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天界会議

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「うーん、増えすぎ」

 美しく大きな翼をもつ女神、アルリス様はどうしたものかといった顔をしています。というか声に出していますね。

「増えすぎですじゃ」

 横にいた老齢の女性に羽の生えたようなお方、天使老長は難しい顔をしています。

「増えすぎですね」

 まだ精神、肉体ともに幼く小さな羽の天使見習いでしかない私はアルリス様の横でとりあえず話を合わせます。



 アルリス様の会議、今回の議題は自分たちの蒔いた種が予想外の事態をもたらしてしまったので早く何とかしなければというもの。

「とりあえず打開策考えましょうか。増えすぎてしまった人間たちへの」

 アルリス様は私と老長の顔が自身に向くのを見ると説明を始めます。



「ことの発端は日本からこの世界【バニラ】への転生や転移を繰り返し行い人間の減りつづけていた魔王優位の世界を変えることが目的でした」

「はい、当時はいろんな転生者、転移者が様々な物語を見せてくれるのでアルリス様も楽しくなって送りまくってましたね……あはは」

 私はアルリス様たちが半分目的を忘れて送り込んでいたあの日々を思い出し乾いた笑いが漏れた。

「くっ笑い事ではありません!もはや魔王は倒されバニラは平和になったというか人間の支配する世界になってしまいました」



 アルリス様は深刻そうな表情で現状を改めて認識したようです。

「地球の神様みたいに海に支配させてみますか?」

 私はとりあえず前例を上げ参考にしてみてはと女神様に進言してみますが女神様の表情は変わりません。

「だめです。あの世界は海に支配させたと見せかけて結構人間が海を支配し始めているのですよ」

あきれたように女神様が返答くださいました。



「ほっほっほ、ならば私に考えがありますじゃ。向こうの世界に送り返してやりましょう。クーリングオフですじゃ」

 天使老長の発言に注目が集まります。前から気になっていたのですがその語尾はキャラ付けなのでしょうか。

「ほう、クーリングオフとな?」



 女神様が興味深げに聞いています。クーリングオフ、いつも人材を送ってくださる日本の神様に昔、教えていただいた記憶があります。たしか一定の契約に限り、一定期間、説明不要で無条件で申込みの撤回または契約を解除できる制度だった気がします。

「ふふ、まずはこれを見てくださいですじゃ」

 天使老長はどこからか瓶詰になっているドス黒い塊を取り出しました。

「な、なんですかそれは」

 私は見た目も中身もやばそうなそれに危機感を覚えました。



「これは送り込んだ異世界人によって殺された魔物達の怨念を濃縮したものですじゃ。これをアルリスさまにちょちょいと弄ってもらって学習能力のある生物にしてほしいのですじゃ」

 女神様ってそんなことできるのでしょうか。

「ふむ、それでそのあとはどうする」

 アルリス様からできないという言葉は聞こえてきません。

「私が少し教育しますので転移者や転生者たちを送り返すスペシャリストにしたく思いますですじゃ」



 聞き間違いでなければこれは日本の神様が言っていたマッチポンプというやつなのでは?

「転移者や転生者を送り返せば人間に傾いたバランスも戻るかもしれないわね。なんか楽しそうですのでとりあえずこの案でいきましょうか」

「決まりですじゃ」

(私は不安です。このノリはバニラに異世界人を送った時と全く変わってない気がします)

 しかし、私の不安をよそにアルリス様達は楽しそうに謎の生物を作り始めるのでした。



 数日後、ついに完成したとの報告を受けて私は再び会議室に呼び出されました。その間の仕事の大半を見習いの私に押し付けるのはいかがなものかと!いかがなものかと!思います!ほぼ書類整理でしたけどね。



 暇な時は日本の勉強をしておけと結構な時間、女神様お勧めの漫画を読まされました。果たしてこれに何の意味がとも思いましたが意外と面白かったので文句はあまりなかったです。それにしても事前に日本の神様から聞かされていた情報も多かったからでしょうか漫画はすんなり頭に入りましたね。なぜか懐かしさすら覚えました……そうこう考えている間に会議室に着きました。



