TMB ~良い冒険者の三ヶ条~

余るガム

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TMB ~良い冒険者の三ヶ条~

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 冒険者は三つに分かれる。

 一つは語源となった『未知の領域を踏破とうはし白紙の地図に新たな世界を書き込んでいく者』。二つはその日暮らしや急場しのぎ、小遣い稼ぎを目的とした『若干じゃっかんの危険地帯でなんらかの自然物を採取する者』。
 そして最後は現在主流である『比較的人間の領域に近い場所に生息する魔物を狩る者』。

 本人に名誉や金と言ったじつがあるため数が多く、なおかつ派手で分かりやすい最後者さいこうしゃのものを指して『冒険者』と呼ぶ場合がほとんどなので、『対化け物用傭兵ようへい』などと揶揄やゆされる彼ら。

 そんな彼らの中では『良い冒険者の三ヶ条』なるものがまことしやかにささやかれていた。
 いわく、それらすべてに当てはまる冒険者は大成たいせいするのだと。

 一つ、Technique……『技に長けている事』。
 魔物の圧倒的な能力の高さに対して、人間のそれは余りにも無力である。ただの攻撃ではまともなダメージは見込めず、魔物の攻撃を盾と鎧で受けるなど論外だ。故に弱点に攻撃を集中させる正確さと、すべての攻撃を避けてしまう機動力、そしてそれらを成立させ続ける技術が必要なのだ。

 二つ、Merciless……『容赦がない事』。
 どんな不道徳な人間でもやろうと思わない、思いつきもしないラインがある。それがなんであるかは個人によって違うが、魔物相手に手段を選ぶ余裕など存在しないのは人間なら全員共通だ。故に卑しく、汚く、無慈悲に、徹底的でなければならない。

 そして三つ目は……。

◆◇◆◇


 爪。
 この単語から連想するのは、やはり人間の薄く、脆いそれだろう。更にそこから連想するのは、掌の飾りぐらいのものだろうか。

 しかしここに断言しよう。
 爪とは『武器』であると。

 ドラゴンほど極端である必要はない。農村の人間であれば遭遇しうる、比較的身近な動物……例えば、熊。そう、ちょうど今対峙たいじしている、この獣で十分だ。

 人間のそれと比較にならぬ分厚さ、強靭きょうじんさ、鋭利えいりさ。
 並べたてられた粗悪そあくなナイフにも等しいそれを何百kgという体重と、そこから生まれる剛力ごうりきによって振るう。
 更に普段から地面を踏みしめ、木に傷をつけているそれらが衛生的なわけもなく、病魔びょうまという毒まで塗り込まれている。

 これが武器でなくてなんとする?

 きっと人間の体に当たれば、肉をき命をつのに十分だ。

 だが、当たらなければどうということはない。
 今眼前がんぜんで俺を狙い、空を切って地面を叩くそれも同様だ。

 ステップでさっさと致死圏内ちしけんないから離脱りだつした俺は仲間のアレフが振るう武器に合わせて銃撃じゅうげきを叩き込む。
 アレフの獲物えものである糸鋸いとのこぎりむちの速度と柔軟性で互い違いの刃を魔物に食い込ませる、裂傷れっしょうと出血で敵の体力を奪う為の武器だ。

 強靭きょうじん皮膚ひふに弾かれて嫌がらせや牽制けんせい程度の意味しか持たない銃弾も、糸鋸いとのこぎりかれた後なら話は別。
 肉の内側にまで食い込んだ刃は魔物がひるむのに十分な痛みをもたらした。

 そして俺たち冒険者は、魔物がひるんだその隙を逃さない。

 握りこんだ砂で目つぶししながら、反対の手で銃を構える。
 空に向かって放ったそれは当然魔物に当たらない。

 しかしこの銃声で足音を掻き消されたルークは爆音とともに打ち出されるくい……パイルハンマーで左足を狙う。
 火薬の力で打ち出されるそれは、重量もあって魔物の皮膚ひふを打ち抜くのも十分。

