上 下
40 / 81

献身ヒロイン

しおりを挟む
「他の生徒を襲っているところを見るとあなた達、すでに課題は終わって山賊役をやっていると言ったところかしら」

 なんらかのスキルで突然この場所に現れたグラティアさんたち、自信満々の顔でこちらを見ているのですがかなり様になっていますねあの金髪お嬢様。

 さて、グラティアさんが出てきたということはあの人を確認しなければなりません。

 おお?セリアさん!?なんとその場から逃げていません。



「セリア、なんか震えてない?」

 ユーキちゃんが心配そうな顔でセリアさんを見ています。

「だだだだいじょううだよ、ユーキちゃん」

 ああ、なるほど。ユーキちゃんの前で情けないところを見せないために頑張って自分の気持ちと戦っているのですね。

「なあ、あれってあたらしい獲物だよなオイノリーダー?」

 私が状況分析をしていると後ろからゲンキ君による爆弾のような発言。その爆弾の導火線に火をつけるかどうかは私の言葉次第なのがとてもつらいですね。

「ちょっとだけ待っててくださいね」



 少し状況を整理します。目の前に現れたのはグラティアさん、その後ろにリンプス王子、レデンさん、ザブラさんが控えています。向こうも様子見というか先行してしまったグラティアさんにつき合わされたようですね。表情に出ていますよ。特にレデンさん辺りは手を顔に当ててため息まで出てますからね。

「ゲンキくん、ここで私にちゃんと判断を仰ぐところ非常に高評価ですよ。先行して突っ走っていたら、このパーティが成り立たなくなるところでした」

「おうよ!」

 そうなんです。ゲンキ君の発言自体は何も悪くなく、この硬直状態に甘えていた私が悪いのです。昔の彼なら勝手に行動していたでしょう。しかし、シンさんとの戦いで得た経験やトーカさんの指導のたまものですかね。彼は立派なパーティメンバーになりました。

 正直戦力的に勝てるかどうかは未知数な部分が多いです。でも、せっかくの山賊役です。やれるだけを見せてあげましょう。



「やろーども、新しい獲物ですよ!」

 山賊になりきるという話題が道中で出た時、作戦指揮を任された私がこの言葉を使用したら戦闘を行う合図。皆さんで半分ふざけながらも話し合って決めました。ちなみにその時、役割名で指示は出しますと軽く伝えておきました。なので遠慮なく端的に作戦を伝えます。

「基本陣形で術二人(ユーキ、ウィズ)と指揮サラを盾ヨーキはカバー、兵(セリア、ゲンキ)は星(最も目立つターゲット今回はグラティア)を狙い殺サツキは兵に合わせよ」

 簡単な指示をだし、全員が移動を開始。

「術1サポート、妨害。術2火力重視」

 これですべての指示を出し終わりました。リンプス王子やレデンさんは動かず何かを待っている?ザブラさんはグラティアさんの前に出て盾の役割をするみたいです。とにかく情報を見なくては。ステータス開示で一番危なそうなグラティアさんを見ます。



「これでいくわ」

《スキル同時使用上限解放+++》《神脚》《脚力共有》《身体強化》《部位硬質足》《属性付与:暴風脚》《部位魔力付与:両足》《魔力増強小》《魔力増強中》《魔力増強大》《属性強化:風》《スキル威力アップA》《スキル威力アップS》《絶対命中:因果》《干渉妨害:高》《防御無視:因果》

 リンプス王子とレデンさんの足にとてつもないバフが付いていくのが目で確認できます。

 ですが圧倒的なスキルの量。というか私が昔から恐れているのはこういったスキルをたくさん組み合わせてくるタイプの相手です。ウィズさんの妨害も《干渉妨害:高》がありますし、避けようにも《全体命中:因果》のスキルにより当たることを確定させています。極めつけは《防御無視:因果》これによって障壁や人を庇うと言った行動があっても真っ直ぐ狙った対象に威力を落さず命中します。これは詰んだのではないですか?

レデンさんとリンプス王子が攻撃モーションへと移行します。ただ何もない空間を蹴るだけだというのにその足はどこまでも禍々しく放った瞬間、暴風となりまるで意思を持つように一直線にこちらへと来ます。

「私に任せて」



 セリアさんの声でした。先ほどまでのがくがくと震えていた彼女とは全く違います。私たちの体が一瞬何かに触れたと同時に光りました。この感覚、前にも味わった記憶が……チユさん?

 結果的に暴風は私達へと命中しました。そして致死量レベルのダメージを受けるはずだったのですが痛みどころか当たったのかも怪しいです。

「よかった。みんな無事だ……」

 その言葉を発したセリアさんは安心したのかその場で倒れました。なぜか彼女だけボロボロです。そして私の心に残っているチユさんを思い出させたあの感覚は……。

「セリアさん、他の人のダメージを全部肩代わりしましたね」

 昔、シンさんとクロムさん用に脅しとして使用したスキルです。まさかそれを対象を増やして使用したうえに受けきってしまうとは……ああ、これは確かにヒロインの素質を持っています。グラティアさんも唖然としています。



 私もこの人のために頑張りたくなってしまいますよ。グラティアさん、あなたにセリアさんは渡しません。なぜそのよう感情が沸いてきたのでしょうか?グラティアさんがいるこの空間ではセリアさんに好意を抱く補正は発動していないはずです。この感情と一緒に一つの感覚が私の中にあります。さっき見たグラティアさんのたくさんのスキル、前に見たスキルを合わせる技術、そしてこの感情を入れる器。ああ、すべてがそろっています。この感覚は……



「ゲンキ君……トーカさん……」

 私は二人に向けて器の中身を注いでいるような感覚、でもそれはとても自然にできてしまう。そうするのが当たり前と体が分かっている。

「なんか力が沸いてくる!オイノリーダーすげえ!」

「サラ?いや今はこの力で蹴る!」

 トーカさんとゲンキ君はグラティアさん達に近づき蹴りを入れます。そこから発生した暴風は先ほどの再現です。気づけば暴風がすべてを蹂躙し風が止むころには敵のすべてが無力化していました。倒れ伏すリンプス王子とレデンさんとザブラさん。天界の者でなければ死んでいたかもしれません。あれ?グラティアさんの姿だけがありません。

「素晴らしいです皆さん。わたくしの想像以上でしたわ」

「グラティアさん?どこにいるんですか」

「ここでしてよ!あらすみません!《透過》のスキルを使用していましたわ」

 グラティアさんの姿が徐々に見えるようになってきます。髪も服もボロボロですが、本人はとても元気そうです。

「さすがわたくしのスキル、透過でしのげるはずがありませんでしたわ。因果はやはり強い.。身をもって確信できましたわ」

 しかし、どうやら見えなかっただけで直撃していたみたいです。それでも余裕な彼女の体力、ラスボスかなにかですか?ステータスを確認してみましたが体力自体はやや多い程度でとても耐えられるものではないです。何かほかの手段で対処したようですね。



「えっと、まだ続けますか?」

 戦闘続行の意思確認が先決でしょう。

「いいえ、まだ戦えはしますがとても良いものが見れたので今日はもう満足ですわ。ありがとうございました」

 グラティアさんは降参を選ばれました。そのあとは先生たちが着ていろいろと説明をさせられました。どうやら暴風祭りはよほど目立っていたようです。

 ウィズさん達は説明が面倒と言ってさっさと帰ってしまいましたし。先生への受け答えも私はよく覚えていません。今は自分の身に何が起こったのかを考える時間がほしいです。頭の中はもうそのことでいっぱいでした。

しおりを挟む

処理中です...