犯罪者予備軍共

田原摩耶

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VSヤキモチ彼氏

02

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 ××県ほにゃらら区対犯罪者組織本部、救護室にて。

「出ちゃん、なんか飲み物ちょうだい。え?ない?ないの?ああ、治癒班長に出すやつでいいから持ってきて……ってあいって!」

 班長机に腰を下ろし、社内購買で買ってきた菓子を食いながらここでコキ使われている分身・目比出と戯れているといきなり後頭部をスパーンと叩かれる。
 思わず前のめりになり、背後を振り返ればこの部屋の主こと治癒班長がボード片手に立っているではないか。

「おい!なにすんだよ糞野郎!」

 じんじんと痛む後頭部を擦りながら立ち上がる俺に対し、相変わらず神経質そうな顔をしかめた治癒班長「誰が糞野郎ですか、誰が」と吐き捨てる。
 そして鋭い双眼を細めた治癒班長は俺と一緒にお茶していた出に目をつけた。

「新人1、貴方も貴方でなにをぼさっとしているんですか。こんな役立たずの相手してる暇があるならそこの床を磨いてなさい」

 言いながらびしっと床を指さす治癒班長に対し、出はびくっと肩を跳ねさせて慌てて俺の背後に隠れる。
 見た目は無駄にでかいとしても中身はまだ子供だ。
 中身は違えど、目の前で自分の分身を乱暴に扱われるのはあまりいい気はしない。

「おい、出ちゃんが可哀想だろ。そのこえー顔どうにかしろ、ニコッくらいできねえのかよサービス精神ねえ医者だな」

 くっついてくる出の頭をわしわしと撫でながらそう口を挟めば、治癒班長は「私は医者ではありません」と言い切る。そして、今度は矛先をこちらに向けてきた。

「第一、何故貴方がこんなところにいるんですか。そこは私の席です、自分の仕事がないからって私の邪魔をしないで下さい。ただでさえ役立たずなのに周りにまで迷惑を掛けるなんて害悪じゃないですか」
「だからなんか手伝ってやろうかと仕事探してたらお前が来たんだろうが」
「貴方みたいな落ちこぼれに私共の仕事が手伝えると?」

 糞、相変わらず減らず口というかいちいち鼻につく物言いをしてくるやつだな。
 ムカついてなにか言い返してやりたかったが、治癒班長の言っていることもまあ一理ある。
 怪我人の回復を担う治癒班とただ機械任せに監視カメラ眺める監視班では仕事量からなにまでまるで違う。
 落ちこぼれを認めるつもりはないが複数の能力を持っている俺でも治癒能力を持っていない時点で治癒班にとってはただの足手まとい同然だ。ああ、無駄に物分かりがいい自分が悲しい。

「大体貴方、行動制限されていたはずではなかったのですか」

 うぐぐと押し黙る俺に対し、治癒班長は畳み掛けるように続ける。
 恐らく、こいつは先日寿千樹の件でのことを言っているのだろう。
 確かに俺は本部から出るのを制限された。とは言っても組員寮は本部にあるので特に普段と変わらないのだが、例えばそう、今みたいに暇だとそのペナルティは酷く不便に感じる。

「そーだよ、だから遊び行けないしやることがなくてなくて死にそうなんだよ」
「だからって私のところに来ないで下さい。迷惑です。構ってほしいのなら記憶操作班員の彼に構ってもらえばいいじゃないですか」
「ああ、あいつ仕事中。つーかあいつと遊ぶくらいなら出ちゃんと遊ぶっての」

 そのためにここに来たのだから。
「なー出ちゃん」言いながら寝癖がぴょこんと跳ねた出の頭をぱしぱしと叩けば、出は心地よさそうに抱き着いてきた。
 が、もちろん治癒班長が見逃すはずもなく。

「新人1、ぼさっとしてる暇があるならさっさと掃除をしなさいと言ってるでしょう!」

 そう怒鳴り声を上げ、バンッとテーブルを叩き威嚇する治癒班長に顔を青くした出はこちらを抱き締める腕にぎゅっと力を込めた。
 鬼かその辺のものを見たかのように目に涙を溜め震える出の背中に手を回した俺は「怒鳴んなよもー出ちゃんが可哀想だろ!」と治癒班長を睨む。

「つーかなんだよ新人1って!」

 せめて名前で呼べよ、名前で。
 そう言い返そうとする俺に対し、治癒班長は「なにって、新人が二人いるのですから数字がつくのは当たり前じゃないですか」となんでもないように続けた。