「ふふふ、よく来てくれましたね。天使見習いサラ」

 私の名を呼ぶ女神様は不敵な笑いを浮かべています。このテンションは連日の徹夜によるものでしょう、目にクマができています。

「ほっほっほ、よくぞ来た若いの。これからレッツパーリータイムじゃ楽しんでゆくがよい……あ、ですじゃ」

 老長も目にクマを作り、妙なテンションで私をお出迎えしてきます。

 この危うげなアルリス様達の相手を今から私はさせられるのでしょうか。何かの罰ゲームですね、間違いないです。

「もういちいちツッコムのもめんどうなのでさっさと完成したというあれを見せてください」

 私は簡潔に述べこれ以上の会話を拒否します。



「もう、せっかちですねー。まあいいでしょう、こちらですよ」

 そう言ってアルリス様はこの間見た怨念の塊が入っているビンを開けます。中からは黒い霧が出てきます。禍々しいです。

 黒い霧は宙に浮きアルリス様の横に小さくまとまり集合しています。

「召喚者、転生者は生態系や在来種に予測不可能な影響を与え世界のバランスを崩します。これらは排除せねばならない事項です」

 黒い霧さんが普通にしゃべっています。なんですかこれは。



「え、あの?えっと・・・・・・」

 言葉に詰まる私に黒い霧さんが反応します。

「申し遅れました、我は野生の魔物達の怨念エネルギーに自我を与えられた存在、名はクロムと申します」

 大層な一人称のわりに丁寧ですね。

「ご、ご丁寧にどうも、天使見習いのサラです」

「おや、ということはあなたさまが知恵の天使サラ様、我の相方なのですね。よろしくお願い致します」

「知恵の天使?相方?」



「そうですよサラ、あなたにはこれからその無駄に回りまくる思考力を使って地上に降りてクーリングオフ活動をしてもらうのですから」

 私の疑問に何でもないことのように女神様が答えます。

「えええええええええええええ、ちょっとまってください!私見習いで!研修で!ここに来ただけで!」

「実地研修ってことで頑張りなさい。辺境の世界の担当部署にいる神材はね常に少ないの。大丈夫、あなたは私の圧迫面接を乗り越えるだけの思考力と言い訳の軽快さがあったわ」

 切実な事情と私が受けた面接が圧迫であることを今知りました。

「がんばってきなされ。この天使老長も期待していますにゃ」

 老長の期待はどの辺からくるのでしょう。あなたたちに採用された後、書類整理以外の仕事ほとんど見せたことないですよ。あとその語尾はやめてください。



「無理ですうううううう。だって!だって!あれだもん!わたし見習いだし!何していいかわかんないし!」

 私は叫びました。頭の悪い言葉を選びとにかく無能アピール!この仕事はやばいと本能の警戒信号がレッドです。

「大丈夫、最初はだれでもビギナー、恥じることはないわ。というか今の発言自体あなた狙ったでしょ?少しでも無能っぽく見えるように、いつも使う敬語すらわざと使わないようにして……」

「ぐっ」



 この女神様は私の少し黒めの思考をすぐ見破ってくる。でも、そんな私と知っても拾ってくれた方なんですよね……。

「クロムが大体のことはやってくれるからあなたは持ち前の知恵と対象のステータス情報を見られる加護でサポート、最後に報告するだけで大丈夫のはずよ」

「我に任せてください。必ずや外来種どもを根絶やしにしてみせましょう」

「いやだから根絶やしじゃなくてクーリングオフです」



 クロムさんは少しズレてる気がします。

「まあクロムには強制リセットも備えてあるからもし何かやばそうな時はこれを使いなさい」

 女神様より小さな指輪をもらいました。少しだけ贈り物に喜んでいた私ですが、説明を受けた後には笑顔の私はいませんでした。なんでも宝石のはめ込まれている部分に天界の力を流すとクロムさんの記憶をリセットできるそうですがなんか罪悪感が沸くのでやりたくないです。

「申し訳ありませんサラ様。我の核に当たる部分の感情がたまにこぼれだしてしまうのです。大丈夫です。我に備え付けられた機能、日本への強制送還術クーリングオフ必ずや成功させて見せます」

 クロムさんにまさかそんな性能があるなんて。これはもしかしたらいけるかもしれないとか一瞬考えてしまいました。



「そういえば普通に地球へ帰りたいって思っている人とかいないんですか?」

「それがね、バニラに送ったほとんどの人間は地球へ帰ろうと思わないような人材をチョイスしてもらってたわ。地球で嫌なことがあったりだとかしてね」

「なるほど。あらかじめこちらの要求を呑んでくれそうな人材を選んでいたと。そして今度は帰りたくない人間を強制送還しろと……」

 だんだん状況が読めてきましたよ。これ恨まれ役の貧乏くじ引いてません?

「サラ、それじゃあよろしく頼むわね」

 こちらの返事も聞かず女神様は私の足元にまばゆい光を出現させ地獄(地上)へと突き落と(転送)しました。

「私のためにしっかり堕ちてね」

 もう落ちてますよおおおおお!

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