心を手にのせて

水乃南歌

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18 護符と懸念

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いろいろと勉強してからでないと形にはできない。
神殿なるものを自分の目で見て確かめよう、と思って出かけてから3日。

私は今、幸せの絶頂にいる。

護符だよ。護符、護符。
護符にはたくさんの神字が書いてあるんだもん。
なんでもっと早く神殿にお参りに行こうと思わなかったのかなー、私。

護符には小さい記号みたいなのや、模様みたいにしか見えない崩したものまで書かれていて、でも、全部神字だと思うんだ。
どこまでが一文字になるのかすらわからないけど。

持っていったお金で4枚の護符を買えて、そのうちの1枚を解読中なのだ。
うん、これは厄除けっぽいかな。
『病魔を祓う』とか『呪を祓う』って読める。
この模様みたいな文字を解読できたら一気に読み進める気がするのに、むむむ。

そういえば神殿ってギリシャ神殿みたいなのを想像していたけれど、どちらかというと日本の神社っぽかった。
門は赤で、敷地は真っ白。
そしてどうやったらここまで光るのかっていう真っ黒の建物だった。
……閻魔様でもいそうだな。ぶるぶる。

そこで売られている厄除けの護符。
なんだかすっごくご利益がありそうじゃない?

私は日本にいた時、神様の存在を近くに感じたことはなかった。
もちろん信じてはいたけれど、自分の道を決めるのも辞めるのも自分自身の意思だったし、頑張ったのも諦めたのも自分自身の判断だった。
けれどここは神様の意思をもっと身近に感じて生活してるんだなって思う。
職業おしごとも『神様の言う通り』だもんね。

ようやく1枚分の護符を解読し終わって、護符の形ではなく一文として神字で紙に書き上げた。
3日もかかってしまったから、達成感がすごい。

うん、満足。
はあ、幸せ。

私はそれを一旦机の上に置いて、お湯を沸かすために立ち上がった。
いつもは聞こえないことが多い、1つ向こう側の鈴の音が聞こえたからだ。

「シャシー、イクスターナル様を連れてきたよ」
やってきたのはハイチとイクスターナル御一行様だ。

ハンカチが出来上がったとハイチに伝えてその日のうちに取りにくるとか、イクスターナル様がこのハンカチをいかに心待ちにしているのがわかってしまう。
これは一体何の役に立っているのかな。
聞いてもはぐらかされてしまうからわからないんだけどね。だから深くは聞くまい。
お貴族様の秘密を探ろうなんてほど命知らずでは無いのだ。

お茶をお出ししてハンカチを渡すと、イクスターナル様がいつものように肩の力を少し抜いてそれを懐に収めた。
「で、今は何を書いているんだ?」
イクスターナル様は新しい物語だと思って、机の上の紙を覗き見て……顔を強張らせた。

「其方ら、少し離れよ」
ヒタゴラ様達が紙を覗き込む前に、硬い声が命じる。
ハイチが心配そうに私を見て、イクスターナル様に従った。

彼らが壁のあたりまで下がるのを確認すると、イクスターナル様がなにかを唱えた。
私とイクスターナル様が、あの壁の様なとろっとしたドームに包まれる。
中を見ようと思えば見えるような、見えないような白っぽい壁だ。
つまりこれで声は外に届かなくなり、姿は朧気にしか見えないようになったってことだ。

「コンシャシー、これは何だ?」
こんなに厳しい顔のイクスターナル様は初めてだ。
私、何をやらかしてしまったのだろう。
怯えた顔でイクスターナル様を見上げる。

「いや、すまない。怖がらせるつもりはなかったのだ」
イクスターナル様がふと息を抜くと
「私でも知らない神字が混ざっている。どこでこれを知ったのか」
と問われた。

「この間、神殿で護符を買ってきたのです」
私は買い求めた護符をイクスターナル様に見せた。

「このうちのどれがこの神字の部分だ?」
しばらく護符を眺めた後、イクスターナル様が指で紙を突いた。
きっとそれがイクスターナル様の知らない神字なのだ。

「え、と。この辺りです」
それは複雑に絡み合う模様の部分。その1文字を解読するのに丸っと1日かかってしまった。

「これが神字だと、どうして気がついたのだ?」
とても不思議そうに見つめられ、私は何も考えず答えてしまった。
「似た物を見たことがあって」
と。
あれは、展示会の小篆を躍らせて書いてあった作品だったと思う。