 潰れた足では満足に動けない。

 戦闘開始からずっと設営をしていたヨーゼスの対化け物用設置型バリスタがその魔物の頭をぶち抜き、戦いは終わった。

◆◇◆◇

「相変わらずニトのけは神懸かみがかってるな」
「あんな鈍重なのを相手に言われてもな……」
「いやいやだからこそ、よ。確かに遅かったけど、それってつまり超パワーって事だろ? 並みじゃあ怖気おじけづいてあそこまで引き付けられねえ」
「ハッ。魔物が超パワーなんて当たり前の事だろ。どいつから何を食らっても死ぬんだから、大差ねえっての。俺からすれば、アレフの糸鋸いとのこぎりの方が神懸かみがかってると思うね。なんだって金属の鞭をあそこまで正確に動かせるのか……仲間に当たるんじゃないかと並みじゃあ怖気づいて振れやしない」
「言われてるぞアレフ」
「俺としてはルークがあのパイルハンマーの反動に踏ん張れる理屈がわからん。お前魔物じゃないのか?」
失敬しっけいな。充分な衝撃しょうげきが伝わってから腕を引いてるだけですよ。それに作り手のヨーゼスさんの器用さも大概たいがいでしょう」
「つまらないものは、それだけで良い武器ではありえない」
「……こいつは人間離れっていうか、浮世離うきよばなれだよな」
「分かる」

 冒険者たちは、酒を飲んでいた。
 酒精によって空回りを続ける頭に『今更』なんて言葉があるはずもなく、過去に10度は繰り返した話題をまた蒸し返す。

 されど品性を失わぬのは冒険、否、狩りによって鍛えられた精神力の成せる業か。

 彼らの夜はこうして更ける。
 日中に魔物を狩り、その報酬で安酒に耽溺し、適当に切り上げて眠りにつく。
 まだまだ駆け出しの彼ら。栄光も知名度もありはしない、社会の落伍者扱いされる彼ら。

 しかし死ぬ直前に見る走馬灯の中では、きっとこういう瞬間が最高に輝いているのだろう。
 彼らは、死の淵に居るからこそ、その尊さを知っていた。

◆◇◆◇

 翌日彼らの手に入れた依頼は、実に簡単なものだった。
 なにせこれは二つ目……『若干じゃっかんの危険地帯でなんらかの自然物を採取する者』の仕事だからだ。

「トゼスクワベなんて何に使うんだ?」
「さあ……ハーブの類だったと思うが……ヨーゼス、知ってる?」
「遅効毒として便利であるが、片栗粉と共に煮詰めると白い丸薬となり、内蔵賦活ふかつに大変効果的である」
「全然違うじゃねえか」

 こういった依頼では達成できる人間が多く、故に単価は低い。
 本来は近場で出来るものを同時に受けるのがセオリーなのだが、普段高単価な魔物狩りに勤しむ彼らにそんなハウツーがあるわけもなく。

 とはいえハウツーなど無くてもなんとかなる程度の戦力を有しているのも事実。
 魔物を避ける術。鉢合わせても逃げる術。手荷物の範疇でより多く採取するための目利き。その荷物つきの状態でも帰られる術。
 魔物など片端から狩ればいい。目利きが無くとも、大量に持って帰れば実入りはある。行きに駆除したのだから、帰りに魔物がいるとも考えにくい。

 貯蓄が一日大きめに削れるだけで、さしたる問題など起こるわけがない。
 それは楽観でも希望的観測でもない、正当で順当で妥当な、ごく当たり前の評価。

 だが、そんな実力者集団に何故採取なんて仕事が回ってきたのか。
 何故他の専門家がこの仕事を取らず、門外漢の所まで流れてきたのか。

 依頼そのものの目利きも出来ぬ彼らには、分からぬことなのだった。

◆◇◆◇

 今回の仕事では、ヨーゼスは留守番だ。
 魔物に対抗できるだけの強力な火力を出せる彼だが、それは複雑なバリスタを現地で素早く組み立てる敷設能力からなる。大した脅威もないだろう今回の仕事で、彼の大火力は過剰もいいとこ。

 それに彼の絡繰りもずっと使えるわけではない。

 ああいう大掛かりな絡繰りはきちんと手入れしなければいざというときに動かない。歯車も弦も消耗品だし、休ませなければ弓の弾力も落ちる。

 さらに言うと、トゼスクワベに対する知識からも分かる通り、毒も薬も彼が手ずから拵えているものだ。単純な休息以上に、彼には時間が必要だった。
 今回採集の仕事を受けたのは、そういう事情もあったりする。良い薬は素材からして高価なのだ。

