愛しの君へ

秋霧ゆう

文字の大きさ
21 / 62
第1章

第17話 期末試験・前編

しおりを挟む
 12月に入り、冬休みの前にあるのは期末試験。今回のテストも夏同様、再試祭りがある。再試も12月31日まできっかりやるらしい。

「蒼!今回もよろしくな!!」
「何を?」
「何って、テストだよ」
「嫌だ」
「え?でも前回は教えてくれたじゃん」
「教えてない」
「暁が勝手に見て、旭が僕のをカンニングしただけ」
「ちょ、シーシーシー。声がデカいって」

 廊下で歩きながらそんな話をしていた。

「九条」
「ん?」

 振り向くとそこには担任の高槻先生が。

「カンニングって?」
「してない、してないです」
「桐生、今カンニングって言ってたよな?」
「言いましたね」
「蒼!?」
「怪しいと思ってたんだ。お前が全教科100点満点だなんて」

 担任と旭は言い合いをしていた。
 暁はオロオロしている。

「桐生蒼!旭を助けろ!!」
「はぁ」

 蒼はため息を着き、旭に助け舟を出した。

「先生、違いますよ。テストの話じゃなくてゲームの話です」
「ゲーム?」
「はい。旭が謎解きゲームをタイムアタックしようとか言い出したのに結局は僕の答えをカンニングしたんです」
「ゲームねぇ」

 怪しむ高槻先生。

「あ、あれ難しかったよな!」
「全部丸パクリしたのに?」
「そ、それは」
「…分かった。信じよう。けど、カンニングしてないってことは今回のテストも期待していいってことだよな?」
「そ、それは」
「じゃ、楽しみにしてるぞ」

 高槻先生は去っていった。
 そんな後ろ姿を見つめていた旭だったが、姿が見えなくなるや否やすぐに蒼を見つめはじめた。

「何?見ないでくれる?」
「蒼、蒼さん、蒼様、助けてください」

 旭は廊下で膝をつき、蒼に懇願し始めた。

「…今日の部活動は休みにして勉強にしようか」
「はい」
「じゃあ椿にも伝えないと。旭、椿の連絡先知ってる?」
「知らねえ」

 出会ってから9ヶ月も経っているのに連絡先を知らない2人。

「はぁ、じゃあ部室に行こうか」

 旭、蒼、暁は部室に向かった。
 部室の扉を開くとそこには既に勉強している椿がいた。

「あれ?」
「あ、ごめん。待ってる間やることなくて勉強してた」
「そう、それでなんだけど次の期末、旭は再試まっしぐらだから今日の部活休みにして勉強してていいかな」
「いいよ。僕も心配な科目あるし、あ、ここで一緒に勉強してもいいかな」
「うん、ありがとう」

 勉強をしたくない旭は、ゆっくりと蒼にバレないように後ろに下がっていた。

「旭」

 蒼は椿の方を見ているはずなのに、全て分かっているかのように旭の名前を呼んだ。

「僕は旭が再試になろうとどうでもいいんだけど、旭は再試になったから困るんじゃないの?」
「そ、それは…」

 ダラダラと大量の汗が流れ出す旭。もっと言ってやれと腕を組む暁。

「それじゃあ始めようか」
「…はい」

 静かに黙々と問題集を解いていた旭だったが、急に口を開いた。

「なぁ蒼」
「何?」
「何で数学ってXとYなの?」
「は?何?」
「だって他の英語たち可哀想じゃん」
「……何言ってんの?」

 真剣な顔をして蒼に質問し出す。

「AとかBでもいいだろ!CだってDだって!!なんでいつもXとYだけなんだよ!」
「旭、ちょっと休憩しようか」
「うん」

 旭の頭から煙がでているように見えた。

「それから旭、別にAとかBでも良いと思うよ」
「だよな!じゃあ、Xは俺や暁のA。Yは蒼のSに置き換えて」
「暁…って誰?」

 椿が聞く。

「旭にだけ見えてる妖精」
「お前も僕のこと見えてるだろ。なんでまだ見えないふりするんだよ!」
「旭君にだけ…。あっ、そっか!」
「ん?」
「今までに先生や先輩方から妖精は居るのかっていう質問に対してすぐに居ます!って答えてたのはそういうことだったんだ」
「……嘘って思わねーの?」
「うん。だって誰でもそういう時期ってあると思うんだ」
「……ん?」
「僕だってもうそういうのは卒業したけど、誰だって妖精とか存在するって思いたいもんね」
「プッ」
「蒼!何笑ってんだ!!」
「あはは!!!良いね椿!あはは」
「あれ?僕変なこと言った?」
「あはは」

 初めてちゃんと笑ってる蒼を見た気がした。今までの笑い方とは違い、心の底から笑っているように思えた旭と暁だった。
 そんな感じで勉強しては、休憩して、勉強しては、また話して、そうこうしているうちに18時になった。

「そろそろ帰ろうか」
「だな」
「うん!」
 
 そして、4人で帰って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...