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1年後の世界
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目を開けると薄暗い部屋でした。蠟燭の火が部屋全体をゆらゆらと照らしてくれていますが、窓の外の景色を少し確認するとただただ空模様が悪いです。夜?それとも曇り?
事態の確認も大事ですが体がちゃんと動くかチェックしなければ。腕とか足は数回チャレンジしたところである程度動くようになりました。
「う……あ……」
うまく発音ができません。でもすこしならせばいけそうです。しばらく声を出す練習をしていたら、その声を聞きつけたのか私のいる場所へ急いで向かってくる足音があります。
「大丈夫ですか!?」
飛び込んできたのはチユさんでした。少しばかり髪が伸びていたのでちょっとだけ大人っぽく見えます。
「お、おはよーございます」
練習の成果が出たようです。しっかりと発音できました。
「サラさん」
私に近寄るチユさんにそのまま抱き着かれました。久々の抱き着かれノルマです。
「その……ご迷惑をおかけしました。一年も面倒をかけてしまい本当に申し訳ありません」
「知っていたのですか?意識があったってことですか?ということは着替えの口実でやってしまったあんなことも……」
「それは知りません。でも何をしたのか正確に教えてください」
「ナ、ナンデモナイデスヨー。それよりもどこまで現状を把握していますか?」
話しを逸らすように言うチユさん。どこまでと言われても夢の中の人はほぼ何も教えてくれませんでした。
「ほぼ何も知りません。とりあえずここがどこなのか私が眠っている間に何があったのかを教えてください」
少し考えるそぶりをしてチユさんは私に提案します。
「では、玉座にいきましょう。聖女様も今ならいると思いますし」
「聖女様?」
「はい、セリア様のことですよ」
なんとチユさんの話によるとセリアはアルリス教にその力を認められ聖女として扱われているらしいです。
「わかりました。案内してください」
まだちゃんと力の入らない私はチユさんに車椅子に乗せられこの部屋を後にしました。
「すごい作りですね。この施設は何なのですか」
「魔王城です」
チユさんは即答してくれましたが私は困惑します。
「魔王城にいる聖女に会いに行くのですね私は」
「大丈夫ですよ。魔王さんは意外といい人でしたよ。サラさんの先輩なんですよね」
ああ、無事復活したんですねオーマさん。
長い廊下を進みながら軽く情報収集ができたところで大きな扉が見えてきました。
「今開けてもらいますね」
チユさんが扉をノックすると
「入れ」
とすこし貫禄のある声が扉越しに聞こえてきます。声の後に扉が勝手に開きます。魔力を通すことで自動的に扉は開く仕組みみたいです。
城の主との謁見が行われる場所、そういう印象の大広間。その玉座に君臨するという表現が正しいのでしょう。オーマさんこと先輩は鳥の姿ではなく立派な角の生えた人型です。結構様になっていますね。偉そうな姿勢で私の方に視線をむけています。ですが私の目はそれをとらえた瞬間に釘付けになります。
それまで先輩と話していたのでしょう。たとえチユさんからの事前情報がなくても姿をみただけでわかります。彼女は長く美しい銀の髪を今は1つに束ね動きやすい恰好というよりは騎士のそれに近い姿をしています。
「お久しぶりです……セリア」
私の言葉を聞いて目に涙を溜めているようです。申し訳ない気持ちがこみ上げてきます。
「お帰りサラ」
しかし、笑顔で涙を散らしながら私を優しく迎えてくれました。近寄ってきてやっぱり抱き着かれます。鎧の類をセリアが着けていなかったので少し安心です。
「感動の再開をしているところに水を差すようで申し訳ないがそろそろこちらに来てくれ」
先輩はわざとらしい咳ばらいをしてなんとか話に入ってきます。
「あ、先輩すみませんね。今行きます」
チユさんに車椅子を押してもらい先輩と話すのに不自然でない位置まできます
「後輩、お前は俺に対しては軽いなあ」
「先輩、私達はじめて話して2時間後くらいにはもう別れてましたよね」
「それもそうだな、よく考えればほぼ初対面だな」
「それを言うと私とサラもあって2週間くらいしか……」
「セリア、時間じゃないんですよ。そういうのは出会ってからのエピソードがものをいうのです」
「サラさん、本当に聖女様が好きなんですね」
車椅子の上から聞こえる一言。完全にチユさんのことを失念していました。
「いやあのこれはえっと」
「大丈夫ですよ。聖女様より話は聞いていましたし。アルリス教徒をやっていたのでそういうのにも理解があります。それにお二人はとてもお似合いです……ただ」
「ただ?」
「二股なんですよね?」
ニコニコ笑顔の奥に隠された感情が見え隠れしています。
「え?」
「グラティアさんのこと好きなんですよね?」
圧をスキルなしで圧を感じます。
「いや、あれはその」
「今もその気持ちは変わらないんですよね?」
「は、はい」
「はあ、まったくどこで教育を間違えてしまったのでしょう。お姉ちゃん悲しいです」
「お姉ちゃん?」
「はい、お姉ちゃんですよサラさん……いいえ、サラ。私のことはお姉ちゃんと呼んでください」
「チユさんこの一年間で何がったのですか!?」
「チユは変わっていないわ。あなたがそれに気づかなかっただけよ」
セリアの言葉に私は、はッとなります。
「気づいたようね。あなた随分とお世話されていたみたいじゃない」
「それはアルリス教徒の方だから」
「違いますよ。私昔から妹がほしくて勝手にサラを妹のように思っていたの。でもそれはアルリス教徒としてどうなのかというのもあっていろいろ葛藤した結果、私はアルリス教徒をやめました」
「なにをいっているのですか!????」
「魔王さんから話を聞けば聞くほど私の妹をいじめるアルリスさんを許せなくなったからです。それにもうすぐサラ教に変わりますし問題ないですよ」
「え?何を言って」
「私の女神になってくださいね。サラさん」
なぜそれを知っているのですかチユさん?
