83 / 135
馬鹿ばっか
04
しおりを挟む
寛げよ、と言われても。
宮藤の部屋にて。
外からはサイレンの音まで聞こえてくる。こんなに騒がしい夜もなかなかないだろう。そんな様子にももう慣れたという顔でさっさと着替えて寛ぎモードに入っていた宮藤だったが、部屋の角から動かない俺を見て気まずそうに声をかけてきた。
「……なあ、尾張」
「なに?」
「風呂、入りたかったら入っていいからな」
「…………」
何故か小声になる宮藤に、俺はそのまま固まった。
そして、すん、と自分の匂いを嗅ぎ、再び凍り付く。
「……俺、臭かった?」
「あー、ちげえよ。そんなんじゃなくて、ほら、汗とか流したいだろ?」
とか。
先程からやけに宮藤が気を回してくる理由は“これ”だったか。
自分では大丈夫ではないかと思っていたが、宮藤に精液の匂いがバレたことがなによりも屈辱だった。顔に熱が集まる。
「……雅己ちゃん、デリカシーなさすぎ」
「わ、悪かった。今のは先生が悪かったな? どこまで言っていいのかわかんねーんだよ、こういうの。お前、図太そうに見えて案外繊細だし」
なんならその発言もデリカシーねえ。
けど、宮藤には既に襲われかけてたところを見られてるのだからなんとも言えない。
なんならシャワーを借りれるのは素直にありがたい。けど、バレてないと思ってしらを切ってた分余計居た堪れなくなる。
「……シャワー借りる」
「おう。……あ、下着の替えはあるのか?」
「…………ない」
なんなら下着ごとない。
体操座りをしたままちらりと宮藤を見れば、「了解」と困ったように笑う。
「飯買い忘れたからついでに下着も買って来てやろうか」
「……ん」
「……一人で風呂入れるか?」
「先生、それセクハラっすよ」
「し、心配してやったんだろ? はー……思春期って難しいわ」
言いながら「勝手にタオルとか使っていいから」と玄関から出ていく宮藤。生徒一人を残して出かけるのは些か不用心な気もするが、それだけ信用はされているのだと思うと悪い気はしなかった。
でもまあ、確かに変に気を使われるよりかはこっちのが楽だし助かるのも事実だ。こちらも取り繕う必要はないのだから。
お言葉に甘え、俺は宮藤の部屋のシャワーを借りることにした。
そりゃ、あんだけ犯されたら臭えわな。宮藤もなにかあったなと気付くか。
なるべく鏡を視界に入れないよう、そのまま脱いだ俺はシャワーを浴びることにした。
これからどうするのか、どうなるのか。
考えたところで何も思い浮かばない。脳までも疲弊しきってるのもあるだろうが、まるで自分がどこにいるのかも見失ってしまいそうになるのだ。
結局雑念が拭えぬままシャワーを終える。長風呂ならぬ長シャワーをしてしまっていたらしく、帰ってきた宮藤はシャワールームの外から『下着、扉んとこ置いとくからな』と声をかけてきた。
俺は「あざす」とだけ返し、宮藤が洗面室からいなくなったのを確認してシャワールームを出た。それから無難な無地の新品下着に着替え、さっきよりは大分さっぱりした気分のまま部屋へと戻る。
そこにはカップ麺を食ってる宮藤がいた。「尾張も食うか?」と聞かれたが、首を横に振る。流石に食欲はなかった。なんなら、今あまり固形物を口に入れたくないまである。
「シャワー……と、パンツ、どうも」
「おう」
「……」
「……」
シャワー浴びたせいで腑抜けてしまったらしい。言葉が出ないまま、俺は宮藤の隣に腰を下ろした。
「……雅己ちゃん、外大丈夫だった?」
「俺はな。てか、お前大分探されてたぞ」
「まあ、そうだよな」
「俺が言うのもなんだが、お前、これからどうするか考えてるのか?」
「……ホント、それ教師がいうセリフじゃねえって」
「だよな、自分で言ってて引いたわ」
「けど、無責任なこと言えねえもんな。警察に逃げ込んで終わりならそれが一番速えんだけど」ずぞ、と麺を啜る宮藤。
「生憎今の生徒会に実家が太いやつがいてな、警察に逃げ込んでも揉み消すようなやつがいるんだよ」
「そいつの名前、『の』と『ぎ』が入ってないか?」
「なんだ、知ってたのか?」
「学校に黒服連れ込んでたやつなんて一人しかいないからな」
どうせ最初から外部は期待していない。けれど、それを改めて第三者の、しかも教員である宮藤から突き付けられると少しクるものがある。
……いや待て、もう一人いるな。黒くてもさもさしたやつ。厄介すぎんだろ。
「……なあ尾張、お前はこのイベント終わらせるつもりはないのか?」
「終わらせるって……」
「『告白したらゲームセット』、だったか? 適当なやつでもいいから見つけてみたらどうだ」
俺は宮藤の言葉に驚いた。そこまで知ってるのかと。そこまで学園内に普及してんのか、このクソゲームは。
固まる俺から何か察したらしい、宮藤は「あー、そっか、言ってなかったか?」と汁まで飲み干したカップをテーブルに置いた。
「俺、ここの卒業生なんだよ」
いや全然初耳だが。
宮藤の部屋にて。
外からはサイレンの音まで聞こえてくる。こんなに騒がしい夜もなかなかないだろう。そんな様子にももう慣れたという顔でさっさと着替えて寛ぎモードに入っていた宮藤だったが、部屋の角から動かない俺を見て気まずそうに声をかけてきた。
「……なあ、尾張」
「なに?」
「風呂、入りたかったら入っていいからな」
「…………」
何故か小声になる宮藤に、俺はそのまま固まった。
そして、すん、と自分の匂いを嗅ぎ、再び凍り付く。
「……俺、臭かった?」
「あー、ちげえよ。そんなんじゃなくて、ほら、汗とか流したいだろ?」
とか。
先程からやけに宮藤が気を回してくる理由は“これ”だったか。
自分では大丈夫ではないかと思っていたが、宮藤に精液の匂いがバレたことがなによりも屈辱だった。顔に熱が集まる。
