馬鹿ばっか

田原摩耶

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五人目のプレイヤー

02

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 親衛隊長解任された翌日。
 俺は、あれから岩片となんの話をしたのかよく覚えていない。
 あまりのショックに記憶があやふやで、次から次へと岩片に投げ付けられた爆弾を処理しきれずぶっ飛んだようだ。どう返事したのかも覚えてない。
 ただ、あのあと岩片は「取り敢えず今日一日休め」と寝かされたのだけは覚えてる。
 起きたら岩片の姿はなかった。
 時計を見ればすでにホームルームが始まってる時間だ。
 あいつ、どうして起こさなかったんだ。慌てて飛び起きれば、頭が痛む。
 ああ、そうか……もう俺の護衛は必要ないって意味だもんな、あれ。
 今更ながら昨日の岩片のセリフが堪えてくる。
 岩片の命令に縛られることはなくなった。
 命じられることも、ない。

「……なんだよそれ」

 考えようによっては自由になるのだから喜ばしいはずなのに、ムカついてくる。
 なんなんだよあいつ、何様のつもりなんだ。
 俺のことムカついたんだったらそういえばいいのに、当てつけみたいに人で遊びやがって。
 悔しかった。それ以上に、岩片に捨てられた事実にこんなに悔しくて揺れ動かされてる自分が嫌だった。
 ……もういい。あいつがいないんならもう俺だって勝手にする。あんなやつ知るか、俺がいなくなったら俺の有り難みの一つや二つわかるはずだ。
 あいつからもう二度と何命令されても聞いてやるか、土下座したって聞いてやらない、絶対にだ。
 そう思わないとやってられなかった。
 ベッドから起きると体が痛んだ。ケツも死ぬほど痛いわ頭もガンガン痛んだが……死ぬほどではない。それに、ここで寝て引きこもってあいつに打たれ弱いと思われるのも癪だった。

 シャワー浴びて制服に着替える。
 いつもならここで岩片が余計なセクハラかましてくるのだろうが、岩片の姿もない今部屋はただ静かで変な感じだった。
 そんなモヤモヤを振り払うように鞄を手にした俺はそのまま部屋を出ようとする。
 怒りに身を任せて扉を開けたときだった。

「うおっ!!」

 廊下の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
 どうやら扉の前に誰かいたらしい、ガン、と何かにぶつかる感触に慌てて俺は扉から出た。そして、ギョッとする。

「悪いっ、大丈夫か……って、政岡……?!」
「……よお、おはようさん」
「……なんで、ここに……」

 驚いたが、それと同時に昨日の記憶が蘇り、無意識に顔が強張る。
 何しに来たんだ、と咄嗟に身構えれば、政岡は額を摩りながら「いや、その」と口籠る。

「……神楽のやつから妙なこと聞いて気になってな。……そしたら朝はあいつ一人で登校してるし……マサミちゃんに聞いてもお前は風邪で休みだっていうし……そんで、呼び出すのもあれだから待ってようかと……」

 どんどん声が小さくなっていく。
 最終的に叱られた犬みたいに落ち込む政岡は「悪い、具合悪いんだろ」と項垂れる。
 正直、聞きたいことは色々あった。
 神楽のやつから聞いたって……やっぱり昨日のあれか。というか風で休み扱いになってるって、岩片のやつそれで俺を寝かせていったってことか?
 ……こいつはどこまで知ってるんだ?
 気になって聞き出そうと思ったが、そこまで考えて俺はハッとする。
 ……もう、こいつらの動向を気にする必要はないんだ。
 岩片に命じられて全員落として振るためにわざわざ相手にしていたが、その命令が解消された今、何しでかすかわからない政岡と一緒にいる必要はない。

「……悪いけど、俺なんもわかんないから。そういうことなら岩片に聞いた方がいいんじゃねえの」

「じゃ、またな」とさっさと離れようとしたところを肩をやんわり掴まれ、引き止められる。

「お、おい!待てよ……」
「……どうした? まだ何かあるのか?」
「…………何か、あったのか?」

 こういうときだけ、どうしてこいつはこんなに鋭いのだろうか。
 周りを見ていないように見えてしっかりと捉えてる政岡に何度真意を突かれたことか。
 それとも俺が単純にわかりやすいだけなのか。
 けれど、今だけは見てみぬふりをしてもらいたかったというのが本音だ。

「……別に何もねえよ」
「……今朝、岩片凪沙と話したんだ」
「…………は?」

 政岡の口から出た言葉にあまりに驚いて、素っ頓狂な声が出てしまう。汗が滲む。
 人が寝てる間になにを、というか何を言ったんだあいつは。政岡の態度からして嫌な予感しかしない。

「『お前のお望みどおりになったぞ、良かったな』って。……どういう意味だよって聞いてもお前に聞けって言うし……なあ、どういう意味だよ……それ」

 あいつ、と怒りが込み上げてくる。どういうつもりなのかこっちが聞きたいくらいだ。
 政岡に嫌味のつもりか、それともそれを言ったところで自分にはなんの影響もないということか、どちらにせよ……裏切られたような気分だった。
 政岡への挑発のつもりなのか、考えたところであいつの思考などわからない。理解できない。それでも、本当に俺を開放するつもりなのだとわかった瞬間、心の奥で何かがガラガラと音を立てて崩れるのがわかった。

「……尾張?」
「……別に、そのままだよ。……あいつのいった通り、もうあいつには俺は必要ないってな」

 声に出してみると酷く他人行儀な響きになってしまう。
 ヤケクソだった。あいつがバラすってことは、俺が必死に誤魔化す必要もないはずだ。
 こっちだって、捨ててやる。そう思うのに、言葉にしてみると心臓が酷く軋む。

「……なんだよ、それ……」

 政岡の目の色が変わる。
 滲み出るそれは怒りだ。なんでこいつが怒ってるのかわからなかった。政岡は、岩片の言いなりになるのをやめろとあれほど言ってたのに。
 なんでそんなに怒るのか、寧ろ喜ぶところじゃないのか。

「……何、怒ってんだよ。清々するところだろ、ここ。お前岩片のこと嫌ってたし……あんだけ心配してくれたもんな」
「……っ、……」
「……これからお前と遊びに行くのだってあいつの許可いらねーんだよ。そう考えたら面倒臭いのなくなっていいだろ。……なあ?」

 そうだ、もう、あいつのことなんて気にする必要ない。
 政岡だって喜んでくれるだろう。そう思ったのに、こちらを見るその目は可哀想なものでも見るかのような色すらあって、なんで、どうしてそんな顔するんだと混乱する。
 ずっとあいつの我儘に振り回されて、こんな辺鄙な学校まで連れて来られて、本当だったら退学になって適当に過ごそうとしてた俺の人生を狂わせた。
 人の手を無理矢理引っ張ってきて、俺に役目を与えてくれた。
 それが昨日、あいつのたった一言で終わったのだ。
 ……親衛隊長として捨てられたのだ。

「……っ、尾張……!」

 なんで、どうして政岡に抱き締められてるのかわからなかった。
 開いた扉から部屋に押し込められ、まるで慰めるように頭を撫でられ、俺よりもでかい男に抱き締められてその暑苦しさに堪えられずに「おい」とか「離せ」とか言おうとするのに声が出ない。
 焼けるように目の奥が熱くなる。

「……っ、ま……さおか……」

 やめてくれ、これ以上惨めにさせないでくれ。

「尾張……俺は何も見てねえ、見てねえから、だから……これ以上我慢しないでくれ……」

 子供でも宥めるかのような似つかない優しい声に、唇が震える。
 なんでこんな子供扱いをされなければならないのか理解できなかった。
 けれど、大きな掌に背中を撫でられると波立っていた心が落ち着いていくようだった。
 胸の中吹き荒れていた感情の熱が溢れ出し、そして引いていく。
 どれくらいこうしていたのかわからない。
 けれど、政岡は言葉通り俺の顔を見ることはなかった。ただ、何も言わずに俺を抱き締めていた。
 次第に心が落ち着いていく。
 あんだけ会いたくなかった政岡に抱き締められて落ち着くわけがない、そう思っていたのに実際はどうだ。
 流れ込んでくる熱い体温、煙草と香水の匂いが混ざった匂い。そして。

「……落ち着いたか?」

 心配そうに、それでも俺の顔は見ないようにして政岡は静かに問いかけてくる。耳元で問いかけてくるその声に、俺は小さく頷いた。

「…………悪い、みっともないところ……見せて」

 政岡の顔も見れなかった。
 幸い、玄関口の電気は消灯したままだったので相手の顔を直視せず済んだが……それでもいつまでも抱き締められてるわけにはいかなかった。
 そっと胸を押し返せば、政岡は「いや……」と何かを言いかけながら、そして俺から手を離す。

「……俺の方こそ、悪かった。……一番ムカついてるのは、俺じゃなくてお前だよな」
「……」

 ああ、そうだな。とあいつへの嫌味の一つや二つ言ってやろうと思うのに、まともに声が出なかった。笑えなかった。自分が今までどんな風に立ち振る舞ってきたのかわからなくなって、何も言えなくなる俺に政岡は何かを言いかけ……そして、俺の肩を掴んだ。

「……尾張、遊びに行くぞ」

 それは、突拍子もない提案だった。
 人の気分なんてお構いなしにそんなことを言い出す政岡に、今度は俺が驚かされる番だった。

「何……言ってんだよ、いきなり……」
「どこかスカッとできるとこ行こうぜ、お前が行きたいところまで連れて行ってやる。どこがいい? バッセン? カラオケ? それとも……」
「おい、ちょっと待て、勝手に決めんなよ。俺は行くなんて一言も……」

 言ってない。そう顔を上げたとき、政岡と視線がガチ合う。そしてやつは笑い、尖った歯を覗かせた。

「……せっかくあのクソモジャ野郎直々にお達しがあったんだ。あいつが自分の行動後悔するまで楽しんでやろうぜ」

「お前にはその権利はあるはずだろ」政岡は当たり前のように言ってのけるのだ。俺には、言い切る政岡が眩しかった。他人事なのだからそう言い切れるのか、それともゲームがあるからか?そう色んな思考が脳裏を支配するが、そんなもの政岡の前では関係なかった。
 強引で無茶苦茶、それでも俺の手を引っ張ってくれるその笑顔に数年前の記憶と目の前の政岡が重なる。

「……っ」

 心臓が焼けるように熱くなる。
 対照的でウマも合わない二人がダブって見えるなんて俺は相当重症なのかもしれない。自分で呆れ果て、俺は、つい笑ってしまう。

「おい、何笑ってるんだよ」
「……いや、スゲーなって思って。……流石、生徒会長に選ばれただけはあるよな」
「な、なんだよそれ……褒めてんのか?」
「……褒めてる、褒めてるよ。……アンタはスゲーよ。……俺には無理だ、そんな熱血みたいな真似……」
「何言ってんだ。……お前は十分やってたろ、あんなクソ野郎の側にずっといて……」

 言い掛けて、政岡は言葉を飲む。しまった、と言いたげに咳払いして誤魔化す政岡。別にもう、変に気遣わなくていいのに。そう思ったが、そうさせるような態度をとってしまったのもまた俺自身だ。

「とにかく、俺はお前のそういうところ好……す……っ、すっげー……いい……っと、思ってた……けど……! ……アンタが我慢する必要はないんだろ。……なら、好きなだけ楽しもうぜ。アンタはずっと我慢してきたんだ、それくらい……バチ当たんねえよ」

 不器用だけど、それでも真っ直ぐな政岡の言葉は素直なほどすとんと胸に落ちる。
 本当にこいつは……これが全部計算だとしたら恐ろしい。
 俺が欲しかった言葉も全部投げかけてくれるのだ、この男は。甘やかされていいことはない、分かってるはずなのに、この男の前ではどうしても調子が狂ってしまう。

「……」
「……お、尾張?」
「……ありがとな、政岡……悪い、気遣わせて」
「俺は、別に……気を遣ってなんか……」

 だから余計、質が悪いのかもしれない。
 ほんの一瞬でもこの男を勝たせれたら。そんなふうに考えてしまった自分を殴りたくなった。
 ゲームがある手前、痛い目を見るのは分かってる。もう、他人に掻き回されるのは嫌だった。

「ありがとう、政岡。……もう、俺は大丈夫だから」

 そう告げたとき、今度はちゃんとうまく笑えた。
 うまく笑えたはずなのに、政岡の表情は強張った。
 肩を掴む政岡の指先に力が入る。痛くはないが、俺を離そうとしないその指先に少し嫌な予感を覚えた。

「……尾張、俺は……っ」

 何かを言おうとして、迷ったように目を泳がせる。
 言い淀む政岡。やつがこんな風に弱気な態度を見せるのは珍しい。落ち込んでいるときとは違う、何かを躊躇うようなその動作に、先程とは違う胸のざわつきを感じた。
「政岡?」と呼びかけようとしたとき、尾張、と小さく名前を呼ばれる。

「……尾張、俺は……お前の負担になってるのか?」 
「……え?」
「俺がこうしてお前に会いに来るのは、迷惑か?」

 普段の不遜な態度からは考えられないほど、不安の色を色濃く出す政岡に内心動揺する。
 政岡が負担になっている。
 そんなこと言われれば、イエスと答えざるを得ない。
 けれどソレは政岡に対するものだけではない、政岡を筆頭にした生徒会面々とのゲーム自体が俺にとっては甚だ迷惑というのは確かだ。
 それに、負担云々抜けば、政岡には助けられた部分もある。

「……そ、れは……」

 口籠る俺に、政岡は何かを察したのか。
 眉間に寄せられた皺が更に深く刻まれる。悲しそうな、そんな表情に、あ、と思った。
 政岡を傷つけた。それだけは確かに分かった。

「……俺は、尾張に無理してほしくない」

「尾張がもうあいつの言いなりになんなくていいってんなら……俺の役目は……」絞り出すようなその声。
 やつが何を言おうとしているのか、その表情からして気取ることはできた。
 けれど、それは俺にとって求めていたことのはずだ。それなのにどうしてだろうか、政岡の言葉、その態度に酷く胸が締め付けられる。

「まさ……」

 政岡、そう名前を呼びかけた矢先だった。
 重苦しい空気の中、ピーンポーンと気の抜けた音が部屋の中に響く。

「……」
「……」

 来訪者に空気を読めとは言わないが、ここまで出鼻挫かれてしまうと何も言えなくなる。
 俺と政岡は顔を見合わせる。政岡も政岡で深い溜息をついていた。

「……誰か来たみたいだな」
「……そうらしいな」

 もしかしたら帰るかな、と思ったが政岡は帰るつもりはないらしい。それどころか。

「それより尾張、さっきの続きなんだが……」

 来訪者を完全無視して切り出す政岡にまだ続けるのか?!と内心驚くのもつかの間、今度はドンドンと扉を叩き出す来訪者。
 政岡も政岡だが、来訪者も来訪者らしい。

「しつけーな……」

 苛ついたように吐き捨てる政岡は扉を蹴り返そうとして、慌てて止める。もし面倒な相手だったらどうするつもりなのか。

「政岡、ちょっと俺出るから……奥で待っててくれ」
「でも」
「すぐ終わらせるから」

 な?と言い聞かせるように肩を叩けば、政岡は少しだけ照れたように「分かった」と頷いた。
 こういうとき素直だからつい忘れがちなんだが……政岡の性格も大概短気だったな。
 とにかくこいつは下がらせてた方が良いだろう。そう判断した俺は政岡が部屋の奥へ引っ込むのを確認して、扉を開いた。

「……はーい」
「おや、本当に具合悪そうですね」
「……」

 そっと扉を閉める。そう、全部気のせいだ。まさか具合悪いときに見たくない男ナンバーワンがいるはずがない。そうだ、全部幻覚だ。
 さあ政岡のところに戻るかとしたところ、ぎりぎり靴先を扉の隙間に捩じ込んでやがったこの男。
 力技で扉を抉じ開けられ、扉ごと引きずり出される俺。逃げようかとしたが一歩遅かった。がしっと掴まれた手首に、見たくない清涼感溢れる笑顔。

「……確かに先日は無礼を働いてしまいましたがあんまりじゃないですか? 流石の私も心が折れてしまいそうですよ」
「アンタは一回折れた方が丁度いいんじゃないか」
「おや……またそんなことを言って。そんな太さじゃ貴方は満足できないんじゃないですか」

 ぶん殴りそうになったのを寸でのところで堪えた俺を褒めてほしい。どの面下げてやってきたのは生徒会副会長様、もとい確実に俺の体調不良の原因1である能義有人だ。

「……何しに来たんだよ」

 品性の欠片もないジョークに笑い返す気力もなかった。
 あくまで平常心を装いながら尋ねてみるが幾分声が低くなってしまう。……部屋の奥に政岡がいるのを思い出したからだ。

「何って、それはつれないんじゃないですか? ……あの後気になってたんですよ、貴方が会計に連れて行かれてから。……今朝も貴方を教室まで迎えに行ったというのに休みらしいじゃないですか。もし昨日のせいで、となると流石に無視できませんからね」
「そうか。ならその心配はいらないぞ。……あんたに心配されずとも俺は元気だからな」
「そんな赤い顔をして何を仰ってるんですか。……熱がありますね、目も些か赤くなっている」
「っ、触るな……!」

 伸びてきた手に首根っこを撫でられ、堪らず俺は能義の手を振り払う。
 乾いた音が響く。目を丸くした能義。
 予想以上にでかい声出てしまい、俺も驚いた。そして。

「おい、どうした!」

 部屋の奥から飛んできた政岡が駆けつけてくる。
 こいつ、出てくるなよ、と思った矢先だった。

「ちょっと……なに、これえ?」

 近付いてくる足音。そして間延びした声。
 玄関口で騒いでいた俺たちを見るなりうんざりしたように吐き出すその男に、今度は俺が真っ青になる番だった。

「なんなの、なんで副かいちょーがここに……ってか、かいちょーもいるわけ? ……なにこれ、ちょっと……どーゆーことぉ? ……皆さぁ、同じこと考え過ぎでしょ」

 寧ろそれは呆れに近い。
 神楽麻都佳の言葉に俺は返す言葉もなかった。
 なんだこのタイミングは。昨日の今日で神楽にこんな場面を見られたことに頭が痛くなるがそれ以上に、このメンツは嫌な予感しかしない。
 頭をフル回転させて言い訳を探すが、病み上がりの脳味噌では何も思い浮かばない。

「……何しに来たんだよ、お前ら」
「何ってえ? そりゃ元君が心配だからに決まってるじゃん。ま、誰かさんたちは下心しかないんだろーけどね~?」
「おやおやおや、もしかしてそれって私のことを言ってますか? それを言うなら会計、貴方の方こそ今日はデートに行くとか行って朝の会議サボってたじゃないですか。体調不良の尾張さんとデートでもするつもりだったんですかねえ?」
「それは副かいちょーがしつこいから……ってかそうだ!かいちょーだってなんで元君の部屋にいるわけ? おかしくない? かいちょー元君虐めてたくせにさぁ?」
「はあ? 俺がいつこいつを虐めたって言ったんだよ!」
「…………」