「その辺の説明をしたいから!そろそろ俺の方を向いてくれないか!」
先輩の大声でようやく本来の目的を思い出しました。まずは情報共有です。チユさんの爆弾発言の数々は気になりますがひとまず棚上げにします。といか先輩が説明してくれることに期待しましょう。
「すみません先輩、説明をお願いします」
私が倒れた後、完全復活を果たした先輩。ザブラさんは先輩を魔王と認識し制御できたようです。ただ一つだけ問題があったようですが大筋に関係ないので省略されました。
ザブラさんを何とかしている間にティーチ先生には逃げられたようです。何ともしぶとい。
その後、入れ替わりでリンプス王子が来たそうです。彼は倒れている私に駆け寄り心配してくれていたみたいです。しかし、それに違和感を持ったのがセリアでした。
同じ部屋の中で愛しのティアが倒れているのに動揺することもなく驚くほど速い行動で私とティアを王族直属の人間に運ばせ医者の手配もし完璧な対応だったそうです。この時にリンプス王子は完璧だったがゆえに怪しいとセリアは感じたのですが、正しい行いをしている人を止めることはできなかったようです。
リンプス王子はその後、私とティアを自分の許可した人間以外には誰とも合わせないようにしたようです。
この行動を許した結果、クーリングオフ用のペンライトと私が魔術の練習にと初日に乗った魔法陣のようなものが描かれた紙を取られてしまったそうです。
そんなものを盗んで何をしたのか。私は嫌な予感がしながらも話の続きをお願いしました。
事態の確認も大事ですが体がちゃんと動くかチェックしなければ。腕とか足は数回チャレンジしたところである程度動くようになりました。
「う……あ……」
うまく発音ができません。でもすこしならせばいけそうです。しばらく声を出す練習をしていたら、その声を聞きつけたのか私のいる場所へ急いで向かってくる足音があります。
「大丈夫ですか!?」
飛び込んできたのはチユさんでした。少しばかり髪が伸びていたのでちょっとだけ大人っぽく見えます。
「お、おはよーございます」
練習の成果が出たようです。しっかりと発音できました。
「サラさん」
私に近寄るチユさんにそのまま抱き着かれました。久々の抱き着かれノルマです。
「その……ご迷惑をおかけしました。一年も面倒をかけてしまい本当に申し訳ありません」
「知っていたのですか?意識があったってことですか?ということは着替えの口実でやってしまったあんなことも……」
「それは知りません。でも何をしたのか正確に教えてください」
「ナ、ナンデモナイデスヨー。それよりもどこまで現状を把握していますか?」
話しを逸らすように言うチユさん。どこまでと言われても夢の中の人はほぼ何も教えてくれませんでした。
「ほぼ何も知りません。とりあえずここがどこなのか私が眠っている間に何があったのかを教えてください」
少し考えるそぶりをしてチユさんは私に提案します。
「では、玉座にいきましょう。聖女様も今ならいると思いますし」
「聖女様?」
「はい、セリア様のことですよ」
なんとチユさんの話によるとセリアはアルリス教にその力を認められ聖女として扱われているらしいです。
「わかりました。案内してください」
まだちゃんと力の入らない私はチユさんに車椅子に乗せられこの部屋を後にしました。
「すごい作りですね。この施設は何なのですか」
「魔王城です」
チユさんは即答してくれましたが私は困惑します。
「魔王城にいる聖女に会いに行くのですね私は」
「大丈夫ですよ。魔王さんは意外といい人でしたよ。サラさんの先輩なんですよね」
ああ、無事復活したんですねオーマさん。
長い廊下を進みながら軽く情報収集ができたところで大きな扉が見えてきました。
「今開けてもらいますね」
チユさんが扉をノックすると
「入れ」
とすこし貫禄のある声が扉越しに聞こえてきます。声の後に扉が勝手に開きます。魔力を通すことで自動的に扉は開く仕組みみたいです。
城の主との謁見が行われる場所、そういう印象の大広間。その玉座に君臨するという表現が正しいのでしょう。オーマさんこと先輩は鳥の姿ではなく立派な角の生えた人型です。結構様になっていますね。偉そうな姿勢で私の方に視線をむけています。ですが私の目はそれをとらえた瞬間に釘付けになります。
それまで先輩と話していたのでしょう。たとえチユさんからの事前情報がなくても姿をみただけでわかります。彼女は長く美しい銀の髪を今は1つに束ね動きやすい恰好というよりは騎士のそれに近い姿をしています。
