18 / 55
三巡目
05
ハルベルとの食事を終え、食後の制御剤の薬を服用していたところに教員がやってくる。
何事かと思いきや、どうやらアンリのことで話があるというのだ。
今回はアンフェールが居ないから仕方ないか、と諦めつつ俺は食べている途中だったハルベルを残し、そのまま教員について行くことにした。
「いやあ、悪いねリシェス君。どうも君が連れてきてくれた彼、話が通じなくて」
「通じない?」
「『ニホン』がどうだとか、現代がどうだとか言って……」
「……ああ」
――なるほど、そういうことか。
前を歩く中年の教員はほとほと困っているようだ。
「我々では話が成り立たないし、どうも彼は君にまた会いたいと言っていたのでね」
「……分かりました。僕でよければ」
「すまないね、せっかく食事しているところに」
「いえ、お構いなく」
そう、教員に連れてこられたのは応接室だった。
確かに、このシチュエーションには覚えがある。とはいえど、アンリ視点の原作の話になるが。
前に立つ教員が扉を開けば、そこにはソファーの上、借りてきた猫のように縮こまって膝を抱えていたアンリ――八代杏璃の姿があった。
アンリは俺の顔を見るなり、「あ!」と勢い欲立ち上がるのだ。
「君は……っ!」
嬉しそうに目を輝かせるアンリを一旦無視し、アンリの相手をさせられていたらしい若い教師に「先生」と声をかける。
「先生、後は俺が話を聞きますよ」
「リシェス君、しかし……」
「彼のことは任せてください。後からまた報告しますので」
不審者とも等しい相手と俺を二人きりにしていいのかと憚られているのだろう、教職員としてはその判断は間違っていないだろう。
しかし、俺としても部外者がいると立ち回りが面倒だということもあった。
そっと肩を掴んで耳打ちをすれば、少しだけ驚いたような顔をして教師はこちらを振り返り、そして「わかった」と渋々頷いた。
「なにかあったらすぐに知らせるんだぞ」
「はい、わかりました」
そのままソファーから立ち上がり、そそくさと応接室から出ていく教師を見送り、そして入れ違う形でアンリと向かい合ってソファーに腰を下ろす。
「あ、あの……リシェス、君……っ!」
「……お前は、もう少し上手く立ち回れないのか?」
「……え?」
「現代だとか知らない国の名前を出してみろ、下手すればその場で処刑だ。……なら、記憶喪失だとか適当に言って誤魔化す方がよほどましだと思わないのか?」
「っ、ぁ、あの……なんで……」
知ってるのか、と言いたげな顔をするアンリ。
この世界ではまだ、アンリからしてみれば俺はなんの事情も知らない人間と同じなのだろう。
「……ここへ来る途中、ある程度君が言っていることは教師から聞いた。話にならないから代わりに俺に話を聞いてくれ、だとさ」
「あ、それで……でも良かった。来てくれて本当に助かったよ」
「……元はと言えば、ここまで連れてきたのは俺だ。無視して始末されちゃ目覚めが悪いからきただけだ」
あまり懐かれるわけにもいかないので言葉を選ぶが、「えへへ」と頬を綻ばせるアンリには全く響いていないように見える。
「なにへらへらしてるんだ。……分かってるのか、自分の立場」
「うん、分かってるよ。……けど、その、君は他の人たちみたいに僕のことを疑わないんだね?」
「疑う?」
「……異世界から来たって話、皆、信じてくれないんだ」
「…………」
懐きすぎじゃないか?と思ったが、アンフェールに対するアンリの心の開き方も似たようなものだった。
それに、異世界に来たばかりでは心細くて少しでも話が分かる人間がいたら懐いてしまうものなのかもしれない。
……それにしてもだが。
「おかしな話だな」
「……リシェス君?」
「魔法も化け物も存在するんだ。別に、なにが起きてもおかしくはないだろ」
――お前こそ、こうして俺がお前と初めましての挨拶をするのが四度目以上だと知ったらどういう顔をするのだろうか。
そんなことを考えながら答えれば、「やっぱり、君を呼んで良かった」とアンリははにかんだ。
「お願いがあるんだ、リシェス君」
「断る」
「え、なんで? まだなにも言ってないのに」
「とてつもなく面倒な気がしたからだ」
「そんな……」
「俺はお前の言うことは信じると言ったが、この先までお前に付き合うとは一言もいってない。……教師たちに『魔物に襲われたショックで記憶が混濁してるようでおかしなことを口走る可能性がある』と口添えはしてやるが、その先は一人でなんとかしろ」
「……っ!」
その手があったか、と言わんばかりに目を大きくしたアンリは、そのまま立ち上がって俺の手を取ってくるのだ。ひんやりとした柔らかな指の感触にぎょっとするのもつかの間、いつの間にかすぐ鼻先数センチ先まで迫っていたアンリの顔に呼吸が停まる。
「っ、おい……」
「リシェス君、やっぱり君はいい人だ!」
「……はあ?」
「――一番最初に出会えたのが君で、本当によかったよ」
そして、猫のように目を細めて微笑むアンリ。その大きな目に見つめられると吸い込まれてしまいそうで不安になる。
「大袈裟なやつ」と俺はアンリの手を振り払い、視線を逸した。そんな俺の態度にもアンリは木にした様子もなく、「ねえ、また君に会いに行ってもいいかな」なんて言うのだ。
「面倒ごとには巻き込まれたくないと今しがた言ったばかりだが」
「面倒なことにはならないよう、僕頑張るよ。……ねえリシェス君、君の名前を出せば君に会えるのかな」
「周りを巻き込むのはやめろ」
「君って周りの人のことも思いやれるんだね」
「……」
「あ、ごめん! いまのは馬鹿にしてるとかじゃないんだ。ただ、やっぱり優しいなぁ~ってしみじみ……」
「話はそれだけか?」
アンリの手を振り払い、そのままソファーから腰を持ち上げる。「あっ」とアンリはこちらを見るが、それを無視して俺は応接室を出ていこうとする。
そして、「待って、リシェス君」とついてこようとするアンリを振り返った。
「この世界では異界人は災いの象徴だ。――派手な行動は慎めよ、異界人」
そして、いつぞや、どこかのルートで口にした言葉が漏れる。なつかれすぎない、かといって見殺しにしない程度の距離感を保つのは至難の業だ。
ぱちくりと目を丸くしたまま固まるアンリを残し、俺はそのまま応接室を後にした。
そして、応接室前。
今か今かと不安そうに待っていた教師たちに中のアンリの様子を伝え、それとなくアンリを学生として引き受けるように口添えもしておくことにする。
俺の言葉を無視するわけにもいかない。断られることはないと最初からわかっていたので返答は待たずして、俺はそそくさとその場を後にすることにした。
この先、死なずに済むルートを手探りで探していく。そのためには今までに起こしていなかったアクションもものは試しで行うことにした。
そうしなければこの死のループから抜け出せないと分かってしまっているからだろう、こうやって大胆な行動に移すこともできるのは。
それでも、自ら死にたいとは思わない。あくまでも生き残るということが目的に自分の中でなりつつあることに気付いたときにはあとの祭りでもあった。
それから、教師への口添えが効いたのか思ったよりも早くアンリは転入することになる。
けれど、今までとは決定的に違う。やつが異世界からやってきた転生者だと知っているのは俺だけだ。
ハルベルも、教師も、記憶混濁してる哀れな迷子とでも思ってるだろう。
最初は記憶喪失の転校生ということで話題にはなったが、本人はというと至って平凡な男だ。やはり原作主人公補正はあろうと、攻略対象たちの最初のフラグにもなる『異世界からやってきた』という設定が生きていなければその効力は発揮されないようだ。
数日もすればアンリは話題にすら上がらなくなる。
アンフェールは相変わらず生徒会執務室と訓練所を行き来しているし、他の攻略対象たちもアンリとの噂は聞こえてこない。
――その代わり。
「リシェス君、おはよう」
――早朝。
叩かれた扉に、もうハルベルがやってきたのかと扉を開ければそこにはにっこりと微笑むアンリが立っていた。
思わず無言で扉を閉めそうになったが、扉の隙間にねじ込まれたアンリの靴先によりそれを阻害される。
「……っ、なんでここにいる」
「昨日先生に聞いたんだ、リシェス君の部屋」
「それもだけど、そうじゃなくて……っ」
「だって、なかなかリシェス君に学校で会えないから。朝だったら流石にいるかなと思って……」
「……もしかして、迷惑だった?」と、うりゅ、と目を潤ませるアンリに俺は絶句した。
正直アンリのことは嫌いではないが、それはカップリングで見たときというかあくまでアンリの隣にいるのが自分ではないという場合のとき好ましく思えるだけであって、アンリからの矢印が自分に向けられているとなると大分話が変わってくる。
……というかこいつ、こんなに図々しいやつだったか?
