鬼神伝説オボロガミ

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祭り第一日目 木曜日(1)「花之江の伝説」

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 夏休み、オレは「花之江市」の親戚の家に遊びに来ている。花之江の夏まつりに合わせてね。
 花之江夏まつりは、回り灯篭をかざる七夕や鶏舞(お神楽の一種)の群舞が有名な四日間のおまつりだ。ほかにも踊りのパレードや、お神楽の公演とかいろいろあるけど、いちばん盛り上がるのは、なんといっても三日目の花火大会かな。花火1万発、風川っていう川で打ち上げるんだけど、打ち上げ担当してるのはうちのお父さんの会社なんだ。
 オレんちは「秋月煙火工業あきづきえんかこうぎょう」という花火の会社を経営していて、お父さんが社長だよ。(亡くなったおじいちゃんからうけついだんだけどね)
 大きな会社じゃないけど、おじいちゃんが2回、お父さんが1回、全国花火競技会で賞をもらってる。花火の世界ではそれなりに知られた会社なんだ。
 花之江の花火は、おじいちゃんの代から担当している。
 
 花之江にはうちの親戚がいる。
 小学校の国語の先生をしている、大ちゃんこと大介おじさんの一家だ。
 大ちゃんに、奥さんの美奈ちゃん、おばあちゃんと三人の子供たちで、計六人家族だよ。
 うちの亡くなったおじいちゃんと、大ちゃんが子供のころ亡くなった大ちゃんのお父さんは兄弟だから、お父さんと大ちゃんはいとこ同士なわけ。
 大ちゃんとお父さんは子供のころから仲良しで、お互いに「大ちゃん」「ヒロ」(お父さんの名前はひろし)って呼び合う仲だ。
 オレも、お父さんやお母さんが大ちゃんて言うから、チビのころから大ちゃんって呼んでる。
 おじいちゃんと子供のころのお父さんも、今のお父さんとオレのように、毎年お泊りしてたんだ。
 
 オレは、お祭り初日から電車で来て泊めてもらう。
 お父さんは花火の仕込みがあるから、打ち上げ前日の金曜日の夜に来て、大ちゃんとお酒を飲んでカラオケで騒いで、当日の朝、会社の人たちと合流するんだ。(いつもはお母さんも来るんだけど、妹の花を生んだばかりなので今年は来ない)
 オレだけなんで早く来るかというと、大ちゃんの子供たちと遊びたいからだ。
 大ちゃんの子供たちは、おんなじ六年生の舞ちゃん、四年生の陽介、あとチビの真奈ちゃんの三人だ。
 このなかで、特にヨースケとは気が合う。
 お互い釣り好きだし、ゲームも対戦格闘とか同じようなのが好きで、一緒にいると楽しい。
 マナちゃんはまだ保育園のおチビちゃんだけど、ひとなつっこくて可愛いんだ。
 で、同級生のマイちゃんだけど……昔から民謡教室やダンススクールに通っていて、歌や踊りが得意でさ。花之江の市民劇団で子役としても活動してるんだ。やるのはミュージカル、市民ミュージカルだ。将来は女優さんになりたいんだって。
 ま、それはそれでいいんだけど、行った初日の夕飯時に、去年の市民劇のDVDをムリヤリ見せられるのがツラい。
 わるいけど、正直あんまり面白くないんだよね。
 だいたい地元のえらい人のお話とか多くて、よく知らないし、マイちゃんが主役っていうわけでもないしさ。
 でも、おもしろそうに見ないとマイちゃんが怒る。絶対。
 そうなると、オレが真城に帰るまで一切口をきかないというヒジョーにつらいことになる。
 おととし三年生の時、やっぱり変な巫女さんのミュージカル見せられて、おもしろい?って聞くからつい「おもしろくない」って正直に言ったら、怒っちゃって帰るまで口をきいてくれなかった。
 だから楽しい四日間を過ごすためにも、一時間半、がんばらないといけないんだ。
 ヨースケが姉ちゃんのDVDを見せられるときはココロを無にするんだそうだ。
 ヨースケはなんでもズケズケ言う子なので、つい余計なことを言ってマイちゃんを怒らせるからだろうね。
 

 今年のDVDがようやく終わった。
 今回は花之江の名物のダンゴの話だった。
 ダンゴのミュージカルだった。
 マイちゃんは、「ダンゴの妖精」の役だった。
 ダンゴ馬鹿と呼ばれたトクサブローが、妖精たちに励まされながら、ずんだ(エダマメをすり潰した東北の食いもの)とあんこをダンゴに入れて名物「ずんだんご」を作り上げるまでの涙と笑いの物語――。
 
 コレは、おもしろいんだろうか。
 わからない。
 でも(冷や汗をかきながら)最後まで見た。
 おもしろそうに。
 
 DVDが終わってホッとしてたら、マイちゃんがハナイキも荒く言った。
「ケンちゃんよかったね!ケンちゃん、今年はマイの舞台がナマで見られるよ!」
「エ?ナ、ナマ!?」
「そ!土曜日にね、ケンちゃんのパパの花火の前に、風川のおまつり広場の特設ステージで野外劇の公演があるの!マイ、準主役だよ‼︎」
「ジュンシュヤク!?でも、マイちゃんの劇って年末じゃあ……」
 ドッと冷や汗が出てきた。
「だから特別公演よ!年末のはまた別にあるから楽しみにしてね!それより見て!これポスター!」
 そう言って、マイちゃんは大きなポスターを広げて見せた。
 「ジャジャーン!『鬼神伝説オボロガミ~少女の祈りが奇跡を呼んだ』よ!」
 

 目がたくさんある青い丸顔の鬼?の絵があって、その妖怪と戦う?お坊さん?の下に、着物を着て、なにかに祈りをささげるマイちゃんの写真が大きくあしらわれたポスターだ。
「少女はマイなの!マイの祈りが奇跡を呼ぶの!」
「あ……そう!そうか!あの……オボロガミってなに?」
 オレが思わず言うと、大ちゃんが教えてくれた。
「うん、花之江に霊願寺れいがんじっていうお寺があるんだけど、そこに秘密のうちに伝えられてきた絵巻物が、おととし公開になってね。これなんだけどね」
 大ちゃんは、大きなタブレットでどっかのサイトを見せてくれたんだ。(つづく)
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