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妾を持つ町の蕎麦屋の話──『梅翁随筆』より
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本郷菊坂にある菊次の店は、江戸市中に何百何千とある蕎麦屋のなかで、なんの目立ったところもない、ありふれた町の蕎麦屋にすぎなかった。
口のおごった江戸ものをうならせる、特別の蕎麦、酒、肴を出すわけでもなく、男女連れや宴席の客を呼び込むための凝った店構えやしゃれた内装、仕掛けもない。ぎりぎりの金繰りで菊次が持てたのは、六畳ほどの狭い座敷席とぎりぎりに押し込んで置いた縁台ひとつの味も素っ気もない店だった。
だが、菊次は、
──馬鹿にしたもんじゃ、ねえぞ。
口にこそださなかったがいつでもそう念じていた。
店を開いて以後毎日、習い覚えたやり方で材料を吟味し、出汁を取り、麺を打つことだけは守り通した。安酒のいっぱいも注文せず十六文しか出さないしみったれた客も何度が来てくれれば馴染みに遇した。かけの注文がはいれば、器まで熱々のを即座にこしらえてやり、立ち上る湯気と濃いめの汁で、底冷えの江戸で冷気に凍える客の体を溶かし、心を奪おとした。蕎麦屋と名乗るかぎりはとさすがに店に二階はあったが、狭いうえに立地も悪く、出会い茶屋のように色事目当ての男女の秘密の場所にするのはできなかった。そのぶん愛嬌のある若い娘雇って女房のほかに店に出した。愛想をふりまかせるだけでなく、掃除と手入れを怠らないようにさせた。菊次じしんが、乱雑な店の様子だけでなく、器だの箸だのが汚れているのに辛抱ならなかった。
風鈴ならして屋台を担ぐ立ち売りを抜け出して店持ちとなって以来、そうやって地道に店を守ってきた菊次は、もう四十の声を聞くころであった。そろそろ奉公にだす歳となった息子を料理の腕を磨かせてはどうかと考えるまでになっていた。菊次の店は他人様からはたかが町の蕎麦屋にすぎなかったとしても、菊次にはおのれと家族をどこまでも守り、支えてくれる城となり得ていた。
とはいえ、変哲ない町の蕎麦屋の稼ぎなどたかがしれている。だから、店に雇った十七、八ばかりの小娘とふとしたはずみでに肌を重ねる羽目なったときには、その時限りの仮初の交わりとしかおもえず、よもやその女を妾にすることになろうとは微塵も想像しなかった。
菊次にとって意想外だったのは、それが女にとって初めての房事だったことだ。菊次は玄人女がきらいで、素人とばかり何人もと寝ていたが、そんな女は女房の他にはなかった。ほかの男の手垢がついていない、そう考えると妙に女が清らかで、とても得がたいものに見えてきて、一度こっきりという戒めはあっさりと破られた。二度三度と女房の目を盗んで、二階の立て込んだ一角で慌ただしく体を交えてしまうと、これほど有難い女を他の男に触れさせると思うだけで怒りがこみ上げるようになった。誰ともしらない男たちとひとりの女を争う妄想から抜け出せなくなると、惚れちまったと菊次は考えるのが癖だった。こうして菊次は人生を複雑とする道に一歩一歩踏み入れていった。
そのころ、振り売りの蔬菜売りだった女の父親が板付いた。若い時からぐすぐすとくすぶっていた労咳が、軽い風邪をきっかけに長年の戦いにけりをつける勢いで突然燃え上がって、親爺の口から血を吐かせた。母親は、女を出産したよとあと気の病とやらで一度も働いていない。一日中家のなかでぶらぶする以外にない身上であったが、亭主が寝付くとこっちの病もぶり返したようになった。亭主が熱にうかされれば、それに呼応するように、叫んだり、わめいたりして、病状に一喜一憂していては心が参ってしまうと心の平静を保とうとする娘の邪魔しかななさない。療養の費用でかさんだ家計を、蕎麦屋の手伝い程度で支えることができるはずもない。小袖、単衣のくたびれた普段着からはじまり、商売道具の天秤棒、鍋釜、最後に簡素な仏壇まで質草としてしまうと、どれも似た境遇の縁者は頼りにならず、銭の算段は尽きる。