確かに逞しい主人公だなと感心したことはあったが……。
「っていうわけで、リシェス君。部屋に入っていいかな」
「……断る」
「どうして? もう制服にも着替えて準備もばっちりみたいだけど……」
「気分じゃない」
「ああ、そうか。リシェス君って確かに低血圧っぽいもんね」
それもそうだけど、それだけじゃない。
なにを考えてるかわからない状況だ、下手によかわからないアンリフラグを立てていいのか寝起きの頭では判断つかないので慎重にならざる得ないのだ。
「じゃあここで待ってるね、その気になるまでゆっくりしててよ」
こいつ、とわざわざ突っ込む気にもなれなかった。
寧ろ、あっさり身を引いてくれてよかった。……よかったのか?もうわからない。
俺は寝ぼけ眼のまま扉を閉め、一先ず深呼吸をした。
――絶対これ、アンリルートに入ってるよな。
そもそも原作にはアンリとリシェスがくっつくような展開はなかったはずだ。
けれど、友情ルートか。悪役であるキャラが絆され、恋愛ルートとは行かずとも友情を気付き、実質的に誰も不幸になるわけではなく大団円エンドというのはないわけでなない。
寧ろあってもおかしくない。
……なるほど、試してみる価値はありそうだ。
そうと決まれば、と俺は再び自室の扉を開いた。そこには宣言通り、まるで忠犬よろしく立っていたアンリがいた。
「リシェス君」
「……入れ」
「いいの?」
「駄目だったら上げるわけないだろ」
俺の言葉に、アンリは犬っころみたいな顔をしてぱっと笑う。……ハルベルといい、この手の笑顔に俺は弱い。
「ありがとう、リシェス君!」
「声が大きい。……まだ他のやつは寝てる時間帯だ、静かにしろ」
「うん! ……あ」
ハッとしたアンリは代わりにコクコクコクと何度も頷くのだ。
アンフェールもここまで感情が分かりやすければ、と思いながらも俺はアンリを部屋へと招き入れることにした。
何事かと思いきや、どうやらアンリのことで話があるというのだ。
今回はアンフェールが居ないから仕方ないか、と諦めつつ俺は食べている途中だったハルベルを残し、そのまま教員について行くことにした。
「いやあ、悪いねリシェス君。どうも君が連れてきてくれた彼、話が通じなくて」
「通じない?」
「『ニホン』がどうだとか、現代がどうだとか言って……」
「……ああ」
――なるほど、そういうことか。
前を歩く中年の教員はほとほと困っているようだ。
「我々では話が成り立たないし、どうも彼は君にまた会いたいと言っていたのでね」
「……分かりました。僕でよければ」
「すまないね、せっかく食事しているところに」
「いえ、お構いなく」
そう、教員に連れてこられたのは応接室だった。
確かに、このシチュエーションには覚えがある。とはいえど、アンリ視点の原作の話になるが。
前に立つ教員が扉を開けば、そこにはソファーの上、借りてきた猫のように縮こまって膝を抱えていたアンリ――八代杏璃の姿があった。
アンリは俺の顔を見るなり、「あ!」と勢い欲立ち上がるのだ。
「君は……っ!」
嬉しそうに目を輝かせるアンリを一旦無視し、アンリの相手をさせられていたらしい若い教師に「先生」と声をかける。
「先生、後は俺が話を聞きますよ」
「リシェス君、しかし……」
「彼のことは任せてください。後からまた報告しますので」
不審者とも等しい相手と俺を二人きりにしていいのかと憚られているのだろう、教職員としてはその判断は間違っていないだろう。
しかし、俺としても部外者がいると立ち回りが面倒だということもあった。
そっと肩を掴んで耳打ちをすれば、少しだけ驚いたような顔をして教師はこちらを振り返り、そして「わかった」と渋々頷いた。
「なにかあったらすぐに知らせるんだぞ」
「はい、わかりました」
そのままソファーから立ち上がり、そそくさと応接室から出ていく教師を見送り、そして入れ違う形でアンリと向かい合ってソファーに腰を下ろす。
「あ、あの……リシェス、君……っ!」
「……お前は、もう少し上手く立ち回れないのか?」
「……え?」
「現代だとか知らない国の名前を出してみろ、下手すればその場で処刑だ。……なら、記憶喪失だとか適当に言って誤魔化す方がよほどましだと思わないのか?」
