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前編【誰が誰で誰なのか】
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「お前さ、なんか変わったよな」
アイスを食べ終え、そのまま部屋のゴミ箱に放り投げたときだ。
ふと思い出したように渡利はそんなことを言い出す。
口の中の甘味を流すため、再び炭酸の入ったペットボトルに口をつけようとした俺は動きを止めた。
そのままベッドに腰を下ろしていた渡利に目を向ければ目が合う。
「……そう?」
「なんか、雰囲気変わった」
「へぇ、どんな風に」
「……わかんね」
なんだそりゃ。
ボリボリと頭を掻き誤魔化す渡利から視線を外した俺はペットボトルの口を咥える。
もしかしたらまともに渡利の相手をしてやってなかったから不審がられているのかもしれない。
俺なりに頑張っているつもりなのだが、流石に馬淵のように同じ布団で寝るみたいな変な方向に尽くすような真似はしたくない。
どうやらそれがまずかったようだ。ペットボトルの炭酸を喉奥へと流し込み、気管で弾けるそれを味わう。
一口飲んで唇からペットボトルを離した俺はそれにキャップをした。
「なんか、冷たくなった」
俺が飲み終わるのを待ったように渡利は口を開く。
目だけ動かし渡利を見れば、渡利は自分の爪先を見つめていた。
今度は目は合わない。
冷たい?
まあ、馬淵に比べたら他人行儀なのかもしれないが、そんなこと言われる程ほったらかしにした覚えもない。
つまりそれは、
「構って欲しいんだ」
ペットボトルをテーブルの上に置きながら、そう渡利に声をかける。
僅かに肩を揺らし反応する渡利に構わず、崩した足を起こし立ち上がった。
「……別に、そういう意味じゃ……」
普段馬淵が渡利に対しどのような接し方をしているかわからないが、今の俺の対応では駄目だと言うことだろう。
生憎、今渡利に愛想尽かされては困る。だとしたら、俺が取る行動は一つだ。
渡利に不信感を抱かせず、相手を完全に手懐けさせる。
他力本願なのは情けないが、久保田との時間をつくるには味方であるこいつの存在は不可欠だ。
「せっかくだしさ、ちょっと手伝ってよ。一人より二人の方が良さそうだし」
「ね、いいでしょ」そうベッドの前に立つ俺は言いながら渡利に笑いかける。
いくら興味ないやつだろうが必要ならばいくらでもコミニュケーションを取る。
それが自分のためなら尚更だ。
馬淵宅、馬淵の部屋にて。
「っは、いっ……たぁ……ッ」
「おい、本当に大丈夫なのかよ」
「んっ、ぼくはだいじょ、大丈夫だから……っもっと奥、奥まで……っ」
「無理すんなって、馬鹿。まじで筋肉痛になってもしらねえぞ」
「いいッ、いいから、だからっ強く、お願い……っ」
「いいんだな?泣くなよ?絶対泣くなよ?」
「わかっ……つ……っぅあ、や……ん゙んんぅ……ッ!」
床の上に座り、開脚して前屈した俺は背後に膝立ちになる渡利に真っ二つに潰す勢いで背中を押され堪らず声を洩らす。
現在夜中。窓の外から聞こえてくる虫の鳴き声に混ざって肺から絞り出すような不気味な声が喉奥から溢れた。
確かに強くとはいったがまじで容赦がない。
こういうのは相手の体力などに合わせるものではないのだろうか。などと現実逃避をしつつ、ぎちぎちぎちと嫌な音を立てる全身の筋肉に顔をしかめ、額に脂汗を滲ませる。
「わたりく、も……いいから……っやめ……は、ぁッ、や……やめ……ッ」
渡利とのコミニュケーションを図るためにまずはストレッチから付き合ってもらおうと思ったのだが、どうやらその判断は間違っていたようだ。
というか見栄張った俺が悪かったのかもしれないが。