「二人?……って、ああ、弥生ちゃんか」

「弥生ちゃんはどこにいんの?」もう一匹の分身・松浦川弥生の顔を思い浮かべながらそう尋ねれば治癒班長は「買い出しに行かせました」と静かに続けた。

「あの子はもうしっかり成長しているというのに新人1といったら貴方に似てしまったお陰でどこまでも鈍臭くて使い物になりませんね」
「それぜってーお前の教え方が悪いんだろうが。なあ出ちゃん」
「私の教え方が悪いと仮定して何故新人1と新人2でここまで違いが出てくるのでしょうか。簡単です、素材が悪いんですよ」

 こいつ、分身を作った俺の前でそこまで言うか。
 それを言うなら出や弥生の元になるデータを考えた記憶操作班の連中に言って欲しいところだが、あいつらになにを言っても無駄だと治癒班長も理解しているのだろう。
 だから敢えて俺に当たり散らすわけだこの嫌味白衣め。

 しかし売られた喧嘩は買うのが礼儀だ。
 ボロクソ言われて『はいはいそうですね』とヘコヘコしながら悦ぶような披虐嗜好、俺は持ち合わせていない。

「そこまで言うかよ、この頭でっかち。お前がスクラップにすんなって駄々捏ねたから生かしてんだろうが、責任取れよ」
「ええ、取ってますよ。取った上で言ってるんでしょう、飲み込みが悪いと」

 駄目だ。埒が明かない。喧嘩を買って早々なにも言えなくなった俺は顔をしかめ押し黙る。
 無駄に威勢だけはある治癒班長のことだ。なにを言ったところで理屈捏ねくり回してねちねちねちねち突っ掛かってくるのが目に見えている。
 どうにかしてギャフンと言わせたいところだが暴力沙汰は組織内で禁止されてるし、前回の失態のお陰でクビにはなっていないものの信頼が落ちつつあるのも事実だ。平和的にこいつをギャフンと言わせることはないだろうか。そう考え込んだとき、ふと閃く。
 そして、

「もういい、出ちゃんは俺が面倒見る!」

 そう顔を引き締めた俺は言いながら出を抱き寄せた。
 よし、決まった。凄まじい決まりっぷりだ。やばいぞ俺。
 するとあら不思議。先ほどまで余裕ぶっていた治癒班長は「な、なにを言ってるんですか貴方は……!!」と顔を真っ青にし「ごめんなさい私の言い過ぎでした新人1を返してください」と涙やら鼻水やら撒き散らしながらみっともなく懇願してくる。
 というのが俺の中のイメージだったのだが寧ろ何事かと目を丸くしているのは出で、目の前の治癒班長はというと、

「……へえ、貴方が?出来るんですか?」

 言いながら、小馬鹿にしたような薄い笑みを浮かべる治癒班長は俺に見下すような視線を向けてくる。
 こいつ、狼狽えるどころから余裕がでかくなって挑発までして来やがった。
 予想外の治癒班長の挑発的な態度に、退くに退けなくなった俺はやべえどうしようと内心冷や汗を滲ませる。
 しかし、ここで怯んだら一生舐められるに違いないだろう。そう悟った俺は「ああ、やればいいんだろ、やれば!」と開き直ることにした。

「安心しろよ出ちゃん、今日からこの糞うっせえ小舅なんか相手しなくていいんだからな。給料入ったらいっぱい遊び連れていってやるからなー」
「貴方の遊び場なんてどうせろくでもない低俗な場所なんでしょう。ああ、汚らわしい」
「まだ言うかこの」

 まだ現状をよく理解してないのか戸惑う出を挟んで治癒班長と睨み合ったときだった。

 室内にブザー音が鳴り響き、白衣に手を突っ込んだ治癒班長はそのまま携帯型通信機を取り出す。
 どうやら呼び出しがかかったようだ。
 そして、間髪入れずに救護室の扉が開き一人の白衣の女が入ってきた。
 恐らく治癒班員だろう。
 治癒班員は皆白衣を着てるから人目でわかる。
 そして、俺を見付けペコリと会釈した治癒班員は治癒班長に駆け寄り「班長、急患です」と小さく耳打ちをした。
「ええ、分かりました」そう班員に頷き答える治癒班長。

「では私はこれで」

 携帯型通信機を白衣に戻した治癒班長は言いながら扉へとカツカツ靴を鳴らし歩いていく。
 出ていく直前にこちらを振り返った治癒班長は「せめてそこの食べ滓を片付けてさっさと消え失せてくださいね」とだけ残し、颯爽と救護室を後にした。
 最後の最後まであの調子を崩さない治癒班長に一種の清々しさを覚えずには入られない。
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