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最初から皆でお手々繋いで仲良く、なんて期待していたわけではない。ではないが、どうして毎回こんな空気になるのだろうか。
ずんとのしかかるような重たい沈黙の中、俺は南波と奈都にちらりと視線を向ける。
二人とも何もなかったようにしてるが、ついさっきまで今まで一緒に過ごしていた仲間、いや友人……知人が近いだろうか。少なからずそんな相手を疑ったり消すだのの話しておきながら当の本人たちはいつもと変わらない。
南波もだ、少なからず花鶏との付き合いは長いようだしもっと奈都に言うかと思ったがそんなわけでもないし。
こんな空気に気まずさを覚えているのは俺だけなのか。
そんなことをしてる内に部屋の探索を終え、次に花鶏がいる可能性が高いであろう花鶏の部屋へ向かうこととなる。
花鶏の部屋には一度行ったことがある。畳のある和室だ。本人がいなくとも、それこそなにか花鶏の過去に関する手がかりが見つかるかもしれない。
そう思ったのだが――。
ーー屋敷内・通路。
「……あれ」
「どうしましたか、準一さん」
「ここ、確か通路あったよな」
花鶏の部屋へと向かう途中、歩いているとなんとなく違和感を覚えて足を止め、目の前の壁を見上げる。
違和感は確信になる。間違いない、確かここには空き部屋通路が続いていたはずだ。そう不思議そうな顔をしていた二人を振り返るが、南波は「そうだったか?」と片眉をあげるだけで。
「あの屋敷、よく間取りコロコロ変わるから自分の部屋以外覚えてねえよ」
「え……」
「いえ、確かにここに通路はありましたね」
「……っ、な、奈都……!」
「元から存在しなかったということでしょうか。……どちらにせよ、少し気になりますね」
言いながら奈都はどこからか取り出した手帳になにかを記していく。屋敷のことがびっしりと書かれたあの手帳だ。
分厚く、書き潰されたそれを見て、南波は「げ」と露骨に嫌そうな顔をする。
「なんだよそのメモ、まさか全ページ書いてんのか?」
「書いてます。ページが足りなくなったので余白も埋めてますよ」
「……はー、真面目ちゃんなこった」
理解できねえとでも言いたげな顔をする南波だが奈都は気にしていないようだ。ぱたんと手帳を閉じ、それを仕舞う。
「……準一さん、他に気になることとかはありませんか?」
「え……っ、ええとだな……」
「おい、そんなことよりさっさと行こうぜ。あいつの部屋行くんだろ?」
「急ぐのも大事ですけど、僕たちの本来の目的は探索でもあります。それに、それに関しては藤也君が動いてくれていますから。……僕たちは些細な違和感も見逃すべきではないと思いますが」
俺を挟んでまた不穏な空気を漂わせる二人。
せめて俺を挟まないでほしいが、気になることは確かにあった。それは自分から言うにはあまりにも些細なものではあるが。
「そのだな……本当にしょうもないことでもいいのか?」
「ああっ? あんのか? なんで言わなかったんだよ」
「すんません、でも本当に大したことじゃないんですけど……」
南波の大きな声につられて謝罪すれば、南波は「別に怒ってねえから言え」と続ける。言葉に比べて、その声は幾分柔らかく感じた。
南波なりに気遣ってくれてるのかもしれない。俺は言葉に甘えることにした。
「さっきから他人の家に入ってるような気がするんです」
「……まあ、そりゃ実質他人の家だしな」
「そ、それはそうなんすけど……なんというか、本当お邪魔してるような……」
「それはさっき話してた誰かの精神世界って話ですか?」
「分からないんだ。けど、なんというか、言葉にするのが難しいんだけど……」
「それって、俺達以外の誰かの気配がするってことか?」
そう南波が口にしたときだった。こちらを向いていた二人、その肩越しになにかが動く。それはほんの一瞬のことだった。
花鶏の部屋へと続く通路の先、その花鶏によく似た背格好の人影が確かにいた。角を曲がり、そのまま歩いていくのを。
「……っ、花鶏さん?」
「「え」」
「い、今! 今後ろに花鶏さんの影が……っ!」
そう慌てて二人に説明してようやく俺が驚いてる理由に気付いたらしい。二人がほぼ同時に振り返るが、もちろん既にそこに人影はなく。
「それって現実か? 俺たちには気配もしなかったぞ」
「はい、本当に……、っ」
言いながらも、このままでは見失ってしまう。そんな気持ちが膨れ上がる。
冷静にならなければ、そう頭で理解してるのに二人に事情を説明してる間になにか重大なものを見失うのではないか。そんな気持ちが込み上げ、堪らず俺はその人影を追いかける。
「って、おい、準一……?!」
「すみません、先で待ってます……っ!」
「準一さん、先って……?!」
「わかんねえけど、なんか追いかけなきゃやばい気がする……!」
「ああ?!」
今度の南波の「ああ?!」は間違いなくキレていた。俺でもわかった。それでも自分を抑えきれることができなかった。
罠かもしれない。誘われてるだけかもしれない。もしかしたら最初から俺にだけ見えてるのかもしれない。そんな思考が巡っては、ならば尚更俺が行かなければと足に力が入った。
曲がり角の先には人影はなかった。
そして、そこに存在する花鶏の部屋の扉の前。
背後から二人が追いかけてくるのを感じながら、俺はそのまま花鶏の部屋の扉を開いた。あれほど慎重にならねばと思っていたのに、恐ろしくて堪らなかったのに、開くことに不思議と躊躇はなかった。
まるで自分の本心がそれを望んでるかのように伸びた手は冷たいドアノブを掴み、そしてそのままゆっくりと開く。
そして、俺はそのまま息を飲む。
花鶏の部屋である和室の中、まず視界に入ったのは真っ赤なキャンバスだった。
橙から徐々に深く赤く染まっていくその変化を油絵の具で何度も何度も重ねるようにして表現していた。
炎か、それとも夕陽か。その抽象画が何を表しているのか、芸術に疎い俺にはわからなかった。それでも、なんだか何度も何度も重なった色に執着のようなものを覚えた。
そして、そんなキャンバスの前に一人の男が立っていたのだ。
俺に背を向けたまま、キャンバスを見上げていたその落ち着いた和装の男は「ああ」と小さく声を漏らす。
「――ようやく会えましたね、準一さん」
「え……」
何故、と聞くのもおかしな話だと思った。それでも、俺は目の前の光景を俄信じることができなかった。
「こうして話すのは初めてでしたか」
「貴方のことをお待ちしておりました」そう、ゆっくりとした動作でこちらを振り返る男。そこには俺のよく知っている男がいたのだ。
「それでは改めまして――花鶏凛太郎と申します。以後、お見知りおきを」
そう男――花鶏凛太郎が笑った。
俺のよく知っている顔で、俺の記憶の中と相違ない振る舞いと口ぶりで凛太郎は笑うのだ。
それなのに凛太郎の言葉は確かに初対面のそれで、そして俺もよく知っているはずなのに知らない、まるで脳全体がバグを起こしたような大きな矛盾に陥った。
突然の挨拶に状況が飲み込めぬまま俺は「え……あ、どうも」とつられて挨拶を返しそうになる。違う、そうじゃない。
どういうことなのだ、これは。
この男は誰なんだ。
「……っ、花鶏さん、は……」
「私ならここに居ますよ、準一さん」
「いや、でも、」
「それよりも、水臭いではありませんか。凛太郎で構いませんよ」
準一さん、と笑みを携えたまま近付いてくる男に無意識の内に一歩後退る。
そんな俺を見て、おや、と目を丸くした。
「そんなに怯えないでください。別に、取って食いやしませんよ」
先程までの奈都たちのやり取りをふと思い出し、背筋が凍り付く。
もしかして思考が読まれたのかと思ったが、凛太郎は微笑むばかりでそれ以上なにも言わない。
直感が、脳が、この男と二人きりでいることが“良くないこと”だと叫ぶ。ただ俺がこの状況を処理しきれていないだけなのか、それでも廊下に置いてきたままの奈都と南波を思い出し、二人の元へと戻って連れてこようと扉へと戻る。
そしてそのまま掴んだドアノブを開こうとした瞬間、扉が開く。
「――な」
そして、目を疑った。
扉の外には先程までの洋館はなかった。それどころか、扉のその先は土壁で塞がれていたのだ。
「っ、これ……貴方の仕業ですか」
「さあ、どうでしょうか。この辺は土砂が崩れやすい地盤になっているようなのでそのせいかもしれませんね」
冗談なのか、凛太郎はただ笑う。そして、俺の目の前までやってきた凛太郎は「そんなことよりも」と扉に手を付き、閉める。
「あの子に連れられてきたんでしょう、準一さん」
「あの子って……」
「貴方が『花鶏さん』と呼ぶあの子のことですよ。……貴方のことを随分とあの子は気に入っていたようですから」
心臓が煩くなる。外界から閉ざされた密室の中、花鶏と瓜二つのこの男はやはり花鶏ではないということなのか。
だとしたら、花鶏が言っていた助けてほしいという『あの子』というのは凛太郎のことなのか。凛太郎は花鶏のなんなのか。双子?だとしても、何故こんな地下にいるのか。そしてなんで俺のことを知ってるのか。
考えれば考えるほど思考がこんがらがる。
「……花鶏さんは、今どこにいるんですか?」
あまりにもこのままでは情報が少なすぎる。相手は得体の知れない化け物でもなく、会話の通じる亡霊だ。
ならば、直接聞けばいい――ここに俺を連れてきた本人に。
「さあ、どこでしょうね」
「なんで俺を呼んだんですか」
「貴方なら、きっと退屈しないと思ったから」
「……は?」
「というのは冗談ではありませんが、純粋に興味があったんです」
「俺に?」
「ええ、貴方に」
そう凛太郎は笑う。のらりくらりと躱す言葉は花鶏そのものだ。何も見せないところもよく似ている。
本当ならば他の皆のところに戻してもらいたかった。が、この男が意識的に隔離してるというのなら簡単には帰してもらえないだろう。
「貴方は随分と優しい方とお見受けしました。ええ、こんなにも簡単に私の懐に入ってくるのですからこれは間違いないでしょう」
「……あんたが連れてきたんじゃないのか」
「私は鍵を開けただけですよ。そして、こうして私のところへとやってきたのは貴方だけです、準一さん」
「他の方々はどうやら他人を慮る能力が欠如しているようですね」口元に手を宛て、くすくすと笑う凛太郎。その笑顔に悪意や棘のようなものはなく、心から愉しんでるようにすら見えるからこそ余計戸惑った。
つまり、南波と奈都からしてみたら急に俺が消えたと思われてるということだろうか。それとも、また気絶しているのか。
「……凛太郎さん」
「ああ、ようやく名前を呼んでくださいましたね」
「目的を教えて下さい、本当の目的を」
このままでは埒が明かない。そう思って尋ねれば、凛太郎は「目的?」と不思議そうに目を丸くさせる。それは花鶏があまり見せることのない表情だった。
「目的……はて、私にはよくわかりません」
「じゃあ、俺に何をしてほしいとか……」
「いえ、特に何も」
「……は?」
「貴方はいつも通り、地上で他の方々と過ごしていたときのようにここで自由にしてくださって結構です。好きなことをするのも結構、なんたってここは私の頭の中ですから。貴方が望むのならなんでも用意できますよ」
そう微笑む凛太郎の背後、畳の目を縫うようにして様々な花が溢れ出す。色とりどり、大小様々な花は凛太郎の足元まで這い寄ってくる。
普通ではない。生き物のように背を伸ばし、凛太郎の手元まで急激に弦を伸ばし、蕾を膨らませて花開くその一輪の花を摘んだ凛太郎はそれを俺に手渡すのだ。
「私と友達になってください、準一さん」
ずっと、貴方をお待ちしておりました。
ぽんぽんぽん、と凛太郎の背丈ほどに伸びた花たちは同時に花開き、こちらを向くのだ。背中には壁、目の前には凛太郎と花の壁。
俺はこれほどまでに『友達』という言葉に圧を覚えたことはなかった。
「と、友達……?」
「ええ、友達です」
「ま、待ってください……言ってる意味がよく、その……」
「分からないですか? ……おかしいですね、貴方にはもう既に仲吉さんというご友人がいらっしゃるではありませんか」
凛太郎の口から仲吉の名前が出てくるとは思っていなかった。咄嗟に目の前の男を見上げれば、花鶏は変わらない笑顔でこちらを見ていた。生気のない目でこちらをじっと。
「なんで、仲吉のこと」
「おや、もう忘れたのですか。言ったでしょう、ずっと見ていたと」
まさか仲吉に何かをするつもりではないだろうか。嫌な予感がし、凛太郎を見ればやつは少しだけ困ったように目を伏せる。
「……そんな顔をしないでください。貴方が仲吉さんのことを大切に思ってるのはよくご存知です。先程も言った通り、私はただ貴方と親しくなりたいと思ってるだけです」
花鶏と違い、まるで傷付いたような表情をするのだ。この男は。
だからこそ余計わからなくなる。でもだからって本当にこの男を信じていいのか。
得体の知れないこの男のことを。
「……っ、分かりました」
俺に用意された選択は実質一つのようなものだ。
俺は差し出された一輪の花を受け取る。なんの花かもわからないが、赤い小ぶりの花弁は凛太郎と同じようにこちらを見上げる。
「本当ですか?」と声を漏らす凛太郎。その声が本当に嬉しそうなものだからうっかり信じてしまいそうになるのだ。
「ええ……ですけど、俺からもお願いがあります」
「はい、なんでしょうか」
「ここから出してください」
そう尋ねれば、花鶏は微笑んだまま「何故?」と聞き返してくる。あどけない子供のように、純粋な疑問を口にするのだ。
「何故って」
「友達ならば、一緒にいるべきではございませんか?」
「……」
花鶏も大概どこか世間ズレしたような男ではあったが、どうやらこの凛太郎もそれは同じらしい。臆せず、さも事実のようにそんなことを言うものだからこちらが面を食らってしまいそうになる。
なんだろうか、この感覚は。得体の知れない相手だと分かってても、不思議と毒気を抜かれてしまいそうになる。そんな自分に心の中で喝を入れる。
「……凛太郎さん」
「はい」
「俺と仲吉のこと知ってるんでしょう」
「ええ、とても仲良さそうで羨ましく思っておりました」
「なら、分かるでしょう。……仲いいやつほど、適切な距離感というものがあると」
本当に、あいつをこの屋敷に住まわせなくて良かったと思う。
指摘すれば、「あ」と凛太郎は袖口で口元を覆い隠す。どうやら俺が言わんとしていることに気付いたようだ。
「ですが、私は貴方と一緒にいたいです。……たくさんお伺いしたいこともあって、こうして半紙に書いて待ってたんです」
そう、たくさんの紙の束を紐で縛ったものをどこかから取り出す凛太郎。これも本性なのか、それとも俺の情に訴えかけてるつもりなのか。
「駄目でしょうか」と花鶏と同じ顔で見詰められると頭がどうにかなりそうだったが、俺は散々藤也から言われてた言葉を思い出す。お人好しは身を滅ぼす、とかなんかそんな罵倒だ。
「……では、それは今度会いに来たときに聞きます」
ので、今日は帰って休ませてください。
そうダメ元で尋ねれば、しゅんとした凛太郎は「……分かりました」とうなだれる。
そして次の瞬間、俺を囲んでいた花たちは一気に萎れ、そのまま畳の目へと吸い込まれるように消えていく。そして、俺の手の中の花だけは残っていた。
「凛太郎さん」
「……約束ですよ、準一さん。明日、またここで待っています」
「いいんですか?」
「良くないですが、私も無理して貴方に嫌われるような真似はしたくないので」
「……」
待ってくれ。まさかこの人、花鶏本人よりもまだ話が通じるのではないか。
そんなことを思った次の瞬間、強い目眩とともに視界が歪む。
「っ、う゛……」
「貴方のご友人のところに戻しましょう。……待ってますからね、準一さん」
頭の中に響く凛太郎の声。立っていられなくなり膝をついたとき、どんどん視界が狭まっていく。
とうとう「分かりました」と答えることもできないまま、俺が次に目を覚ました瞬間、「準一!!」と耳元で叫ばれぎょっとする。
びっくりして顔を上げれば、そこには血相を変えた南波と奈都がいた。
「ぁえ……」
「良かった、準一さん目を覚ましたんですね」
デジャヴ。
当たりを見渡せば、そこには見覚えのある和室が広がっていた。間違いない、ここは花鶏の部屋だ。
しかし凛太郎も、あの真っ赤なキャンバスも跡形もなく消えていた。
「俺、もしかしてまた……」
「そのまただ。ったく、ビビらせんじゃねえよ」
「す、すんません」
「……また、変なもん見たのか?」
南波の声のトーンが僅かに落ちる。
俺は少し迷っていた。凛太郎のことを二人に説明するかどうかをだ。信じてもらえるかどうかではなく、本当に話していいのかどうかわからなかったから。
凛太郎は今もこうして迷っている俺の姿をどこからか見ているというのか。
「準一さん? どうかしましたか?」
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫って、お前」
「……その、まだ混乱してるみたいで」
「纏まったら後で話します」そう身体を起こし、立ち上がる。二人の目がひたすら痛い。
分かっていた、二人も心配してくれているというのは。けれど、俺にはどうしても懸念点が一つあったのだ。
――凛太郎の精神世界があの和室だとしたら、この地下はなんなのだ。
誰の精神世界なのか。現実的に考えて、この地下に洋館が実在しているわけがない。しかも外の景色も過去のものなのだ。
――心当たりはあった。
この地下で目を覚ましてからずっと俺に姿を見せていないあの男のことを。
やはり、直接会って話さなければならないようだ。凛太郎のことも、何を考えてるのかということもだ。
そう決断したときだった。遠くから足音が聞こえてきて、俺たちは全員顔を上げて音のする方へと振り返る。その動作でこれが俺にだけ聞こえてるものではないと理解した。
「誰か来ます」
「誰かって、あの双子じゃ……ねえか。靴の音がちげえし、足音は一つだ」
「か、隠れますか?」
「隠れるってどこに」
「取り敢えず扉を閉めましょう」
奈都の言葉に従い、俺達は音を立てないようにそっと扉を閉めた。何故隠れる必要があったのか分からなかったが、直感がそう言っていたので従わざる得なかったのだ。そして閉じた扉越し、俺達は各々扉に耳を澄ませ、押し付ける。
足音は遠く、それでも確実にこちらへと近づいているようだった。カツリ、カツリ、と硬質な足音ともに何かを引きずるような音が扉越しに聞こえ、咄嗟に俺は二人を見た。南波も気付いたようだ、それでも『喋るな』と小さく口を動かす。
足音と引きずるような音は扉の前の通路を通り過ぎていく。その音が遠くなるまで俺達はしばらく息を潜めていた。そして聞こえなくなったとき、俺達は声を出すよりも先に扉を開けて何かが通ったあとである通路へと出た。
そして、無言で俺達は顔を見合わせる。
夥しい量の血が引きずられた跡がその廊下には残っていた。
ずんとのしかかるような重たい沈黙の中、俺は南波と奈都にちらりと視線を向ける。
二人とも何もなかったようにしてるが、ついさっきまで今まで一緒に過ごしていた仲間、いや友人……知人が近いだろうか。少なからずそんな相手を疑ったり消すだのの話しておきながら当の本人たちはいつもと変わらない。
南波もだ、少なからず花鶏との付き合いは長いようだしもっと奈都に言うかと思ったがそんなわけでもないし。
こんな空気に気まずさを覚えているのは俺だけなのか。
そんなことをしてる内に部屋の探索を終え、次に花鶏がいる可能性が高いであろう花鶏の部屋へ向かうこととなる。
花鶏の部屋には一度行ったことがある。畳のある和室だ。本人がいなくとも、それこそなにか花鶏の過去に関する手がかりが見つかるかもしれない。
そう思ったのだが――。
ーー屋敷内・通路。
「……あれ」
「どうしましたか、準一さん」
「ここ、確か通路あったよな」
花鶏の部屋へと向かう途中、歩いているとなんとなく違和感を覚えて足を止め、目の前の壁を見上げる。
違和感は確信になる。間違いない、確かここには空き部屋通路が続いていたはずだ。そう不思議そうな顔をしていた二人を振り返るが、南波は「そうだったか?」と片眉をあげるだけで。
「あの屋敷、よく間取りコロコロ変わるから自分の部屋以外覚えてねえよ」
「え……」
「いえ、確かにここに通路はありましたね」
「……っ、な、奈都……!」
「元から存在しなかったということでしょうか。……どちらにせよ、少し気になりますね」
言いながら奈都はどこからか取り出した手帳になにかを記していく。屋敷のことがびっしりと書かれたあの手帳だ。
分厚く、書き潰されたそれを見て、南波は「げ」と露骨に嫌そうな顔をする。
「なんだよそのメモ、まさか全ページ書いてんのか?」
「書いてます。ページが足りなくなったので余白も埋めてますよ」
「……はー、真面目ちゃんなこった」
理解できねえとでも言いたげな顔をする南波だが奈都は気にしていないようだ。ぱたんと手帳を閉じ、それを仕舞う。
「……準一さん、他に気になることとかはありませんか?」
「え……っ、ええとだな……」
「おい、そんなことよりさっさと行こうぜ。あいつの部屋行くんだろ?」
「急ぐのも大事ですけど、僕たちの本来の目的は探索でもあります。それに、それに関しては藤也君が動いてくれていますから。……僕たちは些細な違和感も見逃すべきではないと思いますが」
俺を挟んでまた不穏な空気を漂わせる二人。
せめて俺を挟まないでほしいが、気になることは確かにあった。それは自分から言うにはあまりにも些細なものではあるが。
「そのだな……本当にしょうもないことでもいいのか?」
「ああっ? あんのか? なんで言わなかったんだよ」
「すんません、でも本当に大したことじゃないんですけど……」
南波の大きな声につられて謝罪すれば、南波は「別に怒ってねえから言え」と続ける。言葉に比べて、その声は幾分柔らかく感じた。
南波なりに気遣ってくれてるのかもしれない。俺は言葉に甘えることにした。
「さっきから他人の家に入ってるような気がするんです」
「……まあ、そりゃ実質他人の家だしな」
「そ、それはそうなんすけど……なんというか、本当お邪魔してるような……」
「それはさっき話してた誰かの精神世界って話ですか?」
「分からないんだ。けど、なんというか、言葉にするのが難しいんだけど……」
「それって、俺達以外の誰かの気配がするってことか?」
そう南波が口にしたときだった。こちらを向いていた二人、その肩越しになにかが動く。それはほんの一瞬のことだった。
花鶏の部屋へと続く通路の先、その花鶏によく似た背格好の人影が確かにいた。角を曲がり、そのまま歩いていくのを。
「……っ、花鶏さん?」
「「え」」
「い、今! 今後ろに花鶏さんの影が……っ!」
そう慌てて二人に説明してようやく俺が驚いてる理由に気付いたらしい。二人がほぼ同時に振り返るが、もちろん既にそこに人影はなく。
「それって現実か? 俺たちには気配もしなかったぞ」
「はい、本当に……、っ」
言いながらも、このままでは見失ってしまう。そんな気持ちが膨れ上がる。
冷静にならなければ、そう頭で理解してるのに二人に事情を説明してる間になにか重大なものを見失うのではないか。そんな気持ちが込み上げ、堪らず俺はその人影を追いかける。
「って、おい、準一……?!」
「すみません、先で待ってます……っ!」
「準一さん、先って……?!」
「わかんねえけど、なんか追いかけなきゃやばい気がする……!」
「ああ?!」
今度の南波の「ああ?!」は間違いなくキレていた。俺でもわかった。それでも自分を抑えきれることができなかった。
罠かもしれない。誘われてるだけかもしれない。もしかしたら最初から俺にだけ見えてるのかもしれない。そんな思考が巡っては、ならば尚更俺が行かなければと足に力が入った。
曲がり角の先には人影はなかった。
そして、そこに存在する花鶏の部屋の扉の前。
背後から二人が追いかけてくるのを感じながら、俺はそのまま花鶏の部屋の扉を開いた。あれほど慎重にならねばと思っていたのに、恐ろしくて堪らなかったのに、開くことに不思議と躊躇はなかった。
まるで自分の本心がそれを望んでるかのように伸びた手は冷たいドアノブを掴み、そしてそのままゆっくりと開く。
そして、俺はそのまま息を飲む。
花鶏の部屋である和室の中、まず視界に入ったのは真っ赤なキャンバスだった。
橙から徐々に深く赤く染まっていくその変化を油絵の具で何度も何度も重ねるようにして表現していた。
炎か、それとも夕陽か。その抽象画が何を表しているのか、芸術に疎い俺にはわからなかった。それでも、なんだか何度も何度も重なった色に執着のようなものを覚えた。
そして、そんなキャンバスの前に一人の男が立っていたのだ。
俺に背を向けたまま、キャンバスを見上げていたその落ち着いた和装の男は「ああ」と小さく声を漏らす。
「――ようやく会えましたね、準一さん」
「え……」
何故、と聞くのもおかしな話だと思った。それでも、俺は目の前の光景を俄信じることができなかった。
「こうして話すのは初めてでしたか」
「貴方のことをお待ちしておりました」そう、ゆっくりとした動作でこちらを振り返る男。そこには俺のよく知っている男がいたのだ。
「それでは改めまして――花鶏凛太郎と申します。以後、お見知りおきを」
そう男――花鶏凛太郎が笑った。
俺のよく知っている顔で、俺の記憶の中と相違ない振る舞いと口ぶりで凛太郎は笑うのだ。
それなのに凛太郎の言葉は確かに初対面のそれで、そして俺もよく知っているはずなのに知らない、まるで脳全体がバグを起こしたような大きな矛盾に陥った。
突然の挨拶に状況が飲み込めぬまま俺は「え……あ、どうも」とつられて挨拶を返しそうになる。違う、そうじゃない。
どういうことなのだ、これは。
この男は誰なんだ。
「……っ、花鶏さん、は……」
「私ならここに居ますよ、準一さん」
「いや、でも、」
「それよりも、水臭いではありませんか。凛太郎で構いませんよ」
準一さん、と笑みを携えたまま近付いてくる男に無意識の内に一歩後退る。
そんな俺を見て、おや、と目を丸くした。
「そんなに怯えないでください。別に、取って食いやしませんよ」
先程までの奈都たちのやり取りをふと思い出し、背筋が凍り付く。
もしかして思考が読まれたのかと思ったが、凛太郎は微笑むばかりでそれ以上なにも言わない。
直感が、脳が、この男と二人きりでいることが“良くないこと”だと叫ぶ。ただ俺がこの状況を処理しきれていないだけなのか、それでも廊下に置いてきたままの奈都と南波を思い出し、二人の元へと戻って連れてこようと扉へと戻る。
そしてそのまま掴んだドアノブを開こうとした瞬間、扉が開く。
「――な」
そして、目を疑った。
扉の外には先程までの洋館はなかった。それどころか、扉のその先は土壁で塞がれていたのだ。
「っ、これ……貴方の仕業ですか」
「さあ、どうでしょうか。この辺は土砂が崩れやすい地盤になっているようなのでそのせいかもしれませんね」
冗談なのか、凛太郎はただ笑う。そして、俺の目の前までやってきた凛太郎は「そんなことよりも」と扉に手を付き、閉める。
「あの子に連れられてきたんでしょう、準一さん」
「あの子って……」
「貴方が『花鶏さん』と呼ぶあの子のことですよ。……貴方のことを随分とあの子は気に入っていたようですから」
心臓が煩くなる。外界から閉ざされた密室の中、花鶏と瓜二つのこの男はやはり花鶏ではないということなのか。
だとしたら、花鶏が言っていた助けてほしいという『あの子』というのは凛太郎のことなのか。凛太郎は花鶏のなんなのか。双子?だとしても、何故こんな地下にいるのか。そしてなんで俺のことを知ってるのか。
考えれば考えるほど思考がこんがらがる。
「……花鶏さんは、今どこにいるんですか?」
あまりにもこのままでは情報が少なすぎる。相手は得体の知れない化け物でもなく、会話の通じる亡霊だ。
ならば、直接聞けばいい――ここに俺を連れてきた本人に。
「さあ、どこでしょうね」
「なんで俺を呼んだんですか」
「貴方なら、きっと退屈しないと思ったから」
「……は?」
「というのは冗談ではありませんが、純粋に興味があったんです」
「俺に?」
「ええ、貴方に」
そう凛太郎は笑う。のらりくらりと躱す言葉は花鶏そのものだ。何も見せないところもよく似ている。
本当ならば他の皆のところに戻してもらいたかった。が、この男が意識的に隔離してるというのなら簡単には帰してもらえないだろう。
「貴方は随分と優しい方とお見受けしました。ええ、こんなにも簡単に私の懐に入ってくるのですからこれは間違いないでしょう」
「……あんたが連れてきたんじゃないのか」
「私は鍵を開けただけですよ。そして、こうして私のところへとやってきたのは貴方だけです、準一さん」
「他の方々はどうやら他人を慮る能力が欠如しているようですね」口元に手を宛て、くすくすと笑う凛太郎。その笑顔に悪意や棘のようなものはなく、心から愉しんでるようにすら見えるからこそ余計戸惑った。
つまり、南波と奈都からしてみたら急に俺が消えたと思われてるということだろうか。それとも、また気絶しているのか。
「……凛太郎さん」
「ああ、ようやく名前を呼んでくださいましたね」
「目的を教えて下さい、本当の目的を」
このままでは埒が明かない。そう思って尋ねれば、凛太郎は「目的?」と不思議そうに目を丸くさせる。それは花鶏があまり見せることのない表情だった。
「目的……はて、私にはよくわかりません」
「じゃあ、俺に何をしてほしいとか……」
「いえ、特に何も」
「……は?」
「貴方はいつも通り、地上で他の方々と過ごしていたときのようにここで自由にしてくださって結構です。好きなことをするのも結構、なんたってここは私の頭の中ですから。貴方が望むのならなんでも用意できますよ」
そう微笑む凛太郎の背後、畳の目を縫うようにして様々な花が溢れ出す。色とりどり、大小様々な花は凛太郎の足元まで這い寄ってくる。
普通ではない。生き物のように背を伸ばし、凛太郎の手元まで急激に弦を伸ばし、蕾を膨らませて花開くその一輪の花を摘んだ凛太郎はそれを俺に手渡すのだ。
「私と友達になってください、準一さん」
ずっと、貴方をお待ちしておりました。
ぽんぽんぽん、と凛太郎の背丈ほどに伸びた花たちは同時に花開き、こちらを向くのだ。背中には壁、目の前には凛太郎と花の壁。
俺はこれほどまでに『友達』という言葉に圧を覚えたことはなかった。
「と、友達……?」
「ええ、友達です」
「ま、待ってください……言ってる意味がよく、その……」
「分からないですか? ……おかしいですね、貴方にはもう既に仲吉さんというご友人がいらっしゃるではありませんか」
凛太郎の口から仲吉の名前が出てくるとは思っていなかった。咄嗟に目の前の男を見上げれば、花鶏は変わらない笑顔でこちらを見ていた。生気のない目でこちらをじっと。
「なんで、仲吉のこと」
「おや、もう忘れたのですか。言ったでしょう、ずっと見ていたと」
まさか仲吉に何かをするつもりではないだろうか。嫌な予感がし、凛太郎を見ればやつは少しだけ困ったように目を伏せる。
「……そんな顔をしないでください。貴方が仲吉さんのことを大切に思ってるのはよくご存知です。先程も言った通り、私はただ貴方と親しくなりたいと思ってるだけです」
花鶏と違い、まるで傷付いたような表情をするのだ。この男は。
だからこそ余計わからなくなる。でもだからって本当にこの男を信じていいのか。
得体の知れないこの男のことを。
「……っ、分かりました」
俺に用意された選択は実質一つのようなものだ。
俺は差し出された一輪の花を受け取る。なんの花かもわからないが、赤い小ぶりの花弁は凛太郎と同じようにこちらを見上げる。
「本当ですか?」と声を漏らす凛太郎。その声が本当に嬉しそうなものだからうっかり信じてしまいそうになるのだ。
「ええ……ですけど、俺からもお願いがあります」
「はい、なんでしょうか」
「ここから出してください」
そう尋ねれば、花鶏は微笑んだまま「何故?」と聞き返してくる。あどけない子供のように、純粋な疑問を口にするのだ。
「何故って」
「友達ならば、一緒にいるべきではございませんか?」
「……」
花鶏も大概どこか世間ズレしたような男ではあったが、どうやらこの凛太郎もそれは同じらしい。臆せず、さも事実のようにそんなことを言うものだからこちらが面を食らってしまいそうになる。
なんだろうか、この感覚は。得体の知れない相手だと分かってても、不思議と毒気を抜かれてしまいそうになる。そんな自分に心の中で喝を入れる。
「……凛太郎さん」
「はい」
「俺と仲吉のこと知ってるんでしょう」
「ええ、とても仲良さそうで羨ましく思っておりました」
「なら、分かるでしょう。……仲いいやつほど、適切な距離感というものがあると」
本当に、あいつをこの屋敷に住まわせなくて良かったと思う。
指摘すれば、「あ」と凛太郎は袖口で口元を覆い隠す。どうやら俺が言わんとしていることに気付いたようだ。
「ですが、私は貴方と一緒にいたいです。……たくさんお伺いしたいこともあって、こうして半紙に書いて待ってたんです」
そう、たくさんの紙の束を紐で縛ったものをどこかから取り出す凛太郎。これも本性なのか、それとも俺の情に訴えかけてるつもりなのか。
「駄目でしょうか」と花鶏と同じ顔で見詰められると頭がどうにかなりそうだったが、俺は散々藤也から言われてた言葉を思い出す。お人好しは身を滅ぼす、とかなんかそんな罵倒だ。
「……では、それは今度会いに来たときに聞きます」
ので、今日は帰って休ませてください。
そうダメ元で尋ねれば、しゅんとした凛太郎は「……分かりました」とうなだれる。
そして次の瞬間、俺を囲んでいた花たちは一気に萎れ、そのまま畳の目へと吸い込まれるように消えていく。そして、俺の手の中の花だけは残っていた。
「凛太郎さん」
「……約束ですよ、準一さん。明日、またここで待っています」
「いいんですか?」
「良くないですが、私も無理して貴方に嫌われるような真似はしたくないので」
「……」
待ってくれ。まさかこの人、花鶏本人よりもまだ話が通じるのではないか。
そんなことを思った次の瞬間、強い目眩とともに視界が歪む。
「っ、う゛……」
「貴方のご友人のところに戻しましょう。……待ってますからね、準一さん」
頭の中に響く凛太郎の声。立っていられなくなり膝をついたとき、どんどん視界が狭まっていく。
とうとう「分かりました」と答えることもできないまま、俺が次に目を覚ました瞬間、「準一!!」と耳元で叫ばれぎょっとする。
びっくりして顔を上げれば、そこには血相を変えた南波と奈都がいた。
「ぁえ……」
「良かった、準一さん目を覚ましたんですね」
デジャヴ。
当たりを見渡せば、そこには見覚えのある和室が広がっていた。間違いない、ここは花鶏の部屋だ。
しかし凛太郎も、あの真っ赤なキャンバスも跡形もなく消えていた。
「俺、もしかしてまた……」
「そのまただ。ったく、ビビらせんじゃねえよ」
「す、すんません」
「……また、変なもん見たのか?」
南波の声のトーンが僅かに落ちる。
俺は少し迷っていた。凛太郎のことを二人に説明するかどうかをだ。信じてもらえるかどうかではなく、本当に話していいのかどうかわからなかったから。
凛太郎は今もこうして迷っている俺の姿をどこからか見ているというのか。
「準一さん? どうかしましたか?」
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫って、お前」
「……その、まだ混乱してるみたいで」
「纏まったら後で話します」そう身体を起こし、立ち上がる。二人の目がひたすら痛い。
分かっていた、二人も心配してくれているというのは。けれど、俺にはどうしても懸念点が一つあったのだ。
――凛太郎の精神世界があの和室だとしたら、この地下はなんなのだ。
誰の精神世界なのか。現実的に考えて、この地下に洋館が実在しているわけがない。しかも外の景色も過去のものなのだ。
――心当たりはあった。
この地下で目を覚ましてからずっと俺に姿を見せていないあの男のことを。
やはり、直接会って話さなければならないようだ。凛太郎のことも、何を考えてるのかということもだ。
そう決断したときだった。遠くから足音が聞こえてきて、俺たちは全員顔を上げて音のする方へと振り返る。その動作でこれが俺にだけ聞こえてるものではないと理解した。
「誰か来ます」
「誰かって、あの双子じゃ……ねえか。靴の音がちげえし、足音は一つだ」
「か、隠れますか?」
「隠れるってどこに」
「取り敢えず扉を閉めましょう」
奈都の言葉に従い、俺達は音を立てないようにそっと扉を閉めた。何故隠れる必要があったのか分からなかったが、直感がそう言っていたので従わざる得なかったのだ。そして閉じた扉越し、俺達は各々扉に耳を澄ませ、押し付ける。
足音は遠く、それでも確実にこちらへと近づいているようだった。カツリ、カツリ、と硬質な足音ともに何かを引きずるような音が扉越しに聞こえ、咄嗟に俺は二人を見た。南波も気付いたようだ、それでも『喋るな』と小さく口を動かす。
足音と引きずるような音は扉の前の通路を通り過ぎていく。その音が遠くなるまで俺達はしばらく息を潜めていた。そして聞こえなくなったとき、俺達は声を出すよりも先に扉を開けて何かが通ったあとである通路へと出た。
そして、無言で俺達は顔を見合わせる。
夥しい量の血が引きずられた跡がその廊下には残っていた。
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