ギブギブと床を叩く俺に気付いた渡利は「あ、悪い」と言いながら慌てて手を離した。
そしてゆっくりと上半身を起き上がらせれば、そのまま渡利とぶつかる。
「本当悪い……おい、どっか痛いところないか?」
「いや、大丈夫」
わたわたと狼狽える渡利に問い掛けられ、肩で呼吸をしながらそう答える。
「……ちょっと気持ち良かった」そう小声でフォローしてやれば、渡利は意外そうに目を丸くした。
「じゃあ、次腹筋するから足掴んでてよ」
またなにか余計なことを言われる前にそう俺は渡利に声をかける。
積極的にコキ使おうとする俺に対し、渡利は「え、あ、おう」としどろもどろに頷けばそのまま立ち上がり場所を変える。
そして、その日眠るまで俺は体造りに励んだ。最初渡利は不思議そうな顔をして俺を見ていたが、最後の辺りは積極的に手伝ってくれた。
俺と遊べて満足したのだろう。終わる頃には「なんか冷たくなったよな」だとかつまらない疑いをかけてくることはなかった。
単純なやつだ。単純なやつは扱いやすいので嫌いではない。
結局くたくたになって風呂に入って、前回同様一緒の布団で眠った(非常に不本意だが)。
そして夜。
また、あの夢を見た。
その夢では道端で俺が二本の携帯電話を手にし、それを操作していた。メールフォルダを中心にメールを確認し、届いたメールに返信する。なんのへんてつのない映像だが、問題はそれが馬淵視点ということだ。
それから携帯電話を仕舞い、見慣れた住宅街を歩き町中へ出る。
暫くすると見覚えのある学生服の連中と遭遇し、そして更に暫くすると久保田が現れた。
こちらに笑顔を向ける久保田となにやら話し込んでいたが勿論瞼裏に映し出されるのは映像だけで音声は届かない。
それから連中とどこかへ移動して店の中に入ったとき、聞こえてきたアラーム音によって夢は途切れた。
◆ ◆ ◆
またあの夢だ。
昨日寝るのが遅かったのも関係しているのか、前以上に断片的なそれは恐らく前回同様馬淵の記憶なのだろう。
確信は持てなかったが、あまりにも普通の夢とは思えない程リアルだったし、まあぶっちゃけた話直感だ。
わざわざ事実かどうかを調べる気にはならなかったが、あれが馬淵の記憶だとすると一つだけ気になることがあった。
久保田だ。確か昨日久保田は遊びに行くって言ってたが、もしかして馬淵もそれに誘われたのだろうか。
馬淵が俺の体に入ってる時点でそういう可能性も覚悟はしていたのだが面白くない。
あいつ、やっぱ邪魔だ。
でも馬淵が馬淵の体に入ってても邪魔だし、一層のこと俺の体もあいつの体も俺が共有していたらいいのに。
そんなことを思いながら、俺はむくりと上半身を起こす。
隣を見れば、俺に背中を向けるようにして眠る渡利がいた。
そしてその枕元には携帯電話があり、このアラームは携帯の機能なのだと理解する。
鳴り止まないアラーム音に顔をしかめた渡利はアクビをし、手探りで携帯を探し出した。
なかなか変なところばっか探してアラームが煩いので俺は枕元の携帯を渡してやる。
すると、薄く目を開いた渡利は携帯電話を開きアラームを切り、ちらりとこちらを見た。
「おはよ」
「……ん、ああ」
窓の外から聞こえてくる鳥の鳴き声を聞き流しつつ、そんな挨拶を交わす。
男と同じ布団に入って爽やかな朝と言うわけではないが、取り敢えず俺たちは各々学校の準備に取り掛かる。といっても着替えて身嗜みを整えるくらいだが。
制服に着替え、ご飯を食べる。
昨日張り切りすぎたせいで足を筆頭に全身の筋肉が痛んだ。
それを渡利に解してもらいつつ、いつもの時間に迎えに来る久保田を待った。
が、いつまで経っても来ない。
俺が俺のとき、久保田は毎朝馬淵の家まで迎えに行ってたように思えた。
もしかしてなにかあったのだろうか。
