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廃位公の復位
15. 廃位公の復位、戦線布告
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あなたの隣に立つと決めた。
隣に立てなくても手を繋ぎ、背中を護ると決めた。
その為ならばあなたにも嫌われ、詰られようとも、邪魔な輩を退けなくてはならない。
王家への拝謁は幾許ぶりか。
記憶が確かならば、おそらく、目の前にいる王である人物の学友を決める茶会の日が最後であったような気がするのだが、と、ミカエルの祖父は毅然とした態度の裏で記憶をひっくり返していた。
一応義理として息子を連れ、幼き頃の現国王の学友を決める茶会へは参加したが、息子であり、現当主であるミカエルの父は王の学友になることを厭い、茶会が始まるなり早々に女子のようにふらりと倒れ、己は精神薄弱であり、陽の下には長くいられないのだと謀り、学友を辞退し手も引き止められぬように、役者より上手く気弱な幼子を演じてみせた。
その甲斐あってか、はたまたただ単に廃位され久しく、興味がなかったのか、王家はサニータ家を今の今まで忘れ去っていたらしい。
かつてはサニータ家が王家であり、簒奪したのがそちらであると言うのに、たいした態度であるな、と、ミカエルの祖父・ロドリアヌスは嗤った。
まあ、今となっては王位などは要らぬが、大公家かそれに準ずる公爵の位くらいは取り戻してよかろうと考えているあたりは、傲慢であり、支配者一族の思考と言えよう。
普段は身に着けぬ宮廷への出仕する用の衣服は、今日のこの日の為だけに特別に仕立てさせたモノではなく、時代遅れと笑われぬように、それと見えぬように手を加えたモノである。
自慢ではないが、ロドリアヌスは若き頃から一度たりとも鍛錬を疎かにしたことがないので、体格は変わっていない。当主を息子に譲り渡した後にも、領内を自主的に見回り、警備し、時には獣や盗賊を蹴散らしてきた静かなる将だ。
敵のアジトにいる今も警戒は怠ったりはしていない。
常に神経を周囲に張り巡らせ、不穏な気配がないかを探り、また、孫息子であるミカエルの口上を隣で聞き、悦に入っている器量な御仁でもある。
絹で出来た衣服の立てる音さえ聞き漏らすまいと、耳を澄ます宮廷雀らを滑稽に思いながらも後方支援は怠らない。
「──それに伴い、我がサニータ家は今世の王に復位の許可を賜りたく。こちらはその代りと言っては不敬とはなりましょうが、相互不干渉を結びたく思います」
「と、我が孫息子は言っておりますが、要は奪い取った椅子は返してもらわなくていいから、爵位とかは寄越せ。あとはこっちが何をしようが口を出すな、痛い腹を探られたくなければ邪魔をするなと言う遠まわしな要求だな。実に優雅で思いやりのある良い子だ」
爺バカ丸出しの擁護に、ミカエルは眉を顰めたが、気を取り直したのかやがて一人の男を視界に捉えたのか、それはそれは艶やかに、そして戦に勝ったかのような笑みを浮かべ。
「陛下、それともう一つ、お許しを願いたいことがございます」
ここ最近、胃と頭を痛める事案しかない国王は、更なる胃痛の予感を察知しつつも、断ることができずに、神の代弁者たる青年の発言を許し、やはり胃と頭を更に悩ませることになってしまった。
「エマ・エリーゼロッテ・メイス=スウェッラ女伯爵に公私共に仕えることをお許しください」
王は聞こえた気がした。
彼の令嬢を手放した判断を悔いるが良い、指をくわえて悔しがるが良いと、神のような傲慢で逆らい難い威圧と尊さなる口調で。
これは宣戦布告だったのか、それとも単なる懇願であったのか。
その答えは向けられた感情が王である自身でないことに安堵しつつも、売られた喧嘩相手である青年を不憫に思わないくらいには、男は根っからの王であった。
王はこの日、ミカエルの要求を全て受け入れ、サニス王国において数代ぶりに一つの家が廃位を取り消され、貴族位に復位を果たした。
隣に立てなくても手を繋ぎ、背中を護ると決めた。
その為ならばあなたにも嫌われ、詰られようとも、邪魔な輩を退けなくてはならない。
王家への拝謁は幾許ぶりか。
記憶が確かならば、おそらく、目の前にいる王である人物の学友を決める茶会の日が最後であったような気がするのだが、と、ミカエルの祖父は毅然とした態度の裏で記憶をひっくり返していた。
一応義理として息子を連れ、幼き頃の現国王の学友を決める茶会へは参加したが、息子であり、現当主であるミカエルの父は王の学友になることを厭い、茶会が始まるなり早々に女子のようにふらりと倒れ、己は精神薄弱であり、陽の下には長くいられないのだと謀り、学友を辞退し手も引き止められぬように、役者より上手く気弱な幼子を演じてみせた。
その甲斐あってか、はたまたただ単に廃位され久しく、興味がなかったのか、王家はサニータ家を今の今まで忘れ去っていたらしい。
かつてはサニータ家が王家であり、簒奪したのがそちらであると言うのに、たいした態度であるな、と、ミカエルの祖父・ロドリアヌスは嗤った。
まあ、今となっては王位などは要らぬが、大公家かそれに準ずる公爵の位くらいは取り戻してよかろうと考えているあたりは、傲慢であり、支配者一族の思考と言えよう。
普段は身に着けぬ宮廷への出仕する用の衣服は、今日のこの日の為だけに特別に仕立てさせたモノではなく、時代遅れと笑われぬように、それと見えぬように手を加えたモノである。
自慢ではないが、ロドリアヌスは若き頃から一度たりとも鍛錬を疎かにしたことがないので、体格は変わっていない。当主を息子に譲り渡した後にも、領内を自主的に見回り、警備し、時には獣や盗賊を蹴散らしてきた静かなる将だ。
敵のアジトにいる今も警戒は怠ったりはしていない。
常に神経を周囲に張り巡らせ、不穏な気配がないかを探り、また、孫息子であるミカエルの口上を隣で聞き、悦に入っている器量な御仁でもある。
絹で出来た衣服の立てる音さえ聞き漏らすまいと、耳を澄ます宮廷雀らを滑稽に思いながらも後方支援は怠らない。
「──それに伴い、我がサニータ家は今世の王に復位の許可を賜りたく。こちらはその代りと言っては不敬とはなりましょうが、相互不干渉を結びたく思います」
「と、我が孫息子は言っておりますが、要は奪い取った椅子は返してもらわなくていいから、爵位とかは寄越せ。あとはこっちが何をしようが口を出すな、痛い腹を探られたくなければ邪魔をするなと言う遠まわしな要求だな。実に優雅で思いやりのある良い子だ」
爺バカ丸出しの擁護に、ミカエルは眉を顰めたが、気を取り直したのかやがて一人の男を視界に捉えたのか、それはそれは艶やかに、そして戦に勝ったかのような笑みを浮かべ。
「陛下、それともう一つ、お許しを願いたいことがございます」
ここ最近、胃と頭を痛める事案しかない国王は、更なる胃痛の予感を察知しつつも、断ることができずに、神の代弁者たる青年の発言を許し、やはり胃と頭を更に悩ませることになってしまった。
「エマ・エリーゼロッテ・メイス=スウェッラ女伯爵に公私共に仕えることをお許しください」
王は聞こえた気がした。
彼の令嬢を手放した判断を悔いるが良い、指をくわえて悔しがるが良いと、神のような傲慢で逆らい難い威圧と尊さなる口調で。
これは宣戦布告だったのか、それとも単なる懇願であったのか。
その答えは向けられた感情が王である自身でないことに安堵しつつも、売られた喧嘩相手である青年を不憫に思わないくらいには、男は根っからの王であった。
王はこの日、ミカエルの要求を全て受け入れ、サニス王国において数代ぶりに一つの家が廃位を取り消され、貴族位に復位を果たした。
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