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よいこの御主人様倶楽部
噂の彼氏面さん
しおりを挟むシフト終わり、帰る前にこっそりと覗いたSMコーナー前。
やたらカップルっぽいお客さんが多いのを避けつつ物色してると、いきなり肩を掴まれる。
「なんだ、興味あるのか?」
「っ!! って、店長……?! お、驚かさないでくださいよ……!」
「いやまさかやたら怪しい客がいると思ったらお前だったとはな、原田」
そんなに怪しかったのか、俺。
確かに他のスタッフに見つかるのは気まずかったが、よりによって店長に見つかるなんて。
「べ、別に……ちょっと通りがかっただけっすよ」
「ほう? 初心者・お一人様向けのお手軽SM入門オモチャを紹介してやろうと思ったが余計なお世話だったようだな」
「うぐ……ッ!」
き、気になる……!
いや待て、俺にその趣味はない。落ち着け。新たな道を開拓しようとするな、俺。
「け、結構です!」
「なんだ、ノリが悪い奴め。今なら俺のレクチャー付きだというのに」
「な……っ」
その一言に俺の優秀な脳はご丁寧に先日の店長とのあれこれを思い出す。
一時的とは言え恋人のように接されたときのことを、フルボイスで。
「……っ、そ、そういうの、セクハラですからね」
「……」
「なんでそこで黙るんすか……!」
「いや何、お前が今更それを言うのかと思ってな」
「お、おお、俺のこと何だと思って……ッ」
「まあいい、今から帰宅するなら送るぞ」
「え」
「だから、家までだ。俺も今から外に諸用があってな、そのついでだが」
どういう風の吹き回しだろうか。
車の鍵を取り出す店長に俺はもごもごと口ごもる。……でもまあ、送って貰えるんならいいか。
「へ、変なこと……しないなら……」
「原田、それは据え膳と受け取られ兼ねないぞ」
「ち、違います! や、やっぱり歩いて帰ります……っ!」
「ああ、分かった分かった、俺が悪かった。ほら、さっさとついて来い」
な、なんだこの扱いは……!
店長に捕まり、そのままがっしりと腕を掴まれたまま俺は店の外まで連行されることとなった。
そして、駐車場前。
「ほら、乗れ」
「……お邪魔します」
「こういうときは大人しいんだな」
なんで嬉しそうに笑ってるんだ。
促されるがまま店長の車の運転席に乗り込む。嗅ぎ慣れない香水の匂いがする。嗅いでるだけで頭くらくらする甘ったるい匂いだ。
「店長、そういえば用事って……」
「昔の知り合いに会いに行く、そのついでだ。……なんだ、口実だと思ったのか?」
「口実……?」
「お前と二人きりになるための」
「……っ、……!」
「ま、待て待て待て! 冗談だ、いきなり降りようとするな!」
少し顔がいいからって、恋愛経験豊富だからって俺を弄びやがって……!
まんまと乗せられ悔しさのあまり噛みしめる俺をシートベルトで固定しながら「今度はベビーシートの用意しとくか」と店長。俺は赤ちゃんか。
「最近はなかなかこうして話すことはなかったからな、気にはなっていた。時川とはあれからどうだ?」
「ど、どうって……別に……」
いつも通り司には振り回されてはいるが、俺に恋人がいないと分かって少しは落ち着いたようにも見える。
そのまま伝えれば、店長は「そうか。それはよかった」とうんうんと頷く。
「そういえば、店長は菊乃さんって人のことご存知ですか」
「ああ、菊乃か。今日店に来ていたようだな。あいつはうちのお得意様だからな、くれぐれも扱いには気をつけろよ」
「や、やっぱり気難しい人なんすか……」
「気難しいというよりも好みがハッキリしてるというか……悪いやつではないが、問題はあるな」
「問題?」
「うちのスタッフを引き抜こうとしてくるところだ。あの男、やましいことがあると俺のいない時ばかりを狙って来店するからな。いい性格をしてる」
何かを思い出しているようだ。ハンドルを手にした店長の横顔はやや険しい。
そしてハッとした店長はこっちを向いた。
「……まさか原田。お前まで何か声を掛けられたわけじゃないだろうな」
「い、いや、そういうわけじゃないんですけど……」
「ならいい。お前は少々チョロ……金に弱いからな、あいつの甘言に騙されるなよ。あと、ホイホイあいつについて行くのもなしだ」
「俺のことなんだと思ってるんですか」
「いいカモだな」
――前言撤回。少しでもこの男にキュン、などとしてしまった己を恥じた。
「お、俺は人間だ……ッ!」
「分かってる。……心配だから言ってるんだ」
思わず拳を握り締めれば、そのまま伸びてきた手にそっと取られる。
「まだ分からないか?」と横目に見つめられ、思わず胸が反応する。いつもふざけてるくせになんで今日は真面目なんだ。
「え……? て、店長……」
「……ふむ、やっぱり原田、お前はそのチョロさをどうにかした方がいいな。俺が不在時が心配になる」
「…………」
「まあいい、着いたぞ。ここまででいいな」
「――……ッ」
さっさと降りろと言わんばかりに開くドア。なんからいつの間に近所まで来てたことにも気づかなかった自分すらも恥ずかしい。
――やっぱり店長のことなんて信じねえ!
そう俺は心の中で叫びながら「送っていただきありがとうございました!」とそのまま助手席から降りた。
「おい、原田」
「……っ、な、なんすか……」
「何かあったらまたなんか言え」
開いた窓越しに声かけてくる店長に俺はじっと見つめ、そのままマンションの方へと向かった。
言うか言わないかは俺の気分だし、相談しないかどうかは俺が決めることだ。もう店長には振り回されないからな、という意思表明だったが店長は怒ることもなくそのまま車を走らせた。
……なんだよ、こういうのあれじゃないか?彼氏面とかいうやつじゃないのか?
なんだかモヤモヤするが、こういうときは酒を買って帰る。俺は帰宅途中にあるコンビニに寄ってそのまま帰宅した。
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