「っ、ぁ、あの……なんで……」
知ってるのか、と言いたげな顔をするアンリ。
この世界ではまだ、アンリからしてみれば俺はなんの事情も知らない人間と同じなのだろう。
「……ここへ来る途中、ある程度君が言っていることは教師から聞いた。話にならないから代わりに俺に話を聞いてくれ、だとさ」
「あ、それで……でも良かった。来てくれて本当に助かったよ」
「……元はと言えば、ここまで連れてきたのは俺だ。無視して始末されちゃ目覚めが悪いからきただけだ」
あまり懐かれるわけにもいかないので言葉を選ぶが、「えへへ」と頬を綻ばせるアンリには全く響いていないように見える。
「なにへらへらしてるんだ。……分かってるのか、自分の立場」
「うん、分かってるよ。……けど、その、君は他の人たちみたいに僕のことを疑わないんだね?」
「疑う?」
「……異世界から来たって話、皆、信じてくれないんだ」
「…………」
懐きすぎじゃないか?と思ったが、アンフェールに対するアンリの心の開き方も似たようなものだった。
それに、異世界に来たばかりでは心細くて少しでも話が分かる人間がいたら懐いてしまうものなのかもしれない。
……それにしてもだが。
「おかしな話だな」
「……リシェス君?」
「魔法も化け物も存在するんだ。別に、なにが起きてもおかしくはないだろ」
――お前こそ、こうして俺がお前と初めましての挨拶をするのが四度目以上だと知ったらどういう顔をするのだろうか。
そんなことを考えながら答えれば、「やっぱり、君を呼んで良かった」とアンリははにかんだ。
「お願いがあるんだ、リシェス君」
「断る」
「え、なんで? まだなにも言ってないのに」
「とてつもなく面倒な気がしたからだ」
「そんな……」
「俺はお前の言うことは信じると言ったが、この先までお前に付き合うとは一言もいってない。……教師たちに『魔物に襲われたショックで記憶が混濁してるようでおかしなことを口走る可能性がある』と口添えはしてやるが、その先は一人でなんとかしろ」
「……っ!」
その手があったか、と言わんばかりに目を大きくしたアンリは、そのまま立ち上がって俺の手を取ってくるのだ。ひんやりとした柔らかな指の感触にぎょっとするのもつかの間、いつの間にかすぐ鼻先数センチ先まで迫っていたアンリの顔に呼吸が停まる。
「っ、おい……」
「リシェス君、やっぱり君はいい人だ!」
「……はあ?」
「――一番最初に出会えたのが君で、本当によかったよ」
そして、猫のように目を細めて微笑むアンリ。その大きな目に見つめられると吸い込まれてしまいそうで不安になる。
「大袈裟なやつ」と俺はアンリの手を振り払い、視線を逸した。そんな俺の態度にもアンリは木にした様子もなく、「ねえ、また君に会いに行ってもいいかな」なんて言うのだ。
「面倒ごとには巻き込まれたくないと今しがた言ったばかりだが」
「面倒なことにはならないよう、僕頑張るよ。……ねえリシェス君、君の名前を出せば君に会えるのかな」
「周りを巻き込むのはやめろ」
「君って周りの人のことも思いやれるんだね」
「……」
「あ、ごめん! いまのは馬鹿にしてるとかじゃないんだ。ただ、やっぱり優しいなぁ~ってしみじみ……」
「話はそれだけか?」
アンリの手を振り払い、そのままソファーから腰を持ち上げる。「あっ」とアンリはこちらを見るが、それを無視して俺は応接室を出ていこうとする。
そして、「待って、リシェス君」とついてこようとするアンリを振り返った。
「この世界では異界人は災いの象徴だ。――派手な行動は慎めよ、異界人」
そして、いつぞや、どこかのルートで口にした言葉が漏れる。なつかれすぎない、かといって見殺しにしない程度の距離感を保つのは至難の業だ。
ぱちくりと目を丸くしたまま固まるアンリを残し、俺はそのまま応接室を後にした。
そして、応接室前。
今か今かと不安そうに待っていた教師たちに中のアンリの様子を伝え、それとなくアンリを学生として引き受けるように口添えもしておくことにする。
俺の言葉を無視するわけにもいかない。断られることはないと最初からわかっていたので返答は待たずして、俺はそそくさとその場を後にすることにした。