 そして、命に関わる薬を安物で作るわけにはいかない。

「ふむ……? 妙だな」

 異変に気付いたのはアレフだった。

「どうした」
「生物の息吹が聞こえん……ここいらにはもう虫一匹おらんぞ」

 それを聞いて全員が一気に神経を尖らせる。

「……確かに、居ないな」
「緑の深さから見て、いくらいてもおかしくないはずだが」
「といっても、ここいらの生物分布なんて知りませんしねえ」

 安全を追求できるそれらの情報は普段この辺りに来るような連中の間で秘匿されており、どこまでもいっても門外漢な彼らは情報取得も出来なかったのだ。
 なので、とても強力な魔物の縄張りに入り込んでしまった可能性もある。その魔物を恐れて逃げたと言うなら、ここまで生物がいないのも頷けてしまう。

「どうする。逃げるか?」
「まだ早い。ここいらはまだまだ深層ってわけでもないんだ。確かに不自然だが、強力なのがいるとも限らん。仮にいたとしても本業に戻るだけだろう」
「同感です。むしろ大物を探しに行きたいほどですね」
「ふっふ。だろうな」

 全会一致だった。
 ここで聡明たるは、一目散に逃げだすことであると全員が理解していたが、その上で全員が挑みかかる事を良しとしていた。

「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」

◆◇◆◇

 20分後。

 彼らの前にソレは現れた。

「おお……こいつか、原因は」

 それは大きな、人間の数倍はあろうかという軟体、いや、液体生物。
 ゲル状の肉体をどういう原理かひとまとまりに取り止め、触れた生物を飲み込み、消化する魔物。

 狩りづらさと酷い悪食で、特に蛇蝎の如く忌み嫌われる魔物、スライムだ。

 スライムは食事量でその体積が決まり、生まれたばかりとなればピンポン玉より小さい程。
 しかし目の前にいるコイツは人間の数倍のサイズときた。おそらく千単位の命を食い漁ったのだろう。

 これほどのサイズならば現在の人員では不足だ。
 狩るのならばヨーゼスの毒を放り込むのが一番だが、このサイズに効くような劇薬は取り扱いからして特殊であり、ヨーゼス以外は持ち運びしない取り決めがある。

 そして、今そのヨーゼスはいない。

「逃げるぞ」

 今度は誰も反対しなかった。
 万全の状態であれば十分射程圏内の魔物だが、同時に今の状態では決して狩れないとも全員が理解していたからだ。

 幸いスライムは動きが遅い。待ち伏せ奇襲が主な魔物だ。
 冒険者の中でも機動力に優れる彼らならば、振り切って逃げられる。

 そうして振り返り、駆けだそうとした瞬間。

「!」

 ニトがその場を大きく飛びのく。
 つい先ほどまでニトが立っていた部分には、スライムの欠片が突き立っていた。

「こ、こいつッ」

 スライムの基本は待ち伏せと奇襲。
 しかしこのサイズでは待ち伏せなど出来ない。そしてスライム……それも大型の脅威は人間だけでなく魔物も知っている事で、見つければとりあえず逃げるだろう。

 ではなぜこのサイズまで巨大化したのか。巨大化する程の食事が出来たのか。

 それがこれだ。

 この個体は自分を見ると他の生物は大抵逃げ出すことを理解していた。
 そして、逃げだす個体はスライムが鈍重な魔物であり、逃げる自分を追撃する手段は無いと思い込んでいることも。

 だからこの個体は自分を切り離して射出する『飛び道具』を使って狩りをし始めたのだ。

 自分から逃げ出そうと背を向けた瞬間。その時点で相手は『緩む』から。
 その緩みを待ち伏せて、緩んだ所を奇襲する。

 今の一撃にしたって、ニトだから避けられたのだ。直感的に攻撃を察知する、生粋の避けタンクだから。
 だが、あの狙撃を連発できるとすれば。誰もスライムの狙撃を警戒しないのは、知った奴を全員葬ってきたからだとすれば。

 背を向けての撤退は、出来ない。

 逃げられない。倒せない。
 ならば最善の手はこれしかない。

「ニト、命令だ」

 命令。
 自由を歌い上げる彼らにとって、仲間内で言われるこれは事態が重篤であるかを物語る。
 もはや、自由にやっていては全滅する。そんなときのための合図だ。

「ここで死ね」
「任せろ」

 その一言と共に、ニトはスライムに向かって駆けだした。
 これに慌てたのはスライムだ。何せこいつは自分から逃げ出す存在しか知らなかった。向かってくるなんて想定外だったのだ。

