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鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
風紀室の鬼 *風紀室side
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【side:風紀】
――風紀室。
鬼ごっこのコース外である風紀室のある棟は他の棟と比べ酷くひっそりとしていた。それは風紀室内も同じだ。
そんな静まり返った風紀室内、風紀委員長である敦賀真言はいた。窓の外、騒がしい校舎を傍観する敦賀の背後に影が一つ、歩み寄る。
「なんだ、あんたは不参加か」
聞こえてきたのは聞きたくもない男の声だった。
背後を振り向かずとも、それが誰かは安易に想像つく。
「勝手に入ってくるな」
「俺がいつどこへ行こうと自由だろ?あんたも、興味ないはずだ」
「ああ、そうだな」
近くの棚の上に置かれたボードを手に取った敦賀。
それを、顔を守るように盾にすれば、次の瞬間、べこりとボードが凹む。
「俺の視界に入らない限りは、だが」
使い物にならなくなったボードをゆっくりと下ろし、その向こう側にいた男に目を向ける。
赤みを帯びた短い髪。生徒会長、玉城由良は顔色一つ変えない敦賀に苦笑した。その笑い方が気にくわず、敦賀は一層顔をしかめる。
「なんの用だ。遊びに付き合っている暇はない」
「…はっ、わかってるくせに。お前の恋人のことだよ。血眼になって探してるだろうからわざわざアドバイスしにきてやったってのに」
恋人という単語に、一人の生徒の顔が浮かんだ。しかし、込み上げてきたのはその生徒の愛しさよりも玉城の軽薄さに対する不快感だった。
「お前から聞くアドバイスなんてない」
「そうつれないこというなよ。……そういや、あいつは変わった癖を持ってるらしいな」
思い出したように、白々しく言葉を紡ぐ玉城。奴の口から出た『癖』という単語に反応する敦賀。目が合えば、玉城は笑う。
「性恐怖症」
「…!」
全身が緊張する。
なぜ、玉城がそんなことを知っているのか。嫌な予感に、全身の血液が熱く煮えたぎるのを感じる。目の色を変える敦賀に怯むわけでもなく、寧ろ楽しそうに玉城は続けた。
「おっかしいよなぁ、あんな遊んでそうな顔してヤるのが怖いとか。ああ、違うな。ヤラれるのが、か」
言い終わると同時に、痺れを切らした敦賀が玉城の胸倉を掴んだ。
「お前、京になにをした」
「人聞き悪いな。なんにもしてねえよ、俺はな」
――俺は。
含んだ物言いをする玉城に嫌な予感を覚えた敦賀は携帯を取り出す。連絡先から呼び出したのは、現在鬼ごっこに参加しているであろう風紀委員だ。
「至急、総員校内のパトロールに回れ!いいか、至急だ!」
端末に向かって声を上げる。狼狽えるような委員の声を最後まで聞くことをせず、敦賀は一方的に通話を終了させる。
そして、余裕を無くす敦賀をにやにやと眺めていた玉城に目を向ける。
「…玉城、お前はなにがしたいんだ。何が目的だ。…何故、あいつに関わろうとする」
「そうだな、強いて言うなら…好きな子は虐めたくなる質なもんで」
「貴様は一度痛い目を見た方がよさそうだな」
冗談でも、聞き捨てることはできなかった。風紀室入り口扉が開き、風紀の腕章をつけた数人の生徒が風紀室へと入ってくる。
「おい、なにするつもりだよ。俺はまだ何もしていない」
「俺の気分が害された。お前みたいなクズを処分するのには、それだけで充分だ」
感情のない目で相手を見据える敦賀を合図に、委員たちに周囲を取り囲まれる。それでも愉快でたまらなくて、玉城は笑う。優等生の皮を剥がされ、現れたかつての悪友の顔に玉城は喜んだ。
「それでこそ、マコトだ」
――風紀室。
鬼ごっこのコース外である風紀室のある棟は他の棟と比べ酷くひっそりとしていた。それは風紀室内も同じだ。
そんな静まり返った風紀室内、風紀委員長である敦賀真言はいた。窓の外、騒がしい校舎を傍観する敦賀の背後に影が一つ、歩み寄る。
「なんだ、あんたは不参加か」
聞こえてきたのは聞きたくもない男の声だった。
背後を振り向かずとも、それが誰かは安易に想像つく。
「勝手に入ってくるな」
「俺がいつどこへ行こうと自由だろ?あんたも、興味ないはずだ」
「ああ、そうだな」
近くの棚の上に置かれたボードを手に取った敦賀。
それを、顔を守るように盾にすれば、次の瞬間、べこりとボードが凹む。
「俺の視界に入らない限りは、だが」
使い物にならなくなったボードをゆっくりと下ろし、その向こう側にいた男に目を向ける。
赤みを帯びた短い髪。生徒会長、玉城由良は顔色一つ変えない敦賀に苦笑した。その笑い方が気にくわず、敦賀は一層顔をしかめる。
「なんの用だ。遊びに付き合っている暇はない」
「…はっ、わかってるくせに。お前の恋人のことだよ。血眼になって探してるだろうからわざわざアドバイスしにきてやったってのに」
恋人という単語に、一人の生徒の顔が浮かんだ。しかし、込み上げてきたのはその生徒の愛しさよりも玉城の軽薄さに対する不快感だった。
「お前から聞くアドバイスなんてない」
「そうつれないこというなよ。……そういや、あいつは変わった癖を持ってるらしいな」
思い出したように、白々しく言葉を紡ぐ玉城。奴の口から出た『癖』という単語に反応する敦賀。目が合えば、玉城は笑う。
「性恐怖症」
「…!」
全身が緊張する。
なぜ、玉城がそんなことを知っているのか。嫌な予感に、全身の血液が熱く煮えたぎるのを感じる。目の色を変える敦賀に怯むわけでもなく、寧ろ楽しそうに玉城は続けた。
「おっかしいよなぁ、あんな遊んでそうな顔してヤるのが怖いとか。ああ、違うな。ヤラれるのが、か」
言い終わると同時に、痺れを切らした敦賀が玉城の胸倉を掴んだ。
「お前、京になにをした」
「人聞き悪いな。なんにもしてねえよ、俺はな」
――俺は。
含んだ物言いをする玉城に嫌な予感を覚えた敦賀は携帯を取り出す。連絡先から呼び出したのは、現在鬼ごっこに参加しているであろう風紀委員だ。
「至急、総員校内のパトロールに回れ!いいか、至急だ!」
端末に向かって声を上げる。狼狽えるような委員の声を最後まで聞くことをせず、敦賀は一方的に通話を終了させる。
そして、余裕を無くす敦賀をにやにやと眺めていた玉城に目を向ける。
「…玉城、お前はなにがしたいんだ。何が目的だ。…何故、あいつに関わろうとする」
「そうだな、強いて言うなら…好きな子は虐めたくなる質なもんで」
「貴様は一度痛い目を見た方がよさそうだな」
冗談でも、聞き捨てることはできなかった。風紀室入り口扉が開き、風紀の腕章をつけた数人の生徒が風紀室へと入ってくる。
「おい、なにするつもりだよ。俺はまだ何もしていない」
「俺の気分が害された。お前みたいなクズを処分するのには、それだけで充分だ」
感情のない目で相手を見据える敦賀を合図に、委員たちに周囲を取り囲まれる。それでも愉快でたまらなくて、玉城は笑う。優等生の皮を剥がされ、現れたかつての悪友の顔に玉城は喜んだ。
「それでこそ、マコトだ」
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