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二人目『自称探偵兼何でも屋所長兼親友兼恩人パーシャル』
03
真逆天良は典型的なエスパーコンプだった。
幼少期に色々あったのだろう。人にエスパーであることを隠し、ミュートとして生きる。
常人離れした五感の一部を敢えて鈍らせるための薬をいくつも常飲し、極力能力を使わないようにしている。――それでも不本意で発動することはあるらしい。
エスパーになりたかった俺からしてみれば贅沢極まりない悩みではあったが、実際、この世界ではまだエスパーに対する畏怖は根強い。
傷つける力を持ってる攻撃的なセンチネルならともかく、人に危害を加えないタイプの天良ですらも恐怖の対象として標的にされることはあった。
だから、あいつは外では力を使わない。
異常時を除いて。
夜風を浴びながら天良に連絡を取る。
普段ならすぐに出るのに、なかなか天良は応えない。
口の中で舌打ちをし、あいつが行きそうなところを片っ端から当たる。
今度からあいつに発信機をつけさせるか。そんなことを思いながら知り合いの情報屋に尋ねれば、いくつか天良の目撃情報を集まった。
その目撃時刻から場所を絞り出し、目星をつける。そこへ向かう途中、道路の脇に乗り捨てられた自転車に乗り上げる。今にも壊れそうなそれを無理やり走らせつつ、俺は飲み屋街へと向かった。
エスパーにとって、一般人が暮らすこの世界のどこもかしこが有害な空間でしかない。
悪臭、雑音、悪意――なにもかもが自分へ向けられる狂気のように五感に突き刺さる。
薬で鈍らせてもそれは変わらない。特に、天良のようにガイディングを嫌う変わり者のエスパーからしてみれば特に。
その飲屋街は昼間のように明るいネオンで照らされていた。あらゆる飯、酒の匂いは俺ですら刺激臭のように感じるほどだ。通り過ぎるミュートから漂う香水も混ざっていい感じのスパイスになっている。
目立つメイン通りから細い路地裏まで通り抜ける。恐らく天良はここを通った。そんで、思いの外人混みと酒の匂いにやられて、それから逃げようとした路地裏で飲食店が出した生ゴミの匂いで潰れて――。
「……いた」
路地の物陰、その壁にもたれかかるようにして動けなくなってる酔っ払い――ではなく、そいつは口と鼻を押さえたままこちらを見た。
「……せ、かい」
「あー、喋んなくていいから。取り敢えず、暴れんなよ」
面倒だから、とそのまま天良の腕を引っ張り、抱き上げる。
「おい」と案の定暴れようとするやつを無視し、俺は一刻も早くその場を離れることにした。
「お、ろせ……っ! おい、俺は大丈夫だから……っ!」
「二日酔いのときの俺みたいなこと言ってんじゃねーよ。……ほら、ここまで来たらいいだろ」
飲屋街を離れ、近くの公園までやってくる。
風通しがよく、多少喧騒もマシだろう。ここでなら、とベンチに天良を座らせる。
「薬は?」
「飲んでる……けど、効いてねえ」
「抗体ついてきてんだろ。……ほら、こっち見ろ」
「い、やだ」
「は?」
「もう平気だ、……落ち着いた」
「……」
またこいつは。
あの時から何も変わっていない。
定期的なケアも拒否し、体調に不調が生じても頑なにガイディングを拒否する。
毎回毎回、これだ。いい加減むかついてきて、俺は天良の手を取った。
「んじゃ手を握れ」
「やめろって、おい……っ!」
「それ以上暴れるなら今この場でフェラするからな」
「な゛……ッ!」
脅しが効いたらしい。大人しくなった天良を抱き締めれる。なるべくそっと、それでもまだ腕の中の天良の体は緊張していた。
ガイディングに必要なのはエスパーの警戒を解くことだ。それから信頼関係。
それが補えそうにない場合、粘膜接触する他ない。この場合は本人の意思を多少無視して行うので反動が大きいが、あまりにも抵抗するエスパー相手には有効だと教え込まれていた。
何も言わずにただ天良が落ち着くまで抱き締める。いつも喧しいあいつが大人しく、体を震わせていのはなんだかとても奇妙な感じがして――同時に懐かしくも感じた。
あのときと同じだ。初めて会った時、俺の未来を視てしまった天馬がゾーンに入りかけた時のこと。まだ俺も俺でガイディングに慣れていなくて、とにかく落ち着かせなければと焦った俺はあの時――。
「……っ、も、いい、……大丈夫」
「嘘吐け。声に元気がない」
「本当に、本当だ。……だから、も、一旦離れてくれ……」
脂汗は止まっているし、受け答えはできるらしい。呂律はやや甘いが、寝起きのこいつもいつもこんなもんではある。