「お久しぶりです……セリア」
私の言葉を聞いて目に涙を溜めているようです。申し訳ない気持ちがこみ上げてきます。
「お帰りサラ」
しかし、笑顔で涙を散らしながら私を優しく迎えてくれました。近寄ってきてやっぱり抱き着かれます。鎧の類をセリアが着けていなかったので少し安心です。
「感動の再開をしているところに水を差すようで申し訳ないがそろそろこちらに来てくれ」
先輩はわざとらしい咳ばらいをしてなんとか話に入ってきます。
「あ、先輩すみませんね。今行きます」
チユさんに車椅子を押してもらい先輩と話すのに不自然でない位置まできます
「後輩、お前は俺に対しては軽いなあ」
「先輩、私達はじめて話して2時間後くらいにはもう別れてましたよね」
「それもそうだな、よく考えればほぼ初対面だな」
「それを言うと私とサラもあって2週間くらいしか……」
「セリア、時間じゃないんですよ。そういうのは出会ってからのエピソードがものをいうのです」
「サラさん、本当に聖女様が好きなんですね」
車椅子の上から聞こえる一言。完全にチユさんのことを失念していました。
「いやあのこれはえっと」
「大丈夫ですよ。聖女様より話は聞いていましたし。アルリス教徒をやっていたのでそういうのにも理解があります。それにお二人はとてもお似合いです……ただ」
「ただ?」
「二股なんですよね?」
ニコニコ笑顔の奥に隠された感情が見え隠れしています。
「え?」
「グラティアさんのこと好きなんですよね?」
圧をスキルなしで圧を感じます。
「いや、あれはその」
「今もその気持ちは変わらないんですよね?」
「は、はい」
「はあ、まったくどこで教育を間違えてしまったのでしょう。お姉ちゃん悲しいです」
「お姉ちゃん?」
「はい、お姉ちゃんですよサラさん……いいえ、サラ。私のことはお姉ちゃんと呼んでください」
「チユさんこの一年間で何がったのですか!?」
「チユは変わっていないわ。あなたがそれに気づかなかっただけよ」
セリアの言葉に私は、はッとなります。
「気づいたようね。あなた随分とお世話されていたみたいじゃない」
「それはアルリス教徒の方だから」
「違いますよ。私昔から妹がほしくて勝手にサラを妹のように思っていたの。でもそれはアルリス教徒としてどうなのかというのもあっていろいろ葛藤した結果、私はアルリス教徒をやめました」
「なにをいっているのですか!????」
「魔王さんから話を聞けば聞くほど私の妹をいじめるアルリスさんを許せなくなったからです。それにもうすぐサラ教に変わりますし問題ないですよ」
「え?何を言って」
「私の女神になってくださいね。サラさん」
なぜそれを知っているのですかチユさん?
「その辺の説明をしたいから!そろそろ俺の方を向いてくれないか!」
先輩の大声でようやく本来の目的を思い出しました。まずは情報共有です。チユさんの爆弾発言の数々は気になりますがひとまず棚上げにします。といか先輩が説明してくれることに期待しましょう。
「すみません先輩、説明をお願いします」
私が倒れた後、完全復活を果たした先輩。ザブラさんは先輩を魔王と認識し制御できたようです。ただ一つだけ問題があったようですが大筋に関係ないので省略されました。
ザブラさんを何とかしている間にティーチ先生には逃げられたようです。何ともしぶとい。
その後、入れ替わりでリンプス王子が来たそうです。彼は倒れている私に駆け寄り心配してくれていたみたいです。しかし、それに違和感を持ったのがセリアでした。
同じ部屋の中で愛しのティアが倒れているのに動揺することもなく驚くほど速い行動で私とティアを王族直属の人間に運ばせ医者の手配もし完璧な対応だったそうです。この時にリンプス王子は完璧だったがゆえに怪しいとセリアは感じたのですが、正しい行いをしている人を止めることはできなかったようです。
リンプス王子はその後、私とティアを自分の許可した人間以外には誰とも合わせないようにしたようです。
この行動を許した結果、クーリングオフ用のペンライトと私が魔術の練習にと初日に乗った魔法陣のようなものが描かれた紙を取られてしまったそうです。
そんなものを盗んで何をしたのか。私は嫌な予感がしながらも話の続きをお願いしました。
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