そうそわそわしながらも久保田が迎えに来るのを待つが呼び鈴は一向にならない。
五分十分二十分と、時間だけが静かに過ぎていく。
電話するにも家にかけても意味がないし携帯の番号は覚えていない。
こちらから迎えに行こうとも考えたが入れ違いになったりして久保田を待たせるわけにもいかない。
ギリギリまで渡利と一緒に自宅で待機していたが、結局遅刻ギリギリになっても久保田はやってこなかった。
もしかしたら昨日遊びすぎて寝坊したのかもしれない。 多忙でちょっと間が抜けている久保田のことだ。特に珍しいことでもない。
やっぱりちょっと寂しかったが、忙しい中早起きして無理してまで馬淵を迎えに来られてもそれはそれであまり面白くなかった。
なんというか、複雑だ。
結局遅刻を心配した馬淵の母親に追い出され、俺は渡利と並んで登校する。
時間が時間だから通学路にうちの生徒の姿はなく、渡利とのなにかを噂されるようなことはなかった。
この前よりかは口数は増えてきたものの、やはり俺たちの間に賑やかな会話はない。
ぽつぽつと渡利と話しながら、俺たちは校舎へと向かった。
校舎内昇降口。
下駄箱で上履きに履き替える。
とっくに授業は始まっており、職員室で教室入室許可証を貰った俺と書く気が全くない渡利はそのまま教室へ向かった。
「俺、その辺ぶらぶらしてるから」
場所は変わって校舎内教室前廊下。
馬淵の教室までやってくると、渡利はそう言って来た道を歩いていく。
携帯がない今二十四時間近くに置いておきたかったが、本人が教室に入る気ないならどうしようもない。
今になったから携帯がないというハンデが重くのし掛かって来て、多少憂鬱だったが仕方ない。
こうなったら馬淵から携帯を取り返す算段を考えよう。
思いながら俺はそのまま教室の扉を開き、室内に足を踏み入れた。
教室の中には久保田がいた。
いつものようにうとうとしてこくりこくりと傾いている久保田が。
教師に教室入室許可証を渡し、向けられる視線の中俺は席まで歩いていく。
久保田の斜め後ろの特等席。
そこには確かに久保田がいて、もしかしてなにかあったんじゃないのかと心配になっていた俺はいつも通り登校していた久保田にほっとする。
その反面、なんで迎えに来てくれなかったんだという寂しさと悲しさと苛つきが胸の中で膨れ上がる。
今すぐ問い詰めたいところだが、気持ち良さそうに眠りこけている久保田を見てるとなんだか気が引けた。
まあ……後から聞けばいいか。
たまたま持ち合わせていたコンビニのビニール袋に机の中に詰まっていたゴミを入れながらそう俺は小さく息をついた。
アイスを食べ終え、そのまま部屋のゴミ箱に放り投げたときだ。
ふと思い出したように渡利はそんなことを言い出す。
口の中の甘味を流すため、再び炭酸の入ったペットボトルに口をつけようとした俺は動きを止めた。
そのままベッドに腰を下ろしていた渡利に目を向ければ目が合う。
「……そう?」
「なんか、雰囲気変わった」
「へぇ、どんな風に」
「……わかんね」
なんだそりゃ。
ボリボリと頭を掻き誤魔化す渡利から視線を外した俺はペットボトルの口を咥える。
もしかしたらまともに渡利の相手をしてやってなかったから不審がられているのかもしれない。
俺なりに頑張っているつもりなのだが、流石に馬淵のように同じ布団で寝るみたいな変な方向に尽くすような真似はしたくない。
どうやらそれがまずかったようだ。ペットボトルの炭酸を喉奥へと流し込み、気管で弾けるそれを味わう。
一口飲んで唇からペットボトルを離した俺はそれにキャップをした。
「なんか、冷たくなった」
俺が飲み終わるのを待ったように渡利は口を開く。
目だけ動かし渡利を見れば、渡利は自分の爪先を見つめていた。
今度は目は合わない。
冷たい?
