初恋をぶち壊した友人(仮)が周り回って報いを受けました!気分も新たに恋を始めるつもりが…えっ?やり直し⁈

花椰菜

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第一章・始まりは…

07・『パートナー』には気をつけて…

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 生粋の王族であるマクヴィル王子とは比べるべくもないが、イルティアンテ王国王立学院内ならばメイソン語を操ることに長けた己が優勝するのは当然のこととヴィクトァールは確信していた。

 ところが、蓋を開けてみれば一年生で、しかも令嬢であるリュシフェルの流麗かつ情感あふれる『語り』にすっかり魅了されてしまった。

 優勝まで掻っ攫われてしまったことには思わず苦笑が漏れてしまう。


 異国語であるメイソン語を流暢に扱うだけに止まらず、時に静かに語りかけ、時に感情を込め心の奥底へと訴えかけるように語り上げる。

 その語り口の巧みさは群を抜いており、落ち着いた佇まいはどこか威厳すら感じられるものがあった。

 まるで戦場で兵士を鼓舞する偉大な指揮官の薫陶のようにも聞こえ、不思議な高揚に包まれてしまう恐るべき声音。


ーー見つけた。


 ヴィクトァールは遂に見つけたのだ、辺境伯夫人パートナーとなるべくしてこの世に誕生した令嬢を。

 語るや否や、自らの創り上げる世界へと場に居る者達全てを引き込み酔い痴れさせていく。

 正常な感覚を麻痺させさえするリュシフェルの『語り』は、将来上に立つ者にとり大きな威力となる。

 指導者の意思を伝えるのみならず、聞く者の心をも掌握してしまう才能は限られし者と言える。

 きっと彼女ならば辺境伯夫人パートナーとしてヴィクトァールの影響力を高めてくれる存在となるだろう。

 まだ花開く前にも関わらず、既に威力を発揮しつつある才能を見抜いたヴィクトァールはまるで悪魔に魅入られし人間のようにリュシフェルを欲したのである。



 それからヴィクトァールはリュシフェルを籠絡するための調査を行っていった。

 リュシフェルの友人であるミナールがコームプシェ家の窮状を訴えるもノワール伯爵に融資を断られ逆恨みしていることも調べ上げ済みである。

 後は、簡単なことだ。

 ミナールに取り引きを持ち掛け、リュシフェルからオリフェウスを引き離させた後、傷心のリュシフェルを慰め自分に惚れさせればいい。

 早速、ヴィクトァールはミナールに接触を図った。


「コームプシェ男爵令嬢、君の家の家計は随分と大変なことになっていると聞き及んでいるよ。しかも頼りにしたノワール伯爵には融資を断られたとか」

「…なぜ、そのようなことを!悔しいけれどヴィクトァール様の仰る通りですわ。
 リュシフェル様は友人なのに、私の窮状を知っても助けてはくれませんの!」

「リュシフェル嬢は酷いね」

「友人と言いながらも助けてはくれず、それどころか、お父様やお母様の日々のお買い物を止めさせろ!お兄様を働かせろ!とまで仰るのですわ!」


 コームプシェ家では男爵夫妻が身の丈に合わない値の張る宝石や衣装などを浪費し散財していることは既に報告を受けている。
 ミナールの兄も跡継ぎとして働くどころか遊び呆けていることも承知の上だ。

 堅実なノワール伯爵が融資の件を断ったのも当然の判断と言えるだろう。


 リュシフェルがミナールのことを思い行った忠告は人としては確かに正しいものだ。
 多くの友人と名乗る令嬢方が言葉を濁しながら耳障りの良い言葉だけをミナールへ掛けていることとは大きく異なる。


 きっと真っ直ぐな性格をした御令嬢なのだろう。


 だが、ミナールは聞く耳を持たぬ者であると理解していないことは至極残念だ。

 他者は自分とは異なる価値観を持ち、例え間違った価値観であろうと非難してしまえば、要らぬ恨みを買う。


 あたたかい繭の中で育てられた蛹のような令嬢なのかもしれない。

 その方が導きがいはある。私の色にも見事に染まってくれることだろう…



 この時、ヴィクトァールも気が付くべきであった。

 人間は皆同じ考えを持たない。そのことをミナールに対して自分も見落としたと後悔する羽目に陥るのだから…



 「いつもいつも高見から私を見下すようなリュシフェル様なんて!!
 何よ偉そうに!肝心な時には助けてもくれないくせに…!」

「リュシフェル嬢のことが憎いのかい?そんな君にピッタリな、いい話があるのだけれど…聞く気はあるかな?」

「何ですの?」

「友人ならば君も知っているだろう?リュシフェル嬢と幼馴染であるオリフェウスが想いを寄せ合っていることを」

「ええ、知ってますわ!あの二人じれったくなるほど互いの気持ちに鈍感なの。だから付き合うまで至らないのよ…いい気味だわ」

「君、もっとスッキリしたくない?」

「な、何ですの?」

「リュシフェル嬢とオリフェウスの間を邪魔して二人を引き裂いたら面白くなると思わないか?」

「そんなことをしても恨みを買うだけではありませんの?」

「案外と常識的なんだね。じゃあ…こういうのはどう?
 君がリュシフェル嬢からオリフェウスを引き離してくれるならば、男爵家へ無利子の融資を行ってもいいんだけどな」

 ゴクリとミナールの喉が鳴った。

「君はリュシフェル嬢から大切なものを奪いダメージを与える事ができる上に男爵家も立て直せるのだよ?」

「一石二鳥ということですわね!でも…私にはメリットだらけで嬉しい御提案ですけれどヴィクトァール様にはメリットがございますの?」

「ここまで話を聞いていたら薄々勘付いているのではないかい?
 まあ…君は余計な心配などしなくていいけれど」


 ミナールへリュシフェルを籠絡することまで話す気などヴィクトァールにはなかった。

 余計な手出しをされることを避けたかったからである。


「うまい話には裏があると申しますわ。私そのまま受け入れるほどお馬鹿ではないつもりでしてよ?」

「ほお…これはこれは随分と君を過小評価していたようだね。
 私は『御令嬢パートナー』を手に入れたいだけだよ」


 ヴィクトァールの言葉に何故か頬を染め手を強く握るミナールを見て不審なものを感じる。


「分かりましたわ!是非ご協力させていただきますわね」


 しかし、返ってきた答えが喜ばしいものだったことに満足し、ヴィクトァールは感じた不審を大して気に掛けることはしなかった。

 こうして契約は見事に成立したのである。



 後日、ヴィクトァールの計算は狂いを生じてしまう。

 何故ならヴィクトァールは頭の良い人間にありがちな判断ミスをおかしたからだ。

 自分の能力レベルで他者のことまで判断してしまうという、ありがちだけれど厄介なミス。


 特に、今回の取り引き相手はミナールなのだ。

 ヴィクトァールには予想だにできない思考をしている『御令嬢』なのだから…






 
 

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