息子が異世界から帰ってこないのでちょっと連れ戻しに行ってきます〜母・美智子の大冒険〜

本田ゆき

文字の大きさ
1 / 8

第1話

しおりを挟む
 私、田中美智子。
 ごくごく普通の専業主婦です。
 旦那は普通のサラリーマンで、息子は高校2年生になりました。

 私は今日も今日とて、平日の午前を掃除機をかけたり、洗濯したり、アイロンかけしたり、といつもの日常を過ごしておりました。

 あの電話がかかってくるまではーー


 プルルルと、私のスマホに突然電話がかかってきた。
 着信は息子の貴志からだった。

(あの子から電話?まだ学校の筈じゃ……)

 私は不思議に思いつつも、電話を出る。
 
「はい、もしもし」

「あ、すみません、貴志さんのお母さんでお間違いないでしょうか?」

 私は眉をひそめた。
 確かに息子からの着信だったはず……
 しかし、電話口からは見知らぬ女性の声が聞こえてくる。

「そうですけれど、すみませんがどちら様でしょうか?」

「失礼しました。私、町田総合病院の受付の今野と申します」

「……病院?」

 私は思いもよらぬ電話にびっくりする。

「落ち着いて聞いてください。
実は、あなたの息子の貴志さんが車に轢かれて今こちらで処置をしております」

「え!?」

 私は言われた意味がすぐに頭に入らなかった。
 貴志が轢かれた?
 そんな、何故?

「お母さんも病院の方へいらして下さい」

「は、はい!すぐに向かいます!」

 私は電話を切った後急いで外着へと着替え、タクシーを呼んで病院へと駆けつけた。
 受付へ行くと、すぐ様病室へと案内された。

 そこには、ベッドの上で呼吸器をつけて眠っている貴志の姿があった。

 その横に白衣を着た医師が立っていた。

「先生!貴志は、うちの子は大丈夫なんですか!?」

 私は医師の方へと詰め寄った。

「お母さんですね?貴志君の容態なんですが、命に別状はありません」

 私はそれを聞いて少し安心する。
 ですが、と医師は暗い顔で話を続けた。

「脳は正常に機能しているはずなのに、意識が戻らないのです」

「え?それはどういう事ですか?」

「実は、貴志君は外傷が少なかった分、心臓へのダメージが大きかったのか、うちに運ばれてきた時には心臓が動いていない状態だったんです。
それで、手術をして回復したのですが」
「何故か、どこにも身体異常がないはずなのに、目覚めないのです」

「異常がないのに、目覚めない……?
つまり、植物人間ということですか?」
 
 私は青ざめながら質問する。

「いえ、植物人間というのは、大脳というところが機能していない状態です。
しかし、貴志君の脳は正常に動いています」

「そして、ここ最近では、全国的に患者が増えてきています」

「え?全国的に?」

 私は訳が分からず聞き返す。

「ええ、それで今色々と調べられているのですが、その患者達は、脳が凄く活発に動くのです。
そこで考えられているのが、もしかしたら意識だけ別の世界へと行っているのでは?という事です」

「意識だけ、別の世界へ?」

「はい。そしてその脳波を元に、もしかしたら健常者でもそちらの世界へ行けるのでは?と開発が進められ、今まだ世に出てはいませんが、テスト段階としてその機械が出来上がっているのです」

「えーと……」

 私は話についていけなくなる。

「そこで、あなたにお願いがあります。
あなたも貴志君の行ってしまった別の世界へ入ってくれませんか?」

「それは、つまり、そこに行けば貴志の意識がある、ということですか?
でも、そんなのどうやって?」

「口で説明するよりも、見て貰った方が早いので、こちらへ来ていただけますか?」

 すると、医師は私を別室へと案内した。

 そこには、色んなグラフがうねうねと動いているモニターが沢山あり、その中央に、ベッドがあった。

「うわぁ、凄いですね。
まるでドラマの中の研究室みたい」

 私はそう感想を言う。

「このモニターは、数々の脳波を元に作られたものです。
今回は貴志君の脳波の世界へ入るので、そちらに合わせます。
因みに、この脳波が今現在の貴志君の脳波です」

 私はそうモニターを見せられる。
 そこにはグネグネと線が動いていた。
 やはり、脳は正常に動いているらしい。

「こちらの脳波を、この機械へと連動させます」

 そう、医師は何やら頭に被る様な形の機械を手に持っていた。

「これを被れば、あなたは貴志君の意識の世界へと入れるはずです」

「あの、一つ質問してもいいですか?」
「はい、何でしょう?」

 私は言葉を考えながら質問する。

「その、機械を使えば誰でも貴志の行ってしまった、別世界?とやらに行けるんですか?」

「実は、全員が全員行ける訳では無いのです。
どうやら個人差もある様ですし、ただ、身内の方だとその世界に入りやすいと言われています
因みに、私自身も試したのですが、私は駄目でした」

 そう医師は苦笑いする。

「そうなんですね……」

「後、一応今のところ実験でこの機械を使っても命に別状は無かったので、そこはご安心下さい。
ただ、念の為、意識の世界へ行くのは一日一時間のみとさせて頂いてます。
もしよろしければ同意書にサインを頂ければ……
もちろん、怪しいなと思いましたら、お断りしても構いませんので」

 そう医師は私に同意書を渡してきた。

「でも、これ以外で貴志が助かる方法は無いんですか?」

 医師は悩みながら答える。

「今のところ、残念ながらありません。
こちらも手を尽くしたのですが、他に異常がない為、手の出しようがないんです
このまま自然に意識が戻るのを待ってもいいのですが……」

 私はごくりと唾を呑んだ。

「分かりました。お受けします」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

処理中です...