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VS連続殺人鬼
04
しおりを挟む離婚もせず、たまに喧嘩をしながらも、両親は家族でいることを選んだ。
譲は、たまに我儘を言って困らせることもあったが、それでも、以前よりも家族として接する機会が多くなったのは誰のおかげでもない、譲が自分の思いを伝えるようにしたからだ。
もうこれからは俺の干渉は必要ないだろう。保育士を辞め、化け猫として譲の成長を見守ることにした。
小学校に上がり、中学生になり、高校生になる。
人間の成長というのはあっという間のことで、俺は、見慣れた制服に身を包んだ小路譲を見て、懐かしさで胸がいっぱいになった。初めて殺人現場で出会った小路譲も、同じ制服姿だった。だけど、あの時とは違う。幼稚園の頃よりも活発になった小路譲は運動もやっていたお陰で心配するほど生白かった顔も血色も良くなり、髪も短く切った。別人だと言われても納得出来たが、それでも、中学になって美術部に入ったと聞いて、ああやっぱり小路だなと思った。
他の世界線でも、小路は美術部を選んでいた。
小路は絵は上手い方ではなかったが、それでも、楽しそうにキャンパスに筆を滑らせるのだ。俺はそれを美術室の窓の縁から眺めるのが好きだった。
中学も卒業し、受験戦争を乗り越えた小路は無事高校へと進学した。
そして、十六歳の冬。
年も明けて間もなく、小路たちは父親の母、小路の祖母が亡くなったとの報せが入る。
小路が十七歳の誕生日を迎える前日のことだった。
毎年夏、小路たちは家族揃って祖母宅へと通っていた。
けれど、それ以上もなく、それ以下でもなかった。
小路は祖母の通夜で泣かなかった。
二人を結んでいたものは、あの日みた涙は本当に消えたのだと痛感した。
それでも、安らかな顔して眠る祖母の遺体に花を添える小路譲の横顔は、今までに見たことないものだった。……この世界では。
以前見たのは、小路が祖母を殺すと決意した前日、公園で俺に語っていたあの夕暮れ時だ。
俺は、斎場を後にした。
譲の誕生日は、祖母の通夜でそれどころではなくなった。やってきた親戚たちの中には父親の弟である叔父夫婦たちの姿もあった。皆悲しみに明け暮れていた。
両親も例外ではない。譲自身も聞き分けのない子供ではない。そんな段ではないと理解してるのだろう。自分の誕生日のことを口にすることはなかった。
だから、俺は、せめてもと花を摘んだ。他から見れば猫が妙なことしてると思われるかもしれない。けれど、こういった場所では動物のふりしてるのが一番やりやすい。下手に干渉して未来を変えないためにも、俺は、雑な花束を咥え、譲の姿を探した。
迂闊だった。周りが見えていなかった。
猫でいることに慣れすぎていたんだ、俺は。
歩道の向こう側、自販機の前で小路譲がウロウロしてるのを見つけた。飲み物を迷ってるのだろう。一鳴きし、小路の元へと駆け寄ろうとしたときだった。咥えていた花束を落としてしまい、つい踏み留まってしまった。
それと、乗用車がこちらに向って走ってきたのは同時だった。逃げようと思えば逃げられた。猫だし、身軽だし、最悪轢かれても俺にはいくつも心臓がある。やすやすと死にはしない。
なのに、なのに、譲はこちらに向って走ってきた。それから、車道に飛び出し、俺の身体を庇って、あいつは自分から車の前に飛び出したんだ。
小路譲は笑っていた。
ふっ飛ばされた身体は地面へと投げ出される。変な方向に曲がった身体。痛みがないはずがない。それなのに、小路譲は笑っていた。
「馬鹿だな、何やってんだろ僕……」
車から降りてきた若い男。歩道には譲の血が滲む。俺の身体を抱きしめたまま、小路譲は目を瞑った。
「……何このゴミ……もしかして僕に?」
ぐちゃぐちゃになった花束を顔に投げれば、小路譲はくしゃくしゃに笑う。子供のときと変わらない、無邪気な笑顔。
譲は、俺の顔にキスをした。「ありがとう」と何度も、額に唇を押し付ける。それどこではないはずなのに、小路は俺から手を離さなかった。
周りに人が集まってくる。その中には小路譲の両親の姿もあった。
小路譲とその祖母は、本来通り死を迎えた。
けれどそれは、本来のものとは大きく掛け離れた死だ。少なくとも、犯罪欲求メーカーは反応していないだろう。
これで、良かったのだろうか。これで。
涙が溢れる。何のためにここまで来たのか分からなくなった。俺のせいで、俺のせいで終わらせてしまった。せっかくこれからだというのに、これから、もっと広い世界を知ることになったというのに。
時間を巻き戻すことは不可能ではない。けれど、一人の人間のために、自分の能力を使うことは出来ない。それが機関の掟だからだ。
俺が、関わろうとしたからだ。観測者でいなければならない俺が、小路譲に干渉した。その罰というのか。
歩んできた時間旅行が、カチリと音を立て終了を告げる。現在と過去が繋がった。
連続殺人はなくなった。被害者はどこにもいない。
転がるのは不運な事故に遭った男子高校生、ただ一人の遺体だけだった。
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