ずきんなしのレイチェル

ふるか162号

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8話 町に到着 

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 オオカミが燃え尽きるまで一時間ほど待ち、事前に切り取っていたオオカミの尻尾をどうするかを話し合っていた。

 通常であればジャンとシャンティはハンター頭巾なので護衛中に倒したオオカミの素材は問答無用で二人のモノとなる。
 だが、ジャン達夫婦はオオカミを簡単に倒せたのはレイチェルの助言が大きいと分かっているので、レイチェルやティルにもオオカミの素材の取り分があると思っていた。
 逆にレイチェル達はオオカミの素材などどうでもいいと思っていた。だからこそ、ジャン達にオオカミの素材を譲る事にした。

 オオカミの処理を終え、レイチェル達を乗せた馬車は再びレベッカの住む町へと進み始める。

「レイチェルちゃん達は町に着くまで寝ていてもいいわよ。おそらく、これ以上オオカミに襲われる事はないと思うから」

 シャンティは町までの距離を考えてそう話す。
 オオカミは餌である人間がいる町をお襲う事もあるが、それは小さな町や村だけだった。
 大きな町になると、警備兵やハンター頭巾が多くいる事を知っていたのだ。
 賢いオオカミであれば絶対に大きな町に近づかなかった。
 今向かっているレベッカが住む町は、所属している国の中でも大きな部類だ。この町がオオカミに襲われたと聞いた事もないし、町が視認できる範囲での目撃例はほぼなかった。

 シャンティ達の予想通り、オオカミに襲われたのは一度だけで、その後は何事もなく町へと到着した。


 町の入り口には細身だが筋肉質の老父と筋肉で固められた老婆が立っていた。
 老夫婦を見たレイチェルは馬車を下りて二人に駆け寄る。この二人がレベッカとクロード夫婦だった。

「おじーちゃん、おばーちゃん!!」

 レイチェルは老夫婦に抱きつき再開を喜ぶ。それを見ていたジャンがティルに「あれが伝説の赤ずきんなのか?」と怪訝そうに聞く。

「そうだよ。何かおかしい?」
「いや、話に聞いていた初代赤ずきんは特殊能力により金肥大をすると聞いていたのだが……」

 目の前でレイチェルと再会を喜ぶ老婆は、歳の割にはがっちりとした……いや、もう一人の老父に比べれば一回り以上大きい姿をしていた。

「あればレベッカお婆ちゃんで間違いないよ。ソフィおばさんの話では、年齢を重ねる毎に体が大きくなっていき、あの姿になったそうだよ」

 今でも全然現役で戦えそうじゃないか……とジャンは驚愕していた。
 この町に始めてきたジャンは知らない事なのだが、レベッカは今でも現役のハンター頭巾として一線に立っていた。
 そのおかげか、レベッカは今でもこの町の守護者として町の領主などからの信頼も厚い。

「ティルの嬢ちゃん。俺達は支部に護衛依頼の中間報告をしてくる。
 俺達の依頼は往復護衛だからな、レイチェルの嬢ちゃんがどれほど滞在するかは知らないが、帰りも俺達が護衛するつもりだ。後で、今後の事の話をしたいから、レベッカさんの家の場所を教えてくれないか?」

 ティルやレベッカのいる町に行くからと言って、娘であるレイチェルと愛弟子であるティルの安全を第一に考えていたソフィは、ジャン達に往復分の依頼料を払っていた。
 依頼内容として、あくまで街道上での護衛であり、滞在中は好きにしていいとの事だった。
 ジャン達は適当に宿を取りレイチェル達の滞在中はこの町周辺で狩りをするつもりだった。

「じゃあ、この住所に来てください。家も大きいですから見分けはつくはずですよ」
「あぁ、ありがとうな」

 ジャンはティルから一枚の紙を受け取る。そして、レイチェル達を見送った後、ハンター頭巾協会支部に護衛依頼の中間報告をしに行く事にした。

 この町のハンター頭巾協会支部はかなり大きな建物で、ある意味名物にもなっていた。
 ジャンとシャンティは協会支部に行くまで、短い距離とはいえ観光を楽しんでいた。
 だが、シャンティは難しい顔をしている。

