売るとか滅茶苦茶抜かす。

「それは、コピーが無いんだ~。やめてくれええええええ!!!」

と言ったら、一瞬止まる。そして、さらってきたカハツイを呼び寄せ、俺を回復薬で無理矢理回復させ、すぐさまコピーせよと言われた。

戸惑うカハツイ君。ギリギリの俺。

そして、首輪のせいでいうことを聞くしかない俺は、泣く泣くコピーを作ったが、取り上げられた。

そして、コピー品は公爵家の許可のもと、開発費の為のオークションにかけられることになった。今後、この映像と音声を保存する魔道具を国を挙げて、他国に売り込む宣伝開発の家が決まると言っても過言ではないのだが、それって、俺じゃダメなん?


はい、カハツイ君も一緒に開発頑張ったのに、成果取られちゃったのよ?王族、酷い!!俺も王族だけど!


泣いていたら、カハツイ君が慰めてくれた。

「もう!好き!」

と抱き着いたら、カハツイ君は俺より小さくて若いのに、大人の男の風格でポンポンしてくれた。

「ダメですよ。殿下。冗談でもそんなこと言っては。俺もあなたも好きなのはリース嬢でしょう?」

「もちろん!でも、君は盟友だ!」

「はい。もちろん、盟友で同志でありたいと思っておりますとも。」

そして、オークションにより、見事マグノイア公爵が、その映像と音声を売り出す家に決まった。そして、『にゃーん。』が入った魔道具はもちろん公爵のもとに。


いいもん。こっそり、自分たち用のコピーも取った。王族専用のリース嬢アルバム倉庫にはオリジナルがちゃんと入っている。安心していいはず。


次の日、カハツイ君は一緒に登校することになった。ちなみに部屋は隣。開発部屋は一時的に私の部屋を共有するが、新しく侯爵家を建てた際にそちらに造るとのこと。(陛下談)


妹にもカハツイ君の録音装置を渡す。小さな首輪型でと要望があったので、それを作って渡した。映像装置と録音装置のあわせたものは今日作る予定。授業が終わり次第、カハツイ君と話し合う。休憩時間も同じように仕組みについての講義を共にする。カハツイ君は音声の方を俺は映像の方を。組み合わせた場合の動力の確保とその保存についても話し合う。

前回のこともあったので、同時にダビングできるように設定。魔石の種類の選定など。話し合っていたら、夜も更けてしまった。


次の日の早朝。

映像と音声を取れる魔道具が完成。前回と同様の腕時計型。もちろん、クラスメイト全員分作ったさ。妹の分も作った。急いで、各家に贈った。ふらふらしながら朝食に向かうと妹が

「リース嬢がね。あの腕時計、私だけ無いのが悲しいって言ってたよ~。昨日言おうと思ったのに、開発室から出てこないんだもの。」

確かにその通りだと思い、一つ急いで作る。


妹の分とリース嬢分を妹に渡したら、馬車を使わずに学園に行ってしまった。と言うか、目の前で消えた。どうやったの?!


学園に行くとリース嬢の腕にあの魔道具がある。彼女はただの時計と思っているようだが。24時間365日データは転送しているが、大丈夫。編集は俺じゃないから。


次の日、映像と音声をカハツイ君とチェック。すると、陛下から強制退去。映像と音声のチェックは、公爵家子息が行うことになった(涙)

魔道具の作成者の栄誉はちゃんと私とカハツイ君が得ることができるそうだ。既に映像についての商品は研究都市にあるので、複合魔道具についての栄誉が俺に。音声を追加できた技術についてカハツイ君が得ることができる。利益は、3:5。3が俺。5がカハツイ君。ちなみに、2が研究都市。