「ああ言うところ行くときは俺を呼べって。それか、ガイドつけろよ」
「……大丈夫だったんだよ、途中まで。それに、最近は調子良かったから」
「……力、使ったろ」
「………………」
こくり、と観念したように天良は頷いた。
それから「心配なんだ」とも、叱られた子供のような弱々しい声で吐き出す。
「子供が、覚醒したばかりのパーシャルが……家を飛び出したって……その子のお母さん、泣きながらやってきて」
「……」
「機関に連れて行かれたり、エスパー殺しの犯人にでも見つかったらって……そんで……早く見つけねえとと思って」
「なら余計ガイドは連れて行けよ」
「うるせ……っ、だ、だって……分かってんだろ。お前だって。……俺は、ガイディングは……無理なんだって」
「無理とかじゃなくて法律で義務付けられてんの。普通はな。……良かったな、俺が善人じゃなくて」
天良は何も応えなかった。言い合う気力も残ってなかったのだろう。微かに震える手を取り、握りしめる。それすらも天良は拒もうとする。
あの時もそうだった。力を使いすぎた天良が鼻血が吹き出し、ぶっ倒れそうになったとき。俺もガイドの能力に目覚めたばかりで混乱していた。
その時咄嗟に俺はあいつにガイディングしようとして――失敗した。
元々ガイディングに慣れていない、おまけにコンプレックスで固められた分厚い壁を持っているこいつのガイディングは本来ならば慎重にすべきだったのだ。
反発し合い、食われる。意識を肉体から引き剥がされるような衝撃とともに意識が飛びかけて――あの時、宝生が興信所に戻って前所長を呼んでこなければ本気で死にかけていたかもしれない。
あのときをきっかけに興信所にちょくちょく顔出すようになったが、同時にこいつのガイディング恐怖症を加速させたのも事実だった。
まだあの単純S級センチネル様の方がやりやすいくらいだった。
それくらい、こいつが心に張ったシールドは分厚い。
「目眩は?」
「……平気」
「今日は何曜日だ?」
「……水曜日」
「……まだ、俺のことが怖いのか?」
天良は何も応えなかった。その代わり、肩口に額を押し付けてくる。
「……怖くねえよ。別に。お前なんか」
「……」
なら、俺のガイディングを素直に受け入れろ。
そう言ってやりたかったが、やめた。ガイディング中に対象を刺激してはならない。そう散々教え込まれていてもこいつが相手だとつい口走りそうになってしまうので困る。
「目を閉じて、頭ん中で数字数えて。……三十秒」
「……ああ」
緊張は緩まない。ドキドキと煩い心音も相変わらずだった。それでも、鼻血は吹き出してない。意識を持って行かれることもない。今のところは順調ではあるが、あくまで応急処置レベルだ。
「俺も手伝う。……その子供の写真はあるのか?」
天良は小さく頷く。
数え終えたあと、やつはゆっくりと目を開いた。やはりまだ息苦しそうだ。
「……さっきまであの通りにいたのが視えた。そしたら、路地裏にいって……あの子が危ない。下手したら、ゾーンアウトの可能性もある」
「……りょーかい」
子供で、おまけに覚醒したばかりのパーシャルときた。
発達した五感にもよるが、エスパーとしての教育を施されていない子供が浴びるにはあまりにもこの街には刺激が多すぎる。
もう一仕事する覚悟はしていた方がいいだろう。
息を吐き、天良から手を離した。
「お前はここにいろ。宝生にも連絡して来てもらう」
「やめろ、宝生は未成年――」
「馬鹿、こういう時除け者にした方があいつは怒る。お前も分かってるだろ?」
「…………それは、そうだけど」
「とにかくここにいろ。それと、その子供の母親にも連絡しといてくれ。いつでもこっちに来れるように」
「念の為な」と付け加えればあいつは苦々しい顔で頷いた。そんな万が一など来ない方がいいが、何が起きるか分からない。
天良の背中を叩き、「んじゃ頼むわ、所長さん」と俺はそのまま公園を後にした。
宝生に連絡をし、天良のいる位置も伝えた。あいつやはり夜更かしをしてたそうだ、『すぐに向かう』という簡素な返事が届き、我が弟ながら安心した。
そして飲屋街へと引き戻そうとした矢先だった。
どこからともなく爆発音が夜の街に響き渡る。そして響くのは喧騒にもよく似た悲鳴だった。
「ああ、クソ……」
穏便に済まし、何事もなく母親に引き渡す。
そのルートは一旦諦めた方がよさそうだ。
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