 なんだこの状況。
 ギャーギャーと周りなんてお構いなしに揉め始める生徒会連中になんだか頭が痛くなってきた。

「……そろそろ俺教室に行きたいんだけど」
「そうだよ、てめぇらはさっさと帰れよ。こいつは俺が責任持って送るから」
「いやいやかいちょーに任せられるわけないじゃん。俺がぁ元君を送り届けるの~」
「お二人はそんな暇あればさっさと生徒会室戻って自分の役目を果たしていただきたいんですがね。……というわけで私がお供しますよ、尾張さん」
「いい、気持ちだけもらっとく。とにかく俺一人で大丈夫だから」

 正直、誰といたところでろくなことになる未来が見えない。
 能義に関しては論外である。きっぱりと言い切れば、ぱたりと静まり返った三人だったがすぐに「ちょっと待った」と政岡に引き止められる。

「尾張、本当に一人で大丈夫なのか。……お前、まだ本調子じゃないんだろ」
「……大丈夫だって。それに自分のことくらい自分でできるよ、ガキじゃねーんだし」
「そうでしょうか? ……まだ歩くのも辛そうに見えますが」

 そう、伸びてきた能義の手に腰を撫でられ、全身が凍りつく。こいつ、と反応に遅れた瞬間、神楽にその手を振り払われた。

「副かいちょーのそういうとこ、俺嫌いだよ~」
「……おや、会計。まさか貴方自分だけおきれいなフリして私に歯向かうつもりですか?」

 どこまでが真意なのか全く読めないが、なんとなく能義の笑顔からしてこれがただのじゃれ合いではないことに気付く。
 一瞬、張り詰めた空気が流れたときだ。

「おい、テメェら喧嘩するなら尾張がいないところでやれよ!邪魔になんだろうが!」

 そんなのもお構いなしに政岡は声を上げた。
 そういう問題か、確かにそれもそうだけど。というか止めないのか。色々突っ込みたいところはあったが、政岡の言葉をきっかけにその場の緊張が解けるのを肌で感じた。 

「ふふ、それもそうですね。……今日は貴方のナイトが多いみたいですし、また折を見て会いに行きますよ、尾張さん。……少々お耳に入れたいこともありますし」
「……」
「それではまた。会計は後で覚えておいてくださいね」

 先に折れたのは意外なことに能義だった。
 執念深そうなあの男は「お大事に」とだけ言ってのけ、颯爽と帰っていく。本当に顔を見に来ただけではないのだろうが……それでも、それもそれで嵐の前の静けさ的なものを感じてしまって不気味だ。

「ったく、なんなんだアイツ……おい、尾張大丈夫か? へ……変なことされてないだろうな」

 不機嫌そうに、かつ不安そうに尋ねてくる政岡に「大丈夫」とだけ答えておく。
 ……本当は大丈夫ではない。せっかく寝て薄れていた感覚が一気に蘇り、こうして政岡と神楽といるだけで恥ずかしくて死にそうになっていた。
 神楽に至っては、目の当たりにしてるわけで。

「……かいちょーってさあ、何も知らないのお?」

 あまりにもいつもと変わらない政岡に疑問を抱いたのか、そんなことを聞き出す神楽にぎょっとする。

「何もって……なんだよ」
「だからぁ、副かいちょーと書記が……」
「か、神楽!!」

 咄嗟に、動いていた。慌てて神楽の口を手で塞げば、「むぎゅっ」と鳴く神楽。

「……なんだよ、能義と彩乃がどうしたのか?」

 慌てて黙らせたが、前半部分はバッチリ耳に入っていたらしい。眉根を寄せる政岡。その鋭い目がこちらを向く。

「何もねーよ。……少し揉めただけだし、お前が心配するようなことはなんもねーから」

 安心させようと思ったのに、なんとなく突き放すような言い方になってしまって後悔した。
 政岡は到底納得したようには見えなかったが、俺も俺で言おうとしないという意思を感じ取ったのだろう。

「……本当に大丈夫なのか?」
「……大丈夫、だって。……それより、神楽、ちょっと……ちょっといいか?」

 政岡は俺が言いたくないことを無理に聞き出すようなやつではないとわかっていた。けれど問題はこの茶髪男だ。俺は政岡に視線で断りを入れ、通路の奥までそのまま神楽を引きずって行く。
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