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1章 冒険者レティシア

17話 ドゥラークの実力

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 新たに現れたフォレストウルフは、涎を流しながら私達を睨みつけています。
 
「はぁ……もう一匹いましたか……。ちゃちゃッと殺してきましょう」

 私はフォレストウルフを倒すために立ち上がりました。
 しかし、ギルガさんは私を止めます。
 
「ギルガさん、何故、邪魔をするのですか?」
「お前はさっき戦っただろう?」
「しかし、冒険者さん達はもう戦えないでしょう?」

 どこからどう見ても、冒険者達の疲労は限界を超えています。これ以上戦えば、無駄に犠牲を出すだけでしょう。
 まぁ、私はエレンや私の知っている人以外が死のうとどうなろうと興味がないのですが、ギルドマスターのカンダタさんは責任がありますので、そうも言っていられないでしょう。
 そう思っていると、ギルガさんが私の頭に手を置きます。

「ここは、オレが戦う。お前はここで見ていろ」

 ギルガさんは長く大きな剣を道具袋から取り出します。
 道具袋は不思議なもので大きなモノでも仕舞う事ができます。
 剣を肩で担ぐギルガさんは凄いですね。隙というモノがありません。
 そんな様子を見たカンダタさんが、ギルガさんに声をかけます。

「ギルガ、お前が戦うのか?」
「ん? あぁ。下位ランクの奴等とうちのレティシアが頑張ったんだ。パーティリーダーでありAランクの俺が戦わないわけにはいかないだろう」
「そうか……とはいえ、お前が冒険者を引退してから結構な時間が経っている。お前が現役であればあれくらいの魔物なら簡単に倒せるだろうが、今のお前では、どうなるか分からんから俺も戦おう」

 カンダタさんもやる気になっているらしく、フォレストウルフの前で構える。
 カンダタさんは素手で戦うのですかね?
 しかし、ギルガさんはカンダタさんを手で制する。

「いや、あんたは下がっていてくれ。とはいえ、あんたが言うように俺にもブランクがある。だから協力者を一人指名しよう」

 協力者ですか……。
 もしかしてエレンですか?
 エレンを戦わせるくらいならば、私がフォレストウルフを殺します。
 空気を読む?
 そんなモノは必要ありません。

「協力者だと? ここにはB ランクの冒険者はいないんだぞ? リディアも力を隠させる必要があるから今回は駄目だぞ」
「ふっ、もう一人だけいるだろう」
「なに?」

 おかしいですね。
 カンダタさんは、あの町にはBランクの冒険者はいないと言っていましたけど……。
 ギルガさんは疲れて立っていられない冒険者の方を向いて、ある冒険者さんを呼びます。

「ドゥラーク! お前ならまだ動けるだろう!」
「え? お、俺か!?」

 ギルガさんが指名したのはドゥラークさんでした。
 でもおかしいですね。
 ドゥラークさんはCランクと聞いたのですが、ギルガさんの話ではBランクの強さを持っているみたいな言い方でした。

 ドゥラークさんは戸惑いながら、ギルガさんの横に立ちます。
 急に言われてもドゥラークさんも疲れていると思うのですが……。
 しかし、ドゥラークさんは疲れを全く感じさせません。

「二人でどう戦うんだ?」
「お前は好きに動け。今回は、オレがお前の動きに合わせてやる。お前はいつも人の動きに合わせて動いているだろう?」

 ん?
 ギルガさんとドゥラークさんは知り合いなのですか?
 まるで昔から知っているみたいな言い方です。

「い、いや……。あんたは俺の戦い方を見た事ねぇだろう? あえて言えば見たのは今だけだろ?」
「あぁ、そうだな」
「じゃあ、どうして俺を指名した?」
「さっきの戦い方では、お前の実力を発揮できていないと思ってな。一度本気で暴れてみろ」
「し、しかし……いや、ここで断るのは男じゃねぇな」

 ギルガさんにそう言われてドゥラークさんは斧を握り締めます。そして、ギルガさんの合図も待たずにフォレストウルフめがけて駆け出していきます。
 無謀ですね……。

 ……おや?
 先程よりもはるかに速い動きに見えます。
 私が少し動くとギルガさんが私に視線を移し「お前は大人しく見ておけって言っているだろ」と言い、ドゥラークさんを追いかける様にフォレストウルフに向けて走り出します。

 フォレストウルフは駆け寄ってくるドゥラークさんに喰いつこうとしますが、ドゥラークさんは前足を斧で薙ぎ払い、バランスを崩させます。しかし、フォレストウルフも負けじと逆の前足でドゥラークさんを薙ぎ払おうとしています。
 流石にアレは避けられませんかね。
 ドゥラークさんもそれを分かっている様で、斧の腹で身を守るように防御態勢に入っています。
 しかし、意外ですね。
 リディアさんの戦い方は見ていませんが、ドゥラークさんの方が弱いと聞きました。しかし、ドゥラークさんの動きは今まで見た冒険者の中で一番だと思います。
 リディアさんがこの人より強い?
 私はリディアさんに視線を移しますが、とてもじゃないですけど、ドゥラークさんの方が強いと思えません。
 もしかしたら、今の力を使っていれば、あの盗賊共も簡単に倒せたんじゃないですかね。

 ドゥラークさんにフォレストウルフの前足が襲いかかります。
 爪と斧がぶつかる瞬間、フォレストウルフが後方に吹き飛びました。
 ギルガさんが大剣でフォレストウルフの鼻を斬りつけたようです。

「ドゥラーク!! 攻撃の手を緩めるな!!」
「うるせぇ!!」

 文句を言いながらも、ドゥラークさんは斧を振り回してフォレストウルフを斬りつけに行きます。
 この戦いを見ている冒険者達から「ドゥラークってあんなに強かったのか?」「おいおい、マジかよ。あれでCランクかよ」という声が聞こえてきます。
 もしかして……。

「レティシア、お前も気付いたか?」
「気付いたというよりも推測ですね」
「え? レティは何に気付いたの?」
「あの人がCランクにいる理由ですかね」

 ドゥラークさんのさっきまでの戦い方を見た後に、今の戦い方を見ていると、今までが弱かった理由がなんとなく理解できます。

「カンダタさん。ドゥラークさんと組んだ冒険者が今まで命を落とした事がありますか?」
「無いな」
「でしょうね」

 私が一人で納得していると、エレンが首を傾げています。
 ふむ。その姿もかわいいですね。

「つまり、ドゥラークさんは自分の手柄を二の次にして、組んでいる冒険者を守っていたんですよ」
「それなら、ドゥラークさんは良い人なんだね」
「そうみたいですね」

 ギルガさんの一撃がフォレストウルフの角をへし折り、その瞬間にドゥラークさんの大斧がフォレストウルフの額をかち割ります。
 あの急所にあの攻撃が入ったのですから、もうフォレストウルフが立ち上がる事は無いでしょう……。
 フォレストウルフはそのまま絶命してしまいました。
 ギルガさんとドゥラークさんがフォレストウルフを倒しきると冒険者達から一斉に歓声が上がります。
 流石のドゥラークさんも疲れたのか、その場に座り込みました。
 カンダタさんはドゥラークさんに近付きます。

「ドゥラーク、見事だったぞ。ギルドに帰ったら、お前はBランクだ」
「お、俺がBランクだと?」
「あぁ、今までお前は人に気を使い過ぎだった。その証拠に、お前が参加したクエストでは死者がゼロ人だ。お前が憎まれ口を叩きながら冒険者達を守ってきたからだ」
「いや、そんなつもりはねぇよ」
「くくく……照れるんじゃない」

 ドゥラークさんの顔が少し赤いです。本当に照れている様です。 
 そんなドゥラークさんにギルガさんが握手を求めます。ドゥラークさんも照れながら握手をしています。

「おい、ドゥラーク。お前はソロだろ? オレ達のパーティに入れよ」
「な、俺がレティシアと同じパーティに!?」

 勝手に話を進めていますね……。
 まぁ、エレンに何かしなかったらどうでも良いです。

 ……いえ、むしろ歓迎ですかね。
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