「……雅己ちゃん、デリカシーなさすぎ」
「わ、悪かった。今のは先生が悪かったな? どこまで言っていいのかわかんねーんだよ、こういうの。お前、図太そうに見えて案外繊細だし」
なんならその発言もデリカシーねえ。
けど、宮藤には既に襲われかけてたところを見られてるのだからなんとも言えない。
なんならシャワーを借りれるのは素直にありがたい。けど、バレてないと思ってしらを切ってた分余計居た堪れなくなる。
「……シャワー借りる」
「おう。……あ、下着の替えはあるのか?」
「…………ない」
なんなら下着ごとない。
体操座りをしたままちらりと宮藤を見れば、「了解」と困ったように笑う。
「飯買い忘れたからついでに下着も買って来てやろうか」
「……ん」
「……一人で風呂入れるか?」
「先生、それセクハラっすよ」
「し、心配してやったんだろ? はー……思春期って難しいわ」
言いながら「勝手にタオルとか使っていいから」と玄関から出ていく宮藤。生徒一人を残して出かけるのは些か不用心な気もするが、それだけ信用はされているのだと思うと悪い気はしなかった。
でもまあ、確かに変に気を使われるよりかはこっちのが楽だし助かるのも事実だ。こちらも取り繕う必要はないのだから。
お言葉に甘え、俺は宮藤の部屋のシャワーを借りることにした。
そりゃ、あんだけ犯されたら臭えわな。宮藤もなにかあったなと気付くか。
なるべく鏡を視界に入れないよう、そのまま脱いだ俺はシャワーを浴びることにした。
これからどうするのか、どうなるのか。
考えたところで何も思い浮かばない。脳までも疲弊しきってるのもあるだろうが、まるで自分がどこにいるのかも見失ってしまいそうになるのだ。
結局雑念が拭えぬままシャワーを終える。長風呂ならぬ長シャワーをしてしまっていたらしく、帰ってきた宮藤はシャワールームの外から『下着、扉んとこ置いとくからな』と声をかけてきた。
俺は「あざす」とだけ返し、宮藤が洗面室からいなくなったのを確認してシャワールームを出た。それから無難な無地の新品下着に着替え、さっきよりは大分さっぱりした気分のまま部屋へと戻る。
そこにはカップ麺を食ってる宮藤がいた。「尾張も食うか?」と聞かれたが、首を横に振る。流石に食欲はなかった。なんなら、今あまり固形物を口に入れたくないまである。
「シャワー……と、パンツ、どうも」
「おう」
「……」
「……」
シャワー浴びたせいで腑抜けてしまったらしい。言葉が出ないまま、俺は宮藤の隣に腰を下ろした。
「……雅己ちゃん、外大丈夫だった?」
「俺はな。てか、お前大分探されてたぞ」
「まあ、そうだよな」
「俺が言うのもなんだが、お前、これからどうするか考えてるのか?」
「……ホント、それ教師がいうセリフじゃねえって」
「だよな、自分で言ってて引いたわ」
「けど、無責任なこと言えねえもんな。警察に逃げ込んで終わりならそれが一番速えんだけど」ずぞ、と麺を啜る宮藤。
「生憎今の生徒会に実家が太いやつがいてな、警察に逃げ込んでも揉み消すようなやつがいるんだよ」
「そいつの名前、『の』と『ぎ』が入ってないか?」
「なんだ、知ってたのか?」
「学校に黒服連れ込んでたやつなんて一人しかいないからな」
どうせ最初から外部は期待していない。けれど、それを改めて第三者の、しかも教員である宮藤から突き付けられると少しクるものがある。
……いや待て、もう一人いるな。黒くてもさもさしたやつ。厄介すぎんだろ。
「……なあ尾張、お前はこのイベント終わらせるつもりはないのか?」
「終わらせるって……」
「『告白したらゲームセット』、だったか? 適当なやつでもいいから見つけてみたらどうだ」
俺は宮藤の言葉に驚いた。そこまで知ってるのかと。そこまで学園内に普及してんのか、このクソゲームは。
固まる俺から何か察したらしい、宮藤は「あー、そっか、言ってなかったか?」と汁まで飲み干したカップをテーブルに置いた。
「俺、ここの卒業生なんだよ」
いや全然初耳だが。
94
あなたにおすすめの小説
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。
それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。
友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!!
なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。
7/28
一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
その告白は勘違いです
雨宮里玖
BL
高校三年生の七沢は成績が悪く卒業の危機に直面している。そのため、成績トップの有馬に勉強を教えてもらおうと試みる。
友人の助けで有馬とふたりきりで話す機会を得たのはいいが、勉強を教えてもらうために有馬に話しかけたのに、なぜか有馬のことが好きだから近づいてきたように有馬に勘違いされてしまう。
最初、冷たかったはずの有馬は、ふたりで過ごすうちに態度が変わっていく。
そして、七沢に
「俺も、お前のこと好きになったかもしれない」
と、とんでもないことを言い出して——。
勘違いから始まる、じれきゅん青春BLラブストーリー!
七沢莉紬(17)
受け。
明るく元気、馴れ馴れしいタイプ。いろいろとふざけがち。成績が悪く卒業が危ぶまれている。
有馬真(17)
攻め。
優等生、学級委員長。クールで落ち着いている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる