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1.イネイブラー
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「アイツって……」
「言わなくても分かりますよね。アイツです、あの不快の塊みたいな馬鹿男」
「……っ、もしかして、慈門君のこと言ってる?」
震えを抑えることは出来なかった。
怒りというよりも目の前の彼に対する恐怖の方が勝る。つい先程まで少し今までのイメージを払拭できたと思って気を許していただけに、余計。
すると純白君は笑みを浮かべた。「なんだ、折先輩もそう思ってたんですね」なんて嬉しそうに笑って。
「純白君、そんな言い方は……仮にも先輩相手にそんなのは良くない、誰かに聞かれてたりしたら……」
「ねえ先輩。普通、自分の彼氏馬鹿にされたらキレるところですよ」
「……ッ」
「俺、分かるんですよ。結構。……折先輩、無理やり付き合わされてるんじゃないかって」
この子は、と愕然とする。
それ以上に否定の言葉すらまともに口にできない自分にショックを覚えた。
純白君は「別に誰にも言いませんよ」と僕の手を取り、握り締める。
「先輩って男同士とかセックスとか、そういうの興味なさそうじゃなかったですか。ずっと。……それなのに不思議だったんです。甘南先輩の話を聞いて余計に」
「純白君、やめよう。こんな話は……」
「男と付き合いたいんだったら他にもっとマシなのいたでしょ」
普段無口な彼がここまで熱くなる理由も分からなかった。
ただ馬鹿にされていただけなら不快感もあっただろうけど、純白君の言葉の端から伝わってくるのはただの顔見知りに対するそれだけのように思えなかった。
純粋なお節介だけではない。それで、僕はなんとなく数日前に慈門君から聞いた水泳部のイジメのことを思い出した。
そう言えばその時の標的にされたと言われていたの、一年生と言っていた。
もしかして何か知ってるのだろうか。
喉に小骨が突き刺さる。けれど、あくまで憶測でしかない。
「純白君、落ち着いて……ほら、人が来るから」
「……」
近付いてくる足音。それから間も無くして雑に開かれる扉。そこから現れた長身の見慣れた影に驚いた。
着崩された制服。本なんて興味なさそうな鍛えられた体。
扉に頭をぶつけそうになりながら屈んで入ってきた慈門君は、僕の顔を見るなりパッと表情を明るくした。声には出さず、「会いにきた」と顔全体で笑いかけてくる慈門君。
普段なら笑って手を振り返していただろうが、隣にいる純白君の存在がそれを躊躇わせる。
――なんてタイミングだ。
早めにミーティングだかトレーニングだかが終わったのか。本を読む趣味なんてないのに「なんだ、人いねえのか」と図書室に入ってきた慈門君は大股でカウンターまでやってきた。
僕の隣にいた純白君に気付かなかったらしい。顔も見たくないという様子で純白君はそのまま席を立ち、書架の方へと向かう。それを慈門君は目で追いかけ、それから僕を見た。純白君を指差してニヤニヤと笑う慈門君に「慈門君」とその手を握る。
そういうところが彼に嫌われてる原因なのではないか。正直、心当たりはありすぎる。
カウンターに乗り上げ、そのまま「なんだ、二人きりになれると思ったのに」と顔を寄せてくる慈門君。
「部活、早く終わったの?」
「おー。五分で終わった。移動時間のが掛かったわ」
「そっか。じゃあ先に帰ってても大丈夫だよ。一応僕は定時まであるから……」
「なあ、あいつ藤だろ? あいつに任せて先上がろうぜ」
「慈門君」
「……っ、あー、はいはい、怒んなって。言ってみただけだろ?」
「君もたまには本を読んだらどう?」
「あーパス。俺重たいもん持てないから」
どうせそう言ってくると思ったが、あんまりな言い訳に思わず「嘘吐き」と呟いてしまう。
このやり取りも純白君に聞かれてるのかもしれないと思うとなんとも申し訳ない気持ちになる。
図書委員しても、本に興味ない人間が使用してるのはあまりいい気持ちはしない。小緑君ほどの過激派ではないけども。慈門君が身内だからこそそう思ってしまうのかもしれない。
「じゃあ外で時間潰してていいよ。終わる頃また連絡するから」
「なあ、なんか俺のこと帰らせようとしてね?」
「してないよ。一応他の使用者も来るかもしれないから、それに……」
「つか藤と一緒とか気まずいだろ。当番割決めてんの誰だよ、常楽?」
「…………」
あまり良くない流れを感じ、僕は咄嗟にカウンター下から卓上チャイムを取り出した。
普段は使わらないなるべく音が落ち着いたそれはカウンターが無人の時使用者が室内の図書委員を呼び出すためのものだ。
それをカウンターの上に乗せ、カウンターから出た僕は慈門君の腕を掴んで図書室の外へと引っ張っていく。
彼に、純白君に聞かせたくなかった。
「うお、なになに。どした?」
「……っ、慈門君、人前でああ言うのよくないって。純白君に聞こえたりでもしたらどうするの?」
僕に怒られるとは思ってなかったらしい。図書室前から移動し、なるべく声のトーンを抑えて問い詰めれば慈門君は「なんだよ、怒ってんの?」と狼狽える。
「君に悪気はなくとも、もし他の人が聞いたら誤解されるかもしれないだろ」
「誤解って、別にただの日常会話だろ? 悪口言ったわけじゃねーし」
「……それはそうだけど」
「なんだよ、折。先生みたいなこと言って、なに、なんか言われたわけ?」
面白くなさそうな顔をした慈門君に少しだけぎくりとした。
純白君にも、常楽先生にも、散々慈門君は誤解されている。いや、客観的には慈門君はそう映ってるのだろう。
僕だってたまに考える。もし僕が慈門君と幼馴染でなく、一緒のクラスになることすらない人生だったらきっと自分から話しかけることはなかったのかもしれないって。
「言わなくても分かりますよね。アイツです、あの不快の塊みたいな馬鹿男」
「……っ、もしかして、慈門君のこと言ってる?」
震えを抑えることは出来なかった。
怒りというよりも目の前の彼に対する恐怖の方が勝る。つい先程まで少し今までのイメージを払拭できたと思って気を許していただけに、余計。
すると純白君は笑みを浮かべた。「なんだ、折先輩もそう思ってたんですね」なんて嬉しそうに笑って。
「純白君、そんな言い方は……仮にも先輩相手にそんなのは良くない、誰かに聞かれてたりしたら……」
「ねえ先輩。普通、自分の彼氏馬鹿にされたらキレるところですよ」
「……ッ」
「俺、分かるんですよ。結構。……折先輩、無理やり付き合わされてるんじゃないかって」
この子は、と愕然とする。
それ以上に否定の言葉すらまともに口にできない自分にショックを覚えた。
純白君は「別に誰にも言いませんよ」と僕の手を取り、握り締める。
「先輩って男同士とかセックスとか、そういうの興味なさそうじゃなかったですか。ずっと。……それなのに不思議だったんです。甘南先輩の話を聞いて余計に」
「純白君、やめよう。こんな話は……」
「男と付き合いたいんだったら他にもっとマシなのいたでしょ」
普段無口な彼がここまで熱くなる理由も分からなかった。
ただ馬鹿にされていただけなら不快感もあっただろうけど、純白君の言葉の端から伝わってくるのはただの顔見知りに対するそれだけのように思えなかった。
純粋なお節介だけではない。それで、僕はなんとなく数日前に慈門君から聞いた水泳部のイジメのことを思い出した。
そう言えばその時の標的にされたと言われていたの、一年生と言っていた。
もしかして何か知ってるのだろうか。
喉に小骨が突き刺さる。けれど、あくまで憶測でしかない。
「純白君、落ち着いて……ほら、人が来るから」
「……」
近付いてくる足音。それから間も無くして雑に開かれる扉。そこから現れた長身の見慣れた影に驚いた。
着崩された制服。本なんて興味なさそうな鍛えられた体。
扉に頭をぶつけそうになりながら屈んで入ってきた慈門君は、僕の顔を見るなりパッと表情を明るくした。声には出さず、「会いにきた」と顔全体で笑いかけてくる慈門君。
普段なら笑って手を振り返していただろうが、隣にいる純白君の存在がそれを躊躇わせる。
――なんてタイミングだ。
早めにミーティングだかトレーニングだかが終わったのか。本を読む趣味なんてないのに「なんだ、人いねえのか」と図書室に入ってきた慈門君は大股でカウンターまでやってきた。
僕の隣にいた純白君に気付かなかったらしい。顔も見たくないという様子で純白君はそのまま席を立ち、書架の方へと向かう。それを慈門君は目で追いかけ、それから僕を見た。純白君を指差してニヤニヤと笑う慈門君に「慈門君」とその手を握る。
そういうところが彼に嫌われてる原因なのではないか。正直、心当たりはありすぎる。
カウンターに乗り上げ、そのまま「なんだ、二人きりになれると思ったのに」と顔を寄せてくる慈門君。
「部活、早く終わったの?」
「おー。五分で終わった。移動時間のが掛かったわ」
「そっか。じゃあ先に帰ってても大丈夫だよ。一応僕は定時まであるから……」
「なあ、あいつ藤だろ? あいつに任せて先上がろうぜ」
「慈門君」
「……っ、あー、はいはい、怒んなって。言ってみただけだろ?」
「君もたまには本を読んだらどう?」
「あーパス。俺重たいもん持てないから」
どうせそう言ってくると思ったが、あんまりな言い訳に思わず「嘘吐き」と呟いてしまう。
このやり取りも純白君に聞かれてるのかもしれないと思うとなんとも申し訳ない気持ちになる。
図書委員しても、本に興味ない人間が使用してるのはあまりいい気持ちはしない。小緑君ほどの過激派ではないけども。慈門君が身内だからこそそう思ってしまうのかもしれない。
「じゃあ外で時間潰してていいよ。終わる頃また連絡するから」
「なあ、なんか俺のこと帰らせようとしてね?」
「してないよ。一応他の使用者も来るかもしれないから、それに……」
「つか藤と一緒とか気まずいだろ。当番割決めてんの誰だよ、常楽?」
「…………」
あまり良くない流れを感じ、僕は咄嗟にカウンター下から卓上チャイムを取り出した。
普段は使わらないなるべく音が落ち着いたそれはカウンターが無人の時使用者が室内の図書委員を呼び出すためのものだ。
それをカウンターの上に乗せ、カウンターから出た僕は慈門君の腕を掴んで図書室の外へと引っ張っていく。
彼に、純白君に聞かせたくなかった。
「うお、なになに。どした?」
「……っ、慈門君、人前でああ言うのよくないって。純白君に聞こえたりでもしたらどうするの?」
僕に怒られるとは思ってなかったらしい。図書室前から移動し、なるべく声のトーンを抑えて問い詰めれば慈門君は「なんだよ、怒ってんの?」と狼狽える。
「君に悪気はなくとも、もし他の人が聞いたら誤解されるかもしれないだろ」
「誤解って、別にただの日常会話だろ? 悪口言ったわけじゃねーし」
「……それはそうだけど」
「なんだよ、折。先生みたいなこと言って、なに、なんか言われたわけ?」
面白くなさそうな顔をした慈門君に少しだけぎくりとした。
純白君にも、常楽先生にも、散々慈門君は誤解されている。いや、客観的には慈門君はそう映ってるのだろう。
僕だってたまに考える。もし僕が慈門君と幼馴染でなく、一緒のクラスになることすらない人生だったらきっと自分から話しかけることはなかったのかもしれないって。
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