聖鎧の騎士 ロランの命約

菱下泰典

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第一部

25.再戦

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 カールション子爵邸の正門から、数メルム(数メートル)離れた場所に、ロランは立っていた。
 外套はまとっているが頭巾はかぶらず、人目をはばかることなくその顔をさらしている。
 彼の周囲には他に誰もおらず、聖鎧もここにはなかった。
 
「おい! 何だお前は!」

 二人の門衛の内、片方の男がロランに気付いて問いかける。
 門衛は胸と胴が一連に繋がった鋼鉄製の鎧と、篭手と脛当てを身に着けて、右手には二メルム(二メートル)の長さの槍を持っていた。
 
「エリシール王女殿下を帰してもらいに来た」

 ロランがその目的をはっきりと口にする。
 途端に門衛たちの顔が強張った。
 
「き、貴様っ!」

 門衛が槍を構えようとするが、機先きせんを制したロランが、驚異的な速度で相手の懐に入り──鎧で護られていない──股間を長靴のつま先で蹴り上げる。
 ロランの長靴には底と先端に鉄板が仕込まれているため、つま先がかすっただけでも相当な威力であった。
 
「──!!」

 声にならない声を上げ、門衛がその場に倒れて悶絶した。
 その間にロランが剣を鞘から抜く。 
 すぐにもう一人の門衛がロランに向かって槍を突き出した。
 槍の穂先をロランは最小の動きでかわし、槍の柄を左手で掴む。
 
「くっ! このっ!」

 門衛が槍を引こうとするが、槍は微動だにしない。
 門衛の男はロランより体が大きく、腕も太く、何よりも両手で槍を掴んでいる。
 だのに、どれだけ力をこめようとも、槍をまったく動かすことが出来ないでいた。
 目の前の、己よりも小さな少年のどこにそんな力があるのか。

「ばかな……なぜだ……」
 
 門衛が驚きの声を漏らす。
 しかし、同様にロランもまた驚いていた。
 先ほどの踏み込みといい、今の槍を掴む膂力といい、ロランはこれまでにない力を発揮していた。
 
(もしかして、これも大聖樹の力……)
 
 理由など他には考えられない。
 早々に得心すると、ロランは槍の柄に沿ってあっという間に相手に詰め寄り、剣の柄頭で門衛の顎を打ち抜いた。
 悲鳴を上げることさえ出来ず、二人目の門衛が地面に崩れ落ちた。
 門衛たちを瞬く間に無力化した後、ロランが自らの手でゆっくりと鉄門を押し開く。
 ちょうどその先に、本館の玄関口が見えた。
 門からの距離はおよそ三十メルム。
 ロランは玄関口の次に、三階の左端の部屋の窓を見上げた。
 ダニエレの情報によれば、そこにエリシールが囚われているはずである。
 ロランが子爵邸の敷地に一歩足を踏み入れた時、本館の玄関の扉が慌ただしく開かれた。
 館内から傭兵たち──イェート、オルソン、ステンが出てくる。

「よぉ、ロラン。よく生きていたな」

 イェートがロランに向かって気軽い口調で言う。
 イェートはその事実に心底驚いていたが、それらしいそぶりは見せなかった。
 
「けっ、せっかく拾った命をまた捨てにきやがったのか。ご苦労なこったな」

 ステンが忌々しげに吐き捨てた。
 ステンのロランへの恨みは相当に根深いものであった。
 最後の一人、オルソンは何も言わずにロランを睨んでいた。
 
「イェートから聞いたぜ。お前の変てこな力は妖精のもんだったってよ」

 ステンが残忍な笑みを見せる。
 
「その妖精は今はお前の側にゃいないっていうじゃねえか」
「……」

 ロランは無言でイェートたちを見据えた。
 
「それでおれたちに勝てると思ってんのか? まったく、おめでてぇ野郎だぜ!」

 ステンが声を上げて笑う。
 イェートも薄く笑みを浮べているが、その目は油断無くロランの動きを観察していた。
 
「……」

 ロランは黙ったままゆっくりと──後退を始めた。
 
「はっ、ここまで来て逃げるのかよ! ふざけるんじゃねぇ! 俺がもう一度ぶっ殺してやる!」

 虚仮こけにされていると感じたステンが、怒りをあらわにしてロランに向かていく。
 イェートとオルソンもすぐにステンの後に続いた。
 
 ロランは三人を視界に収めつつ、緩慢かんまんな足取りで後退を続ける。
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