「そして其方はこの神字が神字で間違っていない、という自信があるわけだ」
「え」
私はその強い言葉に顔を上げて、自分の選択が間違えていたことを知った。

しばらくどちらも言葉を発することなく見つめ合う。
と、イクスターナル様が光るペンを懐の包みの中から取り出した。
以前、イクスターナル様と契約を結んだ、あのペンだ。
私の背に冷やりとした汗が伝った。

「同じ物をこれで書いてみてほしい」
その目には先ほどまでの険しさは見られない。
私は震える手でペンを預かり紙に向かうと、心を落ち着けた。

この護符は、正しい心を守るための護符だ。
正しい心を守るために、心身が健康であることが必要ならばそれも含めて守ってくれる。
……魔を祓って。

だからやましい気持ちで書いてはいけない。

私は一文字一文字、正しい書き方で書いた。
試験に必要な何かを欺くための書き方ではなく、脳に直接語りかけてきた書き方だ。
書いているといつもよりものすごく、ものすごく疲れた気分になった。

手が痺れてきた。あと、一文字、と。

書けたあ。
ほっと息をついて、ペンをイクスターナル様の近くに置いて。
そして書き上がった紙を見た私とイクスターナル様は……言葉を失った。

これは、何?

書き上がった文字は、書いている間は黒色のインク文字だったはず。
全ての文字を記し終わり結した時、ふわりと光ったその文字はオパールのゆらりとした輝きを持った。
それはあの、差出人が不明の返信と同じ。

「コンシャシー、其方は神字が何であるのか、知っているのではないか?」
その問いに、なんと答えればいいのだろう。
私は困ったようにイクスターナル様の次の言葉を待った。

イクスターナル様は何かに気づいたのだろうか。

「コンシャシー、何を書いてもかまわぬ。けれど私が渡した本に載っていない、新しい神字で記されたものは私に見せるま誰にも見せてはならない。いいな」
深くため息と共に吐かれた言葉は、不思議と胸に残った。

イクスターナル様は神殿で買ってきた護符には手をつけず、私の書いた物だけ集めると懐に入れた。
練習用に書いた形になっていないものまで、全部だ。
そして気がついたように私の手を見つめる。

「コンシャシー、手を」

私の手を握ると、私の小指についている白い指輪と彼の手についているそれとをカチリと合わせた。

この指輪は神殿で得ることができた私のお財布だ。
ハイチもテイラも指に銀の指輪がはまっていて、なんのためのものかなと思っていたけれどお財布だったらしい。
これでバー車の支払いもテイラがしてくれたんだよね。

いつもなら帰る際にヒタゴラ様からお金を預かるのだけれど、ここで済んでしまった。
楽ちんだ。

そして気がついた。
私の指輪とイクスターナル様の指輪は白色なんだけど、ハイチ達のは銀色だ。
白の指輪と銀の指輪、何か違うのかなあ。

そんなことを考えていたら、ピコっと浮かんだ情報で2万カーネの譲渡があったことがわかった。
「貰い過ぎです!」
いつもの倍!
2万カーネって、日本円で20万円くらいの価値があるよね?

「刺繍の分とこの護符の写しの分だ。其方はこの後たくさん金銭が必要となるだろうから、貰っておきなさい」

って何その嫌な予言は!
え、私、ものすごい借金を抱える予定でもあるの?
今日のイクスターナル様のおかしな様子も相まって……不安がどっと押し寄せた。

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