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不夜の晩餐会
17. 不夜への招待状
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一口に領主と言う立場を説明せよと、もし仮に言われたのならば、おそらく多くの者が国より与えられた土地を、または先祖代々から引き継いできた土地を、より富ませ、次代へと引き渡すものだと当たり前のように説明するであろう。
それを間違いだと言うつもりはない。
ないが、それはお綺麗な表だけの話であり、スウェッラにおいて領地とは、いついかなる時でさえも、そこに住まう古くからの人々を優先し、また領主一族の血を存えさせ、何処からの国々からも土地を守り続けなければならない。
簡単に言ってしまえば、完全な独立完全自治権を有し、国へ頭を下げても、足は跪くべからずを突き通せと言う暗黙の了解がある。
故に今のスウェッラの状態は好ましくないと、未だエマを受け入れない民の多くは、己からは何もせずに口ばかりを動かし、アイツが悪い、コイツが悪いと嘆いているだけ。
そんな未だ盤石とは言えない地を離れなければならない、王家からの招待状が届いたのは、各地からの代官から寄せられた作物の収穫収支報告書を執務室で読んでいる時だった。
陰険と言う言葉が実によく似合う家令である男が、忌まわしげに銀盆にのせ、最近嫌がらせの様に毎日出してくる、緑色の液体の入ったカップと共にエマの前に置き、王家からです、と厭味ったらしく宣った。
エマはエマで、家令である男の余計な言動に溜息を吐きつつも、もはや日課となってしまった、この世のモノとは思えないほど苦くてマズイ、どろどろした緑色の液体が入ったカップを細い指先に引っ掛けて持ち上げ、鼻をつまんで一気に飲み干してから、手紙の封を開け、淑女とは思えない舌打ちをした。
「今年は不作のはずなのに、晩餐会ですって?来年の備蓄は考えているのかしら。冬を越す薪は?あの橋の補修は終わったのかしら。いいえ、それよりも北部の旱魃の対策は......」
家令である男──ゲロニカは、一つの手紙から主である少女が音にする内容に感服しつつも、表情を変えずに胸元からいくつかの薬包を取り出し、報告書の上にわざと置いた。
「これは...?なんなの?」
大切な書類の上に置かれた薬の包み紙をヒョイと持ち上げ、陰険野郎と心内で秘かに呼んでいる男をみやれば、その男は涼しい顔のまま、当然のように薬だと言った。
「我が家に伝わる痺れ、毒、腹下りに対応するそれぞれの薬でございます。毒は致死毒ではない限りそれで解毒できるものかと。ああ、王宮はスープに虫が入ると聞いておりますのでお気を付け下さいませ」
「え?スープに虫入れるの?王宮って怖いところなんですね、エマ様」
パタパタと足音を立て、部屋に駆け込んできた少女・ニィタの手には新たな封書がいくつか握られており、エプロンには枯れ葉が付いていた。
どうやら庭を掃いていたところに、配達屋が来たらしいと察したゲロニカは、二ィタの手から封書を受け取り、勝手にエマのペーパーナイフで封を切り、内容を調べてから主へと渡し、問題のあった手紙は当然のように己の胸元にしまい込み、頭を下げて退出する家令の姿に、エマは深いため息一つで忘れることにした。
家令から新たに渡された手紙は二通。
一つは父である伯爵から
そしてもう一つは、復位したばかりの公爵家の若き当主からのエスコートの申し込みであった。
エマはその二通をそっと撫で、ニィタにお手伝いのご褒美にと、砂糖がたくさんまぶされた飴を口へ入れてやり、何とも言えぬ笑みを浮かべた。
「きっと、あの子も来るのでしょうね、あの方と」
もう二度と交わることのない男性の姿を脳裏に浮かべ、儚く笑ったエマの表情を目撃したのは、まだ恋も知らぬ幼い少女だけであった。
それを間違いだと言うつもりはない。
ないが、それはお綺麗な表だけの話であり、スウェッラにおいて領地とは、いついかなる時でさえも、そこに住まう古くからの人々を優先し、また領主一族の血を存えさせ、何処からの国々からも土地を守り続けなければならない。
簡単に言ってしまえば、完全な独立完全自治権を有し、国へ頭を下げても、足は跪くべからずを突き通せと言う暗黙の了解がある。
故に今のスウェッラの状態は好ましくないと、未だエマを受け入れない民の多くは、己からは何もせずに口ばかりを動かし、アイツが悪い、コイツが悪いと嘆いているだけ。
そんな未だ盤石とは言えない地を離れなければならない、王家からの招待状が届いたのは、各地からの代官から寄せられた作物の収穫収支報告書を執務室で読んでいる時だった。
陰険と言う言葉が実によく似合う家令である男が、忌まわしげに銀盆にのせ、最近嫌がらせの様に毎日出してくる、緑色の液体の入ったカップと共にエマの前に置き、王家からです、と厭味ったらしく宣った。
エマはエマで、家令である男の余計な言動に溜息を吐きつつも、もはや日課となってしまった、この世のモノとは思えないほど苦くてマズイ、どろどろした緑色の液体が入ったカップを細い指先に引っ掛けて持ち上げ、鼻をつまんで一気に飲み干してから、手紙の封を開け、淑女とは思えない舌打ちをした。
「今年は不作のはずなのに、晩餐会ですって?来年の備蓄は考えているのかしら。冬を越す薪は?あの橋の補修は終わったのかしら。いいえ、それよりも北部の旱魃の対策は......」
家令である男──ゲロニカは、一つの手紙から主である少女が音にする内容に感服しつつも、表情を変えずに胸元からいくつかの薬包を取り出し、報告書の上にわざと置いた。
「これは...?なんなの?」
大切な書類の上に置かれた薬の包み紙をヒョイと持ち上げ、陰険野郎と心内で秘かに呼んでいる男をみやれば、その男は涼しい顔のまま、当然のように薬だと言った。
「我が家に伝わる痺れ、毒、腹下りに対応するそれぞれの薬でございます。毒は致死毒ではない限りそれで解毒できるものかと。ああ、王宮はスープに虫が入ると聞いておりますのでお気を付け下さいませ」
「え?スープに虫入れるの?王宮って怖いところなんですね、エマ様」
パタパタと足音を立て、部屋に駆け込んできた少女・ニィタの手には新たな封書がいくつか握られており、エプロンには枯れ葉が付いていた。
どうやら庭を掃いていたところに、配達屋が来たらしいと察したゲロニカは、二ィタの手から封書を受け取り、勝手にエマのペーパーナイフで封を切り、内容を調べてから主へと渡し、問題のあった手紙は当然のように己の胸元にしまい込み、頭を下げて退出する家令の姿に、エマは深いため息一つで忘れることにした。
家令から新たに渡された手紙は二通。
一つは父である伯爵から
そしてもう一つは、復位したばかりの公爵家の若き当主からのエスコートの申し込みであった。
エマはその二通をそっと撫で、ニィタにお手伝いのご褒美にと、砂糖がたくさんまぶされた飴を口へ入れてやり、何とも言えぬ笑みを浮かべた。
「きっと、あの子も来るのでしょうね、あの方と」
もう二度と交わることのない男性の姿を脳裏に浮かべ、儚く笑ったエマの表情を目撃したのは、まだ恋も知らぬ幼い少女だけであった。
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