まぁ、それは仕方ない。


密偵から連絡が、その話の最中に来た。

リース嬢を誘拐しようとしているとのことだった。犯人はあのバカなピンク頭ことエルキ男爵令嬢とナメダ子爵子息。泳がせ過ぎたようだ。

「徹底的に潰せ。陛下にも報告を忘れるな。」

と言ったら、嬉々とした顔で去っていった。


次の日、早朝、起きるとテスタートが眼前にいた。

「ひ!」

とつい、叫んでしまった。テスタートは顔が良い。その笑顔は何故だか非常に怖い。

「あらあら、約束の品をこんなに早く仕入れてくれて、ありがとうございますと言いに来ただけですよ?」

と少し離れて言った。

「だ、だ、だからと言って、寝起き突撃するな!!!誰だ!?お前をこの部屋に挙げたのは。」

と言うと、後ろに立つのは笑顔の陛下。

「え?」

「なんだ?仕事の出来が良かったから、褒めてやろうと思ったのに、暴言か?」

夜這いならず、朝這い・・・。いや、もういいや。圧倒的な、手際と手回しの良さと悪戯心は父上である陛下に勝てる筈がないのだ。

「モウシワケアリマセン。父上。まさか、寝室に足を運んでくださるとは思わず。」


でも、言いたい。本当は思春期の14歳の男の子の部屋に入ってくんじゃねーよと。まして、寝ている息子の顔を覗き込む美人を用意するんじゃねーよとマジで言いたい。

「そうじゃろう、そうじゃろう?いい父親だろう?さぁ、良い子のおかげで、早々にごみの分別が出来た。広間で結果を話そう。よくやったな。ロイス。」

そう言って、久しぶりに父上が私の頭を撫でてくれた。一瞬、何が起こったのかわからず、固まってしまった。

「じゃあ、広間で待っているぞ。」

と言って、部屋を出て行った。ウインクと投げキッス付きで、テスタートも出て行った。しばらくして、侍従が来て、俺の着替えを手伝ってくれる。いや、本当は一人でやるんだけど、なんか、頭が回んなかった。


だって、父上が頭撫でた。


俺の頭を父上が撫でた。父親として俺の頭を撫でた。


混乱混乱混乱。


混乱していたが、全部侍従とメイドがほぼ俺の手やら足やら支えて、やってくれた。

正気を取り戻した時、隣にはカハツイ君が居た。

「大丈夫かい?」

「え?あ?なにが?」

「魂、抜けてたよ?」

「え?あぁ、そうだったっけ?」

「まぁ、いいか。言われたことは覚えているかい?」

「え?何か言われてたか?」

「ふぅ。」

とカハツイ君がため息をついて説明してくれた。


要約すると

人身売買、奴隷商への関わりを持っていたものは、すべて3年間研究都市の被検体として、有料で貸し出されることになったこと。その際、生死は問わないで大丈夫との契約書が作られ、既に承認済み。

もし、3年の実験で生き残れた場合は、自国に返却され、その後に尋問と罪に合わせた罰が執行されること。

対象者は、

エルキ男爵夫妻と令嬢
ナメダ子爵子息
ヤクマ子爵夫妻
ミミー侯爵夫妻

8名。

ミミー侯爵は、人身売買に手を出していないが、王の発言を無視し、良き芽を潰そうとし、虐待をした罪なので、3年の実験後は平民落ちになるだけなんだそうだ。


え?酷くないか?大丈夫なのか?カハツイ君は。


そう思って、カハツイ君を見ると察していたようで

「父と母については、実はあんまり感情が沸かない。本来家族なら、ショックだったりするんだろうけど・・・月に1度も会わないし、会っても話もしない人間に対して、クラスメイト以下の感情ぐらいしか持てなくてさ。・・・一応、血族なのはわかるんだけど、赤ちゃんの時も乳母が育ててくれたしね・・・。例え、彼らが死んでもきっと『あっそう』としか思えないんじゃないかなぁって・・・俺、薄情だよね・・・。」

リース嬢のことをしゃべる以外では無口な彼が饒舌にしゃべった。


多分、彼も混乱しているんだろう。

そして、改めて考える。


あれ?うちの家族、王族だけど、もしかして、滅茶苦茶家族仲良いのでは?

ミスしたら、確かにボッコボコにしてくるけど、それも仲がいい証拠なのでは??


自覚するととてつもなく恥ずかしくなって、布団に潜り込んで隠れたい気分になった。しかし、ここに布団が無い。

混乱して、取り合えず、カハツイ君の後ろに隠れることにした。


なんか落ち着く。


その後、妹が何に変装しているかを知る。

中庭の猫は妹が変身したものでした。


わかるかぁああああ!!!!!!


妹から送られてくる写真に悶絶する毎日が始まった。

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