 その想定外での精神的硬直を見て、ニト以外の全員がバラバラの方向に逃げ出した。
 スライムは条件反射的に狙撃をするが、動揺したままでは精密射撃とはいかず、外してしまう。森の中というのもあって、木に阻まれた弾も多くあった。

 結果、誰一人命を失うことなくスライムの射程距離外まで逃げ延びた。

 否、ただ一人ニトだけが、注意を引き付けるようにその場にいる。
 もはやニトは逃げられない。逃げても今度は完璧に狙い撃ちされるだろうし、それが助かっても他のメンバーを追われてはここに残った意味がない。

 ニトがここにいる意味。それは仲間が逃げる時間を稼ぐこと。
 自分の足掻きで仲間が助かる。命を捨てるには十分過ぎる理由だ。

「さーてと。付き合ってもらうぜ、ゲル野郎」

 あるいはスライムに人語を解するだけの知能があったか。
 ニトの挑発は彼の欲しがっていたものを彼にもたらした。

 つまりは、スライムの殺意を。

 ドパァン!

 スライムの体が突如弾け飛ぶ。
 弾丸だ。ニトの銃は既に発砲されていた。

 だがスライムも液体生物。これを容易く埋め直すや、ニトに挑みかかった。
 自分の一部を射出する技術の応用だろう。大量の触手を生やして襲い掛かる。スライムは鈍重、なんて知識が冗談に思える高速で。

 しかしニトはその上を行く。

 銃を持ち換えたニトは一気に6発を発砲し、スライムの触手を全て迎撃した。

「フリントロック式6連装『対人』銃。南方で開発された最新型だぜ……複雑で繊細な連装機構のために威力は低いが……ゲル野郎の触手をぶち抜くならこれで十分だ」

 魔物に使うには威力重視の単発銃ですら火力不足だが、人間に使うなら過剰だった。
 火力を下げてでも連装銃にした方が、人間に使うなら便利なのだ。

 そしてどこまでいっても液体でしかないスライム、それも切れ端の触手程度ならば、これでも十分吹き飛ばせる。

 だが、当然この大質量の全てを、という訳にはいかない。
 元々威力が低いのもあるが、この対人銃はニトが個人的に所有していた、いわば趣味の一品だ。魔物狩りが本業の彼が対人銃の弾薬などそう多く持っているわけではない。
 魔物狩りである彼にとって能動的な盾以上の価値を対人銃に見出すことは出来なかった。

 勿論普通の銃ならば対人銃以上に威力はあるし、弾薬も豊富に持っているのだが、それでもスライムを殺しきれるほどではない。

 ニトはもう『スライム相手の時間稼ぎ』以外のことは出来ず、後はその稼いだ時間が長いか短いかだけなのだ。

 こうして彼の絶望的な撤退戦は始まったのだった。

◆◇◆◇

 どれほど時間が経っただろうか。
 疲労と集中で朦朧とする意識の中、ニトは自らに迫りくる触手を回避した。

 もはや懐には一発の弾薬もなく、銃も対人銃も投げ捨てて久しい。
 そしてそれ以外に武装を持っていないニトにとって、もはやできるのは回避だけだった。

 背中を向けて逃げるわけにはいかない。今のコンディションでは背後からくる狙撃を避けることは出来ないだろう。

 もう仲間たちは拠点に帰り着いただろうか。少なくともこのゲル野郎の索敵範囲外には行っただろう。
 昨日飲んだ安酒と駄弁った雑談が脳裏をよぎって涙が出そうになる。

 ああ、またあんな酒が飲みたい。
 安くていい、下らなくていい、仲間さえいればそれでいい。

 そんな思いが雑念となったか。あるいは体力が限界だったのか。
 ニトの腹を小さな欠片が貫いた。これまでは50㎝ほどだったというのに、いきなり5㎝レベルを差し込まれては、どちらにせよ回避はできなかったかもしれない。

