56 / 70
第二章
第26話 盤上の駒
しおりを挟む「もういいだろう。あとはわかるはずだ」
船を降り、城門前で足を止めたルスカに、カイロンはにやりと笑みを浮かべた。
「困るよ、だってここの城難しいじゃん?いいよ、俺クラリスちゃんにあと案内してもらうから。ありがとな、ルスカ!」
カイロンは早口で言い放つと、クラリスの腰を抱いてさっさと城門をくぐっていく。
ルスカは何か言っていたが、城内については来なかった。
城に続く庭に配備された兵たちがカイロンの姿にざわつくのを、クラリスは背中で感じていた。
「は~やっと邪魔者が消えたよ。余程揉めてんだなルスカ。まあ、知ってたけど」
カイロンはやれやれと肩をすくめた。
(ルスカの事情、知ってるんだ……)
クラリスはカイロンの顔を見上げた。
「興味ある?なんでも教えてあげるよ、君は特別だから」
カイロンがぱちんとウインクを返したその時。
(唐揚げ食べたい唐揚げ食べたい唐揚げ食べたい)
「……うん?」
聞いたことのない単語に、カイロンは首を傾げる。
クラリスは、何か確信したように、腰に添えられた手を払い、にこりと微笑んだ。
(勝手に心読むの、やめてもらえる?それにもう、それ効かないよ)
カイロンは二度瞬きをすると、ふっと笑みを漏らした。
「バレたか。楽しい悪戯なんだけどな?」
「うーん、趣味のいい悪戯ではないかもね」
クラリスが肩をすくめた時。
一瞬、風が止んだ。
「おはようございます、カイロン王子殿下」
その声が響いた瞬間、ざっと集まっていた兵たちが頭を下げる。
もはやそちらを見なくてもわかる声の主に、クラリスは頬が熱くなっていく。
「……やあシュヴァン。ご機嫌麗しゅう」
「秘密の私的な視察は、いかがでしたか?」
クラリスはちらりと視線を上げる。
シュヴァンは笑顔だ。
だが、その目の底は驚くほど冷たかった。
が、カイロンは少しも怯まずクラリスの肩に腕を置いた。
「良い出会いがあってね。この子、可愛いし賢いし、おまけに肝が座ってる。それに、俺のこと好きになってくれたみたいで。こうしてデートしてきたってわけです」
「えっ!?」
クラリスはぎょっとカイロンの顔を見上げる。
いつのまにか集まっていたカイロンの部下たちも同じように驚きを隠せないようだった。
シュヴァンはにこやかな表情は変えぬまま、小さく息を呑む。
「それで、国に共に帰ろうと勧誘していたところで」
カイロンがクラリスの髪を持ち上げた時だった。
シュヴァンが静かに歩みを進め、クラリスの正面に立つとカイロンの腕ごと静かに払った。
「クラリス嬢」
「は、はいっ!!」
その石鹸のような香りに、クラリスの頭がくらくらと煮え立つ。
「国民が残念ながら国を去ることを決めても、僕に止める権利はない。……けれど」
シュヴァンはそっとクラリスの頬に手を添えた。
「君は僕のことが好きだものね?ずっと、昔から」
ぼん、とクラリスの中で何かが破裂する音がした。
(え、え、え、えげつない、ファンサが……!!)
クラリスは、思わず一歩後ずさった。
その声に、頬に触れる冷たい指の感触に、香りに、太刀打ちできない。
ただただ何度も頷くことしかできなかった。
そのとき、ぱちり、と強い刺激が走る。
まるで、感情が剥き出しになった瞬間を、誰かに掴まれたような。
(……君を盤から、外す理由がない)
シュヴァンは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
カイロンはぴくりと眉を寄せ、シュヴァンをみやる。
そしてシュヴァンはそっと手を頬から離し、カイロンに向き直った。
「では」
優雅に踵を返し、赤いマントがゆっくりと揺れる。
その背に、カイロンが小さく舌打ちをした。
その時だった。
ドオオオォン……
大きな音と共に地面が揺れ、何人かの兵が倒れ込んだ。
メイド達の悲鳴があがる。
「じ、地震……!みんな、頭を守って……!」
クラリスが発する声に被せるように、兵の一人が叫んだ。
「と、塔の方角……!!飛行系大型魔物です!!」
クラリスが顔を上げると、塔の向こう、城下町の方角にいたのは、飛行機を優に超えた、巨大な龍だった。
76
あなたにおすすめの小説
おばさん冒険者、職場復帰する
神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。
子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。
ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。
さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。
生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。
-----
剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。
一話ごとで一区切りの、連作短編。
リーナ視点が主です。
-----
また続けるかもしれませんが、一旦完結です。
※小説家になろう様にも掲載中。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。
山田 バルス
恋愛
結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。
また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。
大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。
かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。
国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。
スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。
ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。
後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。
翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。
価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる