12 / 56
第一話:霊 瑞香
やいのやいの言うのも仕事です
しおりを挟む
五
一息ついた瑞香は、頼んでもいないのに自分の前に置かれている目の前のグラスに目を落とす。時間が経ったせいか汗をかいていた。
両手で握り、構わず口に運ぶ。一口飲んで口内を潤した。
驚いたことに、それは瑞香の好きな果物の味のする水であった。
「これ、どうして」
「美味しいだろう」
「また飲めるなんて思いませんでした」
「まだまだたくさんあるぜ」
瑞香は太郎の言葉を聞き、残りを一気に飲み干した。
そこへ太郎がすかさずおかわりを並々と入れてやる。瑞香は更に一気に飲み干した。
「いい飲みっぷりだねえ。もっと飲みな」
嬉しそうに太郎が注ぐ。
「話してくれて、ありがとうねえ」
昭子が瑞香の肩を優しく叩く。
「まったくトチ狂ってやがるな」
太郎も唇を片方だけ斜めに上げて鼻で笑った。
「てことはさあね、その司はその後瑞香さんを殺したってことよね。そこで記憶が切れるんだから」
昭子が何杯目かわからぬ酒を太郎に注いでもらっていた。
「昔は罪人をぶっ殺したら穴掘って埋めてよ、そこに遺族らが気持ちとばかりに花や木ぃを植えたりしたけど、こいつは根っからの悪人だな。面白がって人を殺して埋めて、その上に花だの野菜だの植えてんだからどうしようもねえ野郎だ」
侍がメロンソーダをぐいっと半分飲み干した。ちっと大きく舌打ちをする。
「小屋の中にいた女はどうなったのかしらねぇ」
「話によると両の脚をぶった切られて埋められたって言うんだから、いくら瑞香さんとことばを交わしたといっても虫の息だったんだろうよ。死んだでしょう」
「いや、侍さんちょっと待ちなよ。瑞香さんにしたって気を失った後にその小屋にぶち込まれたって可能性もあるんじゃないか?」
太郎も持論を交えてくる。
「そうよねえ。その小屋を開けようとした瑞香さんを最終的に殺したってことは、最初から殺すつもりだったってことだろう。だったらまずは小屋の中の女が先だよね。そろそろ死にそうだったんだから。その女と交代で瑞香さんが小屋にぶち込まれるってのも考えられるわよねえ。そうじゃないのかい」
「予定が狂ったって言ってたんだもんな、 だったらまだ殺さずに小屋の中に閉じ込めとくってことか」
侍が顎に手をやって唸る。
「閉じ込めとくのはわかるとて、殺した後の身体はどこにやったんだい? 畑ったって何体も埋めりゃあ独特なあのにおいが辺りに出るだろう」
昭子、侍、太郎がやいのやいのと口々に言い合っている。
瑞香のことはさておき、ひとまずここまでの話を聞いた自分たちの持論を我先に話しだし、収集はつかない。有る事無い事話に花をこんもり咲かせて話すのが好きなのだ。
そんな三人に瑞香はただただ目をキョロキョロさせている。
「畑に死体が埋まってる。その上に野菜の種を蒔き、それを養分に成長して実になった野菜を次の獲物に食べさせるなんて正気の沙汰じゃねえわな」
太郎が腕組みをしてちっと舌打ちした。目を細め、唇を耳まで引き伸ばして悪い笑みを浮かべる。
「しかも自分より弱い立場の女子を手にかけるなんて、死んでからもう一回殺してやりたいわね」
昭子が閃いたとばかりに楽しげな顔をした。「今回は殺しちゃえばいいんじゃない? 私たちで」とぽんと手を打った。
「ダメですよ昭子さんそれは」
すかさず太郎が待ったをかける。
つまらないとばかりに口を尖らす昭子は話の矛先を瑞香に向けなおした。
「で、それ以来記憶は戻らなかったわけ? 殺される寸前のこととかさ、なんかないの?」
「はい。気づいたら土の上に正座して座ってました。ああ、この下に私の身体があるんだって直感で思ったっていうか。不思議と涙は出なかったんですけど、自分の男を見る目の無さと、こうなってしまったことへの絶望と怒りがぐるぐるにこんがらがって交わって、どうにかなりそうでした」
「ああ、それは大丈夫よ。死んだらどうにもならないんだから」
昭子が何気なく言ったことに瑞香は悲しげな顔をする。目をゆっくり閉じ、鼻から一つ大きく息を吐く。
どうやって殺されたんだろう。
瑞香は自分の最期を思い出そうと記憶を辿る。
その間も太郎に侍に昭子は持論をぶつけ合い、瑞香の死体の在り処を推測する。
「まあ、ここで話していても解決はしないし、そろそろ時間も来たようだし、行ってみるとしようぜい」
太郎が自分たちの話を切り上げ、思い出そうと必死な顔をしている瑞香の気を戻すようにパンと一つ柏手を打った。
瑞香の前に置かれている蝋燭の火がうつろになり始めた。
太郎がふうっと息を吹きかけて消す。
暗闇に巻き取られるように蝋燭の火がぐにゃりと曲がり、やがて四人の姿は影の内へと吸い込まれていった。
一息ついた瑞香は、頼んでもいないのに自分の前に置かれている目の前のグラスに目を落とす。時間が経ったせいか汗をかいていた。
両手で握り、構わず口に運ぶ。一口飲んで口内を潤した。
驚いたことに、それは瑞香の好きな果物の味のする水であった。
「これ、どうして」
「美味しいだろう」
「また飲めるなんて思いませんでした」
「まだまだたくさんあるぜ」
瑞香は太郎の言葉を聞き、残りを一気に飲み干した。
そこへ太郎がすかさずおかわりを並々と入れてやる。瑞香は更に一気に飲み干した。
「いい飲みっぷりだねえ。もっと飲みな」
嬉しそうに太郎が注ぐ。
「話してくれて、ありがとうねえ」
昭子が瑞香の肩を優しく叩く。
「まったくトチ狂ってやがるな」
太郎も唇を片方だけ斜めに上げて鼻で笑った。
「てことはさあね、その司はその後瑞香さんを殺したってことよね。そこで記憶が切れるんだから」
昭子が何杯目かわからぬ酒を太郎に注いでもらっていた。
「昔は罪人をぶっ殺したら穴掘って埋めてよ、そこに遺族らが気持ちとばかりに花や木ぃを植えたりしたけど、こいつは根っからの悪人だな。面白がって人を殺して埋めて、その上に花だの野菜だの植えてんだからどうしようもねえ野郎だ」
侍がメロンソーダをぐいっと半分飲み干した。ちっと大きく舌打ちをする。
「小屋の中にいた女はどうなったのかしらねぇ」
「話によると両の脚をぶった切られて埋められたって言うんだから、いくら瑞香さんとことばを交わしたといっても虫の息だったんだろうよ。死んだでしょう」
「いや、侍さんちょっと待ちなよ。瑞香さんにしたって気を失った後にその小屋にぶち込まれたって可能性もあるんじゃないか?」
太郎も持論を交えてくる。
「そうよねえ。その小屋を開けようとした瑞香さんを最終的に殺したってことは、最初から殺すつもりだったってことだろう。だったらまずは小屋の中の女が先だよね。そろそろ死にそうだったんだから。その女と交代で瑞香さんが小屋にぶち込まれるってのも考えられるわよねえ。そうじゃないのかい」
「予定が狂ったって言ってたんだもんな、 だったらまだ殺さずに小屋の中に閉じ込めとくってことか」
侍が顎に手をやって唸る。
「閉じ込めとくのはわかるとて、殺した後の身体はどこにやったんだい? 畑ったって何体も埋めりゃあ独特なあのにおいが辺りに出るだろう」
昭子、侍、太郎がやいのやいのと口々に言い合っている。
瑞香のことはさておき、ひとまずここまでの話を聞いた自分たちの持論を我先に話しだし、収集はつかない。有る事無い事話に花をこんもり咲かせて話すのが好きなのだ。
そんな三人に瑞香はただただ目をキョロキョロさせている。
「畑に死体が埋まってる。その上に野菜の種を蒔き、それを養分に成長して実になった野菜を次の獲物に食べさせるなんて正気の沙汰じゃねえわな」
太郎が腕組みをしてちっと舌打ちした。目を細め、唇を耳まで引き伸ばして悪い笑みを浮かべる。
「しかも自分より弱い立場の女子を手にかけるなんて、死んでからもう一回殺してやりたいわね」
昭子が閃いたとばかりに楽しげな顔をした。「今回は殺しちゃえばいいんじゃない? 私たちで」とぽんと手を打った。
「ダメですよ昭子さんそれは」
すかさず太郎が待ったをかける。
つまらないとばかりに口を尖らす昭子は話の矛先を瑞香に向けなおした。
「で、それ以来記憶は戻らなかったわけ? 殺される寸前のこととかさ、なんかないの?」
「はい。気づいたら土の上に正座して座ってました。ああ、この下に私の身体があるんだって直感で思ったっていうか。不思議と涙は出なかったんですけど、自分の男を見る目の無さと、こうなってしまったことへの絶望と怒りがぐるぐるにこんがらがって交わって、どうにかなりそうでした」
「ああ、それは大丈夫よ。死んだらどうにもならないんだから」
昭子が何気なく言ったことに瑞香は悲しげな顔をする。目をゆっくり閉じ、鼻から一つ大きく息を吐く。
どうやって殺されたんだろう。
瑞香は自分の最期を思い出そうと記憶を辿る。
その間も太郎に侍に昭子は持論をぶつけ合い、瑞香の死体の在り処を推測する。
「まあ、ここで話していても解決はしないし、そろそろ時間も来たようだし、行ってみるとしようぜい」
太郎が自分たちの話を切り上げ、思い出そうと必死な顔をしている瑞香の気を戻すようにパンと一つ柏手を打った。
瑞香の前に置かれている蝋燭の火がうつろになり始めた。
太郎がふうっと息を吹きかけて消す。
暗闇に巻き取られるように蝋燭の火がぐにゃりと曲がり、やがて四人の姿は影の内へと吸い込まれていった。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―
くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。
「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」
「それは……しょうがありません」
だって私は――
「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」
相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。
「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」
この身で願ってもかまわないの?
呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる
2025.12.6
盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる