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サラのダンジョン その2 漢の闘い

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「よく来たな。勇者シン、ここをてめえの墓にしてやるよ」

 野太い声がダンジョンに響く。我らを次に待っていたのは大男と鈴の村にいた青年団であった。

「ダグラじゃねーか、なんでこんなとこにいるんだよ」

「シン、知り合いか」

「昔ギルドで絡まれたことがあって一回ぶっ倒したんだよ。まあそのあともちょくちょくあったが」

「ふむ、しかしあの男からは天界の力を感じるぞ」

「ええっ嘘だろダグラ。お前が天使だったとかないよな。さすがにないよな?」

「ふっ」

 肯定ともとれる不敵な笑みにシンがプルプル震えている。

「うおおおおおおおやめろおおおおおお、お前に天使の羽と輪っかが付いた清楚な恰好想像しちまったじゃねえか」

 シン、それは想像力がたくましすぎるぞ。

「やべえおれもちょっと想像しちまった……オエー」

「まあ確かにあの悪人面で天使はきついな……オエ」

「キモかわいいというジャンルがあるらしいが……オエ」

 青年団の連中もなかなかたくましかった。



「さすがにあの男がかわいそうだろう」

 勝手に想像されて勝手に嗚咽を催されて。

「ああ、まさかここまで想像力豊かな否定をされると若干傷つく。というかなんで味方からも言葉の鈍器

をもらわねばならんのだ」

 ダグラにもしっかり精神的なダメージが入っていた。もはやそういう作戦なのかもしれない。 



「へへ、あーだこーだと叫んでもお前らはここでくたばるんだからよ。とっとと始めようぜ!」

 ダグラの声で青年団のおとこたちが我らに向かって突っ込んでくる。数で押す作戦か。

「すまねえーなシン!お前のことは嫌いじゃないし大陸を救ってくれたことも感謝もしてる。でもチユちゃんのご褒美が俺たちを待ってるんだああああああああああああ」

「うおおおおおおおお肩たたきぃぃぃぃいいい」

「膝枕ああああああああああああああああ」

「耳かきいいいいいいいいい」

「添い寝えええええええええええええええええ」

「踏んづけてくださいいいいいいいい」



 重い想いの欲望を叫びながら突貫してくる青年団。叫んだ言葉の8割くらいはシンにやってあげた気がするのだが……き、気のせいだな!

「わりーが俺にも譲れないものがあるんでね!」

 勇者シンが剣を抜く。何もない空間を薙ぎ払うように一振り、彼らはそれだけで吹き飛んだ。

「やっぱ斬撃による攻撃ってかっこいいよなあ」

 シンは気楽に感想を述べている。

「立ち上がれ戦士達よ!見果てぬ夢を目指すのだ!」

 不意に天界の力を感じた。ダグラの叫びで男たちは再び立ち上がる。

「なんどだって立ち上がるさ!男は夢で生きるものだからな」

 彼らは立ち上がると同時にまたこちらへ猛進してくる。

「わ、我が今度は行こうか」

 さすがにシン一人では大変だろう。



「やったあああああ女子じゃああああ」

「これは触れてもしょうがないよな!事故だもの!」

「戦闘だもんなしかたねえよ、にしても美人だなあ事故りてえ!」

「引き寄せられるよな!あの女性の象徴に!」

 胸や顔、足のほうにまでもれなく視線を感じる。なぜだか不快だ。

「クーに触れるんじゃねええ!」

 怒りに満ちたシンの声が男達の叫び声を遮る。

「ええ、シン??」

 我が攻撃するよりも先にシンが動いていた。また男たちがなぎ倒される。



「クーお前はだめだ。絶対あいつらと戦うな。いやもうほんと絶対。日本にいたころからあの要素だけは絶対に許せなかったんだ……」

「何のことを言っているのかわからないがシンがそういうなら従う」

 なら、我は戦況の分析に努めるか。

「くそがあああああああ」

 シンが再び立ち上がった男たちを薙ぎ払う。

「シン、必要以上に力が入ってるぞ。さすがにこの先もたなくなってしまう。やはり我がやる」

 さすがにこのあと何回の戦闘があるかわからないのに全体攻撃を連発していたらもたない。前に出るぞ。



「ひゃっほおおおおおおおおお」

「ウェルカム!」

「ちらりと見える太ももが実にグッド!」

 男たちの喜びにあふれる声が聞こえてくる。

「クーなんて破廉恥な恰好をしてるんだ!」

「シンがリクエストしたんだろうが!何も言わずに少しだけ切れ込みのあるスリットみたいなのはいてほしいって!」

「そうでした……俺の馬鹿野郎!でも仕方がないじゃないか。なんかチラチラ見える感じが戦闘中でもちょっとロマンがあってさ、やる気が出るんだよ!」

 その言葉に男たちの動きが止まる。

「やあ兄弟、お前もなかなかわかってるじゃねえか。認めよう。お前も真の漢だ」

 青年団のリーダ-、ダイモンがシンを認めている。我からしたら訳が分からないがシンはまんざらでもなさそうな顔をしている。

「俺たち出会い方が違っていたら肩を並べて横で笑ってたかもしれねえな」

 シンは何を言っているのだ?

「そうかもな。だが、今こうしてここにいる。それがすべてだ」

 男たちは交わした言葉が合図となり戦闘を続行した。スキルで不死身がごとく復活する青年団の力の源をたどる。なるほどやはりやつか。



「仕組みはわかった。ダグラ、貴様が力を与えているな」

 大体は最初の方でわかっていたが念入りに観察した。

「はっはー!ばれちゃあしょうがねえ。冥途の土産に教えてやるよ。俺の天界の術式でやつらをなんども蘇生させているんだよ。ちょっと反動で理性が弱く、欲望に忠実になるがな」

 あの男たちが尋常ならざる盛り方をしていた理由が分かった。でもそれと対等な会話をしていたシンって……深く考えるのはやめようと我は思った。

「シン、そいつらの相手を頼む。我がダグラとやらを倒して術式を止めてくる。それまで頼むぞ」

 我はシンの攻撃で倒れた男たちの上を即座に移動した。途中踏んでしまった奴にありがとうございますなどの感謝の言葉が聞こえた気がしたが気にしている余裕はない。



「ほう、お前がサラお嬢ちゃん様の裏切りものだな」

「ち、ちがう裏切ったのでは」

 我はただ……

「ほらよ」

 我を動揺させ隙を作ったダグラはなにかを投げてきた。見覚えがあるぞあの袋。あれは要注意アイテムとして天使老長さまにも言われていた魔物の瘴気に反応しその力を弱める粉の入った袋だ。

「くっ、しまった」

 我の力がぬけ・・・あれ?かわらぬ。全然体が動く。

「なぜだ、なぜ効いていない。お前は魔物の怨念の集合体、なぜ弱らない!!」

 ダグラが焦っているが我は知らぬ。しかし好機。

「安物だったのではないか?」

 そう言いながらダグラとの距離を一気に詰めそのまま切り込む。

「上手いではないか。我の刀をここまで捌けるとは、しかし打ち合ってしまっている時点で三流、サツキのほうがよほど強敵であったな」

 ダグラはその後も防戦一方で我の刀を受け続けた。そして結果としてその場に崩れ落ちる。



「まさか……お前、瘴気以外の別のもので満たされているのか?……サラお嬢ちゃん様……すみま」

 謝罪の言葉もままならぬまま子供たちと同じように気絶した。ダグラがやられると他の男たちも立ち上がることはなくなった。

「他のものか……もしかしたら」

 胸に手を置いて考える。もしやと思っていた。瘴気の風を多用し使えぬまま今に至る我……やはりあの時シンへの気持ちが入り込んでしまったのやもしれぬ、心が満たされている。実は前に一度女の姿から霧に戻ろうとしたがうまくいかなかった。やはり我は……

「シン、次へ行こうか」

 多分もう答えは出ている。

「おう」

 にかっと笑う彼を見てまた満たされる。我の心にはやはりもうあの煮えたぎる感情はないようだ。
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