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小話
酒は飲んでも飲まれるな!
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2024年9月23日(月)開催のJ.GARDEN56及び通販で頒布させていただきました無配小説です。お手に取ってくださった皆様に心より感謝申し上げます!
『俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き』シリーズのクリス×瑪瑙の小話になります。
こちらのお話に登場する日向くんが主人公の小説同人誌を通販にて販売中です!(通販ページは近況ボードに載せてます)
—————————
俺の名前は神崎瑪瑙。
インディーズロックバンド『DIAMOND』のボーカルをやっていること以外は、見た目も中身もごくごく平凡な大学生である。
その日俺は、大学の先輩が主催する飲み会に来ていた。
期末テストが終わったということで、同じ学科の仲の良いメンバーを適当に誘っての打ち上げらしい。俺はその主催の人とは直接親交があるわけではなかったが、バンドメンバー兼大学の先輩でもある玻璃間クリス先輩経由で声をかけてもらった。
……のだけれど、飲み会が始まってから一時間ほど。
俺は早くも帰りたくなっていた。
「神崎くんってさ、クリスくんと一緒にバンドやってるんだよねー?」
「あ、はい……。いちおう……」
「えーかっこいい! ねぇライブってさ、どんな感じなの? カラオケで歌うのと違ったりする?」
「え、ええと……」
「バンドメンバーってことはクリスくんと仲良いんだよね? 二人で遊びに行ったりとかするの?」
「いや、その……」
同じ学科だけど普段はあまり交流のない、女の子の先輩に謎に絡まれてしまった。
いつの間にか隣を陣取られたかと思ったら妙に距離が近いし、バンドのこととか、クリス先輩とのことをやたら質問される。話しているうちに(といってもほとんどまともに返事はできなかったけれど)、もしかしてこの子はクリス先輩狙いなのではないだろうか?と勘付いてきた。
クリス先輩は大学でも有名人で、ファンクラブが存在するほどに人気がある。容姿端麗、品行方正、成績優秀の三拍子揃っており、誰に対しても分け隔てなく優しい彼は皆の憧れの的だった。
だからこそ、クリス先輩の彼女になりたい女の子は学内外問わず大勢いる。きっと俺に話しかけているこの子も、本当は今日の飲み会でクリス先輩とお近づきになりたかったはずだ。それができないのは、人気者のクリス先輩は常に人に囲まれていて、とてもじゃないが割り込む隙がないからだろう。現に俺も、クリス先輩以外には特段親しい人がいないこの場において完全にぼっち状態になっていた。でもあの人だかりをかき分けてクリス先輩に話しかけに行くことなんて、俺にだってできなくて。
結果、テーブルの隅っこで一人ちびちびとウーロン茶を飲んでいたわけなのだが、この通りクリス先輩目当ての女の子にロックオンされてしまった。
ちらりと視線を動かしてみるが、周りの人はお喋りに夢中で助けてくれそうもない。いやそもそも、地味で平凡なくせに可愛い女の子に声をかけてもらえるなんてラッキーな奴だな、くらいに思われているかもしれない。
だが、俺にとってはそうではなかった。
なぜなら俺は、筋金入りの女性恐怖症だから。
俺の女性恐怖症については、バンドメンバー以外にはあまり詳しいことは話していない。だから大学の皆は「女の子に免疫がないのかな?」くらいの認識だと思う。
しかし実のところは、女性には触るのもダメなくらいの重症。
顔見知りの女子と話すくらいだったらまだ大丈夫だけれど、知らない人が相手だったり、身体に触れたりするのは絶対に無理だ。酷い時には過呼吸を起こすこともあるし、体調が悪くなってそのまま倒れてしまうことすらある。
そうならないように、普段は女の子とは一定の距離を保ちながら接してきた。幸い、地味で平凡で性格も面白味などない俺に進んで話しかけるような女の子はそういない。だから今日も、交流は控えつつ適当に過ごして一次会で帰るつもりだった。
それなのに、こんなことになるとは……。
この女の子が悪いわけではないし、この子が嫌いなわけでもない。ただ、もしここで症状が出てしまったら、間違いなく彼女に不快な思いをさせるだろう。賑やかな飲み会の雰囲気も台無しにしてしまう。だから早いところ会話を切り上げたいというのが本音だった。
パニックを起こさないように気を張りながらもう一度周囲を見渡すが、頼みの綱のクリス先輩も近くにはいない。普段だったらクリス先輩がフォローに入ってくれて、さりげなく俺と女の子の距離を取り持ってくれたりするのだけれど、今はさすがに俺にまで気を配る余裕はなさそうだ。
——って、それじゃあダメだろ、俺!
先輩が優しいからって、すぐに頼ろうとするのは俺の悪い癖だ。先輩は友達が多いし沢山の人に慕われているから、どう考えたって俺だけを特別扱いなんてしていられないだろう。
こういう時くらい、俺だけの力でこの状況を乗り切ってみせないと!
そう決心した俺は、注文したお酒のジョッキを一気にあおってみせた。
お酒が入れば女性恐怖症の症状も鈍くなるかもしれない——そんな思いからした行動だったのだが、まさかそれが裏目に出てしまうことになるとは、この時の俺はまだ思っていなかった。
✦ ✦ ✦
頭がぼーっとする。
それに、身体が思うように動かない……。
あれからしばらくはお酒の力を借りながらなんとか女の子と会話を続けていたのだが、ひとしきり喋ったところで満足したのかその女の子は離席。別の友達のところへと去っていった。
その瞬間、気が抜けたのか一気にキた。
気持ち悪さはあまりないけれど、視界はおぼつかなくて、酔いが回りきっているのが自分でもわかる。お酒は普段からたまーに飲むけれど、そういえばこれだけの量を短時間で摂取したことはなかったかもしれない。
飲み過ぎた、と自覚した時にはもう遅かった。しばらくは壁に体重を預けながらお冷を飲んでじっとしていたのだが、気分はまったく回復する気配がない。多分、今立ち上がったら足元フラフラするやつだ。
どうしよう、これ今日一人で帰れるかな……。
「神崎、結構酔ってるんじゃない? 大丈夫?」
そんな俺に声をかけたのは、茶髪でショートヘアの、少し野暮ったい印象の眼鏡をかけた男子生徒だった。俺はそんな彼にゆっくりと視線を向ける。
この人は、確か……同期の日向だ。
彼とは学年、学科共に同じなので、講義が被ることが多く、大学ではぼちぼち話すほうだ。見た目は俺と同じで地味寄りなのだが、日向は俺とは違って明るくてコミュ力もあって、勉強だってできる。特定の誰かと日常的につるんでいるわけではないけれど友達は多いし、何かと器用ですごいなぁ、と俺は密かに思っていたのだった。
「日向……。ん、だいじょぶ……」
なんとかそれだけ答えたけれど、正直全然大丈夫じゃない。
でもこんなことで迷惑はかけられないし、自分でなんとかしないと……。
壁に預けていた身体を起こして、再度日向に大丈夫と伝える。そんな俺を見た日向はじっとこちらを見たまま黙っていたが、少ししてから立ち上がるとなんとクリス先輩を呼んだ。
「すいませんクリス先輩、神崎が体調悪いみたいで」
「え⁉︎ 待ってて、すぐそっち行くから!」
日向の言葉を聞いたクリス先輩は、ひどく慌てた様子ですぐさまこちらへと飛んできた。
大丈夫と言ったのに、よりにもよってクリス先輩を呼んでしまうだなんて……。どうやら日向に俺の意図は伝わらなかったらしい。いやむしろ、俺がクリス先輩とバンドを組んでいることは周知の事実だから、深い意味はなくとりあえず先輩に声をかけただけかもしれないけれど。
「瑪瑙、大丈夫? ……じゃなさそうだな」
「んん……せんぱい……」
「気持ち悪い? 吐きそう?」
「や、だいじょぶ、です……」
日向もクリス先輩も、俺の顔を見るなり「これは駄目だ」みたいな反応をするのだけど、そんなにヤバそうに見えるのだろうか?