この先、死なずに済むルートを手探りで探していく。そのためには今までに起こしていなかったアクションもものは試しで行うことにした。
そうしなければこの死のループから抜け出せないと分かってしまっているからだろう、こうやって大胆な行動に移すこともできるのは。
それでも、自ら死にたいとは思わない。あくまでも生き残るということが目的に自分の中でなりつつあることに気付いたときにはあとの祭りでもあった。
それから、教師への口添えが効いたのか思ったよりも早くアンリは転入することになる。
けれど、今までとは決定的に違う。やつが異世界からやってきた転生者だと知っているのは俺だけだ。
ハルベルも、教師も、記憶混濁してる哀れな迷子とでも思ってるだろう。
最初は記憶喪失の転校生ということで話題にはなったが、本人はというと至って平凡な男だ。やはり原作主人公補正はあろうと、攻略対象たちの最初のフラグにもなる『異世界からやってきた』という設定が生きていなければその効力は発揮されないようだ。
数日もすればアンリは話題にすら上がらなくなる。
アンフェールは相変わらず生徒会執務室と訓練所を行き来しているし、他の攻略対象たちもアンリとの噂は聞こえてこない。
――その代わり。
「リシェス君、おはよう」
――早朝。
叩かれた扉に、もうハルベルがやってきたのかと扉を開ければそこにはにっこりと微笑むアンリが立っていた。
思わず無言で扉を閉めそうになったが、扉の隙間にねじ込まれたアンリの靴先によりそれを阻害される。
「……っ、なんでここにいる」
「昨日先生に聞いたんだ、リシェス君の部屋」
「それもだけど、そうじゃなくて……っ」
「だって、なかなかリシェス君に学校で会えないから。朝だったら流石にいるかなと思って……」
「……もしかして、迷惑だった?」と、うりゅ、と目を潤ませるアンリに俺は絶句した。
正直アンリのことは嫌いではないが、それはカップリングで見たときというかあくまでアンリの隣にいるのが自分ではないという場合のとき好ましく思えるだけであって、アンリからの矢印が自分に向けられているとなると大分話が変わってくる。
……というかこいつ、こんなに図々しいやつだったか?
確かに逞しい主人公だなと感心したことはあったが……。
「っていうわけで、リシェス君。部屋に入っていいかな」
「……断る」
「どうして? もう制服にも着替えて準備もばっちりみたいだけど……」
「気分じゃない」
「ああ、そうか。リシェス君って確かに低血圧っぽいもんね」
それもそうだけど、それだけじゃない。
なにを考えてるかわからない状況だ、下手によかわからないアンリフラグを立てていいのか寝起きの頭では判断つかないので慎重にならざる得ないのだ。
「じゃあここで待ってるね、その気になるまでゆっくりしててよ」
こいつ、とわざわざ突っ込む気にもなれなかった。
寧ろ、あっさり身を引いてくれてよかった。……よかったのか?もうわからない。
俺は寝ぼけ眼のまま扉を閉め、一先ず深呼吸をした。
――絶対これ、アンリルートに入ってるよな。
そもそも原作にはアンリとリシェスがくっつくような展開はなかったはずだ。
けれど、友情ルートか。悪役であるキャラが絆され、恋愛ルートとは行かずとも友情を気付き、実質的に誰も不幸になるわけではなく大団円エンドというのはないわけでなない。
寧ろあってもおかしくない。
……なるほど、試してみる価値はありそうだ。
そうと決まれば、と俺は再び自室の扉を開いた。そこには宣言通り、まるで忠犬よろしく立っていたアンリがいた。
「リシェス君」
「……入れ」
「いいの?」
「駄目だったら上げるわけないだろ」
俺の言葉に、アンリは犬っころみたいな顔をしてぱっと笑う。……ハルベルといい、この手の笑顔に俺は弱い。
「ありがとう、リシェス君!」
「声が大きい。……まだ他のやつは寝てる時間帯だ、静かにしろ」
「うん! ……あ」
ハッとしたアンリは代わりにコクコクコクと何度も頷くのだ。
アンフェールもここまで感情が分かりやすければ、と思いながらも俺はアンリを部屋へと招き入れることにした。
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります