人類サンプルと虐殺学園

田原摩耶

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第四章【モンスターパニック】

蛇の嗅覚


 廊下に出れば、そのまま巳亦に肩を抱かれた。
「巳亦」と少しぎくりとしたが、そのまま人目を避けるように広間から離れていく。
 そしてやってきたのは廊下の突き当たり。周りに何者の気配もないのを確認すれば、巳亦は俺から手を離した。

「……流石鬼の巣窟。息が詰まるったらありゃしないな。ここなら大丈夫そうだ」
「巳亦……どうした? こんなところまできて……」
「それはこっちのセリフだ。曜」

 そっと伸びてきた巳亦の指先が頬に添えられる。軽く顔を持ち上げるように撫でる指につられ、そのまま目の前の巳亦を見上げれば、巳亦の赤い目と視線が絡み合った。
 造形は綺麗に微笑んでいるのに、圧を感じる笑顔。

「俺に隠し事をするつもりか?」

 ――やっぱり、巳亦怒ってる。
 巳亦が俺の心を読めることは分かっていた。けれども。

「……巳亦」
「お前の魂が傷ついている」
「お、俺の心……そんな大変なことになってるのか……?!」
「ああ、そうだ。見てて痛々しいくらいひび割れている。――何があったんだ?」

「まさか、記憶もないのか?」確かめるように頬から首へと巳亦の指がするりと落ちていく。制服の詰襟の下、首筋に絡む首輪に巳亦の指先が這わされて、驚いた。

「み、巳亦……ストップ……」
「曜の体臭も薄い。……風呂に入ってきたのか? 誰に入れられた?」
「わかった、わかった! い、言うからちょっと一旦離れて巳亦……!」

 気づけば巳亦に追い詰められて壁と巳亦に挟まれていた俺はなんとか目の前の巳亦を止めさせた。
 目の前の巳亦の顔が一瞬強張る。

「……曜、俺を拒絶するのか?」
「ち、違う違う。そうじゃなくて……その、俺も結構実は混乱してるんだよ」
「酒を飲まされていたからな。……京極さんと二人でたくさん飲まされたのか?」

 優しい口調で尋ねられ、頷く。

「酔いは今は大丈夫か」
「うん。大分マシ……けど、流石に体がふわふわするな。お酒って怖いな」
「そうだぞ、曜。だから人前ではあまり飲むな……と言いたいところだが、今回ばかりはイレギュラーすぎたな。……あの腹黒クソ鬼どもが」

 そう呟く巳亦。ここにも禍根が残っているようだ。

「巳亦も酔ってるのか?」
「俺は早々酔わない。けど……臭いか?」
「この距離にいるとまた酔いそうだよ」
「……」

 微妙な顔をする巳亦。多分これは、俺から離れた方がいいと思いながらも離れたくないと思ってる時の顔なのだろう。そんな機微を感じ取れるようになってきた自分がなんだか面白くて、小さく笑う。それが巳亦に引っかかったのだろう、「こら、真面目な話をしてるんだぞ」と巳亦に抱き寄せられた。

「あは、ごめんって。……ん、ちょっ、巳亦……?」
「曜が教えてくれないなら俺がこの目で確認する」
「え? ま、待った待った! こ、ここ廊下だから……!」
「だから気配がないところを選んだって言っただろ。……ああ、ほら」

 するりと制服の前を開かれていく。そのまま上の制服を脱がされ、インナー一枚になった俺の体をまじまじと巳亦は確認した。腕を掴み、そこに出来た引っ掻き傷を見て「これ」と巳亦は眉間を寄せる。

「これは……どっか引っ掛けたのかな」

 心配しなくても舐めときゃ治るよ。
 そう言いかけた矢先、腕を軽く持ち上げられる。腕に走った複数の線に顔を寄せる巳亦にまさか、と思った次の瞬間。避けた皮膚の上、ぬるりとしたものが這わされた。

「みま、巳亦……っ!」
「……じっとしてろ、曜。お前はどこもかしこも傷だらけじゃないか」
「そ、それは……ぅ……っ」

 脳の興奮も落ち着き、痛みが痛みとして受け止められるようになってきた中。巳亦に傷口を舐められれば脳にぴりっとした刺激が走った。
 そして、追いかけてくるようにやってくるのは甘い感覚だ。巳亦に舐められた傷が癒えていく。

「ん、……ぁ、あの……巳亦……っ、だ、大丈夫だから……本当……っ」

 吐息が、ひんやりとした指先と舌が、濡れた肉の感触が先ほどまでの京極との行為を生々しく想起させる。
 これでは犬だ。皮膚の上を這う巳亦の赤い舌が視界に入り、脳が錯覚を起こしそうになった。落ち着け、落ち着け。相手は巳亦だ。
 そう思いたいのに、だからこそ余計恥ずかしくなって居た堪れなくなる。
 着替え、洗濯してもらったばかりの下着の奥がぬめりを帯びるのに気づいた途端顔を上げることもできなかった。
 脇を持ち上げるように肘の裏まで舌を這わされ、逃げたいのに逃げ出せない。

「曜」
「……っ、み、巳亦……」
「俺は案外嗅覚が優れているんだ。……舌で触れたものとかな」

 巳亦の赤い目、その視線が俺の顔からゆっくりと下へと下がっていく。ただ舐められただけなのに、既に固くなり始めていたそこに巳亦の視線が留まった。
 服の皺で誤魔化すには膨らんだそこを見て、薄く微笑んだ。

「特に、発情してるやつはすぐに分かる」

 その一言に、耳に熱が集まるのが分かった。
 獲物を前にしたようなその目に射抜かれ、体が凍りついたようにその場から動くことができなかった。

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