僕の先輩は総受けだと思っていたのに

おとや

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男子校で男同士の恋愛が発生する、なんてのは物語の中だけだ。本当はめったにそういう事は起こらないし、もしバレたら変な目で見られる事は避けられないだろう。

それは、憧れだったのか恋だったのか。
剣道部に入った頃、面倒をよく見てくれた1つ年上の黒谷先輩は、とても優しくて真面目な人だった。好きか嫌いかと問われれば、間違いなく好きだった。彼の友達だった少しやんちゃな同級生山岡先輩に目を付けられた俺は、ある日誰もいない部室で彼に押し倒された。可愛い顔をしているから、気に入った。俺と遊んでみないか?などと言われ、ズボンを下ろされた所に黒谷先輩たちが入って来たのだ。黒谷先輩が状況を理解する前に、部室に入ってくる他の2年の先輩達。山岡先輩はあろうことか自分の同級生たちの目の前で「後輩に襲われた」などと言い出した。
頭が真っ白になり何も言い返せない俺と、呆然と俺を見つめる黒谷先輩、被害者ヅラの山岡先輩、ほかの2年の先輩たち。何とか黒谷先輩が庇ってくれたけど、噂はたちまち広まっていった。
先輩を部室で襲った後輩がいる。
それも、剣道部の部室で。
どれだけ違うと主張しても、噂はどんどん広がっていった。俺を庇おうとした黒谷先輩にまで迷惑が掛かる。
大好きだった剣道部を辞めて、それからは小説の中で剣道を続けることにした。人とも距離を置いて誰とも関わらないようにして。
それを心配した剣道部の同級生たちが、最後の学園祭の舞台に出るように説得に来てくれたのだ。これは、剣道の試合でもなければ練習でもない。ただもう一度、最後にこのメンバーで何かをしたい。彼らの思いを受け止めての最後の演舞。二度と握る事はないと思っていた竹刀を握って、忘れたはずの体に染み付いた型を思い出す。心が、体が、震えるようだった。
風が舞う。戦えと叫んでいるかのように。
音がなり、映像が流れ、止まっていた時が動き始める。桜が散る事を知りながら咲き誇るように、剣道士としての自分を終わらせる為に舞う最後の演舞。それは、美しくも儚くて。

その輝きは一人の少年の目に留まった。

ーーーーーーーーーーーーー

試験が終わって、僕は祐樹先輩に過去問を返すため食堂に来ていた。食堂の隅に彼はいて、小説を読んでいるのが目に入る。
「こんにちは、先輩。すいません、遅くなって。お待たせしました」
顔を上げた先輩と目が合う。先輩はにっこりと笑って本をテーブルに置いた。
「大丈夫、僕も今来たばかりだから。それに、3年の校舎の方が食堂に近いから、兼村君の方が早かったらびっくりするよ」
名前を読んでもらえてにやけてしまいそうになるのをぐっと抑えて、僕は借りていた過去問の入ったファイルを渡す。
「ファイルもそのままもらってください。ぐちゃぐちゃになると困るから」
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて」
ファイルをテーブルに置いて、かわりにテーブルに置いてあったビニールの手提げを僕に差し出す。
「はい、小説。読み終わるまでずっと預かってくれてていいから。恥ずかしいから誰もいない所でひっそりと読んで」
「ありがとうございます!分かりました。誰もいない所でひっそりとですね」
祐樹先輩から小説を預かった僕は読みたい気持ちを抑えた。先輩に先に食堂でお昼を買ってくるように勧める。先輩は僕に先にお昼を買いに行くように言ってくれたけど、僕がなかなか折れないから、先に先輩が折れてくれた。
「すぐに戻ってくるから」
そう言って先輩は席を離れる。
食堂を見渡すと、今日はわりと空いているように見える。
授業が終わったばかりで、お弁当の生徒もいるからか食堂は半分ぐらい空いている。この感じだと売り切れる事は無いだろう。
僕はテーブルに視線を戻した。そこには先輩が置いていった小説が置いてある。一体どんな小説を読んでるんだろう。そっと手にとって、悪いと思ってテーブルに戻す。そんなことを繰り返していると、祐樹先輩が戻って来てしまった。彼はクスクス笑っている。
「さっきからすごく挙動不審。何してるの?」
「あっ、えっと、ごめんなさい。どんな小説読んでるのか気になって・・・・・・」
「中身は見た?」
祐樹先輩がニヤリと笑う。
「見てないですけど・・・・・・」
「官能小説だって言ったらどうする?」
官能小説・・・・・・それって、エッチな小説ってこと!?
意味を考えてしまい、わたわたしながら真っ赤になる僕に、先輩は冗談だよと言って笑う。
その笑顔が可愛くて、でも祐樹先輩ってこんなキャラだったっけ?少し意地悪な先輩にドキドキしながら、僕は自分の心を誤魔化すように席を立った。

先輩でもそんな小説を読むんだろうか?
確かに同級生たちはそういうお年頃で、写真集だったり、小説だったりをこっそりと持っている奴もいる。仲のいい友達の中にも、そういう小説を持ってる奴はいたし、借りたことすらあった。でも、あんなに純粋そうな祐樹先輩が・・・・・・?どう考えても、結び付かなくて、小説の勉強の為に無理に読んでいる可能性まで考える。
そういえば、先輩は彼女とかいるんだろうか?
好きな人は?
彼女がいるならまだ諦めはつく。けれど、同じ学校の生徒だったらどうしよう?
そもそも先輩は女性が好きなんだから、僕が入り込める隙なんて端から無いのだけど。自分で考えて悲しくなってくる。ラーメンを乗せたトレーを持って席に戻ると、先輩は僕が戻るのを待っていてくれた。
「先に食べてくれて良かったんですよ」
「麺類だったらそうしてたよ?親子丼は伸びたりしないからね。さぁ、食べよう!」
祐樹先輩の優しさに触れる度に嬉しくて、少しだけ苦しくなる。報われることの無い想いに、少しだけ蓋をして。今はこの幸せを感じていようと思うのだった。
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