こうなると早晩、娘は親のために身売りするしかない。周りのだれもがそれを当たり前だと思っている。その算段をもちこむ者もどこからかわいてくるが、菊次の女のばあい、子供のときに会ったきりで顔も覚えていない叔父が見舞いと称してやって来た。不忍池のまわりにぐるり連なって立つ、新しい種類の「茶屋」のひとつを世話してやると言う。「遊女奉公でもあるまい、通いでいいんだぜ。親爺の看病にも、それが好都合だ」と、笑顔で勧めてくる。だが十両もの支度金を用意してくれるという言葉で、女にも、親爺にもその奉公、「茶屋」の正体が知れた。どうやら、その怪しげな茶屋の主人は、女が菊次の店で働いている姿を見に来て、売り物となる女の値踏みまで終えているらしい。女の母は、叔父が請人には俺がなってやるというのを聞いて、それが御礼の要求だとはきづかない。「ありがたや、これで助かった」と無邪気な喜びの声をあげる。
女が菊次の店を辞めると言いだして、菊次はこれらの経緯を初めて知った。それを聞いた菊次は、最初自分でも妙なのだが、それだけ値打ちある女をものにした自分への賞賛を得た気分になった。これで女を手放すのがなおさらに惜しくなった。俺の情けしか受けたことのない女を、他の男たち抱かれるにまかせるのか、と考えると嫉妬で煮詰まったように体が熱くなった。
給金のほかに心付としてわずかばかりの金を余計に渡してみても、こちらの思うような反応を女は返さない。通りいっぺんに喜んでみせはするが、茶屋の支度金にとらわれた女の母と、親切ごかした叔父の、どうするどうするを、そんな端金でいつまでもかわせない。、このままでは、こいつをもう抱くことができない、脂ぎったどこぞのど助平のきたならしい陰茎でしつこく小突かれるかと思うと、果てても果ててもいくらでも女に体に挑みかからずにはいられなかった。もう女なしの生活が思い描けない。
ついには、女の両親に話をつけるために乗り込む以外になくなった。女がその父母と暮らす長屋の一室は、惣後架(共同便所)に一番近くにあって、そこからの匂いが風通しの悪く、水気を多く含んだ部屋の空気にこもって、鼻が慣れるのにすこし時間がかかるほどだった。
娘の親との話し合いもその濁った空気の中で淀んで、簡単にはまとまらなかった。世話をする、面倒をみるとという曖昧な言い方で、女の母は簡単には折れない。もっと条件のいい茶屋の誘いがつねに頭にあるに違いない、くちを開けば十両、十両とく繰り返した。それからやにわに、月々の手当、少なくとももう一間ある部屋への引越とその払い、そして親爺の療養代という、女を世話するつもりなら当然の費をつぎつきと挙げた。そのどれ一つとっても、妾の旦那を名乗るつもりならもっともなもので、菊次には返す言葉がなかった。
菊次にも自分の無理はわかっている。それなりに繁昌していても、やはり町の蕎麦屋が女を囲おうなど了見違いもはなはだしい。いくらかの蓄えはある。後先なくそれを使い尽せば、しばらくはもうひとつ家族を養えはする。たが、そんなものすぐに終わりが来るのは誰にでもわかる。他人事でしかなかった世話物狂言の境遇にいつのまにが自分が置かれているよう思えてくる。
──おいおい、この俺が、心中ってかい。
一言も発さない娘は押し黙っているが、菊次にはその芝居じみた気分が娘にも染まっている気がして恐ろしくなる。
