真欺君と普通じゃない人たち

田原摩耶

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真欺君と叶え屋さん

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 人気のない廊下まで今世を引っ張り、そのままざっくりと今まであったことを伝えることにした。

「カナエヤ?」
「ああ、今怪異たちの中で流行ってるらしい」
「すげ、そんなものもあんのか。……ってか、ブームとか存在してんのかよ。あいつらに」
「……それは同意見だな」

 なるべく声のトーンを落としているようだが、心なしか今世の目がキラキラ輝いていることに気づいた。
 まさかこいつ。とじっと見上げれば、今世は慌てて首を横に振る。

「いやいやいや、別に俺はそういうの興味ねえからな?! けど、人間向けにそういうのがあったら確かに気になるけど……」
「何か願いでもあるのか?」
「そりゃ、あるだろ。人間一つや二つくらい」
「……ふーん」
「な、なんだよその反応は……。鮮花、お前はないのか?」

 逆に尋ねられ、考える。
 昔から喉から手が出るほど欲しいと願ったこともなかった。
 やりたいことも欲しいものも別にない。……欲を言えば、厄介ごとは勘弁願いたいくらいか。
 けど、この体質に生まれた時からどこか心の片隅では諦めのようなものもあった。
 暫し考えた後「ないな」とだけ告げれば、今世は「お前は修行僧か?」と呆れられた。なんだそのツッコミは。

「まあ、お前らしいっちゃらしいけど……けど、あいつらにもそういう欲があるなんてな」
「言ったら、人間から出た欲のカスの集まりみたいなもんだからな」
「い、言い方……」
「何か問題あったか?」
「違わねえだろうけど……」

 などと話しながら、ついでに食いそびれていた昼飯を食う。今世はなんだかずっと叶え屋に対して興味津々だった。
「どんなやつなのかな」だとか「漫画みてー」とかずっとそわそわしている。
 だから、言ってやった。

「今夜、お前も来るか?」
「え? い、いいのか?」
「勿論無事は保証しないけど」

 むぐ、と今世が言葉に詰まる。
 ただでさえ夜の学校と言えば怪異たちの遊び場のようなものだ。それは今世もわかってるのだろう。
 それでも霊的類が苦手な今世が言葉に詰まってる辺り、どうやら相当悩んでるようだ。

「絢、連れてきちゃダメか?」
「あの人居たら下手したら叶え屋は来ないだろ」
「そ、そうだよな……」
「別に、無理はしなくて良い。……記念写真でも撮れたら撮ってくるし」
「アトラクション扱いかよ」
「だって、まだ平気じゃないだろ。お前」

 むぐ、と変な顔して今世は黙り込む。一人百面相してる今世を肴にしながら食う飯は割と美味い。

「で、でも……お前は一人でもいくつもりなんだろ?」
「そう約束したからな」
「すげえよ、やっぱお前って……なんだよ怪異と待ち合わせ約束って、考えらんね~……」
「お前も慣れたらそうなる」

 その為に俺たちは連んでるのだから、と続けるよりも先に「わかった」と今世はいきなり俺の肩を掴んできた。食いかけのパンの最後のひとかけらが落ちそうになり、俺は無言で今世を見た。

「お、俺も……行く……!」
「手、震えてるけど。声も」
「これはもう仕方ねえんだよ! ……だって、気になるし」
「先に言っとくけど、叶え屋が確定で現れるかどうかは分からないからな」
「それは分かってる。けど……それもだけど、お前一人だけは流石に心配だろ」
「……」
「な、なんだよその目は……」
「いや、別に」

 お前、無理してるだろ。
 と言ってやりたかったが、やめた。今世がそう自分から申し出てるのなら好きにすりゃいい、一応俺は止めたし。
 それに、今世もいるとなったらそれはそれで楽しそうだなと思ってしまった。そんな自分に気付いてしまったから。

「途中で気絶するなよ。ここからお前んちまで送るのはキツいだろうから」
「だ、大丈夫だ! 任せろ! ……ここ最近は鮮花に鍛えられたおかげでだいぶ耐性がついてきたからな……」

 と言ってる今世の背後からぬっと現れる二足歩行の巨大な人面犬に今世が悲鳴にならない声をあげるのを尻目に、俺は昼飯の残骸を袋に包んでそのままポケットに突っ込んだ。

「……期待してる、今世」
「は、はあ、はあ……っま、任せろ鮮花……」

 人面犬に顔面舐めまわされながら蒼白で答える今世。無害そうだし面白いのでこのまま暫く放置してやることにした。



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