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人と接するのはこんなにもつらい

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 まず幸太郎さんは村の人たちを集め私に教会建設協力のお願いをさせました。なんと村人全員が協力してくれるとのことです。ワーイウレシイナー。この貸しをどう返せばいいんですか。教えてください。

 実際建てるにあたって幸太郎さんが設計やら具体的な建築計画を立ててくれましたのでそれに従って作っていくだけなのですが。めちゃくちゃ協力的です。というかぐいぐいきます。しかも前に自分の家を作った時の方法とかでスキルと加護を組み合わせてます。なんでもスキルの効果を木の遺伝子に組み込むことで特別な木材を作り出しているそうです。やはりチートはすごい。というかあのコンクリートでできていそうな村長の家、木造建築なんですね。



「硬質化のスキルをうまく木の遺伝子に組み込むと頑丈なコンクリートのような木材を入手できます。そして身体強化系のドリンクで力仕事をする人の作業効率を上げます」

 なるほど。加護の効果で木はすぐに育つしあの特性ドリンクをドーピングした村人なら作業スピードもすごいことになりそうです。



「私は何をすれば?」

「みなさんのサポートをお願いします」

「サポート?」

「飲み物を渡したりタオルとか持ってきたりいろいろです」

 一番気を遣う仕事ですね。

「りょ、了解です」

 何とも言えない流れで始まった教会建設計画。初日から大忙しです。アリューさんは幸太郎さんのお手伝いがあるとかでここでお別れです。

「子供たちの相手お願いね。あとうちの旦那にこれ渡してくれるかい」

 最初のサポートは門番のダイモンさんの奥さんダリアンさんからの依頼。教会のステンドグラスやシンボルマークの作成などを婦人会の皆さんにやっていただけるようで、代わりに子供たちのお世話とお弁当を届ける仕事を任されました。

 ダイモンさん率いる青年団は教会を建てる敷地にてすでに作業に取り掛かっています。

「おおーサラちゃん弁当届けてくれたのかーさんきゅー」

 ダイモンさんも私の名前を憶えてくれたようです。

「いえいえ私のわがままを聞いてくださっているのに逆にこんなことくらいしかできなくて申し訳ないです」

「気にすんな気にすんな。この村は助け合っていくのが当たり前なんだよ。頼れるときはいくらでも頼りな」

「おうそうさ!そしたら俺らが困ったときは助けてくれよな!」

 青年団の皆さんが笑顔でそんなことを言います。私は女神様から言われてきただけ。この仕事が終われば帰ってしまうのに……余計なことを考えてはいけないです。



 青年団の皆さんに愛妻弁当を渡しお次は子供たちです。

「遅いぞーオイノリーダー」

 ゲンキくんが私を呼んでいますね。昨日決まった私の新しい役職オイノリーダー。なんでも運動全般ダメな私にシスターさんはお祈りが得意と幸太郎さんに教えてもらった子供たちにいつの間にかリーダーに就任させられました。

「今日はねーオイノリーダーでも活躍できそうな遊び考えてきたよ」

 ユウキちゃんがいつのまにか近くに来てました。

「あの後みんなでいろいろ考えたんだよ」

 ヨウキ君も近づいています。

「トモダチ……だから……」

 サツキちゃんは気配がないのでいつ背後から話しかけられてもびびります。

「あ、ありがとうございます」

 この子たちにも村の助け合いに通じる何かが育まれているのかもしれませんね。そんなことを考えながら子供たちと今日も遊びました。



 午後は調合屋でアニスさんのお手伝いです。

「兄さんから話は聞いています。さっそくお手伝いお願い」

 兄さんというのは幸太郎さんのことなのでしょう。ステータスを見て兄妹関係でないのはわかりましたが触れてはいけない気がするのでスルーします。

「わかりました。まず何を……」

「そこの水に漬けてある100面ダイズをすり潰して、そのあとこっちの調合釜へ入れ沸騰したら弱火で10分ほど混ぜながら……」



「あれ?これは料理ですか」

「そう。うちの場合、料理とやっていることは変わらない。メインは野菜を人がおいしく食べられるようにだから」

「そ、それは楽しそ……じゃなかった。興味深いです」

 危ないです。ちょっと本心が出かけました。

「サラさん、もしかして料理すき?」

 これは見抜かれているパターンですか。

「いえ……その……まあ……はい、すきです……」

 料理が好きって言い方は卑怯です。得意ですかと言われるなら否定に入れるものを好きですかと聞かれたら……そりゃあ……好きですよ!

