人離世界のクソったれガイド記録

田原摩耶

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二人目『自称探偵兼何でも屋所長兼親友兼恩人パーシャル』

02

 レイタントはエスパーとガイドの卵である。
 覚醒の可能性を秘めた人間は、後天的に覚醒する。その条件は個々によって様々だが、共通していることと言えば大きな精神的ショックを受けた時だ。
 より大きなトラウマを覚えた時、防衛本能が未知の力を引き出す。

 それを組織的に行おうとしていた連中がいた。
 人為的にエスパーとガイドの子供を作り出し、小さな箱の中に閉じ込めて対エネミー用の兵器として教育していた団体が。

 なんでそんなことを知っているのかって?
 それは、俺がそこで育てられた子供の一人だからだ。

 連中は色々なことを教えてくれた。
 戦い方から武器の使い方、エネミーがどれほど害があり、自分たちが選ばれた人間なのだと。
 その傍、人為的に覚醒させるために団体は俺たちにあらゆる精神的な傷を負わせようとした。
 そこで無事どちらかの才能を開花すれば、その子供は別の施設へと移される。本格的にエスパーやガイドとして教育されるためだ。
 俺はそれが羨ましかった。俺も早くセンチネルになってエネミーをやっつけたい――そう思ったが、生まれてこの方家族や友人、大切なものもなかった俺は何をされても心を動かされることはなかった。いわゆる、落ちこぼれのレイタントだった。
 そんな子供は珍しくもない。対人関係の希薄な子供は成長するにつれ知識を蓄えるだけだ。

 人材不足の組織はそんな子供たちを隔離し、別の実験を行った。敢えてグループ行動をさせ、子供たち同士の繋がりを強固なものにするために。
 そして、何もなかった欠落品のレイタントに絆を覚えさせる。
 それはレイタント覚醒のための舞台装置として、向けられた銃口に気づきもせず俺たちはそのグループで生活した。

 無口な幽雪ゆうせつ
 泣き虫の義統よしむね
 いつも眠そうな自由人みゆと
 甘えん坊の恋音こいね
 いつも楽しそうな未了。
 そんで、俺。

 六人一班で訓練、授業、食事と共同生活を送っていた。その中でも特に未了は俺に懐いていた。
 何をするにも俺の後ろからついてきた。
 俺がいないとしたくないと我儘を言っては、先生に叱られる。それでも未了が切り捨てられなかったのは、俺たちの中でも一番成績が優秀だったからだからだ。
 他の子供達に比べて殺すことにも傷つけることにも躊躇いはなく、頭のいいやつだった。ただ、壊滅的に性格が悪かった。
 他の奴らとは仲良くしようともしない。問題行動ばかり起こすのに、なぜか俺の言うことだけはきちんと聞いた。
 何故俺のことばかり気にするのか、と聞いたこともあった。
 けれど未了は、

『世界、きっと君は俺の最高のガイドになってくれると思うから。そしたら俺たち、最高のパートナーになれるよ』

 そう無邪気に笑うのだ。あの時頭にきたのを今でも覚えている。
 俺はエスパー、なんならセンチネルになることを目指していたのに。あいつは俺をガイドだと決めつけていた。それが気に食わなかった。

 そんな子供の喧嘩も関係ない。俺は六人の中でも成績は最下位だった。喧嘩も負けるし、周りの教師たちの扱いも悪くなる。それを真似するように同じ班のやつらも俺に対して家来か下僕のように接してきたが、その中でも未了だけは最後まで俺を友人として扱った。
 大嫌いで腹立つ未了だけが、俺のことを。


 そんなクソみたいな半年も終わりが近づいてきた。
 次の実験段階へと移行するために連中がテストを行ったのだ。その内容は分かりやすいものだ。
『班の中から一人を選び出し、仲間たちの前で痛めつける』。
 その選出は公平に成績の悪いものを選び出す。効率よく恐怖とトラウマを与え、蹴落とし合いという名の向上心を高め合うために。

 そんで、その時選ばれたのは俺だった。
 なんとなくそうなることは分かっていた。それでも受け入れられるわけではない。だってそうだろう、俺だけ苦しい目に遭わされて他の奴らにエスパーになられたりでもすれば――そんなの、最悪だ。
 同時に絶望する。もし俺はそもそもレイタントにすらもなれていないただのミュートだったらと。
 ここまで追い込まれても開花できない自分に恐怖を覚えて、そんで――何もかもが嫌になった。
 嫌になって、お前らのためなんかに死にたくないって喚いて、暴れて、殴られて――今まで味方だと思ってた大人たちや他の子供たちに見下ろされ、銃口を向けられる。

『こいつは処分だ』

 そう誰か大人の一人が口にした瞬間、その大人の頭が風船のように膨らみ、弾け飛んだのを俺は見た。

『やめろ、世界は俺のだ』

 響く声は脳裏に未だこびりついている。いつものニコニコとして笑顔もなく、ただ佇んだそいつから発される殺気も。血の匂いも。そして一瞬にしてその場を覆い尽くす炎の壁も。一緒に生活してきていた子供たちの悲鳴も。

 ――センチネルが覚醒する瞬間を目の前で見たのは初めてのことだった。

 そして、それからのことは朧げになっている。
 別の大人たちがやってきた。見たことのない制服の大人たちは俺を保護してくれた。『恐ろしい思いをさせて悪かった』と、それからあの時のレイタント養成施設がどうなったか、詳細は知らない。
 ただ一度それとなく調べれば、既にあのときの未了の暴走により施設ごと吹き飛び、その時いた子供達はそれぞれ別の場所で保護されたようだ。
 本来ならば覚醒のために故意に精神的負荷を掛けることはあの時のような暴走を生むため禁止されている。それを秘密裏に行なった関係者たちは捕まり、そして闇へと葬られる。

 結局、その時のショックでも俺は覚醒することはできなかった。ガイドになったのはまたその後だ。
 無理もない、だったあの時あの場にいた連中は俺の大切な仲間でもなんでもなかった。
 それどころか。

「……うー、寒~……っ」

 ちらほらと頭から降り注いでくる粉雪を見上げる。

 元々、俺が真逆興信所にやってきたのも人探しのためだった。
 あの時俺と同じレイタント養成施設で育ち、俺と半年同じ班で生活してきたあいつらに会いたい。
 今どこで何しているかも分からないあいつらに。
 そのために真逆興信所の扉を叩いた。
 それから何年経ったのだろうか。まさか今ではあのボロビルが自分の家になるとは思ってもいなかった。

 その時はまだ、全所長がそこにいた。
 そして天良は自称助手を名乗る学生だった。俺が数人のエスパーを探している、と言ったとき不思議そうな顔をしていたのを覚えてる。

『なんでだ? お前、そいつらの友達か?』
『いや、全然』
『アンタ、ミュートだろ? ……エスパーとわざわざ関わるなんてやめとけよ、危険だ』

 その時俺はミュートのフリをして生きていた。
 そして天良も、自分がパーシャルということを隠して生きていた。

『ところで君、彼らを探し出してどうするんだい?』
『殺したいから』

 まあ、昔の俺は若かった。まだガキだったし、机の上に足を乗せて踏ん反り返った瞬間事務所から叩き出されたのを覚えている。

『くそ、あのおっさん……ッ!』

 ガキの冷やかしだと思ってあしらわれたのが何よりもムカついた。事務所の前で大人しく待っていた宝生が『にいさん』と拙い声で駆け寄ってくる。それを『大丈夫だ、大丈夫』と宥めながら、渋々他の探偵事務所をあたろうとした時、扉が開いて先ほどの制服姿の子供――天良が追いかけてきた。

『おい! 犯罪者予備軍!』
『ちげーよ、声でけえし』
『なんでお前、そいつらのこと殺したいんだよ』

『依頼受けてくれないやつに話せるかよ、プライバシーの問題だ』と突っぱねようとすれば、やつは俺の手を取った。瞬間、伝わってきた。

『やめておけ』
『……っ、は?』
『いいからやめろって言ってんだよ、考えなしかよお前! もっとましな反抗期しろガキ!』
『は……いや、お前もガキだろ。てか、お前……』

 触れた箇所から感じる幾重に重なった薄い膜のようなエネルギーの波。それらは鼓動のように流れ込んでくる。
 この感覚を俺は知っている、これはエスパー特有のものだ。
 天良は茶化そうともせずただこちらを見ていた。

『――お前、このままじゃ殺されるぞ』

 そう、今しがた酷い未来でも見たかのような顔をして。

『その弟さんも大事にしたいなら、俺の言うことを聞け。……父さん、所長には……俺から言っておくから』
『……』
『だから、いいか。俺の言うことを聞け』
『……お前、エスパーか?』

 天良は迷ったような顔をして、それから頷いた。脂汗を滲ませて、『そうだ』と頷いた。

『人離世界、お前から酷い未来が見えた』

『それも、お前だけじゃない。他のたくさんの人間を巻き込んで、めちゃくちゃになる。そんなクソみたいな未来が』食い込む指先、白くなるほど噛み締められた唇をただ見つめた。
 こいつの未来予知――それが天良の固有能力だと知ったのはこの時だった。

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