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しおりを挟む朝。
予め聞いていた朝礼の時間よりも早めに部屋を出る。
仮眠したら遅刻しそうだったからそのまま眠らずに顔を出した。
朝礼といっても畏まったものではない。今日一日の軽い打合せ程度だ。だから、幹部様方も自由参加ということで幹部の中でも若輩者の暗坂が他の信者たちに指示出しをしていた。
「就任式には幹部の皆様方も参加されるんですか?」
「そうだね。……そういうことだから橘君には昨日に引き続き村の様子を見てもらおうかな。僕たちは式に付きっきりになるから」
「分かりました」
「ナガラ様を慕ってる方もいるけど、全員が全員まだ受け入れられているわけではないからね。もし問題行動起こしそうな信者が居たら、その時は頼んだよ」
信者の沈静化。それが俺の仕事らしい。
まあやることは変わらないということか。退屈な儀式で正座しっぱなしよりかはマシだ。
護衛もナガラ様に付きっきりで総本山に篭りっぱなし、村方面は手薄。
教祖不在で不安定な信者たちを落ち着かせるためにも就任式は早めに行われることになったらしい。
式というものがどういう形式か分からないが、知りたくもないとも思った。教団に魂を捧げて家族になるという名目の入信の儀でそのときの担当の血を飲まされかけたことを思い出した。そのときは口に含んで誤魔化した後吐き出して何度もうがいしたが、教祖様となればそんな小細工も効かないのだろう。
それこら暗坂からまた後日、大きな会場をとってお別れの式とお披露目の式を行うという話も聞いた。
そうなると村に滞在する期間も長くはない。
就任式を見守るためだけにこれから各地から有力の幹部たちがやってくるという。その間、普段閉じられたゲートは開かれている。
厳重な身分確認も行われるようだが、それは入村時のことだ。
出て行く場合はそう手間取らないはずだ。
駐車場に停められた暗坂の車は昨夜確認した。あのトランクなら人一人くらい隠すことはできるはずだ。
そして就任式の最中は永良自身村の監視から外れることになる。
つまりそれはチャンスだった。
風夏だけでもこの村から連れ出す。
できることなら両親のことも橘家の息子もさがしたかった。けれど、その時間はないだろう。
本当ならば教祖になったあいつの協力を仰ぐつもりだったが、俺が想像していたよりもあいつの覚悟は強い。そして、根深かった。
スウイ会に身を置いてから薄々気づいていた。
両親が熱狂的な信者だと分かった時から。
恐らく既にこの世にはいないのだろう。納得できるものでもないし一晩で受け入れられるものでもない。いまだに吐き気はしたが、飲み込まなければならない。
だけど、だからといって妹を置いて行くことだけはできなかった。生きてると分かったからこそ、余計に。
暗坂たちとともに宿舎の食堂で朝食を食べる。その間に他の幹部たちも顔を出してくる。
他愛のない会話に興じながら、テーブルの下で暗坂の手荷物を漁る。車のキーは暗坂が持ち歩いているようだった。
朝食をとった後、個別に暗坂を呼び出した。
これから幹部たちは暫く総本山にこもったまま動かない。そうなる前になんとしてでもキーを手に入れなければならなかった。
「どうしたの、橘君」と狼狽える暗坂に抱きつく。「暗坂さんとなかなか二人きりになれないのが寂しくて」と適当な言葉を並べつつ、そのまま上着を脱がすフリしてそのポケットからキーを盗み取った。
後はあいつを迎えに行くだけだ。
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