「どうした?」
「やっぱり、納得いかないわね」

 納得がいかない。
 シャンティが言っているのは街道にオオカミがいた事だ。もちろん、ジャンも同じ気持ちだった。

「あぁ、あんな街道でオオカミが現れた事、さらに警備兵が駆けつけなかった事、どちらも腑におちない。
 そもそも、この町にはレベッカさんもいる。恐怖の対象でもあるハンター頭巾の事を奴等が知らないとは思えない」

 オオカミは人の言葉を話す事も、仲間内で意思疎通も出来ないとオオカミ研究家達の間では有名な事だ。
 勿論、ハンター頭巾協会もその研究結果を基にオオカミ退治を行っているのでそれが常識になりつつあるのだが、本能なのか、何なのかは分からないが、オオカミ達は力のあるハンター頭巾にはあまり近づこうとはしなかった。

 特に街道で戦った低いレベル・・・・・のオオカミであれば、レベッカのいる町へは近付かないはずだ。そう、二人は思い込んでいた。
 だが、二人は勘違いしていた。

 今回のオオカミはとても弱いおかげで簡単に退治が済んだと思い込んでいるが、それは的確に倒し方を支持しているレイチェルがいたからだ。
 たらればを言うのであれば、レイチェルとティルがいなければ、ジャン達二人は勿論の事、護衛対象も死んでいた可能性が高い。

 あのオオカミは自己再生能力は低いものの、戦闘能力と耐性能力が異常なほど高かったのだ。
 その証拠に、シャンティの電撃鞭も三回目は通用しなかったし、二回の電撃を受けたにも関わらず、頭を狙った時には俊敏に弾を避けた。
 レイチェルの指示通り、胸に銃弾を撃ち込んでいなければ、頭を狙えなかっただろう。そこには気づいていても、あのオオカミが特別だったとは二人は気付かなかった。
 あのオオカミは上級レベルのオオカミだった……。

 二人はハンター頭巾協会支部へと入り、中間報告と街道での出来事を受付嬢に話す。
 街道にオオカミが現れた事を重要視した受付嬢は、二人を待たせ、一度支部長の指示を仰ぐ事にした。

 この町のハンター頭巾協会支部長は、レベッカの幼馴染みのアリアという名の老齢の女性だった。
 今は引退しているとはいえ、銃の腕はレベッカの夫であるクロードに勝とも劣らず、最強の黒頭巾と呼ばれていた猛者だ。
 しかし、今は孫に甘いお婆ちゃんなのだが、支部長としての才覚はハンター頭巾協会の中でもトップクラスだった。

 アリアは受付嬢から話を聞く。そして少し考えていた。

 アリアは街道にオオカミが現れた。その事は知っていたのだ。
 勿論、気付いたまま放っておく事もなく、国の警備隊へとオオカミ討伐の要請を行なっていたのだ。

 しばらくしてオオカミの気配が消えた事に気付いたアリアは、警備隊が倒したものだと思い込んでいた。

 だが、受付嬢から上がってきた報告は大事な親友の孫、レイチェル達の護衛がオオカミを退治したという報告だった。

「すぐに報告に来ているハンター頭巾達を呼んで頂戴。話を聞きたいわ」

 この時、アリアはこう予測していた。

 レイチェルの能力を利用したハンター頭巾が、欲に目がくらみ、オオカミの相手をしようとした警備隊の邪魔をして、オオカミ退治を横取りしたのだと。
 もし、自分の予想通りなら、このハンター頭巾達は許されないと……。
 そう思っていたのだが、彼女の前に現れたハンター頭巾達の自分の予想とは違う最初の一声に驚かされる事になった。
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