そのとき、うすい夜着をかぶって伏したまま、咳を時折するばかりであった親爺が、菊次と女房のやりとりに割って入ってきた。
「あんたに、……預ける」
痰がからんでかすれていたが、腹から振り絞ったような強い声だった。居合わせる三人の皆がびくりとなった。それが何を言いたいのかただちには測りかねて、しばし室内が静かになる。井戸から水を汲む音が引き戸越しにぎいぎいと聞こえ、よどんだ室内の匂いがまた甦った。
最初に反応したのは、母親だった。菊次の出現で娘の良縁の行方にけちがつけられたようになって、気持ちが昂じていたところを急にせき止められ、お前さんまで私の邪魔をする気なのかと、わきあがる不安が止めどなくなり、ぎえぎえとわけのわからぬ奇声をあげた。
親爺は女房の壊れ方に慣れているに違いない。しばらくそのまま取り乱れたままにしておして、やがて疲れて静かになるまでただ待っていた。さほど体力もない病みがちな女の気勢はすぐにしぼんだ。
「ただ、あんたがいつまでも」、親爺はきれぎれに語り継いだ。「面倒をみる甲斐性はあるまい、……縁づくまでの間をあんたが見てやれ」
菊次は、その言葉をかみしめるようになんども思い巡らし、親爺の真意を考えて、最後にあぜんとした。
──娘をだれかに縁づけろ、俺に媒(なかだち)をせい、そういうことか。
どうやら、そこまで間の二人の関係には口をはさまない、ともほのめかしている。密通だの、不義だの騒ぎはしない。
どうやら、親爺は娘の気持ちを蔑ろにしまいと決めたのだ。思いつめた様子を見てとって、とんでもない末路にだけは嵌まらせはしないと。菊次の妾になるのを許してやっても、先はない。けっきょく、身売りするのを遅らせるぐらいの役にしかたたない。娘を苦海に沈めたくないなら、それをいちばん厭うはずの菊次に託そうというに違いない。
女の母はまだぶつくさと呪いの言葉を吐いていたが、
「へい、私がちゃんとした相手をお捜ししたしやす」
という菊次の返事で、ようやく矛をおさめたみたいに落ちついた。
こうして菊次は、女との付き合いを許されるかわりに、その年若い愛人の嫁ぎ先を見つけるとという役目を請け負うことになったのだった。
口のおごった江戸ものをうならせる、特別の蕎麦、酒、肴を出すわけでもなく、男女連れや宴席の客を呼び込むための凝った店構えやしゃれた内装、仕掛けもない。ぎりぎりの金繰りで菊次が持てたのは、六畳ほどの狭い座敷席とぎりぎりに押し込んで置いた縁台ひとつの味も素っ気もない店だった。
だが、菊次は、
──馬鹿にしたもんじゃ、ねえぞ。
口にこそださなかったがいつでもそう念じていた。
店を開いて以後毎日、習い覚えたやり方で材料を吟味し、出汁を取り、麺を打つことだけは守り通した。安酒のいっぱいも注文せず十六文しか出さないしみったれた客も何度が来てくれれば馴染みに遇した。かけの注文がはいれば、器まで熱々のを即座にこしらえてやり、立ち上る湯気と濃いめの汁で、底冷えの江戸で冷気に凍える客の体を溶かし、心を奪おとした。蕎麦屋と名乗るかぎりはとさすがに店に二階はあったが、狭いうえに立地も悪く、出会い茶屋のように色事目当ての男女の秘密の場所にするのはできなかった。そのぶん愛嬌のある若い娘雇って女房のほかに店に出した。愛想をふりまかせるだけでなく、掃除と手入れを怠らないようにさせた。菊次じしんが、乱雑な店の様子だけでなく、器だの箸だのが汚れているのに辛抱ならなかった。
風鈴ならして屋台を担ぐ立ち売りを抜け出して店持ちとなって以来、そうやって地道に店を守ってきた菊次は、もう四十の声を聞くころであった。そろそろ奉公にだす歳となった息子を料理の腕を磨かせてはどうかと考えるまでになっていた。菊次の店は他人様からはたかが町の蕎麦屋にすぎなかったとしても、菊次にはおのれと家族をどこまでも守り、支えてくれる城となり得ていた。