まあ、馬淵に比べたら他人行儀なのかもしれないが、そんなこと言われる程ほったらかしにした覚えもない。
つまりそれは、
「構って欲しいんだ」
ペットボトルをテーブルの上に置きながら、そう渡利に声をかける。
僅かに肩を揺らし反応する渡利に構わず、崩した足を起こし立ち上がった。
「……別に、そういう意味じゃ……」
普段馬淵が渡利に対しどのような接し方をしているかわからないが、今の俺の対応では駄目だと言うことだろう。
生憎、今渡利に愛想尽かされては困る。だとしたら、俺が取る行動は一つだ。
渡利に不信感を抱かせず、相手を完全に手懐けさせる。
他力本願なのは情けないが、久保田との時間をつくるには味方であるこいつの存在は不可欠だ。
「せっかくだしさ、ちょっと手伝ってよ。一人より二人の方が良さそうだし」
「ね、いいでしょ」そうベッドの前に立つ俺は言いながら渡利に笑いかける。
いくら興味ないやつだろうが必要ならばいくらでもコミニュケーションを取る。
それが自分のためなら尚更だ。
馬淵宅、馬淵の部屋にて。
「っは、いっ……たぁ……ッ」
「おい、本当に大丈夫なのかよ」
「んっ、ぼくはだいじょ、大丈夫だから……っもっと奥、奥まで……っ」
「無理すんなって、馬鹿。まじで筋肉痛になってもしらねえぞ」
「いいッ、いいから、だからっ強く、お願い……っ」
「いいんだな?泣くなよ?絶対泣くなよ?」
「わかっ……つ……っぅあ、や……ん゙んんぅ……ッ!」
床の上に座り、開脚して前屈した俺は背後に膝立ちになる渡利に真っ二つに潰す勢いで背中を押され堪らず声を洩らす。
現在夜中。窓の外から聞こえてくる虫の鳴き声に混ざって肺から絞り出すような不気味な声が喉奥から溢れた。
確かに強くとはいったがまじで容赦がない。
こういうのは相手の体力などに合わせるものではないのだろうか。などと現実逃避をしつつ、ぎちぎちぎちと嫌な音を立てる全身の筋肉に顔をしかめ、額に脂汗を滲ませる。
「わたりく、も……いいから……っやめ……は、ぁッ、や……やめ……ッ」
渡利とのコミニュケーションを図るためにまずはストレッチから付き合ってもらおうと思ったのだが、どうやらその判断は間違っていたようだ。
というか見栄張った俺が悪かったのかもしれないが。
ギブギブと床を叩く俺に気付いた渡利は「あ、悪い」と言いながら慌てて手を離した。
そしてゆっくりと上半身を起き上がらせれば、そのまま渡利とぶつかる。
「本当悪い……おい、どっか痛いところないか?」
「いや、大丈夫」
わたわたと狼狽える渡利に問い掛けられ、肩で呼吸をしながらそう答える。
「……ちょっと気持ち良かった」そう小声でフォローしてやれば、渡利は意外そうに目を丸くした。
「じゃあ、次腹筋するから足掴んでてよ」
またなにか余計なことを言われる前にそう俺は渡利に声をかける。
積極的にコキ使おうとする俺に対し、渡利は「え、あ、おう」としどろもどろに頷けばそのまま立ち上がり場所を変える。
そして、その日眠るまで俺は体造りに励んだ。最初渡利は不思議そうな顔をして俺を見ていたが、最後の辺りは積極的に手伝ってくれた。
俺と遊べて満足したのだろう。終わる頃には「なんか冷たくなったよな」だとかつまらない疑いをかけてくることはなかった。
単純なやつだ。単純なやつは扱いやすいので嫌いではない。
結局くたくたになって風呂に入って、前回同様一緒の布団で眠った(非常に不本意だが)。
そして夜。
また、あの夢を見た。
その夢では道端で俺が二本の携帯電話を手にし、それを操作していた。メールフォルダを中心にメールを確認し、届いたメールに返信する。なんのへんてつのない映像だが、問題はそれが馬淵視点ということだ。
それから携帯電話を仕舞い、見慣れた住宅街を歩き町中へ出る。
暫くすると見覚えのある学生服の連中と遭遇し、そして更に暫くすると久保田が現れた。
こちらに笑顔を向ける久保田となにやら話し込んでいたが勿論瞼裏に映し出されるのは映像だけで音声は届かない。
それから連中とどこかへ移動して店の中に入ったとき、聞こえてきたアラーム音によって夢は途切れた。
◆ ◆ ◆
またあの夢だ。
昨日寝るのが遅かったのも関係しているのか、前以上に断片的なそれは恐らく前回同様馬淵の記憶なのだろう。
確信は持てなかったが、あまりにも普通の夢とは思えない程リアルだったし、まあぶっちゃけた話直感だ。
