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昨日の敵は今日の友、その逆もあります

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 王城から急いでスキル[返送]による転移で鈴の村に着くはずでした……

「セリア、なぜここに?私の知る限りだとここは学院の敷地の森に見えるのですが?」

 なんとなく覚えています。前の試験でセリアと鈴の村の子供たちにも協力してもらった森の試験会場だった場所です。そういえば1年欠席していましたが私はまだ在籍しているのでしょうか。いや今はそんなことに思考を裂いている場合ではありません。

「スキルを妨害された。何者かが返送のスキルをピンポイントで妨害できるスキルを張ってたみたい。スキルを使った場合、強制的にここへ送られる仕組みになってる」

「あの場所で返送を使うことをあらかじめ読んでいたというわけですか。リンプス王子さすがですね」

「違いますよ。あれは僕の考えだ。返送のスキルをセリアさんが所持していることは昔、あなたが僕に教えてくれたんですよ。忘れてしまったのですか」

 ねっとりとしたしゃべり方、顔色の悪さが以前見た時よりもひどい、体つきも痩せこけています。判別するのに少し時間がかかりましたがなんとわかりました。

「一年間で随分と変わり果てたお姿になりましたね。ティーチ先生」

「やあ久々だねサラさん、それとセリアさん。ティーチ先生とは懐かしい響きです。しかし今は教員ではありませんよ。僕は天界に与えられた役職を失い本来ならばいないはずの存在ですから」

「それは大変ですね。それで、そんなあなたがどうしてここに私たちをおびき寄せたのですか?」

「聞かれたならば答えなければなりませんね。あれはあなた達から逃げ出したあとのこと」

 急に語り始めましたね。しかも若干うれしそうです。

「すみませんがこちらも急ぎの用があるので手短にお願いできます?」

「わかっていますよ。少しだけ聞いてください」







 あれは天界へ連絡しようと何度も何度も通信し一度も出てくれなかったアルリスへの不満を自室でぶちまけていた時のことです。

「くそ、学校に戻ったら今度は僕が謎の解雇処分扱いになっています。通信には出ないくせにそういうところには手を回すのが早いじゃあないですか、あのくそ女神さま」

 なぜかカギのかかっていたはずの自室の扉が開いた。

「お困りのようですね。僕が助けになってあげましょうか」

「君は……リンプス王子、なぜこんなところに。ああ、わかりましたよ。アルリスに言われて僕を処分しに来たのですね」

「いいえ違いますよ。あなたに協力してほしくて今日は来ました」

「協力?」

「このままだと、僕もあなたも現魔王であるオーマさんに運が良くて手下、最悪アルリス様とつながっていたということで殺されてしまうかもしれません」

「たしかに奴は僕に恨みがある……いやだ、いやだ」

 この時はもうだめかと思っていた、だが、彼はこんな僕にこう言ってくれたんだ。

「そうですよね。だから協力してほしいのです。あなたの空間魔力支配には可能性がある。僕が来るべき時まで匿います。どうか力を貸していただけませんか?」

 僕に選択肢はなかった気がする。僕はリンプス王子に養われながら自身の加護の強化に明け暮れたのさ。





「そして今、君たちの足止めに成功すればこの世界である程度の地位につけると約束されたのです。というわけで僕の出世の踏み台になってくれるかな」

「神の裁き」

 セリアは判断が早いですね。話が終わると速攻でティーチさんに加護を使用し攻撃しています。まあ彼の加護では魔力しか封じられないので我々の勝ちですが……ってあれ?光の柱がでません。というか力を使おうとしたセリアが苦しそうにしています。

「まったく話を最後まで聞かないからこういうことになるのですよ。僕の前で天界の力は枷になりますよ」

「どういうことですか」

「そのままの意味です。僕の研究テーマは空間魔力支配という加護の強化。前回は天界の力に対してあまりに無力でした。しかし、今は同時に支配が可能!あはははやってやりましたよ。やればできる言うのは簡単ですそれで結果を残せた僕はやはり天才!」

 観察です。こういう時はとにかく観察です。ただしステータス開示をむやみに使わないほうがいいでしょう。現在私は彼の支配の影響を受けていませんし天界の力に反応しているのならここでステータス開示は嫌な予感がします。それにしてもかなり興奮しているようでティーチさんは結構な量の汗をかいていますね。あれ?もしかしてこの加護は短時間しか使用できないタイプなのでしょうか。

「セリアさんを無力化した今、君はもう無力だ。何か打開策を探したほうがいいんじゃないか」

 やはり、ステータス開示を使わせようとしているニュアンスですね。焦っているのか誘導が雑すぎます。



「騙されていますよ、ティーチさん」



 ならばここは彼の興味を引く言葉で私の話へ引き込みましょう。

「は?リンプス王子は僕を信じて色々なものを提供してくれたのです。だましているはずがない」

「いや、そもそもあなたを窮地に追い込んだのがリンプス王子である可能性を考えましたか?」

「どういうことだ」

 やりました。彼は私の話を聞く姿勢を取りましたね。

「どうもこうもリンプス王子があなたを学校から追い出したのではないんですか。そして都合よくあなたの部屋を訪れる。そして余裕のないあなたが飛びつきそうな話を持ってくる。ほら、つじつまが合うでしょ?」

「しかし、アルリスがやった可能性も」

「ああーそれはですね。リンプス王子とアルリス様がつながっているんですよ。先ほど私もリンプス王子に会いましたが、アルリス様の後押しがあったということを言ってましたよ」

「な、なんだと」

「あの者たちはグルです。いままでアルリス様から連絡を受けていたというあなたが無視されました。それはつまりあなたが不要となり新しくそのポジションについたものがいるということですよね。学院から天界への中継はリンプス王子が受け継いだのでしょうね」

 なんかそれっぽいことを並べてみましたが意外と信ぴょう性ありそうなのが怖いです。

「じゃ、じゃあ僕は」

「単に利用したかっただけでしょうね。もしかしたら約束された地位というのも具体的なことを説明されていないのでは?」

「た、たしかに、くっそが!だましやがりましたねあの腹黒王子」

「そうですよね。だまされるのはつらいですよね。でも安心してください。私、ティーチさんが天界へ帰れる方法と王子たちへの復讐、両方ができる計画を思いつきましたよ」

 差し伸べられた手。一応笑顔は作りましたがティーチさんには手を差し伸べた少女がどう映っていたでしょうか。天使のように見えたのならよいのですが。

 この後、この手を取ったティーチさんは驚くほど素直でした。私が必要だからと言えばティーチさんは知っている限りの情報を話してくれました。
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