とはいえ、変哲ない町の蕎麦屋の稼ぎなどたかがしれている。だから、店に雇った十七、八ばかりの小娘とふとしたはずみでに肌を重ねる羽目なったときには、その時限りの仮初の交わりとしかおもえず、よもやその女を妾にすることになろうとは微塵も想像しなかった。
菊次にとって意想外だったのは、それが女にとって初めての房事だったことだ。菊次は玄人女がきらいで、素人とばかり何人もと寝ていたが、そんな女は女房の他にはなかった。ほかの男の手垢がついていない、そう考えると妙に女が清らかで、とても得がたいものに見えてきて、一度こっきりという戒めはあっさりと破られた。二度三度と女房の目を盗んで、二階の立て込んだ一角で慌ただしく体を交えてしまうと、これほど有難い女を他の男に触れさせると思うだけで怒りがこみ上げるようになった。誰ともしらない男たちとひとりの女を争う妄想から抜け出せなくなると、惚れちまったと菊次は考えるのが癖だった。こうして菊次は人生を複雑とする道に一歩一歩踏み入れていった。
そのころ、振り売りの蔬菜売りだった女の父親が板付いた。若い時からぐすぐすとくすぶっていた労咳が、軽い風邪をきっかけに長年の戦いにけりをつける勢いで突然燃え上がって、親爺の口から血を吐かせた。母親は、女を出産したよとあと気の病とやらで一度も働いていない。一日中家のなかでぶらぶする以外にない身上であったが、亭主が寝付くとこっちの病もぶり返したようになった。亭主が熱にうかされれば、それに呼応するように、叫んだり、わめいたりして、病状に一喜一憂していては心が参ってしまうと心の平静を保とうとする娘の邪魔しかななさない。療養の費用でかさんだ家計を、蕎麦屋の手伝い程度で支えることができるはずもない。小袖、単衣のくたびれた普段着からはじまり、商売道具の天秤棒、鍋釜、最後に簡素な仏壇まで質草としてしまうと、どれも似た境遇の縁者は頼りにならず、銭の算段は尽きる。
こうなると早晩、娘は親のために身売りするしかない。周りのだれもがそれを当たり前だと思っている。その算段をもちこむ者もどこからかわいてくるが、菊次の女のばあい、子供のときに会ったきりで顔も覚えていない叔父が見舞いと称してやって来た。不忍池のまわりにぐるり連なって立つ、新しい種類の「茶屋」のひとつを世話してやると言う。「遊女奉公でもあるまい、通いでいいんだぜ。親爺の看病にも、それが好都合だ」と、笑顔で勧めてくる。だが十両もの支度金を用意してくれるという言葉で、女にも、親爺にもその奉公、「茶屋」の正体が知れた。どうやら、その怪しげな茶屋の主人は、女が菊次の店で働いている姿を見に来て、売り物となる女の値踏みまで終えているらしい。女の母は、叔父が請人には俺がなってやるというのを聞いて、それが御礼の要求だとはきづかない。「ありがたや、これで助かった」と無邪気な喜びの声をあげる。
女が菊次の店を辞めると言いだして、菊次はこれらの経緯を初めて知った。それを聞いた菊次は、最初自分でも妙なのだが、それだけ値打ちある女をものにした自分への賞賛を得た気分になった。これで女を手放すのがなおさらに惜しくなった。俺の情けしか受けたことのない女を、他の男たち抱かれるにまかせるのか、と考えると嫉妬で煮詰まったように体が熱くなった。
給金のほかに心付としてわずかばかりの金を余計に渡してみても、こちらの思うような反応を女は返さない。通りいっぺんに喜んでみせはするが、茶屋の支度金にとらわれた女の母と、親切ごかした叔父の、どうするどうするを、そんな端金でいつまでもかわせない。、このままでは、こいつをもう抱くことができない、脂ぎったどこぞのど助平のきたならしい陰茎でしつこく小突かれるかと思うと、果てても果ててもいくらでも女に体に挑みかからずにはいられなかった。もう女なしの生活が思い描けない。
