尻軽男は愛されたい

田原摩耶

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平凡男

02

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 午後十時を過ぎた頃。
 ようやく女子たちの気が済んだようだ、荷物持ちをさせられていた俺はその場でショッピング派の女子たちと別れた。
 確かにやることがないとか寂しいとか嘆いていたのは俺の方だが、パシり扱いをされて喜ぶほど特殊な性癖はしていない。
 岸本のやつのせいで肉体労働を強要された俺は両腕の関節を軽く動かす。
 女子グループから離れたところで、制服のポケットの携帯が震えた。
 誰だよ、こんなときに。舌打ちをしながら携帯を開けば、画面には『岸本葵衣』と表示されていた。俺はすぐに通話をつなげる。

「お前、どういう……」
『あははは、まあまあ怒んないでよ!あ、僕いまそこにいるんだけどわかる?そこじゃない、右、違う。大地から見たら左か』

 陽気な笑い声とともに聞こえてきた甘い声。
 また意味のわからないことを言い出しやがって。
 通話を切ってやろうとしてた矢先、いきなり視界がなにかで遮られる。ひんやりとした柔らかい手。全身にさぶいぼが立つ。

「だぁーれだ!」
「……なにやってんのかな、葵衣ちゃん」
「だいせいかーい、大地のくせにやるじゃん」

 冷え切っていく俺のことなんて構わず、岸本はわざとらしく女みたいな声で囁きかけてくる。やつが男、中でも質の悪い男だとよく理解している俺は、その色仕掛けにただ寒気しか感じなかった。

「や、め、ろ!」

 ふうっと耳に息を吹き掛けられ真っ青になった俺は、慌てて背中にピッタリとくっついてくる岸本を剥がした。

「やだあ、大地感じてんの?かーわーいーいー、普段は可愛くないくせにね」

 いつの間にかに制服から私服に着替えた岸本は、わざとらしく体をくねらせながら笑みを浮かべる。
 同性相手に欲情できる俺だが、こいつだけはどうしても無理だ。本能的に全身が拒否している。いくら顔がよくても中身が最悪だからな。

「……カラオケは?終わったわけ?」
「終わったもなにも、大地たちがいなくなってすぐ解散したよ。あ、泣いてた子はちゃんと慰めたから安心してね?」

 なんのために荷物持ちやらされたんだとか、それは多分慰めに入らないんじゃないかとか色々言いたいことがありすぎて言葉にならない俺はただ口をぱくぱくとさせる。

「……で、なんか用?」
「用?違う違う、そろそろ帰るみたいだったからタイミング見て話し掛けただけで別に大地に用はないよ」
「……お前、もしかしてつけてたのか……?」
「つけてたなんて人聞きが悪いなあ。僕はただ大地が心配で心配で堪らなかったから見守ってただけだよ」

「陰からね!」とにこやかに付け足す岸本に、俺は腸が煮え繰りかえそうになるのを必死に耐えた。
 ここでムキになってもこいつを喜ばせるだけだ。
 そう自分自身に言い聞かせ、俺は小さく息を吐く。

「……じゃあ、俺はこれで」
「あー待って待って!待ってってばぁ!」
「い゛ッ!」

 腕を掴まれなんなんだと振り返った矢先、目の前にずいと岸本が迫る。にっこにこの笑顔で。

「暇だから相手して」

 たまたま近くを通りがかった人がギョッとした顔でこちらに目を向けてきた。
 くりくりとした目に見詰められ、間近な視線に耐えられなくなった俺は咄嗟に顔を逸らす。

「お前なら呼んだら来るようなやつ沢山いるだろうが」
「残念だけど僕、大地しか友達いないんだよね」
「まあ、性格悪いしな」
「それはお互い様でしょ。てかどーせ暇なんでしょ?ならいいじゃん。それともなに?愛斗と用でもあるの?」
「わかった!わかったから離れろ!」

 しつこく迫ってくる岸本に根負けする俺。
 一瞬岸本の顔がどこぞの凶悪犯のようにニヒルな笑みを浮かべたような気がした。



 岸本葵衣と俺の仲を一言で言い表すなら、腐れ縁というのが一番しっくり来るだろう。
 別に特に趣味が合うわけでも気が合うわけでもないし、もっというなら俺は岸本のことが嫌いだ。同族嫌悪という言葉がある。容姿は真逆にしろ似たような性格の岸本はどうしても好きになれなかった。……岸本の方はそうは思っていないらしいけど。

 そんなこんなで俺は岸本の家までやってきた。

「さー上がって上がって」
「……おじゃましまーす」

 とあるアパートの一室。
 扉を開けたらすぐに居間があって、玄関口で靴を脱いだ俺はそのまま部屋に上がる。
 岸本の家に上がるのは初めてではない。いつの日か、愛斗や相馬と一緒に遊びに来たことがある。
 そのときはひどく部屋が狭く感じたが、二人でいるには丁度いいくらいに感じた。
 部屋自体は狭いくせに置いてあるものの量は多い。
 俺は二人用のソファーに腰を下ろす。続けて部屋に上がってきた岸本は、そのまま台所へ行き「なにか飲む?」と俺に問い掛けてきた。

「なにあんの?」
「……コーラと牛乳」
「なんだ。お前、まだ身長気にしてたんだ」

 特に深い意味もなくそう岸本の後ろ姿に声をかければ、屈んでいた岸本の背中が硬直した。
 どうやら図星だったらしい。急に押し黙る岸本に思わず口元が緩む。

「俺、てっきりそのミニサイズ気に入ってんのかと思ってたー。へー、葵衣ちゃんにも悩みってあるんだー」
「どーぞ」

 水道水を並々とグラスに注いだ岸本は、そう言いながら俺の目の前にグラスを突き付けた。
 あ、怒ってる。よほど俺に身長のことを言われたのが悔しかったのだろうか。
 いつも余裕こいている人間が感情的になるのはなかなか面白い。が、これ以上は流石に可哀想なので俺は「どーも」と笑いながらそのグラスを受け取った。

「ねーえ、お菓子とかないの?もしくは肉。なんか味濃いやつ食べたいんだけど」
「のど飴ならあるよ。レモン味」

 ガサガサとビニール袋の中を覗き込んだ岸本は、言いながら包装された一粒の飴玉をこちらに投げて寄越した。
 俺は飴玉を受け取れば、包装を破り中の飴玉を無言で口に入れる。飴玉にガリガリと歯を立て形を無くすまで噛み砕いた俺は、隣に腰を下ろしてくる岸本を横目に見た。

「これ肉じゃねーじゃん」
「なに当たり前のこといってんの?」

 口の中に広がる甘酸っぱいレモンに、俺は顔をしかめる。
 まあ岸本が素直に俺の言うことを聞くとは思ってなかったからいいけど、やっぱり口が寂しい。

「あー、俺、なんで葵衣ちゃんちいるんだっけ」
「あ、大地リモコン取って」

 しかも全然聞いてないし。
 俺は足元に転がっていたリモコンを足で岸本に渡す。
「大地だらしない」お前だって似たようなことしてるだろ。

「布団、布団ないの」
「え、なに、もう寝るの?」
「無駄に歩き回って体力消耗しまくったから眠気やばい」

 嘘ではない。遠回しに嫌味を言いながら、俺はよくわからないキャラクターのぬいぐるみで埋まったベッドにフラフラと歩み寄る。

「えーつまんないなー」
「起きてたって暇だろ。どうせ。やることねーし」

 面白くなさそうな顔をする岸本だったが、俺を引き留めるようなことをしなかった。
 かけ布団を捲った瞬間女ものの香水の臭いが鼻をつく。

「いくら俺がかっこいいからって夜這いとかすんなよ」
「安心してよ。僕、死んでも大地じゃ勃たないから」

 この野郎。
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