ていうかクリス先輩、色んな人とお喋りしていた最中だったのに……俺なんかのために中断させてしまって申し訳ないな。皆ともっと話したかっただろうに……。
「ああ……もう帰らせた方がいいな。立てそう?」
ああでも、クリス先輩に世話を焼いてもらえるのは、ちょっと嬉しいかも……なんて。
クリス先輩は、それこそ大学に入学したばかりの頃から俺に目をかけてくれた。人見知りな上に女性恐怖症である俺が皆の輪に入れたのもクリス先輩の気遣いがあったからだし、俺の歌を見初めてバンドに誘ってくれたのだってクリス先輩だ。何をしても平均値で歌くらいしか取り柄がない俺にここまで親身になってくれるのは何故だろう、と常々思っていたけれど……。ある日先輩から「好きだ」と言われて、ある意味で色々と納得がいったのだった。
告白された時はすごく驚いたし、少なからず戸惑ったけれど……今では俺も先輩のことを好いているし、意識もしている。だから優しくしてもらえたり、特別扱いしてもらえるのは、素直に嬉しいんだ。
だが、それはそれ、これはこれ。先輩に要らぬ迷惑をかけたいわけでは決してない。だからせめて、自力で帰ろうと思っていたのだけど……。
「すみません、俺、神崎の家知らなくて。もし良ければ先輩、こいつのこと頼めますか?」
あろうことか日向は、クリス先輩に俺を送るよう頼んだ。
いや、彼の言う通り、日向と俺はお互いの家を行き来するほどの仲ではない。対してクリス先輩は、デートの帰りに何度か送ってもらったことがあるので俺の住所は知っている。それに俺と日向は身長が同じくらいで体格も似ているため、日向では酔い潰れてしまった俺を家まで送り届けることは難しいだろう。彼自身もそれを理解しているのか、体格も良くて俺と仲が良いクリス先輩にその役目をお願いしたのかもしれない。
「日向……俺、平気だから。先輩も、戻って大丈夫です」
でもでも、さすがに飲み会を離脱させてまで俺に構ってもらわなくても……!
そう思ってすぐに二人に心配しないでくれと訴えるも、どうしてか聞き入れてはもらえなかった。それどころか、ふらつく身体をクリス先輩に軽々と抱き上げられて、持ってきた手荷物と靴までしっかりと回収されてしまった。
「何言ってるんだよ。顔色悪いし、フラフラだぞ。……ありがとう日向、瑪瑙はこのまま俺が連れて帰るから。タクシー呼べる?」
「はーい、もう呼びました~」
「ちょ、日向ぁ……!」
ちゃっかり帰りのタクシーまで手配していた日向に、俺は思わず抗議の声を上げる。
ああ、これはもう俺が何と言おうと帰らされるやつだ。確かにすぐに帰りたいくらい体調は悪かったけれど、俺、ちゃんと誤魔化したつもりだったんだけどな……。しかし、クリス先輩は常に周りをよく見ている人だ。この人にそうそう嘘はつけないな、と改めて思ったのだった。
「あ、神崎。スマホ!」
このまま諦めてされるがままに帰ろうと思ったところで、去り際に日向がこちらにそっと近付いてきて、テーブルに置き忘れていたスマホを渡してくれた。ズボンのポケットに入れてもらったそれを確認して礼を述べると、日向は俺にだけ聞こえるくらいの声量でひと言。
「ごゆっくり、ね?」
その言葉を聞いた途端、俺の顔は火を噴きそうなくらい熱くなった。
俺とクリス先輩が付き合っていることは、大学の皆には内緒にしている。……それなのに、日向にはバレていた? どうして? 俺、わかりやすいってよく言われるけど、もしかしてそのせい? もしバレていたとしたら……この状況、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!
日向には色々と聞きたいことがあるけれど、生憎今はそれどころではないのも事実。店を出ても俺を横抱きにしたままのクリス先輩に、俺は恥ずかしいやらドキドキするやらで、余計に酔いが回りそうだった。
「ていうか先輩、降ろしてください!」
「ダーメ。せっかく役得なんだから」
——結局、そのままお持ち帰りされましたとさ。
おしまい!
『俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き』シリーズのクリス×瑪瑙の小話になります。
こちらのお話に登場する日向くんが主人公の小説同人誌を通販にて販売中です!(通販ページは近況ボードに載せてます)
—————————
俺の名前は神崎瑪瑙。
インディーズロックバンド『DIAMOND』のボーカルをやっていること以外は、見た目も中身もごくごく平凡な大学生である。
その日俺は、大学の先輩が主催する飲み会に来ていた。
期末テストが終わったということで、同じ学科の仲の良いメンバーを適当に誘っての打ち上げらしい。俺はその主催の人とは直接親交があるわけではなかったが、バンドメンバー兼大学の先輩でもある玻璃間クリス先輩経由で声をかけてもらった。
……のだけれど、飲み会が始まってから一時間ほど。
俺は早くも帰りたくなっていた。
「神崎くんってさ、クリスくんと一緒にバンドやってるんだよねー?」
「あ、はい……。いちおう……」
「えーかっこいい! ねぇライブってさ、どんな感じなの? カラオケで歌うのと違ったりする?」
「え、ええと……」
「バンドメンバーってことはクリスくんと仲良いんだよね? 二人で遊びに行ったりとかするの?」
「いや、その……」
同じ学科だけど普段はあまり交流のない、女の子の先輩に謎に絡まれてしまった。
いつの間にか隣を陣取られたかと思ったら妙に距離が近いし、バンドのこととか、クリス先輩とのことをやたら質問される。話しているうちに(といってもほとんどまともに返事はできなかったけれど)、もしかしてこの子はクリス先輩狙いなのではないだろうか?と勘付いてきた。
クリス先輩は大学でも有名人で、ファンクラブが存在するほどに人気がある。容姿端麗、品行方正、成績優秀の三拍子揃っており、誰に対しても分け隔てなく優しい彼は皆の憧れの的だった。
だからこそ、クリス先輩の彼女になりたい女の子は学内外問わず大勢いる。きっと俺に話しかけているこの子も、本当は今日の飲み会でクリス先輩とお近づきになりたかったはずだ。それができないのは、人気者のクリス先輩は常に人に囲まれていて、とてもじゃないが割り込む隙がないからだろう。現に俺も、クリス先輩以外には特段親しい人がいないこの場において完全にぼっち状態になっていた。でもあの人だかりをかき分けてクリス先輩に話しかけに行くことなんて、俺にだってできなくて。
結果、テーブルの隅っこで一人ちびちびとウーロン茶を飲んでいたわけなのだが、この通りクリス先輩目当ての女の子にロックオンされてしまった。
ちらりと視線を動かしてみるが、周りの人はお喋りに夢中で助けてくれそうもない。いやそもそも、地味で平凡なくせに可愛い女の子に声をかけてもらえるなんてラッキーな奴だな、くらいに思われているかもしれない。
だが、俺にとってはそうではなかった。
なぜなら俺は、筋金入りの女性恐怖症だから。
俺の女性恐怖症については、バンドメンバー以外にはあまり詳しいことは話していない。だから大学の皆は「女の子に免疫がないのかな?」くらいの認識だと思う。
しかし実のところは、女性には触るのもダメなくらいの重症。
顔見知りの女子と話すくらいだったらまだ大丈夫だけれど、知らない人が相手だったり、身体に触れたりするのは絶対に無理だ。酷い時には過呼吸を起こすこともあるし、体調が悪くなってそのまま倒れてしまうことすらある。
そうならないように、普段は女の子とは一定の距離を保ちながら接してきた。幸い、地味で平凡で性格も面白味などない俺に進んで話しかけるような女の子はそういない。だから今日も、交流は控えつつ適当に過ごして一次会で帰るつもりだった。
それなのに、こんなことになるとは……。
この女の子が悪いわけではないし、この子が嫌いなわけでもない。ただ、もしここで症状が出てしまったら、間違いなく彼女に不快な思いをさせるだろう。賑やかな飲み会の雰囲気も台無しにしてしまう。だから早いところ会話を切り上げたいというのが本音だった。
パニックを起こさないように気を張りながらもう一度周囲を見渡すが、頼みの綱のクリス先輩も近くにはいない。普段だったらクリス先輩がフォローに入ってくれて、さりげなく俺と女の子の距離を取り持ってくれたりするのだけれど、今はさすがに俺にまで気を配る余裕はなさそうだ。
——って、それじゃあダメだろ、俺!