ついには、女の両親に話をつけるために乗り込む以外になくなった。女がその父母と暮らす長屋の一室は、惣後架(共同便所)に一番近くにあって、そこからの匂いが風通しの悪く、水気を多く含んだ部屋の空気にこもって、鼻が慣れるのにすこし時間がかかるほどだった。
娘の親との話し合いもその濁った空気の中で淀んで、簡単にはまとまらなかった。世話をする、面倒をみるとという曖昧な言い方で、女の母は簡単には折れない。もっと条件のいい茶屋の誘いがつねに頭にあるに違いない、くちを開けば十両、十両とく繰り返した。それからやにわに、月々の手当、少なくとももう一間ある部屋への引越とその払い、そして親爺の療養代という、女を世話するつもりなら当然の費をつぎつきと挙げた。そのどれ一つとっても、妾の旦那を名乗るつもりならもっともなもので、菊次には返す言葉がなかった。
菊次にも自分の無理はわかっている。それなりに繁昌していても、やはり町の蕎麦屋が女を囲おうなど了見違いもはなはだしい。いくらかの蓄えはある。後先なくそれを使い尽せば、しばらくはもうひとつ家族を養えはする。たが、そんなものすぐに終わりが来るのは誰にでもわかる。他人事でしかなかった世話物狂言の境遇にいつのまにが自分が置かれているよう思えてくる。
──おいおい、この俺が、心中ってかい。
一言も発さない娘は押し黙っているが、菊次にはその芝居じみた気分が娘にも染まっている気がして恐ろしくなる。
そのとき、うすい夜着をかぶって伏したまま、咳を時折するばかりであった親爺が、菊次と女房のやりとりに割って入ってきた。
「あんたに、……預ける」
痰がからんでかすれていたが、腹から振り絞ったような強い声だった。居合わせる三人の皆がびくりとなった。それが何を言いたいのかただちには測りかねて、しばし室内が静かになる。井戸から水を汲む音が引き戸越しにぎいぎいと聞こえ、よどんだ室内の匂いがまた甦った。
最初に反応したのは、母親だった。菊次の出現で娘の良縁の行方にけちがつけられたようになって、気持ちが昂じていたところを急にせき止められ、お前さんまで私の邪魔をする気なのかと、わきあがる不安が止めどなくなり、ぎえぎえとわけのわからぬ奇声をあげた。
親爺は女房の壊れ方に慣れているに違いない。しばらくそのまま取り乱れたままにしておして、やがて疲れて静かになるまでただ待っていた。さほど体力もない病みがちな女の気勢はすぐにしぼんだ。
「ただ、あんたがいつまでも」、親爺はきれぎれに語り継いだ。「面倒をみる甲斐性はあるまい、……縁づくまでの間をあんたが見てやれ」
菊次は、その言葉をかみしめるようになんども思い巡らし、親爺の真意を考えて、最後にあぜんとした。
──娘をだれかに縁づけろ、俺に媒(なかだち)をせい、そういうことか。
どうやら、そこまで間の二人の関係には口をはさまない、ともほのめかしている。密通だの、不義だの騒ぎはしない。
どうやら、親爺は娘の気持ちを蔑ろにしまいと決めたのだ。思いつめた様子を見てとって、とんでもない末路にだけは嵌まらせはしないと。菊次の妾になるのを許してやっても、先はない。けっきょく、身売りするのを遅らせるぐらいの役にしかたたない。娘を苦海に沈めたくないなら、それをいちばん厭うはずの菊次に託そうというに違いない。
女の母はまだぶつくさと呪いの言葉を吐いていたが、
「へい、私がちゃんとした相手をお捜ししたしやす」
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