恣意的なぼくら。

田原摩耶

文字の大きさ
66 / 152
2.シャーデンフロイデ

04※



 異常だと分かっていながら、何故。何故こんなことをするのか。
 ここから早く逃げ出さなければ。
 そう思うのに、犬馬先輩の力は強い。
 それでいて僕の意思も無視して体に触れてくる犬馬先輩にただ混乱する。

「っ、ぅ、やだ、いやだ、やめて……っ! お、お願いします、こんなこと……っ! ん、ぁ……ッ!」
「すごい嫌がるじゃーん。ちょい傷つくかも」
「やめてください、お、お願いだから……純白く……っ、ん、む……っ」

 少なからずまだ犬馬先輩よりも純白君の方が話は出来るはずだ。そう説得を試みようとした矢先、背後から伸びてきた手に顎を捉えられる。視界いっぱいに犬馬先輩の顔が近いたと思った時にはもう遅かった。
 そのまま噛み付くように犬馬先輩にキスをされる。わざとリップ音を立てるように唇を吸われ、舌先でこじ開けられた。

 何故僕は初対面に近い人とキスをしているのか。
 好き合っているどころか何も知らない人とこんなことを。

「ん……っ! ぅ、む……っん、んん゛……っ!」

 口の中に入ってこようとする舌先を拒むように唇を固く結び、顔を逸らす。拒絶を示せば、犬馬先輩はショック受ける素振りを見せるわけでもなくそのまま唇を舐める。
 そして代わりにべろりと肉厚な舌先は僕の頬から目尻まで這わされた。
 犬に顔を舐められるようなそれとは訳が違う。不快感。滲む涙を舐め取られ、そのまま頬にキスをしながら犬馬先輩は僕の胸を撫でた。

「っ、ふ、……っぅ……ん……っ!」

 反応すらもしたくない。逃げ出したいのに、がっちりと絡め取られた足では立ち上がることもできない。お尻の下に当たる嫌な感触の存在を必死に無視しながらも、平な胸に這わされる指を意識させられた。
 勃ちあがりかけていたそこを執拗に柔らかく撫で、転がされれば脳の奥が熱くなる。そんなつもりがなくとも喉の奥から微かな息が漏れてしまうのだ。

「っ、ん……っう……っ!」
「反応、初々しくてかわいー。乳首好き?」

 そんな恥ずかしいことを人に聞かないでくれ。
 そう何度も頭を振れば、背後で犬馬先輩は笑う。それから。

「く、ひ……っ!」

 シャツの上から浮き上がっていたそこを指で挟むようにつねられ、目を見開いた。

「……っ、ぁ、……っう……っ!」
「反応は初々しいけど、しっかり育てられてんね。感度もろじゃん」
「っぁ、ちが、……っん、やだ……っ、う……っ」

 普通ではないと言われているようで恥ずかしかった。
 僕と慈門君だけの秘密を第三者の目に晒されているようで酷く恥ずかしく、屈辱的なのに。
 犬馬先輩の言う通り、僕の体は先輩の手でも反応してしまう。こんなのおかしいと思うのに、摘んだり転がされたりしただけでもあっという間に大きくなり、弛緩した海綿体に熱が集中してくるのが分かった。

「はっ、ぁ、も……っん、む……っ」

 離してください。そう力が抜け落ちそうになる指先で犬馬先輩の手を掴むが、犬馬先輩は手をそれを無視して僕の顔を覗き込む。
 あ、と思ったのも束の間。視界は翳り、唇を重ねられた。口を閉じる暇もなかった。濡れた舌先は唇を割り開くように中へと入ってきて、そのまま逃げようとしていた僕の舌先をあっさりと捕らえた。

「っふ、……ぅ……ッ!」

 唇同士が触れ合っただけでも嫌悪感はあったのに、口の中まで踏み荒らされるとなるとそれ以上だ。
 逃げる暇もなく頭を掴まれ、そのまま喉の奥まで入ってくる舌先に根本から先っぽまで舌を愛撫される。
 乳首と咥内を同時に刺激されるだけで粘膜からは唾液が滲み、吐息混じり濡れた音を立てながら舌をしゃぶられ続けた。強い眩暈。逃げ出したいのに腰が重たくなり、力が入らない。頭の中がぼうっとしてきて、まるで自分は悪い夢を見ているのではないかとすら思えてきた。
 恋人にするみたいに赤の他人に抱きしめられ、撫でられ、唇を吸われる。気づけば抵抗する気力すらも奪われそうになっていた。

「んっ、ふ、……っぅ……っ!」

 ぢり、と脳の奥が熱くなる。
 勃起したそこを円を描くように捏ねられ、脳髄がぴり、と疼いた。体が跳ね上がれば、それをさらに深ぼるように追い討ちをかけられる。
 くりくりと撫でるように優しく乳首を触れられ続ければその指先に呼応するように上半身が跳ね上がった。逃げようとすれば背後の先輩にもたれかかってしまう。それも嫌で背中を丸めようとしても、すぐに胸を大きく逸らされては純白君に見せるみたいに乳首の勃起を強調させるような体勢で攻め立てられた。

「ふっ、ぅ゛……っ、んっ、む……っ、ぅぅう……っ!」

 見ないで、お願いだから。
 そう必死に隠そうとしても先輩はあっさりと僕の静止を無視し、カリカリと布越しに乳首をピンポイントに責め立てる。

 こんなの、おかしい。異常なのに。好きでもない人に触られて快感を得られるなんて、おかしい。のに。

「っ、……っ、ぅ、うぅ……っ」

 爪先から頭のてっぺんまで登り詰めてきた快感に抗えることはできなかった。
 視界の縁が白く染まり、爪先に力が入る。一人でに座ることすらできなくなり、ずり落ちていく僕の体を支え直しながら犬馬先輩は追い討ちをかけた。

「ん、む……っふ、ぅ……んんぅ……ッ!」

 針金のように固くなる全身。大きく逸らされた胸から突き出たそこをぎゅっと絞られた瞬間、自分がイカされたのだと明確に自覚することは出来た。それ同時に襲いかかってきたのは大きな喪失感だった。

 ほんの数分のことだった。
 それでも僕にとっては長い時間だった。

 満足したのか、僕が暴れなくなったのを確認したように犬馬先輩はようやっと唇を離した。
 解放されホッとする暇もない。次にやってきたのは言葉に言い表しようのないショックだった。

「っぷは! ……っはー……っ、ぅ……」
「……たくさんキスして? 乳首でも気持ちよくなっちゃったね、織和チャン。やったじゃん、これで立派な浮気だよ」

 呆然とする僕の胸を犬馬先輩の大きな手のひらが這わされる。まだじんじんと痺れるそこを手のひらが掠めただけで大きく体は跳ね上がった。

 ――浮気。
 その言葉に目の前が真っ暗になっていく。
 こんなの無理矢理ではないか。そう言いたいのに、混乱したままの頭の中では言葉はまるでまとまらない。
 代わりに、目の奥から涙が溢れ出し止まらなかった。

「……ど、して……こんな……っ」
「あーらら、泣いちゃった。俺キス下手だった?」
「ぅ、うぁ……っ」
「泣かないでー織和チャン。ほら、よしよし」
「さ、触らないで……っ、やだ、も……っ」

 なんで僕がこんな目に遭わなければならないんだ。
 僕はただ、純白君を助けたかっただけなのに。

 慈門君に知られたら、という恐怖もあった。同時に犬馬先輩が口にした慈門君の浮気のことを思い出し、より心の中を踏み荒らされる。
 何に縋ればいいのか分からない。助けを求める相手が見つからない。
 僕は――。

「……はあ」

 不意に、純白君が小さく息を吐いた。
 僕の足元に傅いたまま純白君は僕の足に触れる。閉じようとしていた股の間に割り込むように座り込み、そのまま伸びてきた細い指は腿から膨らみ始めていた下腹部へと触れた。
 ベルトを緩められ、そのまま下着ごとスラックスを脱がすようにずるりと引き抜く純白君。それはあまりにも手慣れており、そして突然のことで反応に遅れてしまう。
 下着ごと脱がされた下半身、慌てて裾を押さえて下を隠す。

「し、純白君……や、やめて、お願いだから……こんなこと……っ」
「利千鹿、余計なことしなくていいからさっさと済ませれば? ……早くしないと見回り来るから」
「えー、もっとイチャイチャしたかったのに」
「この人相手は無理。……分かってるだろ」
「こういう真面目な子をえっち大好きな子にさせんのが楽しいのに……っ、と、どれどれ~~?」

 そう言いながら犬馬先輩は僕の手首を掴まれれば、捲られたシャツの裾の下から頭を擡げ始めていたそこが覗いた。顔が熱い。自分で直視することもできず、顔を逸らした時。そのまま犬馬先輩は大きく僕の足を開かせた。
 するとどうなるか。
 ぱかりと開いた下半身は性器どころかその奥、普段は人に見せないようなそこまで二人の視線の元に向けられた。
 今となっては慈門君のものの形に作り替えられたそこを見て、純白君も犬馬先輩も目を丸くさせる。
 そして、笑った。

「……っ、ゃ……嫌だ……っ」
「は……っ、やば、ヤリマンと同じ割れ方してんじゃん。ここ」

「エロすぎだって、織和チャン」隠そうとすれば逆に伸びてきた犬馬先輩の指は肛門に触れ、そのまま柔らかくなっていたそこを左右に広げた。自分でも見えないところまで覗き込まれ、耐えられる人間がいるというのか。
 少なくとも僕は耐えられるほどの精神力はない。

感想 47

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。 それが嫌で、僕は家を飛び出した。 僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。 両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。 それから十数年後、僕は彼と再会した。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!