先輩が優しいからって、すぐに頼ろうとするのは俺の悪い癖だ。先輩は友達が多いし沢山の人に慕われているから、どう考えたって俺だけを特別扱いなんてしていられないだろう。
こういう時くらい、俺だけの力でこの状況を乗り切ってみせないと!
そう決心した俺は、注文したお酒のジョッキを一気にあおってみせた。
お酒が入れば女性恐怖症の症状も鈍くなるかもしれない——そんな思いからした行動だったのだが、まさかそれが裏目に出てしまうことになるとは、この時の俺はまだ思っていなかった。
✦ ✦ ✦
頭がぼーっとする。
それに、身体が思うように動かない……。
あれからしばらくはお酒の力を借りながらなんとか女の子と会話を続けていたのだが、ひとしきり喋ったところで満足したのかその女の子は離席。別の友達のところへと去っていった。
その瞬間、気が抜けたのか一気にキた。
気持ち悪さはあまりないけれど、視界はおぼつかなくて、酔いが回りきっているのが自分でもわかる。お酒は普段からたまーに飲むけれど、そういえばこれだけの量を短時間で摂取したことはなかったかもしれない。
飲み過ぎた、と自覚した時にはもう遅かった。しばらくは壁に体重を預けながらお冷を飲んでじっとしていたのだが、気分はまったく回復する気配がない。多分、今立ち上がったら足元フラフラするやつだ。
どうしよう、これ今日一人で帰れるかな……。
「神崎、結構酔ってるんじゃない? 大丈夫?」
そんな俺に声をかけたのは、茶髪でショートヘアの、少し野暮ったい印象の眼鏡をかけた男子生徒だった。俺はそんな彼にゆっくりと視線を向ける。
この人は、確か……同期の日向だ。
彼とは学年、学科共に同じなので、講義が被ることが多く、大学ではぼちぼち話すほうだ。見た目は俺と同じで地味寄りなのだが、日向は俺とは違って明るくてコミュ力もあって、勉強だってできる。特定の誰かと日常的につるんでいるわけではないけれど友達は多いし、何かと器用ですごいなぁ、と俺は密かに思っていたのだった。
「日向……。ん、だいじょぶ……」
なんとかそれだけ答えたけれど、正直全然大丈夫じゃない。
でもこんなことで迷惑はかけられないし、自分でなんとかしないと……。
壁に預けていた身体を起こして、再度日向に大丈夫と伝える。そんな俺を見た日向はじっとこちらを見たまま黙っていたが、少ししてから立ち上がるとなんとクリス先輩を呼んだ。
「すいませんクリス先輩、神崎が体調悪いみたいで」
「え⁉︎ 待ってて、すぐそっち行くから!」
日向の言葉を聞いたクリス先輩は、ひどく慌てた様子ですぐさまこちらへと飛んできた。
大丈夫と言ったのに、よりにもよってクリス先輩を呼んでしまうだなんて……。どうやら日向に俺の意図は伝わらなかったらしい。いやむしろ、俺がクリス先輩とバンドを組んでいることは周知の事実だから、深い意味はなくとりあえず先輩に声をかけただけかもしれないけれど。
「瑪瑙、大丈夫? ……じゃなさそうだな」
「んん……せんぱい……」
「気持ち悪い? 吐きそう?」
「や、だいじょぶ、です……」
日向もクリス先輩も、俺の顔を見るなり「これは駄目だ」みたいな反応をするのだけど、そんなにヤバそうに見えるのだろうか?
