通り魔少女殺人事件

本田ゆき

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とある少女の1日

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 それは、なんて事のないある日の昼下がりの事だった。

 何処にでもありそうな閑静な住宅街の中を、1人の女子高校生が歩いていた。

 少女は黒髪のセミロングに前髪をピンで留めており、制服は模範通りに着こなしてはいるが優等生らしいという訳でもなく、ヤンキー娘でもなくごく普通の一般的な何処にでも居る様な少女である。

 そんな少女は耳にワイヤレスイヤホンをつけており、今流行りの曲をランダム再生しながら帰路についていた。

 少女が歩いている住宅街は人気もなく物静かで、少女にはイヤホンから流れる曲以外の小さな雑音は全てシャットダウンされていた。

 そんな少女の進行方向とは逆の遠くの方から少女側の方向へと誰かが歩いて来ているのが少女の視界の隅に映る。

 その誰かはどうやら黒い上着にジーンズを着た男で、歳は40代半ば程に無精髭を生やしており更には髪も少しボサボサであり、見るからにあまりよろしくない見た目をしていた。

 うっわぁ。見るからにやばそーなおっさんじゃん……。

 少女は心の中で男を侮蔑しつつ顔に出さない様警戒しながら歩を進めた。

 そして、そんな男と少女がすれ違う瞬間ーー

「ーー死ね」

「え?」








 ◇



「きゃあああっ!!!」

 閑静な住宅街の中、突如少女の叫び声がこだました。

 その声を聞きつけた周りの家から数人の住人が何事かと窓を開けたり玄関から外に出てきて、事態に驚愕する。

「う、うわぁ!! お、お嬢ちゃん、大丈夫かい!!?
そこの男は……死んでる!?」

 少女の制服には血が飛び散り、そのまま歩道に腰を抜かしてぺたりとしゃがみ込んでいた。

 そして、その少女の目の前には、首元から血を垂れ流して倒れている男の姿があった。

「あ……あぁ……わ、私……。
う、うぅ……」

 それを見かねた近場の男性は警察と救急車を呼び、近所のおばさんは少女の方へと歩み寄った。

「大丈夫かい? 怪我はしてない?
今救急車と警察が来るから」

 おばさんはなるべく優しく少女に声をかけるも、少女はまるで心ここに在らずの様に俯いている。

 その後、男は救急車で運ばれ駆けつけた婦警が少女に事情を訊こうとすると、少女は泣きながら釈明しだした。

「わ、私……その、男に、ナイフを向けられて……さ、刺されるのが怖くて抵抗しようとしたら、ナイフの取り合いになって……その時、私が足を滑らせて、ナイフが……お、男の喉を……」

 しどろもどろに、泣きそうになりながら話す少女に、婦警も、その場にいた近所の人達も同情の眼差しを向ける。

 そして少女はその後警察官と共に警察署へと連れて行かれ事情聴取を受けるも、少女の言い分におかしなところも特になく、状況からしても正当防衛から起きた悲しい事故として少女は無罪となった。

 後に男は死亡が確認され、少女は不審者の男を返り討ちにしたとして一時期全国ニュースに取り上げられお昼のワイドショーを騒がせていた。

 男の素性も全て明かされた結果、男は事件の2年前に妻と離婚、その原因が安定した職に就いていなかったという事だと判明し、失うものが少ない事から社会に対する憂さ晴らしや欲求不満などの理由で犯行に及んだのではと推測されこの事件は幕を閉じた。




 ◇

「はぁ~」

 男は深く溜め息をついてはぼうっと自分の足元を見ていた。

 もうそろそろ妻と別れて2年になる。

 妻と別れた原因は不況の中での就活に失敗し続け、中々定職正社員につけなかった為である。

「俺が不甲斐ないばかりに……」

 男がそんな事を考えていると、ちょうど目の前から今時な感じの女子高校生が歩いてきた。

 男はチラリと少女を見やる。

 ……娘は今頃高校3年生で受験生のはずだ。

 妻と一緒に出て行った娘は元気にしているのだろうか……。

 しっかり勉強しているのだろうか?

 まあ、しっかり者の妻についていったのだから、心配はないとは思うが、第一志望の学校があるのなら無事に行ける様に俺も養育費を沢山払わなきゃな。

 少女を見て男は自分の娘の事を思い出していた。

 そしてそんな少女とすれ違い様。

「死ね」

「……え?」

 耳元で少女の声とは思えない程ドスの効いた声が聞こえたと思ったら、次の瞬間目の前が真っ赤に染まっていた。

 痛いと感じるより先に頭は真っ白になる。

 今、俺には何が起こっている?

 どうして?

 倒れながら少女を見やると、少女は手にナイフを持ちながら薄く微笑んでいた。

「ねえおっさんさ、こっちをいやらしい目で見ないでよ。
気持ち悪いからマジで。
如何にも人殺しそうなくらい辛気臭い顔しちゃってさ。
いずれ犯罪者になるだろうあんたなんて、?」

 この少女は、一体何を言ってるんだ?

 少女の声ははっきりと耳に入ったが、しかしもう脳に血が回ってないせいか意味までは理解が出来ない。

 ただ、なぜ俺は少女に殺されたのだろう?

 少女はふふっと笑いながらナイフを男の手に握らせる。

 そして男の疑問に答えるかの様に1人呟きだした。

「ふふ、一度人を殺してみたかったんだよねぇ。
でも普通の人を殺したら犯罪じゃん?
だからおっさんみたいな如何にも犯罪に走りそうな見た目の奴が丁度居てくれて良かったよ。
襲われそうになったところを正当防衛で殺してしまった。そう言えばきっと誰も私の事を疑いはしないだろうしね?」

 遠くなる意識の中、少女がそう呟いた後、少女の叫び声が高らかに鳴り響き、そして男は生き絶えたのだった。
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