わざわざ事実かどうかを調べる気にはならなかったが、あれが馬淵の記憶だとすると一つだけ気になることがあった。
久保田だ。確か昨日久保田は遊びに行くって言ってたが、もしかして馬淵もそれに誘われたのだろうか。
馬淵が俺の体に入ってる時点でそういう可能性も覚悟はしていたのだが面白くない。
あいつ、やっぱ邪魔だ。
でも馬淵が馬淵の体に入ってても邪魔だし、一層のこと俺の体もあいつの体も俺が共有していたらいいのに。
そんなことを思いながら、俺はむくりと上半身を起こす。
隣を見れば、俺に背中を向けるようにして眠る渡利がいた。
そしてその枕元には携帯電話があり、このアラームは携帯の機能なのだと理解する。
鳴り止まないアラーム音に顔をしかめた渡利はアクビをし、手探りで携帯を探し出した。
なかなか変なところばっか探してアラームが煩いので俺は枕元の携帯を渡してやる。
すると、薄く目を開いた渡利は携帯電話を開きアラームを切り、ちらりとこちらを見た。
「おはよ」
「……ん、ああ」
窓の外から聞こえてくる鳥の鳴き声を聞き流しつつ、そんな挨拶を交わす。
男と同じ布団に入って爽やかな朝と言うわけではないが、取り敢えず俺たちは各々学校の準備に取り掛かる。といっても着替えて身嗜みを整えるくらいだが。
制服に着替え、ご飯を食べる。
昨日張り切りすぎたせいで足を筆頭に全身の筋肉が痛んだ。
それを渡利に解してもらいつつ、いつもの時間に迎えに来る久保田を待った。
が、いつまで経っても来ない。
俺が俺のとき、久保田は毎朝馬淵の家まで迎えに行ってたように思えた。
もしかしてなにかあったのだろうか。
そうそわそわしながらも久保田が迎えに来るのを待つが呼び鈴は一向にならない。
五分十分二十分と、時間だけが静かに過ぎていく。
電話するにも家にかけても意味がないし携帯の番号は覚えていない。
こちらから迎えに行こうとも考えたが入れ違いになったりして久保田を待たせるわけにもいかない。
ギリギリまで渡利と一緒に自宅で待機していたが、結局遅刻ギリギリになっても久保田はやってこなかった。
もしかしたら昨日遊びすぎて寝坊したのかもしれない。 多忙でちょっと間が抜けている久保田のことだ。特に珍しいことでもない。
やっぱりちょっと寂しかったが、忙しい中早起きして無理してまで馬淵を迎えに来られてもそれはそれであまり面白くなかった。
なんというか、複雑だ。
結局遅刻を心配した馬淵の母親に追い出され、俺は渡利と並んで登校する。
時間が時間だから通学路にうちの生徒の姿はなく、渡利とのなにかを噂されるようなことはなかった。
この前よりかは口数は増えてきたものの、やはり俺たちの間に賑やかな会話はない。
ぽつぽつと渡利と話しながら、俺たちは校舎へと向かった。
校舎内昇降口。
下駄箱で上履きに履き替える。
とっくに授業は始まっており、職員室で教室入室許可証を貰った俺と書く気が全くない渡利はそのまま教室へ向かった。
「俺、その辺ぶらぶらしてるから」
場所は変わって校舎内教室前廊下。
馬淵の教室までやってくると、渡利はそう言って来た道を歩いていく。
携帯がない今二十四時間近くに置いておきたかったが、本人が教室に入る気ないならどうしようもない。
今になったから携帯がないというハンデが重くのし掛かって来て、多少憂鬱だったが仕方ない。
こうなったら馬淵から携帯を取り返す算段を考えよう。
思いながら俺はそのまま教室の扉を開き、室内に足を踏み入れた。
教室の中には久保田がいた。
いつものようにうとうとしてこくりこくりと傾いている久保田が。
教師に教室入室許可証を渡し、向けられる視線の中俺は席まで歩いていく。
久保田の斜め後ろの特等席。
そこには確かに久保田がいて、もしかしてなにかあったんじゃないのかと心配になっていた俺はいつも通り登校していた久保田にほっとする。
その反面、なんで迎えに来てくれなかったんだという寂しさと悲しさと苛つきが胸の中で膨れ上がる。
今すぐ問い詰めたいところだが、気持ち良さそうに眠りこけている久保田を見てるとなんだか気が引けた。
まあ……後から聞けばいいか。
たまたま持ち合わせていたコンビニのビニール袋に机の中に詰まっていたゴミを入れながらそう俺は小さく息をついた。
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