ていうかクリス先輩、色んな人とお喋りしていた最中だったのに……俺なんかのために中断させてしまって申し訳ないな。皆ともっと話したかっただろうに……。
「ああ……もう帰らせた方がいいな。立てそう?」
ああでも、クリス先輩に世話を焼いてもらえるのは、ちょっと嬉しいかも……なんて。
クリス先輩は、それこそ大学に入学したばかりの頃から俺に目をかけてくれた。人見知りな上に女性恐怖症である俺が皆の輪に入れたのもクリス先輩の気遣いがあったからだし、俺の歌を見初めてバンドに誘ってくれたのだってクリス先輩だ。何をしても平均値で歌くらいしか取り柄がない俺にここまで親身になってくれるのは何故だろう、と常々思っていたけれど……。ある日先輩から「好きだ」と言われて、ある意味で色々と納得がいったのだった。
告白された時はすごく驚いたし、少なからず戸惑ったけれど……今では俺も先輩のことを好いているし、意識もしている。だから優しくしてもらえたり、特別扱いしてもらえるのは、素直に嬉しいんだ。
だが、それはそれ、これはこれ。先輩に要らぬ迷惑をかけたいわけでは決してない。だからせめて、自力で帰ろうと思っていたのだけど……。
「すみません、俺、神崎の家知らなくて。もし良ければ先輩、こいつのこと頼めますか?」
あろうことか日向は、クリス先輩に俺を送るよう頼んだ。
いや、彼の言う通り、日向と俺はお互いの家を行き来するほどの仲ではない。対してクリス先輩は、デートの帰りに何度か送ってもらったことがあるので俺の住所は知っている。それに俺と日向は身長が同じくらいで体格も似ているため、日向では酔い潰れてしまった俺を家まで送り届けることは難しいだろう。彼自身もそれを理解しているのか、体格も良くて俺と仲が良いクリス先輩にその役目をお願いしたのかもしれない。
「日向……俺、平気だから。先輩も、戻って大丈夫です」
でもでも、さすがに飲み会を離脱させてまで俺に構ってもらわなくても……!
そう思ってすぐに二人に心配しないでくれと訴えるも、どうしてか聞き入れてはもらえなかった。それどころか、ふらつく身体をクリス先輩に軽々と抱き上げられて、持ってきた手荷物と靴までしっかりと回収されてしまった。
「何言ってるんだよ。顔色悪いし、フラフラだぞ。……ありがとう日向、瑪瑙はこのまま俺が連れて帰るから。タクシー呼べる?」
「はーい、もう呼びました~」
「ちょ、日向ぁ……!」
ちゃっかり帰りのタクシーまで手配していた日向に、俺は思わず抗議の声を上げる。
ああ、これはもう俺が何と言おうと帰らされるやつだ。確かにすぐに帰りたいくらい体調は悪かったけれど、俺、ちゃんと誤魔化したつもりだったんだけどな……。しかし、クリス先輩は常に周りをよく見ている人だ。この人にそうそう嘘はつけないな、と改めて思ったのだった。
「あ、神崎。スマホ!」
このまま諦めてされるがままに帰ろうと思ったところで、去り際に日向がこちらにそっと近付いてきて、テーブルに置き忘れていたスマホを渡してくれた。ズボンのポケットに入れてもらったそれを確認して礼を述べると、日向は俺にだけ聞こえるくらいの声量でひと言。
「ごゆっくり、ね?」
その言葉を聞いた途端、俺の顔は火を噴きそうなくらい熱くなった。
俺とクリス先輩が付き合っていることは、大学の皆には内緒にしている。……それなのに、日向にはバレていた? どうして? 俺、わかりやすいってよく言われるけど、もしかしてそのせい? もしバレていたとしたら……この状況、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!
日向には色々と聞きたいことがあるけれど、生憎今はそれどころではないのも事実。店を出ても俺を横抱きにしたままのクリス先輩に、俺は恥ずかしいやらドキドキするやらで、余計に酔いが回りそうだった。
「ていうか先輩、降ろしてください!」
「ダーメ。せっかく役得なんだから」
——結局、そのままお持ち帰りされましたとさ。
おしまい!
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