「……そう……実は、私も……っすき……」

 なんか告白大会になってます。妙な雰囲気です。ここは話題を変えなければ。

「実はですね、私の作った料理をおいしそうに食べてくれる妹がいるんですよ。それがうれしくって気がついたらいろいろ作ってあげたりして……」

 話題を変えるって言ったのはどの口ですかああああああああああ!?なんですか今の自分語り。思考が完全に趣味の合う人ともっとお話ししたい感じになっています。

「わ、わたしも兄さんが喜んでくれるのがうれしくて、つい気合を入れて作っちゃって……」

「わかるー!わかりすぎます!」

 ここから私たちはなぜか料理話に花を咲かせ本来の目的から横道へとシフトしていきます。



「そうなんですよ、この100面ダイズを絞って余った部分!家畜のえさにするのも確かにいいのですがこれは立派な料理になります!」

「サラすごい……野菜と一緒に炒めただけでこんなにおいしく……でも待って。これは更にお出汁を加えて」

「アニスさん天才です!この味は私の予想をいい形で裏切ってくれます!」

 完全にその日はアニスさんと楽しくお料理をしていました。せっかく作ったのでアリューさんにも夕飯に持って帰りましょう。幸い頼まれていたドリンクは明日渡すものなので問題ないですし…………少し心を開きすぎている気がします。



 次の日、今度のお手伝いは幸太郎さんの奥さん、エリーさんと一緒に近くの山まで素材集めに来ました。私の教会に必要というよりは教会の近くで植える花を探しに来ました。正確には殺風景だからとエリーさんが探しに行こうと誘ってくれたのです。

「おおーこの辺の花なんかいいんじゃない?」

「そうですね。色は種類があったほうが栄えるのでその辺を意識しないといけませんね」

「でもこの花、他の花の養分を吸い取ってしまうみたいだわ。周辺にこの花以外の植物がみんなやられてしまっている」

 エリーさんの観察眼は素晴らしいものでさすが冒険者です。

「じゃあこっちの花なんかはいかがでしょう」

 少し長めの茎が特徴的な白い花がありました。

「そうね……すこし採取してみましょう。サラちゃんは他のお花も探してみて」

 エリーさんは数本花を摘んでいろいろ調べているみたいです。私は他の花を探すべく辺りをまた散策です。



「とりゃ」

 頭に何かが乗っている感覚です。手に取ってみるとそれは花の冠でした。

「エリーさんが作ったのですか?」

「えへへー、どう?うまいもんでしょ」

「すごいですね」

「実はそれアタシがコータロウにあげたんだ。告白の返事に」

 それはまたロマンティックなことしてますね。

「あの人、教会の建設にめちゃくちゃやる気になってるでしょ」

「はい、恐ろしいほどに」

「理由聞いてる?」

「実はなぜそこまで熱心にやってくれているのかよくわかってはいないんです。そういう性格なのかなとかいいように考えっちゃってます」

 実はこれは嘘です。私の計画はむしろそのやる気を引き出させるところから始まりました。

「まあ、それもあってると思うよ。サラちゃんのために一生懸命作っているのは事実だし。でもねコータローはたぶん私との約束を果たそうとしてるんだと思う」

「約束?」

「いつか素敵な場所で結婚式をやろうってプロポーズの時に言われたんだ」



 前に式を挙げていないという会話は聞いていました。だからこそ教会を建てる計画を提案したのです。約束までしていたのは知らなかったですが。

 これもこの村の助け合い精神がなせるものなのでしょう。教会を作ることで貸しを作り、結婚式を挙げることでそれを返してもらう。そんなところでしょうか。教会が完成するまではそれを言わないのはずるいですね。でもまあいいでしょう。幸太郎さんに利用されているように見せ本当に利用しているのはどちらか最後に教えてあげましょう。

「だからサラちゃん。私が先にお願いするね。どうかあなたの教会で結婚式を挙げさせてください」

 少し黒いことを考えていた時に不意打ち気味にエリーさんの純粋なお願い。

「もちろんです。素敵な式にしてみせます」

 その言葉を口にした私はどんな顔をしていたでしょうか。私の心はもう限界が近いかもしれません。
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