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第一章

心臓怪火 4

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 ◇



「よぉアイリスちゃん、それに、リトも元気か?」

 アイリスが玄関の扉を開けると、そこには情報屋のおっさんが立っていた。

 情報屋は三十代後半くらいのおっさんで、身長は百八十センチ前後程、焦げ茶の緩い天パの髪に中折れ帽を目深に被っており、その瞳は帽子の影で色までははっきりと見えない。
 顎には無精髭を生やしており、まさしく「おじさん」と形容するに相応しい見た目をしていた。
 服装はシャツにズボンに薄手の茶色いロングコートと少し渋めなスタイルで、コートの色は本人の気分でたまに変わったりする。
 因みにこのおっさんは自称情報屋として働いており、珍しく裏にも表にも属さない中立とやらを貫いているらしい。
 なので相手が誰であろうと仕事を引き受けては情報を売ったりしており、表では警察、裏ではマフィアだのと繋がりがあるとかないとか。

 それから情報屋はアイリスの顔を見るなり片手をあげてニヤリと笑いながら挨拶してきた。

「あ、情報屋さん。こんにちは」

 アイリスは相変わらず無表情なままそう挨拶する。

 この女、アイリスは見た目は十代半ばくらいで身長は恐らく百六十もなく、この国にしては小柄で華奢な方であり、またこの国では珍しく下が薄ピンクに上が鮮やかな紫色の袴という和装をしていた。
 髪型は長いストレートの黒髪を赤い大き目のリボンでハーフポニーテールに結んでおり、足元は革で出来た編み上げのロングブーツを履いている。
 顔はぱっちりとした二重の黒い瞳に薄い血色付いた小さな唇ととてもバランス良く整っており、可愛いというよりは綺麗と形容した方が似合うその顔立ちはまるでよく出来た日本人形なるものを彷彿とさせられた。
 お陰で、街を歩けばよく男性にナンパされるくらいにはモテている。
 更に本人は殆ど感情を表に出す事なく普段はずっと無表情な為、本当に人形じみていた。

 そして、俺はまるで人形の様なこの女が大っ嫌いだった。

 殺したい、と切に願う程には。

「何だよここまで来て仕事の依頼か?」

 俺は渋々アイリスと情報屋のいる玄関の方まで話を聞きにやって来た。

「まあそうなんだがその前に……。

同棲生活ももう一ヶ月くらいか?
どうだ? ちったぁ仲良くなれたかい?」
「ふざけんなよマジで。
俺はてめぇのふざけた依頼の為に仕方なくこいつと住んでるだけで仲良くなる気なんて一切ねぇよ」

 ケラケラとふざけた様に問い掛けてくる情報屋を俺は思いっきり睨みながら答えた。
 何が同棲生活、だ。こんなふざけた奴と誰が仲良くなるもんか。

「おいおい、そんな恐い顔すんなよ。
そんなお前さんにストレス発散になる素敵なお仕事用意したんだからよ」

 どうどう、とまるで猛獣でも落ち着かせるかの様に情報屋は俺を手であしらう素振りをしつつアイリスに新聞紙を手渡した。
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