「こぷっ……」

 ぱすん。

 間抜けな音が聞こえた。
 見ると、スライムの体表に白い粉がまぶさっている。粉は茶色い革袋から出ているようで、当然ニトに覚えはない。

 だが明らかすぎる人工物だ。

「見るが良い、汝の血の穢れたるを。こんなものが、まともな命に流れるものか」

 その仰々しく、どこか浮世離れした言葉遣い。
 ああ、やっぱり、そんな奴一人しかいない。

「ヨー、ゼス」

 今は町で調整やら調薬やらやっていたはずの男の名を叫んで振り返る。
 ヨーゼスが一人ソリに乗って、他の連中が引っ張ってきたようだ。

 多分、移動中に急ごしらえであの白い粉を調薬していたのだろう。

 そんな予想を広げてから、ニトは自分を未熟者と叱咤しながら。
 それでも、多大な安心感に包まれ、意識を失った。

◆◇◆◇

 その後の顛末については、拠点のベッドで目覚めてから聞いた。

 曰く、投げつけたアレはヨーゼスの用意した毒であるらしく、それをあびたスライムは酷く身を捩ってから、変な音を出しつつ逃げて行ったらしい。体積と毒性を見る限り、死んではいないだろうとはヨーゼスの談。
 浅層とは言え森と拠点を一気に往復するなんて事をした彼らに追撃の体力などあるはずもなく、腹に風穴が開いたニトをソリに乗せてまた拠点までとんぼ返りしたそうな。

 薬学を修めるヨーゼスでも流石にはらわたをどうこうするなんてことは出来ず、医者を呼んで開腹、縫合を施したらしい。
 その後薬香だのなんだのを共有資産から惜しみなくぶち込んで、今ニトが目覚めたという訳だ。

「気分はどうですか?」
「天国にいる感じがする」
「異常なし、と……」

 顛末を聞いてから、ニトは気になっていたことを問うた。

「俺の銃は?」
「ああ……見つかってません。残念でしたね、あなた専用に色々カスタマイズしたのに」
「やっぱりか。見つかってたら枕元に置いとくぐらいの気遣いはするだろうからな」
「暗殺者でも警戒してるんですか? あ、そういえば暗殺者で思い出しましたけど、良く対人銃なんて手に入りましたね。しかも南方製の最新型なんて……」
「ちょっと伝手があってな。もう使えないだろうが……」

 重々しい溜息を吐く。
 ルークの言う通り、愛用の銃は多くの改造が施された逸品だ。長年の間にちょっとずつ改良を加えて来たので愛着もある。
 対人銃の方は既製品なので、また手に入れることもできるだろうが。

「もう動いていいのか?」
「ええ。当分は食事制限とか投薬治療が主ですね」
「よし、なら銃砲店行くか」

 ぐいっとベッドから体を起こすニト。

「他の連中にも戦闘準備するよう言っといてくれ」
「何をするつもりなんです?」
「分かり切った事聞くんじゃねえよ」

 二人とも微笑する。

「あの舐めた真似してくれやがったゲル野郎を今度こそぶち殺す」
「そうおっしゃると思って」

 ルークがドアを開ける。

 そこには全員が集まっていた。
 完全な戦闘準備を済ませた状態で。

「遅いぞニト。さっさと準備しろ。あのジェルカスを狩りに行くぞ」

◆◇◆◇


 冒険者の中では『良い冒険者の三ヶ条』なるものがまことしやかにささやかれている。
 いわく、それらすべてに当てはまる冒険者は大成たいせいするのだと。

 一つ、Technique……『技に長けている事』。
 魔物の圧倒的な能力の高さに対して、人間のそれは余りにも無力である。ただの攻撃ではまともなダメージは見込めず、魔物の攻撃を盾と鎧で受けるなど論外だ。故に弱点に攻撃を集中させる正確さと、すべての攻撃を避けてしまう機動力、そしてそれらを成立させ続ける技術が必要なのだ。

 二つ、Merciless……『容赦がない事』。
 どんな不道徳な人間でもやろうと思わない、思いつきもしないラインがある。それがなんであるかは個人によって違うが、魔物相手に手段を選ぶ余裕など存在しないのは人間なら全員共通だ。故に卑しく、汚く、無慈悲に、徹底的でなければならない。

 そして三つ目は、Blood mad……『血に酔っている事』。
 人間が魔物に挑みかかるなど、狂気の沙汰だ。彼我の戦力差が絶望的なのは、この世の全員が知っている。そんな狂気を続けるには、狂気の薪たる酔いが必要だ。どれほど死に瀕しようと前に進み、魔物の返り血に温もりを見出す。まともではない事など自覚したうえで。それがあるから、彼らは魔物に挑みかかれる。

 そして彼らは嘯くのだ。
 『まともである事の、なんとくだらない事か』と。
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